
「雷は同じ場所に2度落ちない」はウソで、スカイツリーは約5年で62回雷を受けた
東京スカイツリーの雷の約6割は、塔から空へのびた。
この判定の対象「雷は、同じ場所に2度落ちない」
もくじ
「雷は同じ場所に2度落ちない」。英語でも「Lightning never strikes the same place twice」という言い方があります。
けれども、アメリカ国立気象局(NWS)は、これを雷についての誤解の一つとしてあげています。NWSによると、雷は同じ場所に何度も落ちることがよくあります。とくに落ちやすいのは、高くてとがっていて、まわりから離れて立っている物です。
たとえば、ニューヨークのエンパイア・ステート・ビルです。NWSによると、このビルには平均して年に23回、雷が落ちます。ビルの公式サイトは、アンテナに落ちる雷を平均で年25回としています。
日本でも、東京スカイツリーで雷の観測が行われてきました。2012〜2016年の観測では、この塔で62回の雷が記録されています。しかもそのうち約6割は、空から落ちてきた雷ではありませんでした。塔のてっぺんから、空へ向かってのびた雷だったのです。
この記事では、まず、雷が同じ場所に落ちやすい理由を見ます。次に、1回の雷の中でも、同じ通り道に何度も電気が流れることを紹介します。最後に、東京スカイツリーやスイスの塔で分かった「上向きの雷」と、レーザーで雷を導いた実験を紹介します。
01高い物ほど、雷を迎えにいく通り道をのばしやすい
雷が地面に落ちるまでには、いくつかの段階があります。アメリカ国立暴風雨研究所(NSSL)の説明を、順番に見てみましょう。
まず、雲から、目に見えないマイナスの電気の通り道が、少しずつ下へのびてきます。そのとき、地面の物からも、雷を迎えにいくような弱い通り道が上へのびます。この2つがつながると、強い電流が通り道を空へかけ上がります。私たちが見る雷の光は、この電流の光です。NSSLによると、これは1000分の数秒というとても短い時間で起きるので、人の目には光ができる様子が見えません。
NSSLによると、高い物ほど、この上向きの通り道を出しやすくなります。だから、高い建物には雷が落ちやすいのです。
高さのほかにも、落ちやすさに関係しそうなことがあります。NSSLは、土に含まれる塩分や水分、岩や水たまり、地面に埋まった管や金属、地形、木の葉や枝の形などをあげています。こうしたものが、ある場所を、すぐ近くの場所より落ちやすくしているのかもしれません。もちろん、雷の数がとても多いので、たまたま前と同じ場所に落ちることもあります。
021回の雷の中でも、同じ通り道に何度も電気が流れる
実は、1回の雷の中でも、雷が同じ場所に何度も落ちていることがよくあります。
NWSによると、最初の電流が流れたあと、通り道はしばらく電気を通しやすいままです。雲にまだマイナスの電気が残っていると、それが同じ通り道をすばやく下りてきます。そして、もう一度強い電流が流れます。
ふつう、マイナスの電気を運ぶ雷1回は、最初の電流のあとに、2〜3回の電流が同じ道を続きます。雷がチカチカと点滅して見えるのは、このためです。電流が1回しか流れない雷もありますが、12回より多く流れた例もあります。それでも全部が1秒もかからずに起きるので、人の目では区別できません。
また、2回目以降の電流が、別の場所に落ちることもあります。1997年の夏、アメリカのアリゾナ州で、雲から地面への雷386回をビデオで記録した研究があります。そのうち136回、割合にして35%は、数十m以上離れた2か所以上に落ちていました。386回の雷が落ちた地点は合計558か所で、1回の雷あたり平均1.45か所でした。
03東京スカイツリーでは、雷の約6割が塔から空へのびた
東京スカイツリーは、高さ634mの放送用の塔です。海抜1mほどの平らな土地に建っています。電力中央研究所と東京大学の研究者たちは、この塔で雷を観測してきました。
2018年の論文によると、2012〜2016年に、塔では下向きの雷が25回、上向きの雷が37回観測されました。上向きの雷とは、塔のてっぺんから電気の通り道が空へのびて始まる雷です。62回のうち37回、つまり約6割が上向きでした。
上向きの雷37回のうち35回は、塔の高さ497mにとりつけた装置で、電流の変化が記録されました。そのうち27回は、塔の上からのびた通り道をきっかけに始まった、マイナスの電気を運ぶ雷でした。

04スイスの山の上の塔には、9年あまりで849回の雷が来た
山の上の塔も、雷の研究によく使われています。スイスのセンティス山(標高2502m)の頂上には、高さ123.5mの塔が立っています。2010年5月から、この塔に来る雷の電流が測られてきました。
2022年のまとめの論文によると、2010年5月から2019年8月中ごろまでに、この塔では849回の雷が記録されました。そのうち95%より多くが、塔から空へのびた上向きの雷でした。論文は、この塔には毎年100回ほど雷が来る、と書いています。
同じ場所に何度も雷が来るので、この塔は実験の場所にもなりました。2021年の夏、研究チームは塔の近くから、強力なレーザーを空に向けて打ちました。7月21日から9月30日までに、塔には少なくとも16回の雷が来ました。そのうち4回は、レーザーを出している間の雷でした。
2台の高速カメラは、雷の通り道が、レーザーの通り道にそって50mにわたって導かれる様子を記録しました。研究チームによると、レーザーで雷を導いたことを、野外の実験で示したのはこれが初めてです。
深掘り講義
ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。
雷の光は、下から上へかけ上がっている
雷は空から落ちてくるように見えます。けれどもNSSLの説明では、雲から地面への雷は、空から下りてくる部分と、地面から上がっていく部分の両方でできています。
雲から下りてくる通り道は、目に見えません。少しずつ、ぎくしゃくと下へのびていきます。雷雲の下では、地面や地面の上の物は、ふつうプラスの電気を帯びています。プラスとマイナスは引き合うので、落ちる直前の物からは、弱い通り道が上へのびます。
2つの通り道がつながった瞬間、強い電流が、つながった所から空へ向かってかけ上がります。これを「帰還雷撃」といいます。私たちが見る明るい光は、この帰還雷撃です。
2回目以降の電流は、最初の通り道を使う
最初の帰還雷撃のあと、通り道はしばらく電気を通しやすい状態のままです。雲の中の、近くにあったマイナスの電気が、この通り道を使って下りてきます。この2回目以降の下りてくる流れは、最初よりなめらかで、ずっと速く進みます。NWSによると、すでにできた道をたどるので、2回目以降の雷は、ふつう枝分かれしません。
雷がチカチカ光るのは、この電流が同じ道を何度も流れるからです。ただし、2回目以降の流れが、途中から別の道を通ることもあります。1997年のアリゾナの研究では、2か所以上に落ちた雷の多くで、2回目以降の電流が、最初とは別の道を通っていました。その研究では、新しく落ちた地点の67%は、2回目の電流によってできていました。
高い塔から始まる「上向きの雷」
NSSLは、自然の雷が、放送用のアンテナのような高い塔から、上向きの放電を引き起こすこともあると説明しています。東京スカイツリーでは観測された雷の約6割、センティス山の塔では95%より多くが、この上向きの雷でした。
電力中央研究所の研究者は2015年の解説で、500mをこえるとても高い建物が世界中で数多く建てられている、と書いています。そうした建物には雷が多く落ちると考えられますが、雷から守る方法は確立しているとは言いがたい、というのです。東京スカイツリーでの観測は、この問題を調べる研究の一つとして紹介されています。
避雷針から、ロケット、レーザーへ
雷が落ちる場所を人が決める方法は、昔から研究されてきました。2023年のレーザーの論文は、その歴史を次のようにまとめています。
いちばんよく使われているのは、今でも避雷針です。避雷針は18世紀に、アメリカのベンジャミン・フランクリンが発明したとされています。とがった金属の柱を地面につなぎ、雷が落ちる場所をそこに決めて、電流を安全に地面へ流すしくみです。
1965年には、地面につないだ長い電線を引きながら小さなロケットを打ち上げ、雷を人工的に起こす方法が示されました。ちょうどよいときにロケットを打ち上げれば、最大90%の確率で雷を起こせます。ただし、ロケットと電線は使い捨てで、落ちてくる部品が危険です。別の方法として考えられたのが、レーザーで空気の中に通り道を作る方法でした。2021年のセンティス山の実験は、その考えを野外で確かめた初めての例になりました。
05まとめ
「雷は同じ場所に2度落ちない」はウソです。エンパイア・ステート・ビルには平均で年に23回(ビルの公式サイトでは25回)雷が落ちます。高い物ほど、雷を迎えにいく通り道を出しやすいのです。1回の雷の中でも、電流は同じ通り道を何度も流れ、それが雷のチカチカした光になります。
そして高い塔では、塔から空へ向かってのびる雷も起きます。東京スカイツリーで2012〜2016年に観測された62回の雷のうち、37回は塔のてっぺんから空へのびた雷でした。
人に話すなら、こう言おう
雷は同じ場所に2度落ちないって話、ウソなんだって。ニューヨークのエンパイア・ステート・ビルには平均で年に20回以上も落ちるし、東京スカイツリーの雷の6割くらいは、塔から空に向かってのびたんだって。
英語で読む
Can Lightning Strike Twice?
英文をタップすると、その文の訳が出ます。
People often say, "Lightning never strikes the same place twice."「雷は同じ場所に2度落ちない」と、よく言われます。 But the National Weather Service in the United States calls this a myth.でも、アメリカ国立気象局は、これを誤解だとしています。 Lightning often hits the same place again and again.雷は、同じ場所に何度も落ちることがよくあるのです。 Tall, pointed things are hit especially often.高くてとがった物には、とくによく落ちます。
The Empire State Building in New York is a good example.ニューヨークのエンパイア・ステート・ビルが、そのよい例です。 According to the weather service, it is hit about 23 times a year on average.気象局によると、このビルには平均して年に約23回、雷が落ちます。 The building's own website says 25 times.ビルの公式サイトでは、25回となっています。
Why do tall things get hit?なぜ高い物に雷が落ちるのでしょうか。 Before lightning hits, a weak path grows up from things on the ground to meet it.雷が落ちる前に、地面の物から、雷を迎えにいく弱い通り道が上へのびます。 Taller things make these paths more easily.高い物ほど、この通り道を作りやすいのです。 Also, one flash of lightning is often more than one strike.また、1回の雷は、1回の電流だけではないことがよくあります。 After the first strike, two or three more can follow the same path.最初の電流のあと、さらに2〜3回の電流が同じ道を通ることがあります。 That is why lightning seems to flicker.だから、雷はチカチカ点滅して見えるのです。
In Japan, scientists studied lightning at Tokyo Skytree, a 634-meter tower.日本では、科学者たちが高さ634メートルの東京スカイツリーで雷を調べました。 From 2012 to 2016, they saw 62 flashes there.2012年から2016年までに、そこで62回の雷が観測されました。 Only 25 came down from the sky.空から下りてきたのは、25回だけでした。 The other 37 started at the top of the tower and went up!残りの37回は、塔のてっぺんから始まって、上へのびていったのです。 So about 60 percent of the lightning there went upward.つまり、そこでの雷の約6割は上向きでした。
In 2021, scientists in Switzerland even used a strong laser near a mountain tower.2021年には、スイスの科学者たちが、山の上の塔の近くで強力なレーザーまで使いました。 The laser guided a lightning path for about 50 meters.レーザーは、雷の通り道を約50メートル導きました。 So lightning can strike the same place twice, and many more times.つまり、雷は同じ場所に2度、いや、それよりずっと多く落ちることがあるのです。
4択問題 Reading Quiz
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Q1What is this story mainly about?
この話は主に何についてのものですか。
正解:A Why a saying about lightning is wrong
第1段落で「雷は同じ場所に2度落ちない」は誤解だと述べ、第2〜5段落でその証拠を挙げているので、正解はA。Bは第4段落に出てくるが、話の一部にすぎない。
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Q2According to the weather service, how many times a year is the Empire State Building hit on average?
気象局によると、エンパイア・ステート・ビルには平均で年に何回雷が落ちますか。
正解:B About 23 times
第2段落の2文目に about 23 times a year とあるので、正解はB。62はスカイツリーの雷の数、634はスカイツリーの高さ(メートル)。
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Q3Why do tall things get hit by lightning more often?
高い物に雷がよく落ちるのはなぜですか。
正解:D They grow weak paths up to meet lightning more easily.
第3段落の2〜3文目に、地面の物から雷を迎えにいく弱い通り道がのび、高い物ほどそれを作りやすいとあるので、正解はD。A・B・Cは本文に書かれていない。
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Q4In paragraph 3, the word "flicker" is closest in meaning to
第3段落の "flicker" に最も意味が近いのはどれですか。
正解:B shine on and off quickly
第3段落で、1回の雷の中で電流が同じ道を何度も通るので雷が flicker して見える、と言っているので、「ついたり消えたりして光る」の意味。正解はB。
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Q5Which is true about the lightning at Tokyo Skytree?
東京スカイツリーの雷について、正しいものはどれですか。
正解:C More than half of it went up from the tower.
第4段落に、62回のうち37回は塔のてっぺんから上へのび、約6割が上向きだったとあるので、正解はC。Bは「下りてきたのは25回だけ」と合わず、Dのレーザーはスイスの話。
重要語 Key Words(タップで裏返る)
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myth名詞(広く信じられている)作り話、誤解
It is a myth that goldfish forget everything in three seconds.
金魚が3秒で何でも忘れるというのは誤解だ。
💡 もとは「神話」の意味。a popular myth で「よくある誤解」。
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strike動詞・名詞(雷が)落ちる、打つ / 落雷、一撃
The old tree was struck by lightning.
その古い木に雷が落ちた。
💡 過去形・過去分詞は struck。be struck by lightning で「雷に打たれる」。
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pointed形容詞先のとがった
The castle has a tall, pointed roof.
その城には、高くてとがった屋根がある。
💡 point(先端)+-ed。a pointed pencil で「とがった鉛筆」。
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flash名詞(光の)ひらめき、1回の雷
We saw a flash of light in the sky.
空に光がピカッと光るのが見えた。
💡 カメラのフラッシュと同じ語。in a flash で「一瞬で」。
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flicker動詞(光が)ちらちらする、点滅する
The candle began to flicker in the wind.
風でろうそくの火がちらちらし始めた。
💡 電灯がちかちかするときにも使う。
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path名詞通り道、小道
We walked along a narrow path in the forest.
私たちは森の細い小道を歩いた。
💡 follow the same path で「同じ道をたどる」。
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tower名詞塔、タワー
You can see the whole city from the tower.
その塔から町全体が見える。
💡 東京タワー(Tokyo Tower)の tower。
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guide動詞導く、案内する
A dog guided the lost children home.
1匹の犬が、迷子の子どもたちを家まで導いた。
💡 名詞で「案内人、ガイド」。guide A to B で「AをBへ導く」。
SOURCES出典・ウラ取り
この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 20件)。
- Lightning Myths(アメリカ国立気象局 NWS)weather.gov
- Lightning FAQ(アメリカ国立暴風雨研究所 NSSL)nssl.noaa.gov
- Understanding Lightning: Subsequent Dart Leaders and Return Strokes(アメリカ国立気象局 NWS)weather.gov
- Valine, W. C. & Krider, E. P. (2002) Statistics and characteristics of cloud-to-ground lightning with multiple ground contacts, Journal of Geophysical Researchdoi.org
- 三木貫・齋藤幹久・新藤孝敏・石井勝 (2018) 東京スカイツリーで2012〜2016年に発生した負極性上向き雷の雷電流波形の観測結果, 電気学会論文誌Bdoi.org
- Rachidi, F. & Rubinstein, M. (2022) Säntis lightning research facility: a summary of the first ten years and future outlook, e&i Elektrotechnik und Informationstechnikdoi.org
- Houard, A. et al. (2023) Laser-guided lightning, Nature Photonicsdoi.org
- 新藤孝敏・立松明芳 (2015) 東京スカイツリーにおける雷研究, 電気学会誌doi.org
公式ページで見てみよう
- Facts & Figures(エンパイア・ステート・ビル公式)esbnyc.com
文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。
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