📚 海外の英語授業実践シリーズ Vol.4
Dictogloss(ディクトグロス)で
リスニング×ライティング×文法が同時に鍛えられる!
~ 「聞いて→メモして→協力して復元する」だけで英語力が爆発的に伸びる究極のタスク ~
✅ リスニング+ライティング+文法が1活動で完結
✅ 教科書の本文がそのまま使える
✅ 準備は短い英文1つだけ
✅ 中1〜高3まで難易度調整が自在
🎧 Dictoglossとは何か?
Dictogloss(ディクトグロス)とは、教師が自然なスピードで読み上げた短い英文を、生徒がメモを頼りにペアやグループで「復元(reconstruct)」する協働学習タスクです。
従来のディクテーション(聞いてそのまま書き取る)とは根本的に違います。Dictoglossでは一語一句を書き取ることは不可能なスピードで読み、生徒は「キーワードだけメモ → 仲間と相談 → 意味が通る英文を自力で再構築する」というプロセスを踏みます。
💡 従来のディクテーションとの決定的な違い
従来のディクテーション → 「聞いたものをそのまま書く」(受動的・個人作業)
Dictogloss → 「キーワードをメモ → ペアで話し合い → 英文を再構築」(能動的・協働作業)
復元の過程で生徒は文法・語彙・文章構造について自然に話し合うため、言語への「気づき(noticing)」が飛躍的に高まります。
🌍 どこの国で実践されているの?
Dictoglossは1990年のWajnrybの著書『Grammar Dictation』をきっかけに世界中に広まり、現在では数十カ国のESL/EFL教室で研究・実践されています。
イランでの大規模研究では、Dictoglossを導入した実験群が統制群と比較してライティングの「文章構成」と「スペリング・句読法」で統計的に有意な向上を示しました。
サウジアラビアのUmm Al-Qura大学での準実験研究では、5週間のDictogloss指導後に実験群のライティングスコアが統制群を有意に上回り、さらに授業への参加度やモチベーションの向上も確認されています。
インドネシアの高校(SMA)での研究では、Dictogloss導入後のライティングスコア平均が66.9点から74.3点(サイクル1)、さらに77.6点(サイクル2)へと段階的に向上したことが報告されています。
🔧 Dictoglossの具体的な手順(完全版)
テキストのトピックに関連するキーワードや背景知識を活性化させます。いきなり聞かせるのではなく、「何について聞くか」を予測させることがポイントです。
🌟 ウォームアップの具体例(高1「健康」の単元の場合)
① トピック提示: “Today’s topic is ‘sleep.’ How many hours do you usually sleep?”
② キーワード予測: 黒板に “sleep / brain / memory / hours / teenagers” を書き、「この5語が出てくる話を聞きます」と伝える
③ ペアで予測: “What do you think the text will say? Tell your partner.”
教師が英文を自然なスピードで2回読みます。ここがDictogloss最大のポイントです。
🔄 2回の読み上げの流れ
👂
1回目:ただ聞く
ペンを置いて集中リスニング
全体の意味をつかむ
📝
2回目:メモを取る
キーワードだけ書き取る
文全体を書こうとしない
生徒には「一語一句書き取ろうとしないこと」を繰り返し伝えてください。Dictoglossの目的は正確な書き取りではなく、キーワードから英文を「再構築」することです。完全コピーを目指すと、そもそもの活動の意味が失われます。
📖 使用テキスト例(高1レベル・約60語)
“Teenagers need about eight to ten hours of sleep every night. However, most high school students sleep less than seven hours. Lack of sleep affects the brain in many ways. It becomes harder to concentrate in class and to remember what you have learned. Getting enough sleep is one of the best things you can do for your grades.”
ここがDictoglossの心臓部です。ペアまたは3〜4人のグループで、各自のメモを持ち寄り、元のテキストの意味を正確に伝える英文を協力して書き上げます。
🔄 復元プロセスの流れ(約15分)
🤝
① メモを共有
2分|互いのメモを見せ合う
💬
② 話し合う
5分|文法・語順を議論
✍️
③ 書き上げる
5分|1つのテキストに仕上げる
🔍
④ 見直す
3分|読み直して修正
| 場面 | 英語名 | 使える表現 |
|---|---|---|
| 🤝 メモ共有 | Sharing Notes | “I heard ___.” / “I wrote down ___.” / “Did you catch ___?” |
| ❓ 確認 | Checking | “Do you remember what came after ___?” / “Was it ___ or ___?” |
| 📐 文法議論 | Discussing Grammar | “I think it should be ___ because…” / “Shouldn’t it be past tense here?” |
| 💡 提案 | Suggesting | “Maybe we can write ___.” / “How about ___?” / “Let’s put ___ here.” |
| ✏️ 修正 | Correcting | “Wait, I think we should change ___ to ___.” / “That doesn’t sound right.” |
各グループの復元テキストを黒板やスクリーンに映し、原文と比較します。
📊 比較の4つの視点
🎯
意味の正確さ
“Is the meaning the same?”
📐
文法の正しさ
“Is the grammar correct?”
🔤
語彙の違い
“What words did you change?”
🗣
自然さ
“Which sounds more natural?”
重要なのは、原文と完全一致させることではないということです。「意味が正確に伝わるか」「文法的に正しいか」が評価基準。原文と違う表現を使っていても、意味が合っていればパラフレーズ力の証明として高く評価します。
🗣 発表・比較で使わせたいフレーズ
“Our version is similar to the original, but we used ___ instead of ___.”
“We missed the part about ___.”
“We weren’t sure about the grammar here, so we wrote ___.”
“The original used ___, but we think ___ also works.”
“We learned that the correct form is ___.”
🎯 なぜDictoglossが効果的なのか?(5つの理由)
① 「気づき(Noticing)」が自然に起こる
SLA(第二言語習得)研究で最も重要視されている「気づき仮説」。Dictoglossでは復元の過程で「自分が何を知っていて、何を知らないか」に否応なく直面します。この気づきこそが言語習得の出発点です。
② 意味(Meaning)と形式(Form)を同時に処理する
従来の文法指導は形式だけ、コミュニケーション活動は意味だけに偏りがち。Dictoglossは「この内容を正しく伝えるにはどの文法を使うべきか?」という形で、意味と形式を自然に統合します。SLAでいうFocus on Form(FonF)の理想的な実現です。
③ 協働による「押し上げ効果」が生まれる
Swainの「Output Hypothesis(アウトプット仮説)」では、理解可能なアウトプットを生み出す努力が言語習得を促進するとされています。ペアでの復元作業は、1人では書けなかったレベルの英文を共同で書き上げる経験を生み出します。
④ 4技能+文法が1つのタスクで練習できる
Listening(聞く)→ Writing(メモ+復元)→ Speaking(ペアで議論)→ Reading(原文と比較)→ Grammar(復元中に文法を意識)。British Councilも「multiple skills and systems activity」と位置づけています。
⑤ 話す時間が従来の授業より圧倒的に長い
復元作業中、生徒同士の会話時間は従来の教師中心型授業と比べて格段に長くなることが研究で確認されています。しかも時間制限の中で効率的に話すため、質の高いインタラクションが生まれます。
📋 日本の授業で使える!応用アイデア5選
🎧 応用① 教科書本文の内容理解に使う
教科書の各パラグラフをDictoglossのテキストとして使います。新出単語を先に導入した後、パラグラフを読み上げて復元させる。和訳で理解させるよりも、英語を英語のまま深く処理することになり、内容理解と言語習得が同時に進みます。
🎧 応用② 文法の定着に使う(Grammar Dictogloss)
ターゲット文法を含む短文を読み上げます。たとえば関係代名詞を教えた後に、関係代名詞を多く含む文章でDictoglossを実施。復元の過程で「ここは “who” だっけ “which” だっけ?」と自然に文法について議論が始まります。これこそWajnrybがDictoglossを開発した本来の目的です。
🎧 応用③ リスニングテスト対策として使う
共通テストのリスニング問題のスクリプトを使ってDictoglossを行います。自然なスピードで聞いてキーワードを拾い、全体の意味を再構築するプロセスは、リスニングテストで求められるスキルそのもの。ただ聞いて答えるだけの練習より、はるかに能動的な練習になります。
🎧 応用④ ディクトグロス+予測チャート
読み上げ前に「予測チャート」を配布し、テキストの6番目の単語を予測させる活動を追加。メタ言語的な推論(「ここは名詞?形容詞?」)を促し、リスニング前から文法意識を高めます。これは研究論文でも提案されている発展版です。
Step A:予測(Predict)
“I think the 6th word is a noun because…”
Step B:検証(Verify)
実際に聞いて予測が合っていたか確認
Step C:復元(Reconstruct)
通常のDictogloss復元プロセスへ
🎧 応用⑤ 音声素材の多様化
教師の読み上げだけでなく、TED Talks、ポッドキャスト、映画のワンシーン、ニュース音声など、多様な音声素材をDictoglossに使えます。インドネシアの研究では、ポッドキャストを使ったDictoglossがライティング力の向上に効果的であったと報告されています。生徒の興味に合った素材を使えば、モチベーションも爆上がりです。
⚠️ 失敗しないための注意点
⏱ 明日からすぐ使える!50分授業タイムテーブル
| ⏰ 時間 | 📝 内容 |
|---|---|
| 0:00〜0:03 | Today’s goal の説明(英語で) |
| 0:03〜0:08 | ウォームアップ:トピック紹介&キーワード予測 |
| 0:08〜0:10 | 1回目読み上げ(ペンを置いて聞くだけ) |
| 0:10〜0:13 | 2回目読み上げ(キーワードをメモ) |
| 0:13〜0:15 | Useful Expressions の確認 |
| 0:15〜0:30 | 🔥 復元タイム(ペア/グループで英文を再構築) |
| 0:30〜0:40 | 各グループの復元テキスト発表&原文との比較 |
| 0:40〜0:46 | 教師のフィードバック&重要文法・語彙の整理 |
| 0:46〜0:50 | Reflection(振り返り:今日気づいた文法・語彙をメモ) |
📊 研究で実証されている効果
Dictoglossの教育効果は、世界各地の研究で繰り返し裏付けられています。
イランでの研究(テヘラン工科大学)では、60名のEFL学習者を対象にプリテスト・ポストテストを実施。Dictogloss群は統制群と比較してライティングの「文章構成」「スペリング・句読法」で統計的に有意な向上を示しました。特に文の組み立て方や段落構成に大きな改善が見られました。
サウジアラビアのUmm Al-Qura大学で行われた準実験研究では、5週間のDictogloss指導を受けた実験群がライティングスコア・授業へのエンゲージメント・言語アウトプットの量のすべてにおいて統制群を有意に上回りました。
インドネシアのMA Sunan Giri Gondangでのアクションリサーチでは、予備調査時の平均66.9点が、Dictogloss導入後のサイクル1で74.3点、サイクル2で77.6点へと約10ポイント以上の向上を記録。また、SMA PGRI 56 Ciputatでの研究では、実験群のポストテストのt値が3.47となり、統制群との間に有意差が確認されました。
ヨルダンでの研究では、96名の高校生を対象にDictoglossを実施。ライティング力とリスニング力の両方が向上したことが報告されています。
✨ まとめ
Dictoglossの魅力は、「聞いて → メモして → 協力して復元する」というシンプルなプロセスの中に、リスニング・ライティング・スピーキング・文法・語彙——英語学習に必要なほぼすべての要素が凝縮されていることです。
しかも必要なのは短い英文1つとペアワークだけ。教科書の本文をそのまま使えるので、追加の教材準備もほとんど不要です。
日本の英語教育で長年課題とされてきた「文法は知っているけど使えない」「リスニングは聞くだけで終わる」「ライティングの指導が難しい」——これらの問題を、Dictoglossは1つのタスクで同時に解決してくれます。
明日の授業で、教科書の1パラグラフをDictoglossにしてみてください。
生徒が英語で文法を議論し始める姿に、きっと驚くはずです。🎧
• Wajnryb, R. (1990). Grammar Dictation. Oxford: Oxford University Press.
• Abbasian, G. R., & Mohammadi, M. (2013). “The Effectiveness of Dictogloss in Developing General Writing Skill of Iranian Intermediate EFL Learners.” Journal of Language Teaching and Research, 4(6), 1371-1380.
• Alsamadani, H. A. (2022). “Dictogloss in Saudi EFL Context: Potential Effects on Students’ Writing Skill and Attitudes towards Learning English.” Arab World English Journal, 13.
• Huda, M. C., & Rahadianto, P. (2019). “Using Dictogloss Technique to Improve Students’ Writing Skill.” English Community Journal, 3(1).
• Vasiljevic, Z. (2010). “Dictogloss as an Interactive Method of Teaching Listening Comprehension to L2 Learners.” English Language Teaching, 3(1), 41-52.
• British Council. “Dictogloss.” TeachingEnglish.
• Bani Younis, R., & Bataineh, R. (2016). “To Dictogloss or Not to Dictogloss: Potential Effects on Jordanian EFL Learners’ Written Performance.”
