「バグ」という言葉は、1947年にコンピューターにいた蛾から生まれたのではない
言葉と語源No.219

「バグ」という言葉は、1947年にコンピューターにいた蛾から生まれたのではない

エジソンは1878年に「バグ」と手紙に書いていた。

ウソFALSE

この判定の対象「バグという言葉は、1947年にコンピューターにいた蛾から生まれた」

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もくじ
  1. 1947年9月9日、コンピューターの部品から蛾が見つかり、日誌に貼られた
  2. 1947年より前から、bug は「故障」の意味で使われていた
  3. エジソンは1870年代に、故障をもう「バグ」と呼んでいた
  4. 1892年の電気の辞典には、もう bug がのっていた
  5. 蛾を見つけたのは、グレース・ホッパーではなく技術者だったとされる
  6. 深掘り講義
  7. まとめ
  8. 英語で読む(A2・4択5問)
  9. 出典・ウラ取り

1947年9月9日、アメリカのハーバード大学で、Mark II(マーク・ツー)というコンピューターが試験されていました。この日、機械の部品の中から、1匹の蛾が見つかりました。

係の人は、その蛾を作業の日誌にテープで貼りつけました。午後3時45分の欄です。そして、こう書きそえました。「First actual case of bug being found.(本物の bug が見つかった最初の例)」。この日誌は今、アメリカのスミソニアン博物館が持っています。

コンピューターの故障や、プログラムのまちがいを「バグ(bug=虫)」と言います。その始まりはこの蛾だ、という話はよく知られています。でも、日誌の文をよく見ると、「本物の」という言葉が入っています。

実は、機械の故障を bug と呼ぶ言い方は、この日よりずっと前からありました。1870年代には、発明家のトーマス・エジソン(Thomas Edison)が、もうこの言葉を使っていたのです。

この記事では、まず1947年の日誌に何が書かれていたかを見ます。次に、エジソンが bug をどう使っていたかを紹介します。最後に、辞書が bug という言葉をどう説明してきたかを比べます。

011947年9月9日、コンピューターの部品から蛾が見つかり、日誌に貼られた

この日誌のページの写真は、アメリカ海軍が公開しています。公開しているのは、海軍の歴史を記録する「海軍歴史遺産司令部」です。その説明によると、蛾がはさまっていたのは、Mark II の「パネル F」にある「リレー70番」の接点の間でした。

リレーとは、小さな電流の変化を受けて、回路のスイッチを切りかえる部品です。Mark II は、リレーを使って計算する機械で、海軍の説明では「エイケン・リレー計算機」と呼ばれています。

写真を見ると、日誌は方眼紙のページに、時刻と作業を書いていく形です。15時45分の欄には「Relay #70 Panel F (moth) in relay.」とあります。リレー70番、パネル F、リレーの中に蛾、という意味です。その下に、テープで貼られた蛾と、「First actual case of bug being found.」の文があります。そのあと16時30分には次の計算を始め、17時に作業を終えています。

リレーの中にいた蛾(イメージ)
リレーの中にいた蛾(イメージ)

1988年、この日誌はバージニア州の海軍のコンピューター博物館にありました。その後、スミソニアンの国立アメリカ歴史博物館に移されました。今は展示されておらず、博物館の収蔵品になっています。

021947年より前から、bug は「故障」の意味で使われていた

まず、博物館の説明を見てみます。スミソニアンの国立アメリカ歴史博物館は、この日誌についてこう書いています。アメリカの技術者は、機械の小さな欠陥を、100年以上前から bug と呼んできた。1940年代の初めに最初のコンピューターが作られると、作業する人たちは、機械とプログラムの両方で bug を見つけた。

つまり1947年には、故障を bug と呼ぶ言い方が、もう使われていたことになります。だから日誌の「actual(本物の)」は、冗談だと読めます。「いつもの比喩の bug ではなく、今回は本物の虫だった」という意味です。

03エジソンは1870年代に、故障をもう「バグ」と呼んでいた

bug の歴史を調べた記事があります。2013年に、アメリカの電気の学会 IEEE の雑誌『IEEE Spectrum』にのったものです。書いたのは、ポール・イスラエル(Paul Israel)たちです。イスラエルは、エジソンの資料を研究するエジソン・ペーパーズの所長です。

この記事によると、話は1873年にさかのぼります。エジソンは、1本の電線で4つの電報を同時に送る「4重電信」を開発していました。そのとき、信号ににせの切れ目が入ってしまう問題に出会いました。エジソンはのちにこの問題を bug と呼び、それを取りのぞく仕組みを「bug trap(バグ取り)」と呼びました。

記事によると、bug という言葉がエジソンのノートに初めて出てくるのは1876年7月です。1878年になると、エジソンは研究所の外の人への手紙にも bug と書くようになりました。

1878年3月、エジソンは電信の会社ウェスタン・ユニオンの社長に手紙を書きました。電話の装置に bug を見つけた。でもそれは電話機そのものではなく、「callbellum(コールベルム)」という種類の虫だった。そんな冗談です。call bell(呼び鈴)を、虫の学名のような形にしたしゃれだと読めます。

同じ年の11月には、プシュカーシュ(Theodore Puskas)という人に手紙を書きました。発明のあとの苦労について、こう書いています。「あれがだめになり、これがだめになる。bug——こうした小さな欠陥や困難はそう呼ばれる——が現れる」。

041892年の電気の辞典には、もう bug がのっていた

エジソンの bug は、電気の仕事をする人たちの間に広まりました。IEEE の記事は、その例をいくつか紹介しています。1888年には、ウィリアム・メイヴァー(William Maver)という人がこう書きました。4重電信の動きのくせは、あまり上品ではないが bug と呼ばれる。最初にそう呼んだのはエジソンだ。

1889年には、イギリスの新聞記者が、エジソンが2晩寝ないで蓄音機の bug を直していたと書きました。記者は、bug とは「想像上の虫が中に隠れて、問題を起こしている」という意味の言い方だ、と説明しています。

1892年には、電気の言葉を集めた辞典が出ました。スローン(T. O'Conor Sloane)という人の『The Standard Electrical Dictionary』です。この辞典には、Bug が「電気の装置の接続や動きの、あらゆる欠陥や不具合」とのっています。Bug Trap は「bug を直すための接続や仕組み」です。そして、この2つの言葉は4重電信から生まれたと言われている、と書かれています。

05蛾を見つけたのは、グレース・ホッパーではなく技術者だったとされる

蛾の話には、よく名前が出てくる人がいます。グレース・ホッパー(Grace Hopper)です。ホッパーは数学者でプログラマーで、のちにアメリカ海軍の少将になった人です。1947年には、Mark II の仕事をしていました。

でもスミソニアンの博物館は、この日誌は「たぶんホッパーのものではない」と書いています。IEEE の記事も、蛾を見つけたのは技術者だった、としています。博物館によると、ホッパーとチームの仲間は、bug や debug(バグを取りのぞく)という言葉を広めるのに役立ちました。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

「debug」の始まりについては、2つの公的な機関の説明がずれている

アメリカ海軍の歴史の機関は、写真の説明でこう書いています。係の人たちは「機械を debug した」と言い広め、これが「コンピューターのプログラムを debug する」という言葉の始まりになった。

一方、スミソニアンの博物館は、bug と debug は「まもなくプログラマーのふつうの言葉になった」と書き、ホッパーたちは言葉を「広めるのに役立った」としています。言葉の始まりとまでは言っていません。どちらも公的な機関の説明ですが、言い切り方が違います。debug がこの日より前に使われていたかどうかは、この記事のために調べた資料では確かめられませんでした。

辞書が挙げる「欠陥」の意味の最初の年は、エジソンの手紙より遅い

Dictionary.com は、bug の「機械やプログラムの欠陥」という意味の最初の記録を、1885〜90年としています。でも IEEE の記事によると、エジソンは1878年の手紙に、もう bug と書いていました。エジソンのノートでは、1876年7月に出てきます。

イギリスの『オックスフォード英語辞典』(OED)の最初の版、『A New English Dictionary(NED)』の第1巻は1888年に出ました。その bug の項目には、虫や南京虫の意味はあっても、機械の欠陥の意味はのっていません。

つまり、IEEE の記事が使ったエジソンのノートや手紙には、辞書が挙げる年より古い例があることになります。辞書の「最初の記録」の年は、「これより前には使われていない」という意味ではないのです。

「虫」の bug がどこから来たかは、辞書によって説明が違う

英語の bug には、もう一つ古い意味があります。「おばけ」「かかし」です。NED では、この意味の例は1388年までさかのぼります。では、「虫」の bug は、この「おばけ」の bug から来たのでしょうか。辞書の説明は、3つともずれています。

  • NED(1888年):「虫」の bug の語源は「分からない」。おばけの bug から来たとよく言われるが、証拠のない推測にすぎない
  • アメリカン・ヘリテージ英語辞典:たぶん、甲虫を意味する古い言葉 budde が、おばけの bug の影響で変わったもの
  • Dictionary.com:昔の bugge(甲虫)から来た。古い budde が変わったものらしい。おばけの bug は別の言葉として、その起源は分からない

どの辞書も、甲虫を指す古い言葉 budde や、おばけの bug との関係にふれています。でも、はっきり決めている辞書はありません。

ドイツ語にも bug trap(虫取り)が訳されて入った

IEEE の記事によると、エジソンの4重電信の話は、ドイツ語の本にも出てきます。1890年のドイツの電信の本には、「Wanzenfalle(ヴァンツェンファレ)」という言葉が出てきます。IEEE の記事は、これを bug trap(バグ取り)のことだと説明しています。英語の「虫」のたとえが、ドイツ語にも訳されて入ったのです。

06まとめ

1947年9月9日、ハーバード大学のコンピューター Mark II のリレーから蛾が見つかり、日誌にテープで貼られました。でも、そこに書かれていたのは「本物の bug が見つかった最初の例」という言葉です。故障を bug と呼ぶ言い方は、エジソンが1870年代から使っていて、1892年の電気の辞典にものっていました。1947年の蛾は、言葉の始まりではなく、言葉どおりの虫が見つかった出来事だったのです。蛾が貼られた日誌は、今もスミソニアンの博物館に残っています。

人に話すなら、こう言おう

コンピューターのバグって、蛾がはさまってたのが始まりって言われるけど、ウソなんだって。エジソンが1870年代にもう故障のことを「バグ」って呼んでて、蛾の日誌にも「本物のバグ発見」って書いてあるらしいよ。
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英語で読む

The Bug Before the Moth

CEFR A2220 words4択 5問全訳つき
0:00

英文をタップすると、その文の訳が出ます。

On September 9, 1947, people at Harvard University were testing a computer called the Mark II.1947年9月9日、ハーバード大学の人たちが、Mark II というコンピューターを試験していました。 They found a moth inside one of its parts.彼らは、その部品の一つの中に蛾を見つけました。 The part was a relay, which works like a switch.その部品はリレーで、スイッチのような働きをするものです。 They taped the moth into their logbook and wrote, "First actual case of bug being found."彼らはその蛾を作業日誌にテープで貼り、「本物の bug が見つかった最初の例」と書きました。

Many people think the word "bug" for a computer problem started with this moth.コンピューターの問題を表す bug という言葉は、この蛾から始まったと思っている人がたくさんいます。 But look at the word "actual."でも、actual(本物の)という言葉を見てください。 It means "real."これは「本当の」という意味です。 The workers already called small problems bugs, so this note was probably a joke.働いていた人たちは、小さな問題をすでに bug と呼んでいたので、この書き込みはたぶん冗談だったのでしょう。

The word is much older than computers.この言葉は、コンピューターよりずっと古いものです。 In the 1870s, the inventor Thomas Edison used "bug" for a fault in a machine.1870年代、発明家のトーマス・エジソンは、機械の欠陥を表すのに bug という言葉を使いました。 He called a way to fix one a "bug trap."彼は、bug を取りのぞく仕組みを「bug trap(バグ取り)」と呼びました。 In 1878, he wrote in a letter that little faults and difficulties were called bugs.1878年、彼は手紙の中で、小さな欠陥や困難は bug と呼ばれている、と書きました。 In 1892, a dictionary of electrical words also included "bug."1892年には、電気の言葉の辞典にも bug がのりました。

Grace Hopper worked on the Mark II, and her name often comes up in this story.グレース・ホッパーは Mark II の仕事をしていて、この話にはよく彼女の名前が出てきます。 But the Smithsonian museum says the logbook was probably not hers.でもスミソニアンの博物館は、その日誌はたぶん彼女のものではない、と言っています。 She and her team helped to spread the words "bug" and "debug."彼女とチームは、bug と debug という言葉を広めるのに役立ちました。

Today, the logbook belongs to the Smithsonian, and the moth is still taped to the page.今、その日誌はスミソニアンが持っていて、蛾はまだページにテープで貼られたままです。 So the moth did not give us the word.つまり、蛾がこの言葉を生んだわけではありません。 It was simply the first bug that was a real bug.それは、本物の虫だった最初の bug にすぎなかったのです。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2When did people find the moth in the Mark II?

    人々が Mark II の中に蛾を見つけたのはいつですか。

  3. Q3Why did the workers write the word "actual"?

    働いていた人たちは、なぜ actual という言葉を書いたのですか。

  4. Q4In paragraph 2, the word "actual" is closest in meaning to

    第2段落の actual という語に最も意味が近いのはどれですか。

  5. Q5Which is true about the story?

    この話について正しいものはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • moth名詞
    蛾(が)

    A moth flew around the light.

    1匹の蛾が明かりのまわりを飛んだ。

    💡 butterfly(チョウ)と区別する。複数形は moths。

  • logbook名詞
    (作業や航海の)日誌

    The captain wrote the weather in the logbook.

    船長は日誌に天気を書いた。

    💡 log だけでも「記録」の意味。コンピューターの「ログ」も同じ語。

  • actual形容詞
    実際の、本物の

    This is the actual size of the egg.

    これが卵の実際の大きさだ。

    💡 副詞 actually は「実は」。

  • fault名詞
    欠陥、故障

    There was a fault in the engine.

    エンジンに欠陥があった。

    💡 「(人の)落ち度」の意味もある。It's my fault.(私のせいだ)

  • inventor名詞
    発明家

    The inventor made a new kind of lamp.

    その発明家は新しい種類のランプを作った。

    💡 invent(発明する)+ -or(人)。invention は「発明」。

  • insect名詞
    昆虫

    Ants and bees are insects.

    アリやハチは昆虫だ。

    💡 話し言葉では bug で虫全般を指すこともある。

  • spread動詞
    広める、広がる

    The news spread quickly.

    そのニュースはすぐに広まった。

    💡 過去形・過去分詞も spread。

  • debug動詞
    (機械やプログラムの)欠陥を取りのぞく

    She spent the night debugging her program.

    彼女は一晩かけてプログラムのバグを取った。

    💡 de-(取りのぞく)+ bug。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 29件)。

  1. Log Book With Computer Bug(Smithsonian National Museum of American History)americanhistory.si.edu
  2. NH 96566-KN The First "Computer Bug"(U.S. Naval History and Heritage Command)history.navy.mil
  3. Magoun, A. B. & Israel, P. (2013) Did You Know? Edison Coined the Term "Bug", IEEE Spectrumspectrum.ieee.org
  4. Sloane, T. O'C. (1892) The Standard Electrical Dictionary(Project Gutenberg)gutenberg.org
  5. bug(Dictionary.com)dictionary.com
  6. bug(The American Heritage Dictionary of the English Language)ahdictionary.com
  7. Murray, J. A. H. 編 (1888) A New English Dictionary on Historical Principles, Vol. I「Bug」(OED 初版、archive.org)archive.org

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