経験する自分と記憶する自分の意味とは?Daniel KahnemanのTED英語
旅行と大腸内視鏡検査という2つの例から、「経験する自分」と「記憶する自分」がまったく違う基準で幸せを判断していることを解き明かす1本。ノーベル賞経済学者が、専門用語をやさしい英語で1つずつ定義していく構成を、リスニングの視点で解剖します。
The riddle of experience vs. memory
経験と記憶の、奇妙な食い違い/Daniel Kahneman(心理学者・ノーベル経済学賞受賞者)・2010年・約20分 字幕つきで見る ↗
なぜ、これほど届いたのか
このトークが効いているのは、専門用語を出したらすぐ、やさしい英語の1文で言い直しているところです。
"experiencing self"(経験する自分)と "remembering self"(記憶する自分)という2つの語も、いきなり定義から入りません。すばらしい演奏の録音が、最後の数秒の不快な音で台無しになったという話を先に置き、そのあとで「これは2つの自分がいると考えると説明がつく」と切り出します。難しい心理学の概念ほど、専門語より先に具体例を出すという組み立てが効いています。
中盤の大腸内視鏡検査(colonoscopy)の実験も同じ型です。AさんとBさんという2人の患者を対比させ、痛みの記録を見せ、どちらの記憶が悪かったかを先に問いかけてから答えを明かします。数字やデータをそのまま並べるのではなく、人物を主語にした物語として説明することで、聞き手が最後まで飽きずに聞ける構成になっています。
名台詞
The remembering self is the one that keeps score, and maintains the story of our life.
We actually don't choose between experiences, we choose between memories of experiences.
Patient A had a much worse memory of the colonoscopy than Patient B.
和訳 記憶する自分は、点数をつけて、私たちの人生の物語を保ち続ける存在です。私たちは実は、経験そのものを選んでいるのではなく、経験の記憶を選んでいるのです。患者Aは、患者Bよりもずっと悪い記憶を大腸内視鏡検査について持っていました。
ここが聞き取れない
- colonoscopy(大腸内視鏡検査)という専門語がくり返し出てくる
- この講演のいちばんの山場で、何度もくり返し使われるキーワードです。「コロ・ノス・コピー」のように区切って、最初の1回で発音を掴んでおくと、そのあとの説明が聞き取りやすくなります。
- 話す速さが、TEDの中でもかなりゆっくりです
- カーネマンは終始落ち着いた速さで、一文ずつ区切るように話します。TEDトークの中では聞き取りやすい部類なので、心理学の内容が難しくても、リスニングの練習としては初心者にも向いています。
この1本の使い方
- 前半の「録音が台無しになった男性」の話を字幕なしで聞き、「経験する自分」と「記憶する自分」がどう違うと説明しているか、自分の言葉で日本語にメモしてみる。
- 大腸内視鏡検査の実験について、患者Aと患者Bのどちらが『悪い記憶』を持ったか、そして理由は何だったかを聞き取って書き出す。
- 結論の一文 "We actually don't choose between experiences, we choose between memories of experiences." を、意味を確認しながら3回音読する。
次に旅行や部活の合宿を選ぶとき、自分が本当に選んでいるのは『その場の経験』なのか、それとも『あとに残る記憶』なのか、一度立ち止まって考えてみてください。このトークが教えてくれるのは、その2つが、思っているよりずっと別物だということです。
よくある質問
experiencing self と remembering self とはどういう意味ですか?
experiencing self(経験する自分)は、いま現在を生きて経験している自分のことです。remembering self(記憶する自分)は、その経験を振り返り、点数をつけて人生の物語として保ち続ける自分のことです。Daniel Kahnemanは、この2つがまったく違う基準で幸せを判断していると説明しています。
このトークは、どんな人に向いていますか?
旅行や思い出の記憶が、実際の体験とどう違うのかに興味がある人に向いています。約20分とやや長めですが、話す速さがゆっくりで、TEDトークの中では聞き取りやすい部類です。