
手洗いの「20秒」は、いちばんよい時間を実験で突き止めた数字ではなかった
手洗い20秒は「最適」と確かめた数字ではない。
この判定の対象「手洗いは、20秒洗うのがいちばんよい」
もくじ
「手は20秒かけて洗いましょう」。この目安を勧めている機関の一つが、アメリカの保健の役所、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)です。CDCは、せっけんをつけた手を、少なくとも20秒こするよう勧めています。20秒を計るには、「ハッピーバースデー」の歌を最初から最後まで2回ハミングするとよい、と書いています。
では、なぜ20秒なのでしょうか。今のCDCのよくある質問のページは、科学的な研究で20秒こする必要があると示されている、と短く答えています。一方、CDCには以前、手洗いの手順ごとに「なぜそうするのか」をくわしく説明したページがありました。そのページには、こう書かれていました。いちばんよい手洗いの時間を決めるのは難しい、と。
この記事では、まず、CDCが20秒の理由をどう説明していたかを紹介します。次に、その根拠になった研究で、洗う時間を変えると何が変わったかを見ます。最後に、日本の実験で分かった「長く洗う」と「2回洗う」の違いと、洗い残しやすい場所を紹介します。
01CDCは「いちばんよい手洗いの時間を決めるのは難しい」と書いていた
CDCの以前のページによると、難しい理由は、手洗いの時間を変えると健康がどう変わるかを調べた研究が少ないことでした。数少ない研究も、ほとんどは、手についた微生物の数がどれだけ減ったかを測っただけでした。微生物とは、目に見えないほど小さな生き物のことです。手の微生物のうち、病気を起こすものは一部だけです。そして、微生物の数を減らすことが、そのまま健康につながるとは限らない、とCDCは書いていました。
さらにCDCは、いちばんよい時間は、手の汚れの種類や量、洗う場面など、多くのことで変わるだろうとも書いていました。たとえば外科医は、患者にうつすと危ない細菌などにふれることがあります。ですから、家で自分の昼ご飯を作る人より、長く洗う必要があるかもしれない、という例が挙げられていました。
それでも、手がかりになる研究はありました。約15〜30秒洗うと、それより短く洗うときより多くの微生物が取れる、という研究です。そこで、多くの国や国際機関が、約20秒を勧めるようになった、とCDCは説明していました。
0230秒に延ばしても、菌の減り方が変わらなかった実験もある
CDCが根拠に挙げた研究の一つは、2008年の実験です。アメリカのせっけん会社、ダイアル社の研究者たちが行いました。参加者の手に、赤痢菌の仲間の細菌をつけてから洗ってもらい、手に残った細菌を数えました。
結果は、せっけんの種類で違いました。抗菌成分の入っていない、ふつうのせっけんでは、洗う時間を15秒から30秒に延ばしても、細菌の減り方はほとんど変わりませんでした。抗菌せっけんでは少し多く減りましたが、統計で調べると、はっきりした差とは言えませんでした。
なお、アメリカ食品医薬品局(FDA)は2016年、トリクロサンなど19の成分をふくむ「抗菌」せっけんを、一般向けに売れなくしました。ふつうのせっけんと水より効くと示されなかったためです。CDCも今は、ふつうのせっけんで洗うよう勧めています。
もう一つは、2015年に食品の安全の専門誌にのった実験です。サルモネラ菌(食中毒を起こす細菌)のかわりに、病気を起こさない細菌を手につけました。そして、「せっけんなしで5秒」「せっけんで20秒」などの条件で洗いました。どの条件も20回ずつ、毎回違う人で試しています。
せっけんなしで5秒洗うと、手の細菌は約10分の1に減りました。せっけんで20秒洗うと、約50分の1に減りました。ただし、手に肉の汚れがついていないときは、20秒洗うなら、せっけんありとなしで、はっきりした差はありませんでした。せっけんの差がいちばん大きく出たのは、手にひき肉の汚れがついているときでした。
03日本の実験では、30秒より「10秒を2回」のほうがウイルスが減った
2006年、東京都健康安全研究センターと麻布大学の研究チームが、手洗いでウイルスがどれだけ取れるかを調べました。使ったのは、ネコカリシウイルスです。食中毒を起こすノロウイルスと同じ仲間ですが、実験室で増やせるので、ノロウイルスのかわりに使われました。
研究チームは、手にウイルスをすりこんでから、いろいろな方法で洗いました。まず、流水で15秒すすぐだけで、手に残るウイルスは、洗わないときの約100分の1になりました。ハンドソープで10秒もみ洗いしてからすすぐと、さらに減りました。3種類のハンドソープで、流水だけのときの約9〜15%まで減りました。この数字は、感染する力を持ったウイルスの量で比べた値です。
次に、ハンドソープでもみ洗いする時間と回数を変えて比べました。
- もみ洗い10秒 → 15秒すすぐ(これを基準にした)。
- もみ洗い30秒 → 15秒すすぐ。
- もみ洗い60秒 → 15秒すすぐ。
- 「もみ洗い10秒 → 15秒すすぐ」を2回くり返す。
10秒を30秒に延ばしても、ウイルスの量ははっきりとは減りませんでした。60秒にすると、10秒のときの約15%に減りました。そして、10秒の手洗いを2回くり返すと、約1%まで減ったのです。どれも、ウイルスの遺伝子の量で比べた値です。
ただし、この比べ方は、それぞれ2回ずつしか試していません。ですから、数字そのものは目安です。研究チームは、ていねいに、何回も洗うほど、ウイルスを取り除く効果が高まると考えています。
04親指のまわりと手の甲は洗い残しやすく、爪の下は微生物が特に多くなりがち
CDCは、手の甲、指の間、爪の下も泡立てるよう勧めています。微生物は手のどこにでもいて、爪の下には特に多くいることがよくあるからです。
2024年、オランダのフローニンゲン大学などの研究チームが、手洗いの洗い残しを目で見える形にして調べました。使ったのは、紫外線を当てると光る液体です。この液体を手につけてから洗うと、洗い残した所だけが光ります。調べたのは、薬を作る清潔な部屋で働く21人です。洗い残しが見つかったのは3人で、その多くは親指のしわのあたりと手の甲でした。
WHO(世界保健機関)の手洗いのポスターにも、親指のための手順があります。親指を反対の手のひらでにぎって、回すようにこする手順です。WHOは、手をぬらしてから乾かすまでの全体に、40〜60秒かけるよう示しています。CDCの「20秒」は、こする時間だけの数字です。

深掘り講義
ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。
「菌が10分の1になった」を、研究者は「1 log 減った」と書く
手洗いの研究では、減った量を「log(ログ)」という単位で表すことがよくあります。1 log 減るとは、10分の1になることです。2 log なら100分の1、3 log なら1000分の1です。
この書き方を使うと、2015年の実験の結果は、せっけんなしの5秒が1.0 log、せっけんの20秒が1.7 logです。1.7 log は、約50分の1にあたります。2008年の実験の、ふつうのせっけんの15秒と30秒は、1.72 log と 1.67 log でした。数字はほとんど同じで、どちらも約50分の1です。
logで考えると、もう一つのことが分かります。最初に手についていた菌が100万個なら、99%を落としても1万個が残ります。logで表すと、このような大きな数の変化を、けたの数で比べやすくなります。
2015年の実験を読むときには、注意も必要です。「せっけんなしで5秒」と「せっけんで20秒」の差には、時間の違いと、せっけんの有無の両方が入っています。ですから、この比べ方だけでは、時間がどれだけ効いたのかを分けることはできません。
時間より「こすること」と「すすぐこと」が効いている
CDCの以前のページは、手洗いの各手順の理由も説明していました。こすって泡立てると、摩擦で汚れや油、微生物が皮膚から浮き上がります。せっけんにふくまれる界面活性剤も、汚れや微生物を浮かせます。界面活性剤とは、油汚れを水になじませる成分です。そして、浮いた汚れや微生物を、流水で洗い流します。
2006年の日本の実験で、流水ですすぐだけでウイルスが約100分の1になったのも、この「洗い流す」働きだと研究チームは考えています。なぜ「10秒を2回」のほうが「30秒を1回」より減ったのかは、論文には説明がありません。研究チームが書いているのは、ていねいに、何回も洗うほど効果が高まる、という考えまでです。
公的機関どうしでも、勧め方が少しずつ違う
手洗いの手順は、公的機関によって少しずつ違います。WHOのポスターは、最後に使い捨てのタオルで手を乾かし、そのタオルで蛇口を閉めるよう示しています。
一方、CDCは、手をぬらしたら水を止めるよう勧めています。節水のためです。そして、洗ったあと紙タオルで蛇口を閉める方法については、こう書いていました。水と紙を多く使い、しかも健康によいと示した研究はない、と。
手の乾かし方も同じです。ぬれた手は微生物がうつりやすいので、よく乾かすことは、どの機関も勧めています。しかし、どの乾かし方がいちばんよいかは、CDCによると、研究が少なく結果も食い違っていて、はっきりしません。2015年の実験では、紙タオルで乾かすほうが、空気で乾かすより、細菌が少し多く減りました。
「20秒」は、研究の範囲に入る、計りやすい目安
ここまでをまとめると、20秒は「ぴったり20秒がいちばんよい」という数字ではありません。15〜30秒洗うと短いときより多く取れる、という研究の範囲に入る数字です。そして、ハッピーバースデーの歌2回で計れる長さです。大切なのは、20秒という数字を守ることだけではありません。親指や手の甲まで、手全体をこすることです。
05まとめ
手洗いの「20秒」は、いちばんよい時間を実験で突き止めた数字ではありませんでした。CDCは、最適な時間を決めるのは難しいと書いたうえで、15〜30秒の研究をもとに、約20秒を勧めてきました。ふつうのせっけんでは、15秒を30秒にしても細菌の減り方が変わらなかった実験もあります。日本の実験では、30秒洗うより、10秒の手洗いを2回くり返すほうがウイルスが減りました。
洗い残しやすいのは、親指のまわりと手の甲です。爪の下には、微生物が特に多くいることがよくあります。次に手を洗うときは、親指を反対の手でにぎって、くるくる回しながらこすってみてください。
人に話すなら、こう言おう
手洗いの20秒って、「いちばんよい時間」を実験で決めた数字じゃないんだって。CDCも「最適な時間は決めにくい」と書いてたよ。日本の実験では、30秒より10秒を2回洗うほうがウイルスが減ったらしい。
英語で読む
Why Twenty Seconds?
英文をタップすると、その文の訳が出ます。
Many health groups tell us to wash our hands for 20 seconds.多くの保健の機関が、手を20秒洗うようにと言っています。 The CDC, a health office in the United States, says you can hum "Happy Birthday" twice to count the seconds.アメリカの保健の役所であるCDCは、「ハッピーバースデー」を2回ハミングすれば時間を計れると言っています。 But where does this number come from?でも、この数字はどこから来たのでしょうか。
An old CDC page gave an honest answer.CDCの以前のページは、正直な答えを書いていました。 It said that it is difficult to find the best time for hand washing.手洗いのいちばんよい時間を見つけるのは難しい、と書いていたのです。 Few studies have checked how washing time changes people's health.洗う時間で人の健康がどう変わるかを調べた研究は、ほとんどありません。 Still, some studies found that washing for 15 to 30 seconds removes more germs than shorter washing.それでも、15〜30秒洗うと、もっと短く洗うより多くの菌が取れるという研究がありました。 So many countries chose about 20 seconds.そこで、多くの国が約20秒を選びました。
In a 2008 study, plain soap removed about the same number of germs in 15 seconds and in 30 seconds.2008年の研究では、ふつうのせっけんは、15秒でも30秒でもほぼ同じ数の菌を取りました。 In 2006, a team in Tokyo put a virus on people's hands.2006年、東京のチームが人の手にウイルスをつけて調べました。 Washing for 30 seconds instead of 10 seconds did not clearly help.10秒のかわりに30秒洗っても、はっきりとは効果がありませんでした。 But washing for 10 seconds two times removed much more of the virus.でも、10秒の手洗いを2回すると、ずっと多くのウイルスが取れました。
In a 2024 study in the Netherlands, workers put a special liquid on their hands and then washed.2024年のオランダの研究では、働く人たちが特別な液体を手につけてから洗いました。 The liquid glows under a special light, so you can see the places you did not wash.その液体は特別な光の下で光るので、洗わなかった場所が見えます。 Most missed spots were around the thumbs and on the backs of the hands.洗い残しの多くは、親指のまわりと手の甲にありました。
So 20 seconds is a good guide, but it is not a perfect number.つまり、20秒はよい目安ですが、完ぺきな数字ではありません。 Next time, hold each thumb in your other hand and turn it while you scrub.次は、親指を反対の手でにぎって、回しながらこすってみましょう。
4択問題 Reading Quiz
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Q1What is this story mainly about?
この話は主に何についてのものですか。
正解:D Where the 20-second rule comes from and what studies found
第1段落の最後で「この数字はどこから来たのか」と問い、第2〜4段落で研究の結果を説明しているので正解はD。Bの歌は時間を計る方法として出てくるだけ。
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Q2In the 2006 study in Tokyo, which way removed much more of the virus?
2006年の東京の研究で、ウイルスをずっと多く取ったのはどの方法ですか。
正解:A Washing for 10 seconds two times
第3段落の最後の文に、10秒の手洗いを2回するとずっと多く取れたとあるので正解はA。Bは3文目で、はっきりとは効果がなかったとされている。
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Q3Why did many countries choose about 20 seconds?
多くの国が約20秒を選んだのはなぜですか。
正解:C Because studies found 15 to 30 seconds removes more germs than shorter washing
第2段落の4文目と5文目に、15〜30秒の研究があったので多くの国が約20秒を選んだとあるので正解はC。Aは第1段落の「2回ハミングする」と合わない。
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Q4In paragraph 4, the word "glows" is closest in meaning to ...
第4段落の glows という語に最も意味が近いのはどれですか。
正解:B gives off light
第4段落の2文目は、特別な光の下で液体が光るので洗わなかった場所が見える、という意味なので正解はB。glow は「光る」。
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Q5Which is true according to the story?
この話の内容に合うのはどれですか。
正解:C The old CDC page said finding the best time is difficult.
第2段落の2文目に、いちばんよい時間を見つけるのは難しいと書いていたとあるので正解はC。Bは第4段落の「親指のまわりと手の甲」と合わない。Dは第3段落1文目と合わない。
重要語 Key Words(タップで裏返る)
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germ名詞細菌、ばい菌
Soap helps wash germs off your hands.
せっけんは手の菌を洗い流すのに役立つ。
💡 ふつう複数形 germs で使う。病気のもとになる小さな生き物。
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hum動詞ハミングする、鼻歌を歌う
She hummed a song while cooking.
彼女は料理をしながら鼻歌を歌った。
💡 口を閉じて歌うこと。過去形は hummed。
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remove動詞取り除く
Please remove your shoes here.
ここで靴をぬいでください。
💡 re-(もとへ)+move(動かす)。名詞は removal。
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plain形容詞ふつうの、何も加えていない
I like plain yogurt.
私はプレーンヨーグルトが好きだ。
💡 plain soap は抗菌成分の入っていないふつうのせっけん。
-
virus名詞ウイルス
Scientists studied the virus in a lab.
科学者たちは研究室でそのウイルスを調べた。
💡 英語の発音は「ヴァイラス」。
-
glow動詞光る、輝く
The stars glow in the night sky.
星が夜空で光っている。
💡 炎のように熱くなくても、ぼんやり光るときに使う。
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thumb名詞親指
He hurt his thumb in the door.
彼はドアで親指をけがした。
💡 b は発音しない(サム)。thumbs up は「いいね」。
-
scrub動詞ごしごしこする
Scrub the pot with a brush.
なべをブラシでこすりなさい。
💡 強くこすって洗うこと。過去形は scrubbed。
SOURCES出典・ウラ取り
この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 30件)。
- About Handwashing(CDC)cdc.gov
- Show Me the Science – How to Wash Your Hands(CDC。2021年8月10日最終確認の旧ページ、Internet Archive の保存版)web.archive.org
- Frequent Questions About Hand Hygiene(CDC)cdc.gov
- Jensen, D. A. ほか (2015) Quantifying the Effect of Hand Wash Duration, Soap Use, Ground Beef Debris, and Drying Methods on the Removal of Enterobacter aerogenes on Hands, Journal of Food Protection 78:685-690doi.org
- Fuls, J. L. ほか (2008) Alternative Hand Contamination Technique To Compare the Activities of Antimicrobial and Nonantimicrobial Soaps under Different Test Conditions, Applied and Environmental Microbiology 74:3739-3744doi.org
- 森功次ほか (2006) Norovirusの代替指標としてFeline Calicivirusを用いた手洗いによるウイルス除去効果の検討, 感染症学雑誌 80:496-500doi.org
- How to Handwash?(WHO, 2009)who.int
- Knol, C. W. J. ほか (2024) Development and Implementation of an Ultraviolet-Dye-Based Qualification Procedure for Hand Washing and Disinfection…, Pharmacy 12:73doi.org
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