闘牛の牛は、赤い色に怒っているわけではない
都市伝説ファクトチェックNo.060

闘牛の牛は、赤い色に怒っているわけではない

赤い色で牛が怒る、という証拠は見つかっていない。

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この判定の対象「闘牛の牛は、赤い色を見ると怒る」

うなり度 読む時間8分 出典5件 確認した事実12件
もくじ
  1. 牛の目には、色を感じる細胞が2種類しかない
  2. 1986年の実験では、メス牛8頭のうち5頭が、赤い光と青い光を見分けた
  3. 明るさをそろえた光でも、牛は赤をほかの色と見分けたが、青と緑は見分けられなかった
  4. 赤い色が牛を怒らせることを示した研究は、見つからなかった
  5. 深掘り講義
  6. まとめ
  7. 英語で読む(A2・4択5問)
  8. 出典・ウラ取り

1986年に発表された、ある実験を紹介します。外の光をさえぎった部屋に、若いメス牛が入れられました。牛の目の前には、色のついた光がつきます。決められた色の光のときに板を押すと、エサが出てきます。

この訓練は、1日20分、何日も続けられました。研究者が調べたかったのは、牛に色が見えるかどうかです。訓練の結果、8頭のうち5頭が、赤い光と青い光を見分けるようになりました。

「闘牛の牛は、赤い布を見ると怒って突進する」とよく言われます。それに対して「牛は色が分からないから、赤は関係ない」という反論もよく聞きます。でも1986年の実験では、牛は赤い光と青い光を見分けました。つまり「牛は色が分からない」という反論も、正しくなかったのです。

この記事では、まず牛の目のしくみを紹介します。次に、牛に色を見分けさせた2つの実験の結果をならべます。最後に、闘牛の赤い布について、分かっていることと分かっていないことを整理します。

01牛の目には、色を感じる細胞が2種類しかない

私たちの目の奥には、色を感じる細胞(錐体=すいたい)が3種類あります。それぞれが青っぽい光、緑っぽい光、赤っぽい光によく反応します。3種類の細胞がそれぞれどれくらい反応したか、その組み合わせで、脳は色を感じ分けています。

1998年、アメリカのカリフォルニア大学サンタバーバラ校のジェラルド・ジェイコブズ(Gerald H. Jacobs)らは、牛の目を調べました。調べ方は、牛の目に光をちらつかせて当て、網膜(目の奥で光を受けとる膜)から出る電気の信号を測る、というものです。すると、牛の錐体は2種類しかありませんでした。

1つめの錐体は、青っぽい光によく反応します。光の色は、「波長」という長さで表します。波長が短い光ほど青っぽく、長い光ほど赤っぽく見えます。単位はナノメートルで、1ナノメートルは1ミリの100万分の1です。牛・ヤギ・ヒツジの1つめの錐体がいちばんよく反応する波長は、約444〜455ナノメートルでした。2つめの錐体は、約552〜555ナノメートル(黄緑の光)によく反応します。牛の目には、人の目のような、赤っぽい光によく反応する錐体がありません。こういう目を「2色型の色覚」と呼びます。ヤギやヒツジの目も、同じ2色型でした。

ここまで聞くと、「やっぱり牛には赤が見えないんだ」と思うかもしれません。でも、色を感じる細胞が何種類あるかと、実際にどの色を見分けられるかは、別の問題です。牛がどの色を見分けられるかを確かめるには、牛に色を選ばせてみるしかありません。

021986年の実験では、メス牛8頭のうち5頭が、赤い光と青い光を見分けた

記事のはじめに紹介した実験は、1986年にギルバート(B. J. Gilbert)とアレイブ(C. W. Arave)が発表したものです。使ったのは、8頭の若いメス牛です。光は、緑(535ナノメートル)、赤(610ナノメートル)、青(450ナノメートル)の3色です。

光を2色ずつ組にして見せ、決められた色のときに板を押せば、エサがもらえるようにしました。牛がでたらめに押せば、正解はだいたい半分になります。そこで、75%以上正しく選べたら「見分けられた」とすることにしました。

結果はこうでした。赤と青は、8頭のうち5頭が見分けました。5頭の正解率は76〜91%です。青と緑は3頭が見分けました。赤と緑は、1回目のテストでは1頭も見分けられませんでした。ところが、やり直しのテストでは3頭が見分けました。

最後に、緑と緑という「同じ色の組」も見せました。このとき牛は、でたらめに選びました。もし牛が、光以外の何かを手がかりにして正解していたなら、同じ色の組でも「正解」を選べたはずです。でたらめになったので、牛は光を見て選んでいたと考えられます。ただ、牛が色ではなく、光の明るさの違いで選んでいた可能性は、この実験では消せませんでした。

03明るさをそろえた光でも、牛は赤をほかの色と見分けたが、青と緑は見分けられなかった

2001年、イギリスのケンブリッジ大学のフィリップス(C. J. C. Phillips)とロマス(C. A. Lomas)は、それまでの実験には弱点がある、と考えました。見せる光の色だけでなく、明るさも違っていたのです。

明るさが違えば、牛は色ではなく「明るい・暗い」で見分けたのかもしれません。そこで2人は、まず子牛に、光を明るさで見分ける訓練をさせました。そのうえで、赤・緑・青の光をそれぞれどのくらいの強さにすれば、子牛にとって同じくらいの明るさに見えるかを調べました。

次に、明るさをそろえた光を使って、別の子牛たちに色を見分けるテストをしました。すると子牛たちは、赤と青は82%、赤と緑は89%の正解率で見分けました。ところが、青と緑はほとんど見分けられませんでした。最初の8回のテストでなんとか見分けられたのは、7頭のうち3頭だけでした。そのあとは、7頭ともでたらめに選ぶようになりました。

つまり牛にとって、赤は「見えない色」どころか、ほかの色と見分けやすい色でした。牛が苦手なのは、赤ではなく、青と緑の区別だったのです。

牛は明るさをそろえた光でも、赤とほかの色を見分けた。苦手だったのは青と緑の区別。
牛は明るさをそろえた光でも、赤とほかの色を見分けた。苦手だったのは青と緑の区別。

04赤い色が牛を怒らせることを示した研究は、見つからなかった

闘牛は3つの段階に分かれています。その最後の段階で闘牛士が使うのが、赤い布「ムレータ」です。スペイン王立アカデミーの辞典では、ムレータは「棒に布をつるしたもの。布はふつう赤。牛をあざむき、とどめを刺すときに頭を下げさせるのに使う」と説明されています。「あざむく」は、だますという意味です。

では、牛はムレータの赤い色に怒っているのでしょうか。牛が赤を見分けられることは、ここまでの実験で分かりました。でも「赤が見える」ことと「赤を見ると怒る」ことは、まったく別の話です。

赤い色そのものが牛を怒らせることを示した研究は、この記事のために調べた範囲では見つかりませんでした。よく使われるのは、「牛は色ではなく、布の動きに反応している」という説明です。ただ、闘牛用の牛で「色」と「動き」を分けて確かめた論文の中身も、確認できませんでした。1989年に、スペインの研究者が闘牛用の牛の色の見え方を調べた論文はあります。でも、この記事のために調べた範囲では、その結果までは読むことができませんでした。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

動物の色の見え方は、「目の細胞を測る」「動物に色を選ばせる」の2つの方法で調べる

動物の色の見え方を調べる方法は、大きく2つあります。1つめは、目の細胞を測る方法です。ジェイコブズらは、牛の目に光をちらつかせて当て、網膜の電気の反応を記録しました。この記録を「網膜電図」と呼びます。当てる光の波長を変えていくと、目の中に、どの波長に強く反応する細胞があるかが分かります。調べた結果、牛・ヤギ・ヒツジは、どれも色を感じる細胞が2種類でした。研究チームは、この結果が、それまでに調べられたほかの「ひづめのある動物」とも似ている、と書いています。つまり、牛の2色型の目は、牛だけの特別なものではありません。

2つめは、動物に色を選ばせる方法です。決められた色を選ぶとエサがもらえるようにして、何度もテストします。このように、ほうびを使って動物に行動を覚えさせる方法を、「オペラント条件づけ」と呼びます。ギルバートとアレイブ、フィリップスとロマスの実験がこれです。

2つの方法では、分かることが違います。細胞を測ると、「目に、色を感じる細胞が何種類あるか」が分かります。色を選ばせると、「その細胞で、実際にどの色を見分けられるか」が分かります。牛の場合、色を感じる細胞は2種類だけなのに、テストでは赤とほかの色をよく見分けました。細胞の種類の数だけで、その動物の色の見え方を決めつけてはいけない、ということです。

色の実験では、動物が「明るさの違い」で答えていないかを確かめる必要がある

動物に色を見分けさせる実験には、いつも同じ問題がついてまわります。動物が色ではなく、明るさの違いで答えているかもしれない、という問題です。

人の目で同じ明るさに見える赤と緑の光でも、機械で測ると、光のエネルギーは違います。また、どの光をどれくらい明るく感じるかは、動物ごとに違います。だから、人が「同じ明るさ」に調整しても、牛にとって同じ明るさとはかぎりません。

フィリップスとロマスは、まず牛自身に明るさを答えさせて、「牛にとって同じ明るさ」を決めました。そのうえで、色を見分けるテストをしたのです。この手順をふむと、「牛は明るさではなく色で見分けた」と、より自信をもって言えます。1986年の研究で緑と緑の組を混ぜたのも、色以外のヒントで正解していないかを確かめる工夫だと考えられます。

光の色によって、子牛の動き方が変わった

フィリップスとロマスは、光の色によって牛の行動が変わるかどうかも調べています。赤い光の中では、子牛は初めての場所でよく動きまわりました。世話係が来たときも、赤い光の中でいちばん早く近づきました。大きな音を聞かせて驚かせると、子牛が物かげにかくれるまでに、緑の光の中では58秒、青の光の中では95秒かかりました。

これは「赤で怒った」という結果ではありません。でも、光の色によって牛の動き方が変わることは示しています。この結果は、「牛小屋の照明の色で、牛の落ち着き方が変わるかもしれない」という、役に立つ問いにもつながります。

闘牛のあいだ、牛の体には強いストレスを受けたときの変化が起きる

2021年、メキシコ自治首都大学などの研究チームが、闘牛のあいだに牛の体で起きる変化を、それまでの研究をもとにまとめました。このように、たくさんの研究をまとめた論文を「総説」と呼びます。まとめによると、闘牛のあいだ、牛の体では、ストレスを受けると増えるホルモン(コルチゾール)が増えます。血液の中には乳酸(激しく運動すると増える物質)がたまり、筋肉が傷つきます。

この総説は、牛をこわがらせるおそれのあるものもあげています。閉ざされた知らない場所、仲間から離されること、逃げ道がないこと、そして体を傷つける刺激です。闘牛の場では、この4つが一度にそろいます。闘牛の牛の行動を考えるときは、布の色だけでなく、闘牛場の状況全体を見る必要があります。

05まとめ

「闘牛の牛は赤い布に怒る」という話には、証拠がありません。でも「牛は赤が見えない」という反論も、実験の結果とは合いません。牛の目には色を感じる細胞が2種類しかないのに、赤と青、赤と緑はかなりよく見分けました。

牛が本当に苦手なのは、青と緑の区別でした。2001年の実験では、明るさをそろえた青と緑の光を、子牛たちは最後には全頭がでたらめに選んでいます。

人に話すなら、こう言おう

闘牛の牛が赤に怒るって証拠はないんだって。でも「牛は赤が見えない」も間違いで、実験だと牛は赤と青をちゃんと見分けたらしいよ。苦手なのは青と緑なんだって。
READ IN ENGLISH

英語で読む

Do Bulls Really Hate Red?

CEFR A2222 words4択 5問全訳つき
0:00

英文をタップすると、その文の訳が出ます。

Many people believe that bulls get angry when they see red.牛は赤を見ると怒る、と多くの人が信じています。 Other people say that bulls cannot see red at all.一方で、牛には赤がまったく見えない、と言う人もいます。 Experiments show that both ideas go too far.実験によると、どちらの考えも言いすぎです。

Our eyes have three kinds of color cells.私たちの目には、色を感じる細胞が3種類あります。 In 1998, scientists measured the eyes of cows and found only two kinds.1998年、科学者たちが牛の目を測ったところ、2種類しか見つかりませんでした。 One kind works best with bluish light, and the other with yellow-green light.1つは青っぽい光、もう1つは黄緑の光に最もよく反応します。 So cows see fewer colors than we do.つまり、牛が見分けられる色は私たちより少ないのです。

But can cows tell red from other colors?では、牛は赤をほかの色と見分けられるのでしょうか。 In a 1986 study, young cows got food when they pushed a plate for the right color of light.1986年の研究では、若い牛が、正しい色の光のときに板を押すとエサがもらえました。 Five of the eight cows learned to tell red from blue.8頭のうち5頭が、赤と青を見分けられるようになりました。 When the two lights were the same color, the cows just guessed.2つの光が同じ色のときは、牛はあてずっぽうに選んだだけでした。

In 2001, a team in Britain made the lights equally bright.2001年、イギリスの研究チームは光の明るさをそろえました。 This was important, because the cows might use brightness instead of color.牛が色ではなく明るさで見分けているかもしれないので、これは大切なことでした。 The calves could still tell red from blue and red from green.それでも子牛たちは、赤と青、赤と緑を見分けることができました。 But they had trouble telling blue from green.でも、青と緑を見分けるのは苦手でした。

So bulls can see red, but scientists have not found good evidence that red makes them angry.つまり牛は赤が見えますが、赤が牛を怒らせるというしっかりした証拠は見つかっていません。 In a bullfight, the red cloth is used in the last stage.闘牛では、赤い布は最後の段階で使われます。 Why a bull charges is still not clear.牛がなぜ突進するのかは、まだはっきりしていません。 Next time someone says bulls hate red, you can tell them that the hard colors for cows are blue and green.今度だれかが「牛は赤がきらい」と言ったら、牛にとって難しいのは青と緑なんだよ、と教えてあげられます。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2How many kinds of color cells did scientists find in the eyes of cows?

    科学者は牛の目に何種類の色を感じる細胞を見つけましたか。

  3. Q3Why did the team in 2001 make the lights equally bright?

    2001年のチームはなぜ光の明るさをそろえたのですか。

  4. Q4In paragraph 3, the word "guessed" is closest in meaning to

    第3段落の guessed という語に最も意味が近いのはどれですか。

  5. Q5Which is true about cows?

    牛について正しいのはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • bull名詞
    雄牛

    The bull stood in the middle of the field.

    その雄牛は野原のまん中に立っていた。

    💡 雌牛は cow、子牛は calf。bullfight は「闘牛」。

  • experiment名詞
    実験

    We did an experiment with water and salt.

    私たちは水と塩を使って実験をした。

    💡 do an experiment / carry out an experiment で「実験をする」。

  • measure動詞
    測る

    The nurse measured my height.

    看護師さんが私の身長を測った。

    💡 名詞は measurement(測定)。

  • guess動詞
    推測する、あてずっぽうで言う

    I didn't know the answer, so I guessed.

    答えがわからなかったので、あてずっぽうで答えた。

    💡 Guess what! で「ねえ聞いて!」という会話の決まり文句。

  • brightness名詞
    明るさ

    You can change the brightness of your phone screen.

    スマホの画面の明るさは変えられる。

    💡 bright(明るい)+ -ness(名詞をつくる語尾)。

  • calf名詞
    子牛

    The calf stayed close to its mother.

    その子牛は母牛のそばを離れなかった。

    💡 複数形は calves。l は発音しない。

  • evidence名詞
    証拠

    There is no evidence that he took the money.

    彼がそのお金を取ったという証拠はない。

    💡 数えられない名詞。a piece of evidence で「1つの証拠」。

  • charge動詞
    突進する

    The angry elephant charged at the car.

    怒ったゾウが車に向かって突進した。

    💡 「料金を請求する」「充電する」の意味もある。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 12件)。

  1. Jacobs, G. H., Deegan, J. F. & Neitz, J. (1998) Photopigment basis for dichromatic color vision in cows, goats, and sheep, Visual Neurosciencedoi.org
  2. Gilbert, B. J. & Arave, C. W. (1986) Ability of cattle to distinguish among different wavelengths of light, Journal of Dairy Sciencedoi.org
  3. Phillips, C. J. & Lomas, C. A. (2001) The perception of color by cattle and its influence on behavior, Journal of Dairy Sciencedoi.org
  4. Mota-Rojas, D. et al. (2021) Quality of death in fighting bulls during bullfights, Animalsdoi.org
  5. muleta(Diccionario de la lengua española, Real Academia Española)dle.rae.es

文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。

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