やさしい英語で多読!【音声つき】

【やさしい英文de多読!】<35> Napoleon’s Real Enemy: The Tiny Button That Broke an Army ナポレオンの本当の敵:大軍を崩壊させた小さなボタン ~英文を楽しく&音声つきで読もう!~

原田英語マン
原田英語マン
今日のテーマは「ナポレオンの本当の敵:大軍を崩壊させた小さなボタン」です。60万の大軍でロシアに攻め込んだナポレオン。しかしその壊滅の裏には、まさかの「ボタン」が関わっていた!? 科学と歴史が交差する驚きのエピソードを読み解きます。

📖 英文(221 words)

In 1812, Napoleon led over 600,000 soldiers into Russia. It was the largest army Europe had ever seen. He wanted to defeat Russia quickly, but things did not go as planned. The Russian army kept retreating and burning villages, food, and crops behind them. Napoleon’s soldiers could not find enough to eat. Still, they marched deeper and deeper into Russia.

Napoleon reached Moscow in September, but the city was almost empty. There was no food, no supplies, and no one to fight. He waited for weeks, but Russia did not give up. Finally, he decided to go back. By then, the terrible Russian winter had arrived. Temperatures dropped to minus 30 or even minus 40 degrees.

Here is the surprising part. The soldiers’ buttons were made of tin. Tin is a metal that changes in very cold weather. It becomes soft and breaks into powder. This is called “tin pest.” As the buttons fell apart, the soldiers could not close their coats. Without warm clothes, many froze to death.

Of course, buttons were not the only problem. Disease, hunger, and Russian attacks also killed many soldiers. But the button story shows us something important: sometimes, a very small thing can cause a very big disaster. Out of 600,000 men, fewer than 100,000 came home alive. A tiny button helped bring down the greatest army in Europe.

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📝 重要語句

led:率いた
past tense of “lead,” meaning to guide or command(「導く、率いる」の過去形)
retreating:撤退する
moving back away from the enemy(敵から後方に下がること)
crops:農作物
plants grown for food(食料として育てられる植物)
supplies:物資
things needed, like food and equipment(食料や装備など必要なもの)
temperatures:気温
how hot or cold the air is(空気の暑さ・寒さの度合い)
tin:スズ
a silver-colored soft metal(銀色の柔らかい金属)
powder:粉
very small dry pieces of something(非常に細かく乾いた粒)
tin pest:スズペスト
a change in tin that makes it crumble in cold weather(寒さでスズがボロボロになる現象)
disease:病気
an illness that spreads among people(人々の間に広がる病)
disaster:大惨事
a sudden event that causes great damage or suffering(大きな被害や苦しみをもたらす出来事)

🇯🇵 日本語訳

1812年、ナポレオンは60万を超える兵士を率いてロシアへ侵攻しました。ヨーロッパ史上最大の軍勢です。短期間でロシアを打ち破るつもりでしたが、事態は思い通りには進みませんでした。ロシア軍は後退を続け、行く先々の村や食糧、農作物を焼き払っていったのです。フランス兵たちは十分な食料を確保できないまま、それでもロシアの奥地へと進軍を続けました。

9月、ナポレオンはついにモスクワに到達しますが、街はほとんどもぬけの殻でした。食糧も物資もなく、戦う相手すらいません。何週間も待ちましたが、ロシアが降伏する気配はありません。やむなく撤退を決断したとき、すでにロシアの凄まじい冬が到来していました。気温はマイナス30度、ときにはマイナス40度にまで下がったのです。

ここからが驚きの話です。兵士たちの軍服のボタンはスズで作られていました。スズは極度の寒さにさらされると性質が変化し、やわらかくなって粉のように崩れてしまう金属です。この現象は「スズペスト」と呼ばれています。ボタンが次々と崩壊し、兵士たちはコートを閉じることができなくなりました。防寒を失った多くの兵が、凍死していったのです。

もちろん、ボタンだけが原因ではありません。疫病、飢餓、そしてロシア軍の攻撃も多くの命を奪いました。しかしこのボタンの逸話は、私たちに大切なことを教えてくれます——ほんの小さなものが、途方もなく大きな災厄を引き起こすことがあるのだと。60万の兵士のうち、生きて帰還できたのは10万にも満たなかったとされています。小さなボタンが、ヨーロッパ最強の軍隊を崩壊に導いたのです。

🔬 コラム:「スズペスト」の科学と、もうひとつのスズ悲劇

ナポレオンのボタンを崩壊させた「スズペスト」とは、いったい何なのでしょうか。その秘密は、スズという金属が持つ不思議な性質にあります。

スズには「β(ベータ)スズ」と「α(アルファ)スズ」という二つの姿があります。私たちが普段目にする銀色で丈夫なスズはβスズ。ところが気温が13.2℃を下回ると、βスズは徐々にαスズへと変化し始めます。αスズは灰色でもろく、まるで砂のようにボロボロと崩れてしまいます。しかもこの変化には「伝染性」があり、崩れ始めた部分が隣のスズに触れると、そこからも崩壊が広がっていくのです。まさに金属の「疫病」——だからこそ「スズペスト(tin pest)」と呼ばれています。

ただし、この説には異論もあります。ナポレオン軍のボタンの多くは実際には木や骨で作られていた可能性があること、当時のスズには鉛などの不純物が混じっていたためペストが起きにくかったこと、そして純粋なスズでも崩壊には長い時間がかかるという実験結果もあること——こうした点から、「都市伝説に過ぎない」と見る研究者も少なくありません。

興味深いことに、スズペストが疑われるもうひとつの有名な悲劇があります。1912年、南極点一番乗りを目指したイギリスの探検家スコットの話です。スコット隊は途中に燃料を貯蔵していましたが、いざ補給地点に着くと、スズでハンダ付けされた缶から燃料が漏れてしまっていました。暖をとることも食事を温めることもできず、スコットと隊員たちは帰路で命を落としました。もっとも、こちらも「ハンダ付けの品質が悪かっただけ」という反論があり、真相は定かではありません。

真実がどうあれ、「たかがボタン、たかがハンダ」が歴史を変えたかもしれない——この物語は、科学と歴史が思いがけない場所で交差する面白さを教えてくれます。