イチゴの本当の果実は、表面のつぶつぶのほう
定番雑学の"その先"No.103

イチゴの本当の果実は、表面のつぶつぶのほう

つぶを取ると、赤い部分は大きくならない。

ホントTRUE

この判定の対象「イチゴの表面のつぶつぶが、本当の果実だ」

うなり度 読む時間8分 出典6件 確認した事実18件
もくじ
  1. イチゴの表面のつぶつぶ1つ1つが、植物学でいう本当の果実
  2. イチゴの赤い部分は、花の付け根にある台がふくらんだもの
  3. つぶつぶを取ると、イチゴの赤い部分は大きくならない
  4. 今のイチゴは、約300年前に、2種類の野生のイチゴがかけ合わさって生まれた
  5. 深掘り講義
  6. まとめ
  7. 英語で読む(A2・4択5問)
  8. 出典・ウラ取り

イチゴを1つ手に取って、表面をよく見てください。小さな黄色いつぶつぶが、びっしりついています。多くの人は、これを「種」だと思っています。

でも植物学では、このつぶつぶ1つ1つが、本当の「果実」です。つぶの中に、種が1つずつ入っています。では、私たちが食べている赤くて甘い部分は何なのでしょう。赤い部分は、花の付け根にある台がふくらんだもので、果実ではないのです。

そして、つぶつぶには、赤い部分を大きく育てるという大事な仕事があります。つぶを取りのぞいてしまうと、赤い部分は大きくならないのです。

この記事では、まず、つぶつぶと赤い部分が、花のどこからできるかを説明します。次に、つぶつぶが赤い部分を育てるしくみを紹介します。最後に、今のイチゴが約300年前に生まれた歴史と、その祖先をめぐる議論に触れます。

01イチゴの表面のつぶつぶ1つ1つが、植物学でいう本当の果実

植物学では、果実は花の中の子房(めしべの根もとのふくらみ)が育ったものです。子房の中には、種のもとが入っています。

イチゴの花には、めしべがたくさんあります。2024年の論文によると、1つの花の中で、たくさんのめしべの子房が受精します。その子房1つ1つが、痩果(そうか)という小さな果実になります。この痩果が、つぶつぶです。

痩果の中には種があり、その外側を子房の壁が薄く包んでいます。つまりつぶつぶは「種」ではなく、「種の入った、とても小さな果実」なのです。

一方、赤い部分は花托(かたく)からできています。花托は、花びらやめしべがくっついている、花の付け根の台です。2024年の論文は、私たちが普通「イチゴの実」と呼ぶ部分は、ふくらんだ花托からできた「偽果(ぎか)」だと書いています。偽果とは、子房以外の部分も加わってできた果実のことです。

02イチゴの赤い部分は、花の付け根にある台がふくらんだもの

花托がふくらんで食べられる部分になるのは、少しめずらしい形です。2024年の論文は、食べる部分が花のどこからできるかは、植物によって違うと説明しています。

  • トマト:子房が育って、食べる部分になる。
  • イチゴ:花托が育って、食べる部分になる。
  • リンゴ:花の付け根の筒(萼筒=がくとう)の周りが育って、食べる部分になる。

リンゴの食べる部分も、子房そのものではないのです。私たちが「果物」と呼ぶものと、植物学の「果実」は、いつも同じとは限りません。

2026年の総説(それまでの研究をまとめた論文)によると、熟すと赤くなり、砂糖(ショ糖)をためていくのは、花托のほうです。痩果は、花托の表面にうめこまれています。

つぶつぶ(痩果)1つ1つの中に種が入っている。赤い果肉は花托がふくらんだもの。
つぶつぶ(痩果)1つ1つの中に種が入っている。赤い果肉は花托がふくらんだもの。

03つぶつぶを取ると、イチゴの赤い部分は大きくならない

つぶつぶと赤い部分は、ただとなりあっているだけではありません。つぶつぶが、赤い部分の育ち方を左右しているのです。

1950年、アメリカの植物学の雑誌に、ニッチ(J. P. Nitsch)の論文がのりました。題名は「オーキシンとイチゴの成長と形づくり」です。オーキシンは、植物の成長をうながすホルモンです。

2024年と2026年の論文は、ニッチの研究やその後の研究をまとめて、次のように説明しています。受粉したあとに痩果を取りのぞくと、花托はふくらまない。痩果がなくても、外からオーキシンを与えれば、花托は育つ。つまり、赤い部分を大きくするオーキシンは、主に痩果から送られているのです。

痩果を一部だけ取ったり傷つけたりすると、実の形や左右のつりあいにも影響が出ます。いびつな形のイチゴを見かけたら、その部分のつぶつぶがうまく育たなかったのかもしれません。

さらに2026年の総説は、イチゴの熟し方とオーキシンの関係にも触れています。人工的に作ったオーキシンを与えた実は、大きくはなります。でも、赤い色素が少なく、かたく、緑の色素が多いままです。熟すのがおくれるのです。2024年の論文によると、緑の実がある程度育ったころ、痩果から送られるオーキシンが止まります。花托のオーキシンが減ると、実は熟し始めます。

04今のイチゴは、約300年前に、2種類の野生のイチゴがかけ合わさって生まれた

私たちが食べる大きなイチゴ(栽培イチゴ)の歴史は、意外に短いものです。2019年の論文によると、栽培イチゴは約300年前に、野生のイチゴ2種の雑種として生まれました。

親になった2種は、Fragaria virginiana と Fragaria chiloensis です。どちらも8倍体、つまり染色体のセットを8つもつイチゴです。8倍体のイチゴは主に北アメリカに生えていて、F. chiloensis はチリやハワイにも生えています。かずさDNA研究所などの研究チームが2014年に出した論文も、同じ考えです。栽培イチゴは1700年代に、この2種が自然に交雑して生まれた、と書いています。

では、その8倍体の親は、どうやって生まれたのでしょう。ここで2つの言葉を説明します。ゲノムとは、生き物がもつ遺伝情報のひとそろいのことです。2倍体とは、人と同じように、染色体のセットを2つもつ生き物のことです。2019年の論文は、8倍体の親は約100万年前に、4種の野生のイチゴ(2倍体)のゲノムが合わさってできた、と考えました。そして論文は、その4種の祖先に最も近い、今生きている種を4つ挙げました。論文は、そのうち2種を、日本の固有種(日本にだけ生える種)としています。Fragaria iinumae と Fragaria nipponica です。

ただし、この「4種」の説には反論があります。とくに F. nipponica が祖先に近いという点は、別の研究チームが「証拠が見つからない」としています(深掘り講義で紹介します)。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

植物学では、めしべの根もとだけから育った実と、花のほかの部分も加わった実を、分けて呼ぶことがある

植物学では、受粉のあと子房が育ってできるものを果実と呼びます。子房だけからできた果実を、「真果」と呼ぶことがあります。花托や萼筒など、子房以外の部分も加わってできたものは、「偽果」と呼び分けます。

2024年の論文は、イチゴのように1つの花から小さな果実がたくさんできるものを、ラズベリーと同じ「集合果」の仲間として説明しています。そして、リンゴやモモ、ナシの果実とはつくりが違う、と書いています。イチゴの場合、甘い果肉の役目を果たしているのは、果実ではなく花托です。

つぶつぶが、赤い部分を育てる植物ホルモンを出している

オーキシンは、植物の細胞を増やしたり、伸ばしたりするホルモンです。2026年の総説によると、受精した痩果が、オーキシンの主な出どころです。痩果から出たオーキシンは、花托の中で、オーキシンが多い所と少ない所を作ります。花托では、まず細胞が盛んに分かれて増え、次に細胞がふくらみます。

1950年のニッチの研究は、「つぶつぶが果肉を育てる」という関係を示した古い研究です。今も大事な研究として、論文に引用されています。2024年の論文は、遺伝子のレベルの研究も紹介しています。痩果の中でも、とくに種の部分(種皮や胚乳)で、オーキシンを作る遺伝子がよく働いているのです。

畑で育てるイチゴは、染色体のセットを8つもっている(人は2つ)

人の細胞には、父と母から1セットずつ、合わせて2セットの染色体があります。こうした生き物を2倍体と呼びます。ところがイチゴの仲間には、セットの数が違う種がたくさんあります。2014年の論文によると、イチゴ属は栽培イチゴ1種と野生種24種からなります。野生種の内わけは、2倍体13種、4倍体5種、6倍体1種、8倍体4種、10倍体1種です。

栽培イチゴは、8倍体どうしの雑種なので、やはり8倍体です。8つのセットは、もとをたどると4種の2倍体の祖先から2セットずつ来たと考えられています。倍数体とは、染色体のセットを3つ以上もつ生き物です。違う種のゲノムが合わさってできた倍数体を、異質倍数体と呼びます。栽培イチゴは、その代表的な例の1つです。

今のイチゴの大もとになった野生のイチゴが4種類か2種類かで、研究者の意見が分かれている

栽培イチゴの祖先をめぐっては、研究者の間で議論があります。2019年にエッジャー(Patrick Edger)らは、栽培イチゴの8倍体のゲノムのもとになった祖先として、今いる4種の2倍体のイチゴに近い祖先を挙げました。

これに対して同じ年の末、リストン(Aaron Liston)らが反論しました。今いる2倍体のイチゴのうち、祖先に近いと言えるのは2種だけだ、という考えです。リストンらによると、4つのゲノムのうち1つは F. vesca から、残り3つは F. iinumae に近い祖先から来ました。F. nipponica と F. viridis が祖先だという証拠は見つからなかった、とも書いています。エッジャーらは2020年に、この反論に返答しました。データを解析し直しても、「4種の祖先」という考えが支持される、という答えです。

どちらの説でも、日本に生える F. iinumae に近い祖先が関わったことは共通しています。意見が分かれているのは、残りの祖先がどの種に近いかです。

用語ミニ整理

  • 痩果(そうか):薄い皮の中に種が1つ入った、乾いた小さな果実。イチゴのつぶつぶ
  • 花托(かたく):花びらやめしべがつく、花の付け根の台。イチゴではここがふくらむ
  • 偽果:子房以外の部分も加わってできた果実
  • 倍数体:染色体のセットを3つ以上もつ生き物。栽培イチゴは8倍体

05まとめ

イチゴのつぶつぶは種ではなく、1つ1つが痩果という本当の果実です。中に種が1つずつ入っています。私たちが食べている赤い部分は、花の付け根の台(花托)がふくらんだものでした。

赤い部分を大きくしているのは、つぶつぶから送られるオーキシンです。つぶを取ると、赤い部分は育ちません。次にイチゴを食べるときは、つぶつぶをよく見てください。その小さなつぶが、オーキシンを送って、周りの甘い果肉を育てたのです。

人に話すなら、こう言おう

イチゴのつぶつぶって種だと思ってたけど、実は1つ1つが本当の果実なんだって。赤いところは花の台がふくらんだもの。しかもつぶを取っちゃうと、赤いところは大きくならないらしいよ。
READ IN ENGLISH

英語で読む

The Real Fruits of a Strawberry

CEFR A2217 words4択 5問全訳つき
0:00

英文をタップすると、その文の訳が出ます。

Look closely at a strawberry.イチゴをよく見てみましょう。 You can see many tiny yellow dots on the outside.表面に小さな黄色いつぶがたくさん見えます。 Most people call them seeds.多くの人は、それを種と呼びます。 But in science, each dot is a real fruit.でも科学では、そのつぶ1つ1つが本当の果実なのです。 Each tiny fruit has one seed inside it.小さな果実の中には、それぞれ種が1つ入っています。

So what is the sweet red part?では、甘い赤い部分は何なのでしょう。 It grows from the base of the flower, the part that holds the petals.それは花の付け根、つまり花びらを支える部分から育ちます。 Scientists call it a false fruit.科学者はそれを偽果と呼びます。 The red part becomes sweet because it stores sugar as it ripens.赤い部分は、熟すにつれて砂糖をためるので甘くなります。

The tiny fruits have an important job.小さな果実には大事な仕事があります。 They make a plant hormone called auxin.オーキシンという植物ホルモンを作るのです。 Auxin travels into the red part and helps it grow.オーキシンは赤い部分に送られ、その成長を助けます。 In 1950, a scientist named Nitsch wrote about this.1950年、ニッチという科学者がこのことについて論文を書きました。 If people remove the tiny fruits after the flower is pollinated, the red part does not get bigger.花が受粉したあとに小さな果実を取りのぞくと、赤い部分は大きくなりません。 But if they add auxin, the red part can still grow.でもオーキシンを与えれば、赤い部分はそれでも育つことができます。

The big strawberries we eat today are quite new.私たちが今食べている大きなイチゴは、かなり新しいものです。 They began about 300 years ago as a mix of two wild kinds.それは約300年前に、2種類の野生のイチゴのかけ合わせとして始まりました。 These wild strawberries mostly grow in North America, and one also grows in Chile.その野生のイチゴは主に北アメリカに生えていて、そのうち1種はチリにも生えています。 A 2019 study said that two older ancestors may be close to wild strawberries that grow only in Japan.2019年の研究は、もっと古い祖先のうち2種は、日本にしか生えない野生のイチゴに近いかもしれないと述べました。 Other scientists do not fully agree.ほかの科学者たちは、完全には賛成していません。

Next time you eat a strawberry, look at the dots.次にイチゴを食べるときは、つぶを見てください。 Those tiny fruits helped the sweet part grow.その小さな果実たちが、甘い部分を育てたのです。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2How many seeds are inside each tiny dot?

    小さなつぶ1つの中には、種がいくつ入っていますか。

  3. Q3What happens if people remove the tiny fruits after pollination?

    受粉のあとに小さな果実を取りのぞくと、どうなりますか。

  4. Q4In paragraph 3, the word "remove" is closest in meaning to

    第3段落の "remove" という語にもっとも意味が近いのはどれですか。

  5. Q5Which is true about the story?

    この話の内容と合っているのはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • seed名詞
    種

    I planted some flower seeds in the garden.

    私は庭に花の種をまいた。

    💡 seedless は「種なしの」。

  • fruit名詞
    果実、果物

    Apples and oranges are my favorite fruits.

    リンゴとオレンジが私の好きな果物だ。

    💡 ふつうは数えないが、種類を言うときは fruits とすることもある。

  • hormone名詞
    ホルモン

    Hormones send messages inside the body.

    ホルモンは体の中でメッセージを送る。

    💡 発音は「ホーモウン」。plant hormone で「植物ホルモン」。

  • ripen動詞
    熟す

    The bananas will ripen in a few days.

    バナナは数日で熟すだろう。

    💡 形容詞 ripe(熟した)に -en がついた形。

  • store動詞
    ためる、たくわえる

    Squirrels store nuts for the winter.

    リスは冬にそなえて木の実をたくわえる。

    💡 名詞では「店」の意味。

  • remove動詞
    取りのぞく

    Please remove your shoes at the door.

    入口でくつをぬいでください。

    💡 名詞は removal。

  • ancestor名詞
    祖先

    My ancestors lived in a small village.

    私の祖先は小さな村に住んでいた。

    💡 反対の「子孫」は descendant。

  • pollinate動詞
    受粉させる

    Bees pollinate many kinds of flowers.

    ハチは多くの種類の花を受粉させる。

    💡 pollen(花粉)から来た語。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 18件)。

  1. Jang, Y. J. et al. (2024) Genome-wide gene network uncover temporal and spatial changes of genes in auxin homeostasis during fruit development in strawberry (F. × ananassa), BMC Plant Biology 24:876doi.org
  2. Pinto, C. A. et al. (2026) Molecular mechanisms of plant hormones and sugars regulates strawberry fruit development and ripening, Plant Molecular Biology 116(3):50doi.org
  3. Edger, P. P. et al. (2019) Origin and evolution of the octoploid strawberry genome, Nature Genetics 51:541–547doi.org
  4. Edger, P. P. et al. (2020) Reply to: Revisiting the origin of octoploid strawberry, Nature Genetics 52:5–7doi.org
  5. Liston, A. et al. (2019) Revisiting the Origin of the Octoploid Strawberry, bioRxiv 665216(Nature Genetics 52:2–4 に載った反論の原稿)biorxiv.org
  6. Hirakawa, H. et al. (2014) Dissection of the octoploid strawberry genome by deep sequencing of the genomes of Fragaria species, DNA Research 21(2):169–181doi.org

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