甘い。あの10個は序章に過ぎませんでした。
今回のPart.2では、英語のスペリングの狂気、歴史の闇、そして「なぜこうなった」と叫びたくなる仕組みの裏側に、さらに深く切り込みます。
──あなたの英語観を二度壊す、10個のトリビアをどうぞ。
- 「GHOTI」と書いて「FISH」と読む──英語スペリングの狂気
- 英語の語彙のたった26%しか「純粋な英語」ではない
- 「-ough」── 同じ4文字で9通りの発音ができる地獄
- 「knight」のKが消えた理由──大母音推移という大事件
- 牛は「cow」、牛肉は「beef」──同じ動物に2つの名前がある階級社会
- 英語の「they / them / their」は実はヴァイキング語
- 「I before E, except after C」──ルールより例外の方が多い最悪の法則
- 「dust」── 真逆の意味を同時に持つ狂った動詞たち
- Un-freaking-believable!──英語には単語の「中」に割り込む文法がある
- アメリカには「公用語」が存在しない
1「GHOTI」と書いて「FISH」と読む──英語スペリングの狂気
英語のスペリングがいかに狂っているかを示す、最も有名な例がこれです。
GHOTI
↓ これが「FISH」と読める ↓
どういうことか?英語の既存の発音ルールを組み合わせると、こうなります:
GH + O + TI = F + I + SH = FISH 🐟
この有名な例は劇作家ジョージ・バーナード・ショーに帰属されることが多いですが、実際の初出は1855年のチャールズ・オリアーの手紙にまで遡ります。ショーは英語のスペリング改革の熱心な支持者で、遺産の多くを新しい英語音声アルファベットの開発に充てたほど。
もちろん、実際の英語の音韻ルールでは「gh」が「f」の音になるのは特定の位置(ou/auの後、単語末)だけであり、「ghoti」は理論上の遊びです。しかし、こんな遊びが成立してしまうこと自体が、英語のスペリングの異常さを証明しています。
2英語の語彙のたった26%しか「純粋な英語」ではない
英語は「英語」という名前のくせに、その中身のほとんどが他の言語からの借用語です。
辞書に載っている英単語の語源を分析すると、こうなります:
つまり辞書の約80%は、英語が他の言語から「借りてきた」単語で構成されています。作家ジェームズ・ニコルはこう皮肉りました。
しかし面白いのは、最も頻繁に使われる100語のほぼすべてが「純粋な英語」(古英語由来)だということ。the, be, to, of, and, a, in, that, have, I──日常会話の骨格はゲルマン語がしっかり支えているのです。
3「-ough」── 同じ4文字で9通りの発音ができる地獄
英語学習者を最も絶望させる綴りの一つが -ough。たった4文字の組み合わせなのに、少なくとも9通りの異なる発音が存在します。
これらを全部使った一文が実際に作れます:“Though I coughed roughly and hiccoughed throughout the lecture, I thought I could plough through it thoroughly.”──同じ -ough が全部違う音。英語学習者の悲鳴が聞こえてきます。
4「knight」のKが消えた理由──大母音推移という大事件
“Knight”(騎士)のKはなぜ発音しないのに残っているのか?
答えは「昔は発音していたから」。それだけです。
古英語では “knight” は “cniht” と綴られ、Kの音もGHの喉を擦るような音も、すべて発音されていたのです。ドイツ語の “Knecht”(クネヒト)を想像すると近い音です。
では、なぜ発音が変わったのにスペリングが変わらなかったのか? その犯人は2つあります。
つまり英語のスペリングは、500年前の発音の「化石」なのです。
イタリア語、スペイン語、ドイツ語などは比較的最近スペリング改革を行い、発音と綴りを再整合させました。しかし英語圏には綴りを管理する「アカデミー」が一度も存在したことがなく、改革は実現しないまま今に至っています。
5牛は「cow」、牛肉は「beef」──同じ動物に2つの名前がある階級社会
英語を学んでいて不思議に思ったことはないでしょうか。生きている動物と、食卓に並ぶ肉でまったく別の単語が使われること。
この二重語彙の背景は、1066年のノルマン征服にあります。フランス語を話す支配階級(ノルマン人)は食卓で肉を食べる側。英語を話す庶民(アングロサクソン人)は家畜を育てて屠殺する側。同じ動物に対して、育てる人と食べる人で別々の言語を使っていたのです。
この階級差は食べ物以外にも広く残っています。フランス語由来の単語は「高級・フォーマル」に聞こえ、ゲルマン語由来の単語は「日常的・カジュアル」に感じられる傾向があります。例えば:ask(ゲルマン)vs inquire(フランス)、help vs assist、freedom vs liberty。1000年前の征服の記憶が、今も英語の「格」を決めているのです。
6英語の「they / them / their」は実はヴァイキング語
英語で毎日使う “they”(彼ら)、”them”(彼らを)、”their”(彼らの)。
これらは実は英語のオリジナルではありません。8〜11世紀にイギリスを侵略・定住したヴァイキングが持ち込んだ古ノルド語(Old Norse)由来の単語です。
🪓 ヴァイキングが英語に残した意外な日常語
代名詞のような言語の超コア部分が他言語に置き換わるのは、言語学的に見て極めて異例です。通常、代名詞は言語のアイデンティティの最も深い部分であり、めったに借用されません。英語が古ノルド語の代名詞を丸ごと受け入れたのは、両言語が同じゲルマン語族で十分に似ていたこと、そしてヴァイキングとの接触が数世紀にわたって非常に深かったことを物語っています。
7「I before E, except after C」──ルールより例外の方が多い最悪の法則
英語圏の子どもが最初に習うスペリングルールの一つがこれ:
“I before E, except after C”
「IはEの前。ただしCの後は除く」
つまり “believe”、”field”、”achieve” のように IE の順で書き、”receive”、”ceiling” のように C の後は EI にする、というルール。
問題は、このルールに従わない単語の方がはるかに多いこと。
言語学者たちの間では、「英語の最も誤解を招くガイドラインの一つ」として悪名高いルールです。ある研究では、このルールに該当する単語より例外の方が多いことが確認されています。学校で教えるべきかどうかすら議論の対象になっているほどです。
8「dust」── 真逆の意味を同時に持つ狂った動詞たち
英語には “auto-antonym”(自己対義語) または “contronym” と呼ばれる、一つの単語が正反対の二つの意味を持つという現象があります。
文脈がなければ、”The committee sanctioned the project” が「承認した」のか「制裁を加えた」のかわかりません。英語学習者泣かせの極みです。
9Un-freaking-believable!──英語には単語の「中」に割り込む文法がある
接頭辞(prefix)は単語の前に、接尾辞(suffix)は後ろにつく。これは皆さん知っている通り。
しかし英語には “infix”(接中辞) という、単語の内部に別の語を挿入する文法が存在します。しかもそこに入るのは、たいてい強調のための悪態(expletive)です。
しかもここにも無意識のルールが存在します:挿入語は必ず最も強勢のある音節の直前に入る。
だから “un-freaking-LIEVable” であって、”unbe-freaking-lievable” ではないのです。
さらに、否定接頭辞(un-)がある場合は、挿入位置がさらにずれます:”un-FREAKING-believable” になる。ネイティブスピーカーは、このルールを一度も教わることなく完璧に運用しています。
英語の接中辞は、Part.1で紹介した形容詞の序列や母音法則と同じく、「教わったことはないのに全員が完璧に従う無意識のルール」の一つです。英語ネイティブの脳は、自分でも気づかない複雑なプログラムで動いています。
10アメリカには「公用語」が存在しない
最後のトリビアは、多くの人が「そんなはずはない」と言うやつです。
アメリカ合衆国には、連邦レベルの公用語が存在しません。
世界で最も英語が話されている国であり、約3億3,000万人が英語を第一言語としているにもかかわらず、合衆国憲法にも連邦法にも「英語が公用語である」という規定はありません。
一部の州が独自に英語を公用語と制定
約350以上の言語が話されている
+ 27の非主権地域
(香港、プエルトリコなど)
建国の父たちが公用語を定めなかった理由は、多言語国家としてのアメリカの理念にありました。当時のアメリカにはオランダ語、フランス語、ドイツ語など多くの言語コミュニティが存在し、特定の言語を優遇することを避けたのです。
ちなみにイギリスも同じ。英語が事実上の公用語(de facto official language)ですが、法律で明文化されているわけではありません。英語の母国なのに、「英語が公用語」と法律に書いていないという、なんとも英語らしいパラドックスです。
Part.2のおまけミニトリビア
まとめ──英語は「歴史の地層」でできている
英語のカオスには理由がある。
ヴァイキング、ノルマン人、印刷工、学者たちが
1,500年かけて積み上げた「矛盾の地層」、それが英語です。
英語とは、ルールを作っては壊し、
矛盾を抱えたまま走り続ける言語。
だからこそ、学ぶほどに面白い。
