
「トイレの渦は南半球で逆」はウソで、小さな渦に地球の自転が効くのは特別な実験だけ
渦の向きを調べるため、水を24時間置いた教授がいた。
この判定の対象「南半球では、トイレの渦が北半球と逆向きになる」
もくじ
「北半球と南半球では、トイレの水が流れるときの渦の向きが逆になる」。こんな話を聞いたことはありませんか。
赤道の近くの国では、この話を目の前で見せる観光客向けの実演もあります。ウガンダやエクアドルの例では、赤道の北・南・真上で、それぞれ容器の水を流します。すると、北と南では渦が逆向きに回り、赤道の真上では回らない、というのです。
けれども、ふだんのトイレや洗面台の渦の向きは、地球の自転ではほとんど決まりません。地球の自転が渦の向きを決めるのを見るには、特別な実験が必要でした。1962年、アメリカの大学の教授は、水を24時間じっと置いてから栓を抜いています。
この記事では、まず、地球の自転が物の動きにどう影響するのかを説明します。次に、トイレや洗面台の渦の向きが何で決まるのかを見ます。最後に、1962年の実験と、赤道の実演のしかけを紹介します。
01地球の自転の影響は、台風のような大きな渦でははっきり見える
地球は1日に1回、回っています。その上で動く物は、北半球と南半球で、別の向きにそれて見えます。この効果を「コリオリの力」といいます。1835年に、フランスの技術者で数学者のギュスターヴ=ガスパール・コリオリが初めて説明しました。
コリオリの力は、北極や南極の近くでいちばん強く、赤道の上ではゼロになります。また、動く物が速いほど強くなります。
この力がはっきり効くのが、ハリケーンや台風のような大きな渦です。大きな渦のまわりの空気は、北半球では反時計回り、南半球では時計回りに回る傾向があります。地球が回っていなければ、空気はまっすぐ中心(気圧の低い所)に流れこむはずです。地球が回っているので、空気がそれて、中心のまわりを回るのです。
02トイレの渦の向きは、便器のふちから水が吹き出す向きで決まる
では、トイレや洗面台の水はどうでしょう。アメリカのペンシルベニア州立大学のサイトで、アリステア・フレーザー(Alistair B. Fraser)は次のように説明しています。
地球は、1日にたった1回しか回りません。一方、洗面台の水は、数秒で1回転するほどの速さで回ります。回る速さで比べると、洗面台の水は地球の1万倍ほども速いのです。そのため、洗面台の水にとって、地球の自転の影響はほとんどないに等しいのです。
フレーザーによると、洗面台の渦の向きは、水のため方や、手を洗ったときにできた小さな渦で決まります。トイレの渦の向きは、流したときに、ふちの下から水がどの向きに吹き出すかで決まります。フレーザーが自宅の洗面台で試すと、北半球なのに時計回りに流れました。蛇口からの水のため方で、向きが決まっていたのです。
アメリカのイリノイ大学の物理学の質問コーナーも、同じことを書いています。トイレの水に対するコリオリの力は、便器のほんの少しのゆがみの影響と比べても、ごくわずかだというのです。
031962年、MITの教授は水を24時間置いてから栓を抜いた
それでも条件をそろえれば、地球の自転の影響を渦で見ることはできます。それを示したのが、アメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)のアッシャー・シャピロ(Ascher H. Shapiro)教授です。
MITの卒業生向けの雑誌の記事によると、シャピロの実験は次のようなものでした。
- 円くて底が平らな容器を用意し、真ん中に直径約9.5mmの小さな穴をあけた。
- 穴には長さ約6mのホースをつなぎ、ホースの先に栓をした。
- きれいな室温の水を、深さ約15cmまで入れた。
- 容器をビニールのシートでおおって風を防ぎ、部屋の温度も一定に保った。
- 水は、わざと時計回りにかき回しながら入れた。
最後の工夫には、理由があります。もし反時計回りの渦ができても、水の入れ方のせいだと言われないようにしたのです。
シャピロは、水を24時間置いて、動きがおさまるのを待ちました。それから、ホースの先の栓をそっと抜きました。穴の上には、長さ約2.5cmの細い木の棒を2本、十字に組んだ浮きを置きました。
水が全部流れるまで、約20分かかりました。はじめの12〜15分間、浮きは止まったままでした。そのあと、ほとんど分からないほどゆっくりと、反時計回りに回り始めました。いちばん速いときで、3〜4秒に1回転しました。北半球の大きな渦と、同じ向きです。
シャピロは、1962年12月に科学雑誌『ネイチャー』にこの結果を発表しました。論文は、浴そうや台所の流しの渦の向きは毎年のように議論になる、という書き出しで始まります。

04南半球のシドニーでも実験が行われ、時計回りの渦が確かめられた
北半球で反時計回りなら、南半球では時計回りになると考えられていました。1965年、オーストラリアのシドニー大学の研究者たちが、南半球での実験を『ネイチャー』に報告しました。MITの雑誌の記事によると、南半球では、シャピロの方法で時計回りの渦が確かめられました。
シドニーの研究者たちの論文によると、イギリスのケンブリッジでも、ビニー(Binnie)という研究者が同じような実験をしていました。シャピロもビニーも、初めの実験ではうまくいかずに苦労しました。それを乗りこえてから、反時計回りの渦は地球の自転によるものだと確信した、と書かれています。
この実験は、世界中の人の関心を集めました。MITの雑誌によると、シャピロのもとには、10年以上にわたって世界中から手紙や新聞の切り抜きが届きました。87か国を訪ねたカリフォルニアの学校の先生からは、浴そうの栓を抜くのが趣味になった、という手紙も来たそうです。
05赤道の実演で見える「逆向きの渦」は、水の入れ方や容器の回し方で作れる
では、赤道の観光地の実演はどうでしょう。赤道の上では、コリオリの力はゼロです。フレーザーによると、赤道から10mほど離れた所でも、力はとても小さいままです。スペインの海洋学者たちは、観光客が見ている渦はコリオリの力のせいではない、と結論しています。
フレーザーは、アフリカのケニアの、赤道の上にあるナニュキという町の実演を取り上げています。そこでは、北では時計回り、南では反時計回りと、本物の台風とは逆の向きの渦が見せられていました。フレーザーは、四角っぽい容器を使えば、こうした渦を作れると説明しています。容器を持って体ごと向きを変えると、中の水も一緒に回り始めるのです。
イリノイ大学の物理学のページは、別の実演の動画を取り上げています。その動画では、赤道の北と南で、穴の片側から水を注いで、最初から水に回転をつけていました。注ぐ側を北と南で逆にすれば、渦の向きも逆になります。
深掘り講義
ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。
渦の向きに地球の自転が効くかどうかは、渦の大きさと速さで決まる
スペインのラス・パルマス・デ・グラン・カナリア大学の海洋学者たちは、2023年の記事で、ロスビー数という数を使って説明しています。ロスビー数は、水や空気の動きと地球の自転を比べる数です。比べるときには、渦の大きさと、水や空気の速さも計算に入れます。
ロスビー数が小さいほど、地球の自転の影響が強く効きます。大きいほど、影響はほとんどありません。平均的なハリケーンでは、ロスビー数はおよそ1です。つまり、渦そのものの動きと地球の自転が、同じくらい大事だということです。
ところが洗面台の水では、ロスビー数は1よりも1万倍以上大きくなります。渦が小さく、水の動きが速すぎるのです。地球の自転が効くには、水がほとんど止まって見えるほどゆっくり動く必要があります。
自転の影響を見るための条件は、「円い容器」「長く待つ」「ゆっくり流す」
フレーザーによると、地球の自転の影響を渦で見るのに成功した人たちは、共通の工夫をしていました。
まず、ふつうの洗面台は使えません。形が楕円で、穴が真ん中にないからです。成功した人たちは、直径1mほどのなめらかな円い容器を使い、真ん中に小さな穴をあけました。栓は、水を動かさないように下から抜けるものにしました。水を入れたあとは、入れたときの動きが消えるまで、1週間ほど置くこともありました。
穴を小さくするのは、水をゆっくり流すためです。コリオリの力はとても弱いので、水の流れを目に見えるほど曲げるには、何時間もかかります。こうした条件で流すと、回り方はいつも、その半球の低気圧と同じ向きになったといいます。
シャピロより54年前に、同じことを示した物理学者がいた
シャピロの論文が出た翌年の2月、『ネイチャー』に短い手紙が載りました。書いたのは、物理学者のアンドラーデ(E. N. da C. Andrade)です。
アンドラーデは、1908年にオーストリアの物理学者が、同じような実験をすでに発表していたと指摘しました。真ん中の穴から水を流して、地球の自転の影響を示した、ていねいな実験です。その論文の題は、ドイツ語で「地球の自転の新しい物理的証明」でした。1908年の時点で、水の渦を使って地球の自転を示した研究者がいたのです。
ところが、1965年のシドニーの研究者たちの論文の書き出しは、少し違います。北半球と南半球で渦が逆になるという考えは、最近になってシャピロたちがやっと試した、と書いているのです。この論文の参考文献にも、1908年の論文は入っていません。
赤道の実演は、条件をそろえていないので実験にならない
赤道の実演は、科学の実験のように見えます。けれども、条件をそろえていないので、実験にはなっていません。水を注ぐ向き、容器の形、運び方のどれか一つで、渦の向きは変わります。
フレーザーは、ナニュキの実演を見た同僚が、バスの中でほかの観光客に「今のは地球の自転ではない」と教えた話も書いています。そのとき観光客の多くは、がっかりしたそうです。フレーザーは、観光客は本当のことより作り話のほうを好んだ、と書いています。
06まとめ
「北半球と南半球でトイレの渦が逆になる」はウソです。トイレの渦の向きは、便器のふちの下から水が吹き出す向きで決まります。洗面台の渦も、水のため方などで決まり、北半球でも両方の向きがあります。
地球の自転が渦の向きを決める様子は、特別な実験でやっと見えました。1962年、MITのシャピロ教授は、円い容器の水を24時間置いてから、ゆっくり流しました。すると栓を抜いて12〜15分たってから、十字の浮きが反時計回りに回り始めたのです。
人に話すなら、こう言おう
南半球ではトイレの渦が逆になるって話、ウソなんだって。向きは便器のふちから水が出る向きで決まるらしい。地球の自転の影響を見るには、水を24時間もじっと置いておく実験が必要だったんだって。
英語で読む
Which Way Does the Water Turn?
英文をタップすると、その文の訳が出ます。
Many people believe that water goes down the drain one way in the north and the other way in the south.水が排水口に流れこむ向きは、北半球と南半球で逆になる、と多くの人が信じています。 In some countries near the equator, tourists even watch shows about it.赤道に近い国では、観光客がそれを見せる実演を見ることさえあります。 But is it true?でも、それは本当でしょうか。
The Earth turns, and this can change the path of moving air and water.地球は回っていて、そのせいで動く空気や水の進む道が変わることがあります。 This is called the Coriolis effect.これはコリオリの効果と呼ばれます。 It is strong in very big storms like hurricanes.この効果は、ハリケーンのようなとても大きな嵐では強く表れます。 They usually turn one way in the north and the other way in the south.ハリケーンはふつう、北半球と南半球で逆の向きに回ります。
But a sink or a toilet is very small.でも、洗面台やトイレはとても小さなものです。 The Earth turns only once a day, but water in a sink can turn once in a few seconds.地球は1日に1回しか回りませんが、洗面台の水は数秒で1回転することがあります。 So the Earth's turning is far too weak to matter.ですから、地球の自転の影響は弱すぎて、ほとんど関係ありません。 A toilet's swirl depends on how the water comes out under the rim.トイレの渦は、ふちの下から水がどう出てくるかで決まります。
In 1962, Ascher Shapiro, a professor in the United States, tried a careful test.1962年、アメリカの教授アッシャー・シャピロが、ていねいな実験をしました。 He put water in a round tank and waited 24 hours.彼は円い容器に水を入れ、24時間待ちました。 Then he carefully pulled the plug.それから、そっと栓を抜きました。 For about 12 to 15 minutes, a small float on the water did not move.約12〜15分の間、水に浮かべた小さな浮きは動きませんでした。 Then it began to turn counterclockwise, the same way as big storms in the north.それから、北半球の大きな嵐と同じ反時計回りに回り始めました。
So the Earth can decide the direction, but only in a very special test.つまり、地球が向きを決めることもありますが、それはとても特別な実験の中だけです。 In your bathroom, the shape of the toilet decides.家のトイレでは、便器のつくりが向きを決めているのです。
4択問題 Reading Quiz
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Q1What is this story mainly about?
この話は主に何についてのものですか。
正解:B Whether the Earth decides how water turns down a drain
第1段落で「北と南で水の回る向きが逆」という考えを紹介し、第2〜5段落でそれが本当かを確かめているので、正解はB。Cのハリケーンは説明の一部にすぎない。
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Q2How long did Shapiro wait before he pulled the plug?
シャピロは栓を抜く前に、どれくらい待ちましたか。
正解:C 24 hours
第4段落の2文目に waited 24 hours とあるので、正解はC。12〜15分は栓を抜いたあと浮きが動かなかった時間。
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Q3Why does the Earth's turning not decide the direction in a sink?
洗面台では、なぜ地球の自転が水の回る向きを決めないのですか。
正解:A Water in a sink turns much faster than the Earth.
第3段落の2〜3文目に、地球は1日に1回しか回らないが洗面台の水は数秒で1回転するので(So)、地球の自転は弱すぎるとあるので、正解はA。B・C・Dは本文に書かれていない。
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Q4In paragraph 3, the word "rim" is closest in meaning to
第3段落の "rim" に最も意味が近いのはどれですか。
正解:D the top edge of the bowl
第3段落の最後の文で、水が under the rim(rim の下)から出てくると言っているので、rim はトイレの「ふち」のこと。正解はD。
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Q5Which is true about Shapiro's test?
シャピロの実験について、正しいものはどれですか。
正解:C The float turned counterclockwise.
第4段落の最後の文に、浮きが反時計回りに回り始めたとあるので、正解はC。Bは「12〜15分動かなかった」と合わず、Aは「円い容器」を使ったという本文と合わない。
重要語 Key Words(タップで裏返る)
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drain名詞・動詞(名)排水口 (動)水を流す、水がぬける
Hair is blocking the drain in the bathroom.
浴室の排水口に髪の毛がつまっている。
💡 go down the drain は「むだになる」という意味でも使う。
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equator名詞赤道
Singapore is very close to the equator.
シンガポールは赤道のすぐ近くにある。
💡 ふつう the equator と the をつける。
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hurricane名詞ハリケーン(大西洋などの強い熱帯の嵐)
The hurricane brought heavy rain to the city.
ハリケーンが町に大雨をもたらした。
💡 日本の近くでは typhoon(台風)と呼ぶ。
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rim名詞(円いものの)ふち
There is a crack on the rim of this cup.
このカップのふちにひびが入っている。
💡 メガネのふちや車輪のリムも rim。
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swirl名詞・動詞(名)渦 (動)渦を巻く
The milk made a white swirl in my coffee.
牛乳がコーヒーの中に白い渦を作った。
💡 ソフトクリームの「ぐるぐる模様」も swirl。
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plug名詞栓、(電気の)プラグ
Pull the plug when the bath is finished.
おふろが終わったら栓を抜いてね。
💡 pull the plug で「栓を抜く」。「計画を打ち切る」の意味もある。
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float名詞・動詞(名)浮き (動)浮かぶ
Ice floats on water.
氷は水に浮く。
💡 反対は sink(沈む)。名詞の sink は「流し」。
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counterclockwise副詞・形容詞反時計回りに(の)
Turn the cap counterclockwise to open it.
ふたを開けるには反時計回りに回してください。
💡 時計回りは clockwise。イギリス英語では anticlockwise。
SOURCES出典・ウラ取り
この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 28件)。
- Shapiro, A. H. (1962) Bath-Tub Vortex, Naturedoi.org
- Myhrvold, C. (2012) Verifying a Vortex, MIT News magazine(MIT Technology Review)technologyreview.com
- Trefethen, L. M. et al. (1965) The Bath-Tub Vortex in the Southern Hemisphere, Naturedoi.org
- Andrade, E. N. da C. (1963) Bath-tub Vortex, Naturedoi.org
- Fraser, A. B. Bad Coriolis(ペンシルベニア州立大学のサイト)personal.ems.psu.edu
- Machín Jiménez, F. J. & Aguiar González, B. (2023) Does the direction water rotates down the drain depend on which hemisphere you're in?, The Conversationdoi.org
- Flushing Toilets South of the Equator(イリノイ大学 Physics Van)van.physics.illinois.edu
文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。
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