英語の「tsunami」は、日本語から入った言葉
言葉と語源No.107

英語の「tsunami」は、日本語から入った言葉

早くから使った本の一つは、1897年の物語。

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もくじ
  1. 作家ハーンは、英語の本で「日本人はこれを tsunami と呼ぶ」と書いた
  2. ハーンの物語では、老人は津波が来る前に稲の束に火をつけた
  3. 物語のモデルの濱口梧陵は、最初の津波が引いた後に、稲の束に火をつけた
  4. ハーンの物語と本当の出来事は、火をつけた時や年齢など5つの点で違う
  5. 深掘り講義
  6. まとめ
  7. 英語で読む(A2・4択5問)
  8. 出典・ウラ取り

「tsunami」は、世界中で通じる日本語の一つです。アメリカの津波警報センターも、国連も、この言葉を使います。

でも、英語にはもともと別の呼び名がありました。tidal wave(タイダル・ウェーブ)です。tidal は「潮の」という意味。そのまま訳すと「潮の波」です。

ところが、津波は潮の満ち引きとは関係がありません。だから今、アメリカの海洋大気庁(NOAA)は、津波を tidal wave と呼ぶのは間違いだとしています。

英語の本で、早くから tsunami という言葉を使ったものの一つが、1897年に出た一冊の本です。書いたのは、日本に住んでいた作家ラフカディオ・ハーン(Lafcadio Hearn)。日本では小泉八雲の名で知られる人です。その本には、村人を救うために稲に火をつける津波の物語があります。ところが、火をつけた順番などの大事な所が、本当にあった出来事と逆になっていました。

この記事では、まずハーンが tsunami をどう紹介したかを見ます。次に、ハーンの物語と、物語のモデルになった濱口梧陵という人の、本当の出来事を比べます。最後に、「津波」という言葉の意味と、英語が tsunami を使うようになった理由を説明します。

01作家ハーンは、英語の本で「日本人はこれを tsunami と呼ぶ」と書いた

1897年、ハーンはアメリカの出版社から、日本のことを書いた本を出しました。題は『Gleanings in Buddha-Fields(仏の畑の落ち穂)』。その最初の章が「A Living God(生き神様)」です。

ハーンは、まずこう説明します。日本の海岸は、何百年かおきに、地震などで起きる大きな tidal waves に襲われてきた。この、海が突然盛り上がるものを、日本人は tsunami と呼ぶ。

つまり、ハーン自身も、英語の読者には tidal wave という言葉で説明していました。tsunami は、日本の言葉として紹介されたのです。お話の一番の山場では、村の人たちが「Tsunami!」と叫びます。

ハーンは、本を出す前の年の津波にもふれています。1896年6月17日の夕方、東北の三陸の海岸を大波がおそい、3万人近くが亡くなった、と。

でも、ハーンが書いた日付と亡くなった人の数は、今の記録とずれています。ブリタニカの百科事典では、この明治三陸地震津波を起こした地震は、1896年6月15日の夜7時半ごろです。亡くなった人は、およそ2万2000人です。ハーンの文は、出来事から1年ほどで書かれたものでした。

02ハーンの物語では、老人は津波が来る前に稲の束に火をつけた

ハーンのお話の主人公は、「浜口五兵衛」という、年をとった村のまとめ役です。あらすじは、こうです。

秋の夕方、村は豊作のお祭りの用意でにぎわっていました。丘の上の家にいた五兵衛は、小さくて長い揺れを感じます。ふと海を見ると、水が沖へ沖へと引いていきます。村の人たちは、珍しがって浜に集まっていました。

海の水が引くのは津波の前ぶれだと、五兵衛は知っていました。10歳の孫にたいまつをつけさせると、刈り取って積んであった自分の稲の束に、次々と火をつけたのです。

孫は、おじいさんがおかしくなったと思って泣きだしました。けれど、山の寺の鐘も鳴り、火事を消そうと、村の人たちが丘へ駆け上がってきます。みんなが丘に集まったところへ、大きな津波が来て、村をのみこみました。400人の命が、稲を焼いた火で助かったのです。

村の人たちは五兵衛を「浜口大明神」と呼び、神社を建てて、生きているうちから神様としてまつった。ハーンはそう書いています。

ハーンのお話では、おじいさんは津波が来る前に稲に火をつけ、村の人を丘へ呼んだ(イメージ)
ハーンのお話では、おじいさんは津波が来る前に稲に火をつけ、村の人を丘へ呼んだ(イメージ)

03物語のモデルの濱口梧陵は、最初の津波が引いた後に、稲の束に火をつけた

このお話には、モデルがいます。今の和歌山県広川町にあった広村の、濱口梧陵(はまぐち・ごりょう)です。千葉県の銚子で、しょうゆ造りをしている家の主人でした。広川町の「稲むらの火の館」が、本当の出来事を詳しく伝えています。

1854年(安政元年)、広村は2日続けて地震に襲われました。1日目の地震では、大きな被害はありませんでした。次の日の夕方4時、前の日とは比べものにならない大きな地震が起きます。のちに安政南海地震と呼ばれる地震です。

津波がおし寄せました。梧陵は、波にのまれながらも「逃げろ、丘に上がれ」と叫び、村の人たちに神社へ逃げるよう呼びかけました。

稲むら(積み上げた稲の束)に火をつけたのは、その後です。津波が引いたあと、あたりは真っ暗でした。どこへ逃げればいいか分からず、さまよっている人がいるに違いない。そう考えた梧陵は、稲むらに火をつけてまわりました。火を目印に、逃げ遅れた人たちが丘へ登ってきます。そのすぐ後、さらに大きな津波が来て、火も波に消されました。

04ハーンの物語と本当の出来事は、火をつけた時や年齢など5つの点で違う

ハーンのお話と、広川町が伝える出来事をならべてみます。

  • 火をつけた時:お話では津波の前。本当は、最初の津波の後。
  • 火の役目:お話では、村の人を呼ぶ合図。本当は、暗やみで逃げ道を教える目印。
  • 年齢:お話では、おじいさん。本当は数え年で35歳。
  • 季節:お話では秋の夕方。本当は12月の地震。
  • 神社:お話では、村の人が建てて拝んだ。本当は1855年、梧陵が「濱口大明神」を建てる計画をやめさせた。

梧陵が村のためにした一番大きな仕事は、津波の後にありました。村を出ていこうとする人たちを引きとめるため、村の人を雇ってお金を払い、堤防を築いたのです。4年がかりでできた広村堤防は、長さ600m、高さ5m。92年後の1946年、昭和南海地震で4mの津波が来たとき、堤防に守られたところは無事でした。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

「津波」は「港の波」という意味で、昔は高潮も津波と呼んだ

「津」は港のことです。『日本大百科全書』は、名前の由来をこう説明します。沖の船は気づかないのに、港や湾に入ると急に大きくなる。だから「港の波」と呼ばれるようになった。

津波の速さは、海の深さで決まります。深さ4000mの海では、秒速約200m。沖では高さが小さく、速く走ります。浅い港に近づくと遅くなり、その分高く盛り上がります。「港の波」という名前は、港に近づくと高くなるという津波の性質を、よく表していました。

『日本国語大辞典』が挙げる「津波」の古い例は、17世紀はじめの『甲陽軍鑑』の「津なみ」です。ただし昔の日本語では、台風などで起きる高潮も「津波」と呼びました。「暴風津波」「風津波」という言い方があり、地震によるものはわざわざ「地震津波」と呼び分けていました。今の「津波=地震などで海底が動いて起きる波」という意味は、科学の言葉として整理されてきたものです。

英語のもとの呼び名 tidal wave は「潮の波」という意味でずれていたので、日本語の tsunami を借りた

英語の tidal は、太陽と月の引力が起こす「潮」の満ち引きを表す言葉です。だから tidal wave は、地震で起きる波を呼ぶには、ずれた言葉でした。

英語には seismic sea wave(地震による海の波)という言い方もありました。でも、NOAA の説明によると、これも足りません。津波は地震だけでなく、地すべりや火山の噴火などでも起きるからです。そこで、原因を問わず「海が大きく急に動いて起きる波」を指す言葉として、tsunami が国際的に使われるようになりました。

外国語から言葉を借りる理由の一つは、自分の言葉にぴったりの言い方がないことです。日本は津波の被害を何度も受け、研究と記録を重ねてきました。その経験とともに、tsunami という言葉が世界に広まったと言えます。

稲に火をつけた話は、小説・教科書・地元の記録で違う形で伝わった

ハーンの物語は、事実をもとにした「お話」です。火をつける場面を津波の前に移すと、老人のとっさの判断が際立ち、物語としては分かりやすくなります。「稲むらの火」は、のちに日本の国語の教科書にも載りました。

広川町の稲むらの火の館は、教科書の話やハーンの小説では伝えられなかった「本当の稲むらの火」として、実際の出来事を紹介しています。一つの出来事が、英語の文学作品、日本の教科書、地元の記録と、三つの形で伝わっているのです。どれを読んだかで、思い浮かべる場面が違ってきます。ただ、どの形でも変わらない点もあります。火を使って、人を高い所へ導いたこと。そして、その人が村の人たちから深く感謝されたことです。

英語の辞書は tsunami の最初の記録を1905〜10年とするが、ハーンの本は1897年に出ている

英語の辞書 Dictionary.com は、tsunami が英語で使われ始めた時期を1905〜10年としています。でもハーンの本は1897年です。辞書の「最初の記録」は、その辞書の編集者が見つけた範囲での最古の例にすぎません。古い本が見つかれば、年は早まります。この記事でも、ハーンを「最初の人」とは書いていません。少なくとも1897年には英語の本に出ていた、というところまでが確かめられることです。

05まとめ

英語では、津波はもともと tidal wave(潮の波)と呼ばれていました。1897年、ハーンは英語の本で「日本人はこれを tsunami と呼ぶ」と紹介し、濱口梧陵をモデルにした物語を書きました。でも本当の梧陵は、老人ではなく数え年で35歳。稲むらに火をつけたのは津波の前ではなく、最初の津波が引いたあとでした。そして梧陵の一番大きな功績は、その後に4年かけて築いた広村堤防です。この堤防は、92年後の1946年の津波から村を守りました。

人に話すなら、こう言おう

英語で「tsunami」が広まる前は「tidal wave(潮の波)」って呼んでたんだって。英語の本で紹介された津波のお話は、モデルになった本当の出来事と、稲に火をつけた順番が逆らしいよ。
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英語で読む

How Tsunami Became an English Word

CEFR A2227 words4択 5問全訳つき
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英文をタップすると、その文の訳が出ます。

Today, people all over the world use the Japanese word tsunami.今では、世界中の人が tsunami という日本語を使っています。 But English speakers once called it a tidal wave.でも、英語を話す人たちは、かつてそれを tidal wave と呼んでいました。 This name is wrong, because a tsunami has nothing to do with tides.この名前はまちがいです。津波は潮の満ち引きとは何の関係もないからです。

In 1897, the writer Lafcadio Hearn, who lived in Japan, wrote a book in English.1897年、日本に住んでいた作家ラフカディオ・ハーンが、英語で本を書きました。 He explained that the Japanese called these big waves tsunami.彼は、日本人はこうした大波を tsunami と呼ぶのだと説明しました。 In his story, an old farmer felt a slow earthquake and saw the sea moving away.彼のお話では、年をとった農家の男の人がゆっくりした地震を感じ、海が引いていくのを見ました。 To save the village, he set fire to his own rice before the wave came.村を救うため、彼は波が来る前に、自分の稲に火をつけました。 The villagers ran up the hill to help, and their lives were saved.村の人たちは手伝おうと丘にかけ上がり、その命が救われました。

The story was based on a real man, Hamaguchi Goryo.このお話は、濱口梧陵という実在の人物をもとにしていました。 But the real story was different.でも、本当の話はちがっていました。 In 1854, Goryo was in his mid-thirties, not an old man.1854年、梧陵は30代なかばで、おじいさんではありませんでした。 He lit the rice after the first wave, not before it.彼が稲に火をつけたのは、最初の波の前ではなく、後でした。 It was dark, and the fire showed lost people the way to a safe place.あたりは暗く、その火は、迷っている人たちに安全な場所への道を示しました。

After the disaster, Goryo paid villagers to build a wall by the sea.災害の後、梧陵は村の人たちにお金を払って、海辺に堤防を築かせました。 It was 600 meters long and took 4 years to finish.それは長さ600メートルで、完成までに4年かかりました。 In 1946, another tsunami came, but the wall protected the village.1946年に別の津波が来ましたが、堤防が村を守りました。

Now, November 5 is World Tsunami Awareness Day.今、11月5日は「世界津波の日」です。 The date comes from Goryo's story in 1854, in the old Japanese calendar.この日付は、旧暦で数えた1854年の梧陵の出来事から来ています。 The word tsu means harbor, and nami means wave.tsu という言葉は「港」、nami は「波」という意味です。 So a tsunami is a harbor wave.つまり tsunami とは「港の波」なのです。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2How old was Hamaguchi Goryo in 1854?

    1854年に濱口梧陵は何歳でしたか。

  3. Q3Why did the real Goryo set fire to the rice?

    本当の梧陵が稲に火をつけたのはなぜですか。

  4. Q4In paragraph 4, the word "protected" is closest in meaning to

    第4段落の protected という語に最も意味が近いのはどれですか。

  5. Q5Which is true about the name tidal wave?

    tidal wave という名前について正しいのはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • wave名詞
    波

    The children played in the waves.

    子どもたちは波の中で遊んだ。

    💡 動詞では「手をふる」。wave goodbye で「手をふってさよならする」。

  • tide名詞
    潮、潮の満ち引き

    The tide is low in the morning.

    朝は潮が引いている。

    💡 形容詞は tidal(潮の)。high tide(満潮)、low tide(干潮)。

  • earthquake名詞
    地震

    We felt a small earthquake last night.

    昨夜、小さな地震を感じた。

    💡 earth(大地)+ quake(ゆれる)。

  • harbor名詞
    港

    Many boats were in the harbor.

    港にはたくさんの船がいた。

    💡 イギリスつづりは harbour。port もほぼ同じ意味。

  • village名詞
    村

    My grandmother lives in a small village.

    祖母は小さな村に住んでいる。

    💡 villager は「村人」。town(町)、city(市)と大きさで使い分ける。

  • real形容詞
    本当の、実在の

    Is this story real or made up?

    この話は本当なの、それとも作り話なの?

    💡 really(本当に)は副詞。made up(作られた)と対で覚える。

  • disaster名詞
    災害、大惨事

    The town was rebuilt after the disaster.

    その町は災害の後に建て直された。

    💡 natural disaster で「自然災害」。

  • protect動詞
    守る

    A helmet protects your head.

    ヘルメットは頭を守る。

    💡 protect A from B で「AをBから守る」。名詞は protection。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 20件)。

  1. Hearn, L. (1897) Gleanings in Buddha-Fields(A Living God を収録), Houghton Mifflin(Project Gutenberg)gutenberg.org
  2. 資料室【稲むらの火】~安政地震津波の顛末~(稲むらの火の館・和歌山県広川町)town.hirogawa.wakayama.jp
  3. 資料室【濱口梧陵】(稲むらの火の館・和歌山県広川町)town.hirogawa.wakayama.jp
  4. 津波(精選版 日本国語大辞典/日本大百科全書/改訂新版 世界大百科事典、コトバンク)kotobank.jp
  5. 明治三陸地震津波(ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典、コトバンク)kotobank.jp
  6. Tsunami Frequently Asked Questions(NOAA・米国海洋大気庁)tsunami.gov
  7. 11月5日は「津波防災の日」です(気象庁 鹿児島地方気象台)data.jma.go.jp
  8. tsunami(Dictionary.com)dictionary.com

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文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。

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