英語の発音YouTube 4選|習った発音を、いちど疑う
辞書に載っている発音記号は、1960年代に決められたものです。英語の音そのものを扱う4チャンネルを、いまのイギリス英語・アメリカの地域ごとの訛り・660年前のロンドンの英語・イギリス英語とアメリカ英語の違い、の順に紹介します。
辞書の発音記号を、疑ってみたことはありますか。
see は /siː/、too は /tuː/。中学で習って、辞書にもそう書いてある。だから正しい。ところが、その前提がいま怪しくなっています。
今日は「英語の教え方」を説明するチャンネルを1本も出しません。代わりに、英語の音そのものを面白がっている人たちを4本。順番はこうです。
1. いまのイギリス英語は、辞書の発音記号とどこがずれているのか
2. アメリカ英語は、州が変わると音がどう変わるのか
3. 660年前のロンドンの英語は、どんな音だったのか
4. イギリス英語とアメリカ英語は、どこで分かれたのか
発音を直すための特集ではありません。英語の聞こえ方そのものが変わる特集です。
No. 1
Dr Geoff Lindsey
発音記号どおりに練習してきた人へ(中級〜)
イギリスの音声学者、ジェフ・リンジー博士のチャンネルです。音声学というのは、人が実際にどんな音を出しているかを調べる学問のこと。ロンドン大学UCLで学び、アメリカのUCLAで博士号を取り、UCL・エディンバラ大学・ケンブリッジ大学で教えてきた人です。
この人が言っていることは、ひとつだけです。
「いま辞書に載っている発音記号は、1960年代に決められたものだ。そのとおりに読んでも、いまのイギリス人の英語には聞こえない。」
たとえば too の発音記号は /tuː/。「トゥー」と口をすぼめて言いなさい、と書いてあります。ところがいまのイギリス人は、too を言うときに口をすぼめません。「トゥー」と「ティウ」の中間のような音になります。
60年のあいだに、音のほうが動いてしまった。それなのに記号だけが昔のまま残っている、というわけです。
2019年に English After RP という本を出しています。RP は Received Pronunciation の略で、BBCのアナウンサーが話すような「お手本のイギリス英語」のこと。題名は「RPのあとに来た英語」という意味です。その本の中身を、動画でも同じように説明しています。
いいのは、話の途中で本物の英語の音を何度も聞かせてくれるところです。記号の話なのに、耳で分かります。
発音を直したい人向けではありません。自分が中学で習ったあの記号は何だったのかを知りたい人向けです。
まずこの1本
使い方:まず1本を、字幕なしで最後まで見てください。全部は分からなくて大丈夫です。 そのあとで、自分がいつも使っている辞書を開いて、動画に出てきた単語の発音記号を見てください。「あ、たしかにここが違う」と自分で見つけられたら成功です。見比べるところまでやらないと、ただ見ただけで終わります。
No. 2
WIRED(Accent Expert シリーズ)
アメリカ英語をひとまとめに考えてきた人へ(中級〜)
アメリカの雑誌 WIRED(ワイアード)の公式チャンネルです。見てほしいのは、その中の1つのシリーズだけ。Accent Expert(アクセント・エキスパート)といいます。
出てくるのは Erik Singer という人。俳優に訛りを教える仕事をしています。映画で、ニューヨーク出身の俳優が南部の人の役をやるとき、その話し方を指導する人です。
その人が言語学者たちと組んで、アメリカの地図を北から南へ順にたどっていきます。ボストン、ニューヨーク、南部、中西部。同じアメリカ英語なのに、州が変わるたびに母音の音が変わるのが、聞いていてはっきり分かります。
いいのは、訛りを笑い物にしないところです。「なぜその地域だけこの音なのか」を、どこの国から来た移民がその土地に住み着いたのかという歴史と一緒に説明していきます。
海外ドラマで、急に聞き取れなくなった場面を思い出してください。速かったからではなく、知らない地域の訛りだっただけかもしれません。
まずこの1本
使い方:1回目は、画面に出てくる地図だけを見てください。どの地名でどんな音がするのか、それだけ追います。 2回目にやっと、話している内容を聞く。この順番でやると、自分がいつも聞いている英語がアメリカのどのあたりの音なのか、途中で必ず気づきます。
No. 3
Simon Roper
英語がどこから来たのか気になる人へ(音を聞くだけなので、内容が分からなくても楽しめます)
イギリスの若者が、たった1人で撮っているチャンネルです。大学の研究者ではありません。趣味で英語の歴史を調べている人です。それなのに、やっていることがすごい。
いちばん有名なのは、ロンドンの英語を1346年から2006年まで、60年おきに演じ分けた1本です。同じ家系の男が12世代ぶん出てきて、それぞれの時代の発音で、同じような話をします。1本の動画の中で、660年ぶんの音の変化が耳に流れ込んできます。
最初の数世代は、英語だと言われても英語に聞こえません。まったくの外国語です。それが世代を追うごとに少しずつ、聞き覚えのある音に近づいてきます。
自分が習った英語は、この長い坂のいちばん端っこにある。それが理屈ではなく、音で分かります。
古英語(1000年ほど前の英語)をそのまま話す動画もあります。焚き火の前で、普通の顔で。
まずこの1本
使い方:最初から順に、飛ばさずに聞いてください。 この1本だけは、内容を分かろうとしないのがコツです。聞きながら「どの世代で英語に聞こえ始めたか」、その1点だけ覚えておけば十分です。
No. 4
Lost in the Pond
イギリス英語とアメリカ英語のどちらを覚えるか迷っている人へ(初中級から)
イギリス北東部グリムズビー出身の Laurence Brown が、引っ越し先のシカゴから撮っているチャンネルです。2008年にアメリカへ渡り、いまはアメリカ国籍も持っています。
チャンネル名の the Pond(池)は、大西洋のことです。イギリス人とアメリカ人は、あの広い海を冗談まじりに「ちょっとした池」と呼びます。Lost in the Pond で「その池で迷子になっている」。イギリス育ちの自分がアメリカに来て戸惑ったことを、1本ずつ集めていくチャンネルです。
1本10分ほど。話し方がゆっくりで、イギリス英語とアメリカ英語が1本の中で交互に出てきます。片方だけ聞いていると気づかない差が、並べて聞かされると急に見えてきます。
そして時々、思い込みがひっくり返る回があります。アメリカ英語だと思っていた言い方が、実はイギリスで先に使われていた、という話です。イギリス側が先に使わなくなって、アメリカにだけ残った。つまり「アメリカ英語=新しくて崩れた英語」は、いつも正しいわけではないのです。
まずこの1本
使い方:1本見たら、その回に出てきた言い方を2つだけメモしてください。 そして、イギリス式とアメリカ式のどちらを自分は使うのか、その場で決めてください。たとえば「秋」を autumn(イギリス)で行くのか、fall(アメリカ)で行くのか。 どちらかに決めて混ぜないようにすると、自分の書く英語が急に読みやすくなります。
毎回書いていることを、今日も書いておきます。見るチャンネルを増やしても、英語は伸びません。「どれを見ようかな」と探している時間は、英語をまったく聞いていない時間だからです。1本に決めて、それを見続けてください。
今日の4本は、あなたの発音を直してはくれません。その代わり、自分がいま話している英語が、どこの国の、いつの時代の英語なのかが分かります。
自分の英語の居場所が分かれば、そのままでいくのか、直すのかは自分で決められます。今日やることは、「習ったとおりで本当に合っているのかな」と一度疑ってみるところまで。直すのは、そのあとで大丈夫です。
よくある質問
辞書の発音記号は、覚えても意味がないのですか?
意味はあります。発音記号は、音の違いを目で見比べるための道具として、いまも役に立ちます。ただし、記号どおりに読めば今の英語の音になる、とは限りません。記号を覚えたうえで、実際の音を耳で確かめる。この二段構えが必要だ、というのがリンジー博士の主張です。
アメリカ英語とイギリス英語、どちらを勉強すべきですか?
自分が話すほうはどちらか一方に決めて、聞くほうは両方入れてください。話し方を混ぜると相手が戸惑いますが、聞き取りは触れた分だけ楽になります。今日の4本は、その「聞くほうを広げる」ための教材です。