
サンドイッチ伯爵が賭けの最中に食べた、という話は本当か分からない
元の本には、伯爵の名前が書いていない。
この判定の対象「サンドイッチ伯爵は、トランプの賭けの最中にサンドイッチを食べた」
もくじ
サンドイッチの名前の由来は、よくこう説明されます。イギリスのサンドイッチ伯爵は、トランプの賭けに夢中でした。勝負をやめたくないので、パンに肉をはさんで片手で食べた。それが料理の名前になった、という話です。
では、この話はどこに書いてあるのでしょう。たどっていくと、1冊の旅行記に行き着きます。フランス人のピエール=ジャン・グロスレー(Pierre-Jean Grosley)が、1765年のロンドンの様子を書いた本です。
その英語版(1772年)を開いてみると、賭けの最中に食べた話は確かにありました。ところが、そこにサンドイッチ伯爵の名前は書かれていません。食べた人として書いてあるのは「ある国務大臣」だけでした。
この記事では、まずグロスレーの旅行記に何が書かれていたかを確かめます。次に、グロスレーがロンドンに来る3年前の日記に、「サンドイッチ」という言葉がもう出てくることを紹介します。最後に、旅行記と日記の2つの記録をどう読めばよいかを考えます。
01サンドイッチの由来を書いた旅行記には、伯爵ではなく「ある国務大臣」とだけ書かれていた
グロスレーの本は、フランス語で書かれ、英語にも訳されました。英語版は『ロンドン紀行(A Tour to London)』という題で、1772年に出ています。その第1巻に、イギリス人と賭けごとについての話があります。
グロスレーは、イギリス人は何ごとも行きすぎるほど熱中する、と書いています。続けて、賭けで財産をなくした金持ちの貴族もいると言われている、と紹介します。仕事や睡眠や健康をそっちのけで、賭けに時間を使う人もいる、とも書いています。その例として、サンドイッチの話が出てきます。
内容をまとめると、こうです。
- ある国務大臣が、公開の賭博台(お金を賭けて勝負をするテーブル)で24時間すごした。
- その間、焼いたパン2枚に牛肉ひと切れをはさんだものだけを食べた。
- 勝負の席を一度も立たずに、それを食べた。
- この新しい料理は、グロスレーのロンドン滞在中に大流行した。
- そして、考えついた大臣の名前で呼ばれるようになった。
「伯爵」も「サンドイッチ」も、この部分には出てきません。「トランプ」という言葉もなく、書かれているのは「公開の賭博台」だけです。読者は「その大臣の名前がサンドイッチだったのだろう」と考えるしかない書き方です。
02旅行記の作者は伯爵の名前を知っていたが、料理の話には書かなかった
では、グロスレーは伯爵を知らなかったのでしょうか。そうではありません。同じ本の第2巻に、議会を見に行った場面があります。
そこでグロスレーは、議会に来た「国務大臣たち、ハリファックス卿とサンドイッチ卿」が、席がなくて立っていたと書いています。つまりグロスレーは、サンドイッチ卿が大臣だと知っていて、名前も書いていました。
それなのに、料理の話では名前を出しませんでした。理由は分かりません。うわさ話として聞いたので名前を出すのをひかえたのかもしれません。ただ、グロスレーがサンドイッチ卿本人に確かめた話でないことは、書き方から読み取れます。

03旅行記の作者がロンドンに来る3年前の日記に、もう「サンドイッチ」が出てくる
サンドイッチの由来を考えるうえで、もう一つ大事な記録があります。グロスレーが来る3年前、1762年の日記です。
書いたのは、のちに『ローマ帝国衰亡史』を書く歴史家エドワード・ギボン(Edward Gibbon)です。彼の日記の一部は、死後の1796年に、回想録と一緒に本になりました。1762年11月24日、ギボンはロンドンのクラブ(会員だけが集まる社交場)「ココア・ツリー(Cocoa Tree)」で食事をし、芝居を見て、またクラブに戻りました。
そこでギボンは、クラブの夜の様子を書きとめています。国でもトップクラスの、家柄もお金もある人たちが20〜30人。コーヒー室の小さなテーブルで、冷たい肉ひと切れか、「サンドイッチ」を食べ、ポンチ(果物入りのお酒)を飲んでいる、という光景です。
ギボンは、サンドイッチを説明もなしに書いています。1762年の時点で、仲間うちではもう通じる言葉だったのです。アメリカの辞書ディクショナリー・ドットコムも、sandwich の記録は1755〜65年ごろから始まるとしています。
ここで年を並べてみます。
- 1762年:ギボンの日記に、すでに「サンドイッチ」が出てくる。
- 1765年:グロスレーがロンドンに来て、料理が大流行していると書く。
- 1772年:その旅行記が英語でも出版される。
もし賭博台の話が本当なら、それはグロスレーが来る前のことになります。グロスレーが来る少なくとも3年前からあったサンドイッチを、グロスレーは「新しい料理」として聞いたことになるのです。
深掘り講義
ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。
旅行記の話は人から聞いたうわさで、日記は書いた本人が見たことの記録
歴史の話を確かめるとき、まず見るのは、その話を書いた一番古い資料です。そして、書いた人がその場にいたのか、人から聞いたのかを考えます。こうした作業を史料批判といいます。
グロスレーの逸話は、本人が見た話ではありません。滞在中に流行していた料理について、「考えた大臣の名前がついている」と聞いた話です。しかも、同じ章で貴族の賭けの話を「〜と言われている」と書いています。旅行記には、町で耳にしたうわさがそのまま入ることがよくあります。
一方、ギボンの日記は、本人がその晩に見た光景の記録です。ただし、ギボンは名前の由来を何も書いていません。つまり、2つの資料は別々のことを教えてくれます。ギボンは「言葉が1762年にはもうあった」ことを、グロスレーは「1765年には由来の話が広まっていた」ことを示しているのです。
旅行記の作者は「イギリス人は賭けに夢中だ」と言うための例として、大臣の話を使った
グロスレーがこの逸話を置いた場所にも、注意が必要です。それは、イギリス人の性格を説明する段落の中でした。グロスレーは、イギリス人は深く考える人たちだが、望みが激しく、何ごとも行きすぎる、と書きます。そのすぐあとに、賭けで財産をなくす貴族の話、そして24時間の大臣の話が続きます。
つまり、この逸話は「イギリス人はこんなに賭けに夢中だ」という主張の例として使われています。旅行記の書き手は、読者に外国の「らしさ」を伝えたいものです。そのため、主張にぴったり合う話は、確かめられていなくても採用されやすくなります。逸話が本当かどうかを考えるときは、それが本の中でどんな役目をしているかも見る必要があります。
一方のギボンは、サンドイッチの話のすぐあとで、クラブにいる政治家たちの話に移ります。王の相談役たちが大臣になり、昔と今の主張をごちゃまぜにしている、という皮肉を書いています。ギボンにとってサンドイッチは、クラブの夜のありふれた風景の一部にすぎませんでした。
sandwich は、地名が伯爵の呼び名になり、それが料理の名前になった言葉
人の名前が、ものや行いを表す普通の言葉になることがあります。これをエポニム(名祖語)といいます。sandwich はその代表です。
伯爵の称号の「サンドイッチ」は、イングランドの地名でもあります。ギボンの回想録にも、サンドイッチからサネット島へ渡る道の話として、地名の Sandwich が出てきます。つまり sandwich は、地名が人の称号になり、その称号がさらに料理の名前になった言葉なのです。
1762年には、サンドイッチはもう説明のいらない呼び名だった
ギボンが見たクラブの夜食は、上流の人たちの間で、すでに名前のついた食べものとして出されていました。つまり1762年には、「サンドイッチ」は説明のいらない呼び名になっていたのです。
言葉の歴史では、「最初に作った人」と「名前を広めた人」が違うことがよくあります。サンドイッチの場合も、名前の元になった人物ははっきりしていても、「いつ、どこで、何をしていたときか」は、記録の上では決まっていません。
04英語で使ってみよう
- I had a ham sandwich for lunch.(昼にハムサンドを食べた)
- My meeting is sandwiched between two classes.(会議が2つの授業の間にはさまっている。動詞の sandwich=はさむ)
- a sandwich board(体の前後にさげる広告の板。人が板にはさまれて見えることから)
05まとめ
「サンドイッチ伯爵が賭けの最中に食べた」という話の元は、1765年にロンドンにいたグロスレーの旅行記でした。その本は「ある国務大臣」と書くだけで、伯爵の名前は出てきません。言葉そのものは、その3年前のギボンの日記に、上流の人たちの夜食としてもう登場しています。サンドイッチを食べるときは、「名前が伯爵から来たことは確かだが、賭けの最中に食べた場面はうわさ」と思い出してください。
人に話すなら、こう言おう
サンドイッチ伯爵が賭けをやめずにパンに肉をはさんで食べた話、元の旅行記を読むと「ある大臣」としか書いてないんだって。しかも作者がロンドンに来る3年前の日記に、もう sandwich って言葉が出てくるらしいよ。
英語で読む
The Sandwich Story Without a Name
英文をタップすると、その文の訳が出ます。
You may know this famous story.この有名な話を知っているかもしれません。 The Earl of Sandwich loved to gamble with cards.サンドイッチ伯爵は、トランプで賭けをするのが大好きでした。 He did not want to stop playing, so he ate meat between two pieces of bread.彼は勝負をやめたくなかったので、2枚のパンの間に肉をはさんで食べました。 But where does this story come from?でも、この話はどこから来たのでしょう。
It comes from a travel book by a French writer, Pierre-Jean Grosley.それは、フランス人の作家ピエール=ジャン・グロスレーの旅行記から来ています。 He visited London in 1765, and the book came out in English in 1772.彼は1765年にロンドンを訪れ、その本は1772年に英語で出版されました。 In it, he wrote about "a minister of state" who played at a gaming table for 24 hours.その中で彼は、賭博台で24時間遊び続けた「ある国務大臣」について書きました。 He ate only beef between two slices of toasted bread.その男は、焼いたパン2枚にはさんだ牛肉だけを食べました。 The new food was named after him.その新しい食べものは、彼の名前をとって名づけられました。
But the book never gives the minister's name.でも、その本は大臣の名前を一度も書いていません。 This is strange, because elsewhere in the book, Grosley names Lord Sandwich as a minister.これはふしぎなことです。本の別の場所で、グロスレーはサンドイッチ卿を大臣として名前つきで書いているからです。 So he knew the name, but he did not use it in the food story.つまり彼は名前を知っていたのに、食べものの話ではそれを使わなかったのです。 Maybe he only heard the story as a rumor.たぶん彼は、その話をうわさとして聞いただけだったのでしょう。
There is an even older record.さらに古い記録もあります。 On November 24, 1762, the historian Edward Gibbon wrote about a London club in his diary.1762年11月24日、歴史家エドワード・ギボンは、ロンドンのあるクラブについて日記に書きました。 He saw rich and famous men eating "a bit of cold meat, or a Sandwich" at small tables.彼は、お金持ちで有名な男たちが小さなテーブルで「冷たい肉ひと切れか、サンドイッチ」を食べているのを見ました。 So the word was already in use three years before Grosley came.つまりその言葉は、グロスレーが来る3年前にはもう使われていたのです。
The food really is named after the Earl.その食べものが伯爵にちなんで名づけられたのは本当です。 But the gambling story is only a rumor in one book.でも、賭けの話は、1冊の本の中のうわさにすぎません。 Next time you eat a sandwich, ask who really ate the first one.次にサンドイッチを食べるときは、最初の1つを本当に食べたのは誰だったのか、考えてみてください。
4択問題 Reading Quiz
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Q1What is this story mainly about?
この話は主に何についてのものですか。
正解:B Whether the famous Earl of Sandwich story is true
第1段落最後の「この話はどこから来たのか」という問いから、第2〜5段落で元の本と古い日記を調べているので正解はB。Dのギボンは第4段落に出てくるだけで主旨ではない。
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Q2When did Grosley visit London?
グロスレーがロンドンを訪れたのはいつですか。
正解:D In 1765
第2段落2文目に「He visited London in 1765」とあるので正解はD。1772年は英語版が出た年、1762年はギボンの日記の年なので違う。
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Q3Why does the writer think Grosley heard the story as a rumor?
筆者はなぜ、グロスレーがその話をうわさとして聞いたと考えているのですか。
正解:A Because he knew the name but did not use it in the food story
第3段落3〜4文目に、名前を知っていたのに食べものの話では使わなかった、たぶんうわさとして聞いただけ、とあるので正解はA。Bは第2段落でロンドンを訪れたとあるので違う。
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Q4In paragraph 3, the word "rumor" is closest in meaning to
第3段落の「rumor」という語にいちばん意味が近いのはどれですか。
正解:C a story people tell that may not be true
第3段落で、名前を出さずに書かれた話を rumor と言っている。本当かどうか確かめられていない話という意味なので正解はC。Aの「本当の報告」は逆の意味。
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Q5Which is true about the story?
この話の内容と合っているのはどれですか。
正解:D The word was used before Grosley came to London.
第4段落最後の文に、言葉はグロスレーが来る3年前にはもう使われていたとあるので正解はD。Cは第3段落1文目と逆で、Bのギボンは伯爵について何も書いていない。
重要語 Key Words(タップで裏返る)
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gamble動詞賭けごとをする
He lost all his money because he gambled too much.
彼は賭けごとをしすぎて、お金を全部なくした。
💡 名詞は gambling(賭博)。gambler は「ギャンブラー」。
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slice名詞(薄く切った)一切れ
Can I have a slice of bread?
パンを一切れもらえますか。
💡 a slice of pizza のように数えるのに使う。
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minister名詞大臣
The prime minister gave a speech today.
首相は今日演説をした。
💡 prime minister は「首相」。
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record名詞記録
There is no record of his birthday.
彼の誕生日の記録はない。
💡 名詞はレを強く、動詞はコーを強く読む。
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historian名詞歴史家
The historian wrote a book about old Kyoto.
その歴史家は昔の京都についての本を書いた。
💡 history(歴史)+ -ian(〜の人)。
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diary名詞日記
I write in my diary every night.
私は毎晩日記を書く。
💡 dairy(乳製品の)とつづりがにているので注意。
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rumor名詞うわさ
I heard a rumor that our teacher is leaving.
先生がいなくなるといううわさを聞いた。
💡 イギリスつづりは rumour。
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be named after熟語〜にちなんで名づけられる
The baby was named after her grandmother.
その赤ちゃんは祖母にちなんで名づけられた。
💡 name A after B で「B にちなんで A と名づける」。
SOURCES出典・ウラ取り
この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 11件)。
- Grosley, P.-J. (1772) A Tour to London; or, New Observations on England, Vol. 1(Thomas Nugent 訳、Internet Archive)archive.org
- Grosley, P.-J. (1772) A Tour to London; or, New Observations on England, Vol. 2(Thomas Nugent 訳、Internet Archive)archive.org
- Gibbon, E. (1796) Miscellaneous Works of Edward Gibbon, Vol. 1(Internet Archive)archive.org
- sandwich(Dictionary.com)dictionary.com
- sandwich(The American Heritage Dictionary of the English Language)ahdictionary.com
文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。
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No.031「OK」は、1839年の新聞のわざと間違えたつづりから生まれた
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No.032グレーGRAY「ローマ兵の給料は塩だった」は、古代の記録では確かめられない
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No.033英語で「検疫」を表す quarantine は、「40日」という意味の言葉
世界で最初の検疫は、40日ではなく30日だった。
No.067グレーGRAY「お湯のほうが水より早く凍る」は、本当かどうか決着していない
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No.103ホントTRUEイチゴの本当の果実は、表面のつぶつぶのほう
つぶを取ると、赤い部分は大きくならない。
No.300空気のない月に「さび」があり、その酸素は地球から届いたらしい
月のさびの酸素は、地球から届いたらしい