まずはこれだけ10分
下の「実演」にある原文(約500字)を読んで、100字以内で要約してみましょう。書けたら、100字の例と見比べます。まずは「何を削ったか」を意識するだけで十分です。
要約ノートで書く →字数で「入れるもの」が決まる
この節でわかること:60・100・150・200字で、それぞれ何を入れるか。
日本語の要約は、字数が決まった瞬間に、入れるものがほぼ決まります。先に字数を見て、次に「何を入れるか」を決めるのが、失敗しない順番です。何も決めずに書き始めると、あとで大幅に削ることになり、字数調整で苦労します。
| 字数 | 文の数 | 入れるもの |
|---|---|---|
| 60字 | 1〜2文 | 主張+いちばん大事な理由 |
| 100字 | 2文 | 主張+理由+結論 |
| 150字 | 3文 | 背景・主張・理由・結論 |
| 200字 | 3〜4文 | +譲歩・反論 |
どの字数でも、具体例は最初に削ります。たとえ200字あっても、具体例を細かく書く余裕はありません。「たとえば駅のホームでは」のような具体的な場面は、字数が許しても入れないのが基本です。
字数が増えるほど、入れるのは具体例ではなく、「背景」「譲歩」「反論」です。とくに200字では、「たしかに〜だが、しかし〜」の譲歩と反論が、要約の質を左右します。
実演:オリジナルの文章を要約する
この節でわかること:同じ文章を60字から200字まで要約すると、字数ごとに何が加わるか。
次の文章は、この解説のために書き下ろしたオリジナルです(494字)。論説文の基本どおり、導入→主張→理由→譲歩→結論の順に並んでいます。
駅のホームで電車を待つとき、多くの人が手のなかのスマートフォンに目を落としている。数分の待ち時間でさえ、私たちはメッセージを確認し、動画を眺め、ニュースをたどる。退屈という感覚は、ほとんど姿を消したかのようだ。 しかし、この退屈こそが、かつては思考の大切な入り口であった。何もすることがない時間には、人の心は自然にさまよい始める。昨日の出来事を思い返したり、まだ形にならない考えを転がしたりするうちに、ふと新しい発想が生まれることがある。ぼんやりとした時間は、無駄に見えて、頭の中を整理する作業の時間でもあったのである。 もちろん、スマートフォンが私たちに多くの便利さをもたらしたことは否定できない。移動中に学習できたり、遠くの人と連絡を取り合えたりするのは大きな利点である。だが、便利さの代わりに、私たちは自分自身と向き合う時間を少しずつ手放していないだろうか。 大切なのは、道具を捨てることではない。一日のうちに、あえて何も見ない時間を意図的につくることだ。待ち時間の数分を、画面ではなく自分の考えに使う。その小さな習慣が、情報にあふれた時代に自分の頭で考える力を守ることにつながるだろう。
まず要点を探します。主張は「ぼんやりする時間は考えを整理する大切な時間なので、あえて何も見ない時間をつくるべきだ」。理由は「退屈は新しい発想の入り口だから」。具体例は「駅のホームの様子」「昨日の出来事を思い返す」。譲歩は「スマートフォンの便利さ」。結論は「意図的に見ない時間をつくる」。
60字:主張+理由
スマートフォンで待ち時間の退屈が消え、考える時間も失われた。便利さを認めつつ、あえて何も見ない時間をつくることが大切だ。
譲歩(便利さを認めつつ)も、圧縮して1句で入れています。具体例は、すべて削りました。
100字:主張+理由+結論
スマートフォンの普及で待ち時間の退屈が消えたが、退屈は考えを整理し、新しい発想を生む大切な時間だった。便利さは認めつつも、あえて何も見ない時間を意図的につくり、自分の頭で考える力を守ることが大切だ。
「退屈は考えを整理し、新しい発想を生む大切な時間だった」が理由の核です。ここを落とすと、内容点が大きく下がります。
150字:背景を足す
スマートフォンの普及で人は待ち時間にも画面を見続け、退屈が姿を消した。しかし、ぼんやりする時間は、考えを整理し新しい発想が生まれる入り口だった。便利さは否定できないが、自分と向き合う時間を手放していないか。道具を捨てるのではなく、あえて何も見ない時間をつくり、自分の頭で考える力を守るべきだ。
冒頭に、背景「人は待ち時間にも画面を見続け、退屈が姿を消した」を足しています。「〜ていないか」の問いかけは、筆者の疑問をそのまま残した形です。
200字:譲歩と具体的な言葉を足す
スマートフォンの普及で、人は待ち時間のような短い時間にも画面を見続け、退屈が姿を消した。しかし、退屈でぼんやりする時間は、頭の中を整理し、新しい発想が生まれる大切な入り口だった。移動中に学習できるなど便利さは否定できないが、その代わりに自分と向き合う時間を手放していないか。道具を捨てるのではなく、あえて何も見ない時間を意図的につくり、情報にあふれた時代に自分の頭で考える力を守ることが大切だ。
「移動中に学習できるなど」という、便利さの一例を1つだけ残しました。譲歩の中身を1つだけ入れると、200字らしい厚みが出ます。
削る優先順位
この節でわかること:字数に収まらないとき、何から削るか。
字数を減らすときは、削る順番を決めておくと迷いません。次の順番で削り、最後まで残すのは主張と理由です。
- 具体例(場面・エピソード・たとえ話)
- 数字・固有名詞(必要なものだけ1つ残す)
- 比喩・強調の表現(「まるで〜」「きわめて」)
- 修飾する語(形容詞・副詞)
- 譲歩(字数が厳しければ、1句に縮める)
- 背景の説明
逆に、字数が余るときは、上の逆順で足します。まず背景、次に譲歩、そのあとに修飾を戻します。具体例を足すのは、最後の手段です。
10字だけ削りたいときは、「〜することができる」を「〜できる」に、「〜ということ」を「〜こと」に。1か所で3〜5字減ります。3か所直せば、10字は簡単に減らせます。
体言止め・「〜こと」・「〜という点」
この節でわかること:文末を変えるだけで字数が減る、圧縮の型。
日本語は、同じ内容でも文末の作りで字数が大きく変わります。次の表は、よく使う圧縮の型です。
| 長い形 | 短い形 |
|---|---|
| 〜ということが重要である | 〜ことが重要だ |
| 〜することができる | 〜できる |
| 〜であると考えられている | 〜とされる |
| 〜という点で優れている | 〜点で優れる |
| 〜を行うことによって | 〜により |
体言止め(名詞で文を終える)も便利です。「退屈は、思考の入り口である。」を、「退屈は思考の入り口。」とすると4字減ります。ただし、要約は常体(だ・である)で書くのが基本です。体言止めは1〜2文までにとどめましょう。多用すると、メモ書きのようになります。
体言止めを使いすぎると、「幼い」「メモのようだ」と読まれることがあります。どこまで使ってよいかは、学校や大学、採点者によっても違います。先生に聞いたり、過去問の解答例を見たりして確認してください。
指示語・接続の処理
この節でわかること:「これ」「その」「しかし」を、要約でどう扱うか。
原文には、「これ」「それ」「こうした」などの指示語がよく出ます。要約の中で指示語を使うと、何を指すのか分からなくなる危険があります。指示語は、中身に置き換えて書きましょう。
- 退屈は思考の入り口だった。この時間を守るべきだ。→ 退屈な時間は思考の入り口なので、守るべきだ。
- これは大切だ。それを守るべきだ。
接続語も、要約では削れることが多いです。「そして」「また」「さらに」は、順番が明らかなら削ってかまいません。ただし、「しかし」「だから」「なぜなら」は残します。論理の骨組みだからです。
| 接続語 | 要約での扱い |
|---|---|
| そして・また・さらに | 削ってよい |
| たとえば | 具体例と一緒に削る |
| しかし・だが | 残す(逆接は要点) |
| だから・したがって | 残す、または「〜ため」で圧縮 |
| つまり・要するに | 結論の前に残してもよい |
対比・因果・譲歩の圧縮表現
この節でわかること:対比・因果・譲歩を、半分近い字数で書く型。
要約でよく使う関係は、対比・因果・譲歩の3つです。この3つを圧縮する型を持っていると、字数の壁を越えやすくなります。
| 関係 | 圧縮の型 |
|---|---|
| 対比 | AはX、一方BはY → AがXなのに対し、BはY |
| 因果 | XなのでYだ → XのためY / XによりYが生じる |
| 譲歩 | たしかにXだが、Yだ → XはあるにせよY |
| 逆接 | Xだが、Yだ → Xだが、Y(一文にまとめる) |
くわしく:圧縮の実例中級
対比:「昔の人は待ち時間に空を見ていた。今の人は待ち時間に画面を見る。」(31字) → 「待ち時間に、昔は空を、今は画面を見る。」(19字)
因果:「退屈な時間があるので、頭の中が整理され、その結果として新しい発想が生まれる。」(38字) → 「退屈で頭が整理され、新しい発想が生まれる。」(21字)
譲歩:「たしかにスマートフォンは便利だ。しかし、考える時間が失われている。」(33字) → 「便利ではあるが、考える時間が失われた。」(19字)
どの例も、半分近い字数になっています。「接続語を減らし、動詞をつなげる」のが、共通のコツです。
常体で統一する
この節でわかること:文体をそろえるだけで、字数も減点も減らせる理由。
要約は、原文が「です・ます調」でも、「だ・である調(常体)」で統一します。字数が減るうえ、文体が混ざることによる減点も避けられます。
| 悪い例 | 直した例 |
|---|---|
| 〜と述べています。だが〜 | 〜と述べている。だが〜 |
| 筆者は〜だと言っている | 筆者は〜だと述べる |
| 〜なんだと思う | 〜だと考えられる |
また、「筆者は〜と考える」を毎文つける必要はありません。最初の文に一度書けば、あとは筆者の主張として読まれます。字数の節約にもなります。
よくある悪文と直し方
この節でわかること:日本語の要約で起きやすい6つの悪文と、その直し方。例はすべてオリジナルです。
- スマートフォンの普及で、待ち時間にも画面を見るようになり、退屈と考える時間が減った。
- スマートフォンが普及したことによって、人々は待ち時間にも画面を見るようになり、その結果として退屈を感じる機会が減り、考える時間も少なくなったということが指摘されている。
| 悪い例 | 直した例と理由 |
|---|---|
| これは重要だ。それが理由である。 | 「退屈は重要だ。発想が生まれるからである。」指示語を中身に置き換える |
| 駅のホームで昨日を思い返す時間が大切だ。 | 「ぼんやりする時間が大切だ。」具体例を削り、上位の言葉にする |
| 筆者の主張は、退屈が大切である。 | 「筆者の主張は、退屈が大切だということだ。」主語と述語のねじれを直す |
| 筆者は退屈を評価するが、私もそう思う。 | 「筆者は退屈を評価する。」自分の意見を消す |
| 便利だが、便利だが、考える時間が… | 「便利だが、考える時間が…」同じ語の繰り返しをやめる |
悪文の多くは、字数を詰めようとして、逆に読みにくくなることから起きます。字数を守ることと、読みやすさを守ることは、両立できます。詰めすぎたと感じたら、一文を切って、接続語を1つ足してください。
練習のしかた:60字→100字の階段
この節でわかること:150字→100字→60字と削りながら、「何を残すか」の感覚を鍛える練習。
- 原文を読む(またはTED-Edを観る)5分
主張・理由・具体例・譲歩に印をつけます。動画の場合は、話の流れを3〜5コマに分けてメモします。
- 150字で書く5分
まず余裕のある字数で、要点を全部入れて書きます。
- 100字に削る4分
「削る優先順位」の順に削り、何を削ったかをメモしておきます。
- 60字に削る3分
譲歩を1句に縮め、主張と理由を中心に残します。
- 要約ノートで採点5分
字数点は自動で採点されます。構成・表現は「はい/だいたい/いいえ」で振り返ります。
このやり方のよい点は、削った内容が記録に残ることです。100字にしたとき、何を捨てたかを見れば、自分の「大事だと思う基準」が見えてきます。
くわしく:動画を使った字数練習初級
動画で練習するときは、次の3本(TED-Ed・5〜6分)から始めましょう。内容は観て確かめてください。日本語の要約を書いたら、公式の字幕やトランスクリプトで答え合わせをします(本サイトは字幕を載せていません)。答え合わせの方法は、TED・TED-Edで要約力を鍛えるで説明しています。
60字要約の練習に:TED-Edの3本
TED-Ed✓ 視聴済5:45ぐっすり眠ると、体と頭に何が起こる?
TED-Ed✓ 視聴済5:03甘いものがやめられない理由は、脳にあった
TED-Ed✓ 視聴済5:05座りっぱなしが体によくない本当の理由
3本とも、タイトルから「〜が体や脳にどう影響するか」という因果の型が予想できます。原因→結果の矢印を先に描いておくと、60字にまとめやすくなります。