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日刊原田英語 Harada Eigo Daily
COLUMN 第12回 標準 読了 4分

Mazelingo|日本語を混ぜるほど、英語を訳さなくなる

はらだコラム

日本語の文章の一部を英語に差し替えるツール、Mazelingo(マゼリンゴ)が話題になっています。日本語を混ぜるのに、英語を英語のまま読む練習になる。逆のことを言っているように聞こえるこの2つが、どこでつながっているのかを書きます。

監修:原田高志(原田英語.com)

「英語を英語のまま理解する」。一度は聞いたことがある言い方だと思います。でも、いざ「それはどういう状態ですか」と聞かれると、答えにくい言葉でもあります。

2026年8月16日、Xでまさにその質問が投げられました。「英語を英語のまま捉えるってなんなの」。

2日後の8月18日、個人の開発者であるとよふくさん(@Yeq6X)が、この質問を引用しながら自作のツールを見せました。Mazelingo(マゼリンゴ) です。やっていることは、ひとことで言えば日本語の文章の一部を英語に差し替える、それだけです。この投稿は、いまのところ1900万回以上見られています。

日本語を混ぜるのに、英語を英語のまま読む練習になる。逆のことを言っているように聞こえませんか。今日は、この2つがどこでつながっているのかを書きます。

まず、このツールが何をしているか

Mazelingo のページに文章を貼り付けると、そのうちのいくつかの文が英語に変わって返ってきます。スライダーで英語の割合を動かせて、英語の文をクリックすると日本語に戻ります。Web版のほかにChromeの拡張機能版もあり、拡張機能のほうはLLMのAPIキーを自分で用意する必要があります。8月18日には、英語と日本語だけでなく、中国語・韓国語・フランス語・ドイツ語・ロシア語の相互変換にも対応したと告知されました。

原田英語.comに書いたくわしい解説で挙げた例を、もう一度出します。元の日本語はこれです。

昨日の会議は延期になった。クライアントがもう少し時間がほしいと言ってきたからだ。おかげで来週まで準備の余裕ができた。正直に言えば、これは悪い知らせではない。

英語を2割ほど混ぜると、こうなります。

昨日の会議は延期になった。The client asked for more time. おかげで来週まで準備の余裕ができた。To be honest, this is not bad news at all.

ここで見てほしいのは、英文の中に日本語が1文字も入っていないことです。「クライアントがもう少し時間を ask してきた」のような混ぜ方をしていません。文をまるごと入れ替えています。

この違いは大きいです。単語だけを英語にした文は、骨組みが日本語のままなので、英語の語順を通る練習になりません。文ごと入れ替われば、英文は英文として最後まで残ります。

動画で見る

「英語を英語のまま捉えるってなんなの」という問いに、作者本人が自作ツールで答えた投稿 (@Yeq6X(とよふく🎍Toyofuku)) 引用元は、らいぷにっつさん(@harigame_)が8月16日に書いた一行です。この投稿だけで1900万回以上見られています。

「英語を英語のまま」は、3つに分けると急に具体的になります

この言葉が分かりにくいのは、日本語がまったく浮かばない不思議な境地のように語られがちだからです。私はそうは思っていません。実際に起きているのは、次の3つです。

① 前に戻らずに読める。後ろから訳し上げず、左から右へ、出てきた順に意味を積んでいける状態です。

② 語がそのままイメージに届く。apple を見て、いったん「りんご」を経由してから果物を思い浮かべるのではなく、apple から直接あの果物に届く状態です。

③ 意識しなくても読める。読みながら別のことを考えられるくらい、処理が自動になっている状態です。

3つに分けると、何をすれば近づくのかが見えてきます。混ぜ読みが直接効くのは①と②です。③は、量と時間でしか手に入りません。逆に言えば、③のために毎日読み続けられるかどうかが、いちばん大きな分かれ目になります。

なぜ、日本語を混ぜると訳さなくなるのか

訳しながら読むとき、頭の中はこの順番で動いています。

英文を見る → 語順を組み替える → 日本語の文を作る → やっと意味が分かる

混ぜて読むと、順番が入れ替わります。

前の日本語で「次はこういう話だ」と分かっている → 英文を見る → その形が、もう持っている意味にくっつく

意味が先で、形があとです。意味を先に渡してしまえば、訳す工程は起きようがありません。さっきの例で言えば、「会議が延期になった」と読んだ直後に The client asked for more time. が来ます。相手が時間を求めてきたのだろう、という見当は、英文を見る前についています。だから ask for を「求める」と訳す必要がなく、すでにある場面に、英語の形をかぶせるだけで済みます。

この「母語の文章に、外国語を織り込む」やり方には名前が付いていて、diglot weave(二言語を織り込む)と呼ばれています。1968年6月、人類学者のロビンス・バーリングが Language Learning という学術誌に出した Some Outlandish Proposals for the Teaching of Foreign Languages(外国語教育へのいくつかの突飛な提案、第18巻61〜76ページ)という論文までさかのぼります。学習者の母語を教室から追い出すのではなく、外国語のほうを母語の文章の中に織り込んでいく。読み手がすでに持っている母語の力を、意味を支える足場として使ってしまう、という提案でした。58年前の話です。

ただし、バーリングが織り込むと言ったのはでした。母語の文の中の単語を、少しずつ外国語に替えていく方式です。さきほど「骨組みが日本語のままでは、英語の語順を通る練習にならない」と書いたのは、まさにこの方式のことです。Mazelingoは、その織り込む単位を語から文に上げています。考え方はバーリングのもの、替えたのは単位、そして誰でもその場でできるようにしたところが新しい、ということになります。

98%という数字が、この話の裏側にあります

読解の研究に、よく引かれる数字があります。辞書を引かずに英文を十分に理解するには、出てくる語の98%くらいを知っている必要がある、というものです。Hu と Nation が2000年に Reading in a Foreign Language に出した研究から広まりました。

98%というのは、50語に1語しか知らない語がないということです。かなり厳しい数字です。

ただし、この数字は割り引いて聞いてください。実際に試したのは80%・90%・95%・100%の4つで、98%はそこから見積もった数字です。参加者は66人でした。あとから同じ実験をやり直した研究もあり、結果はまちまちです。決着はついていません。

それでも、多読が続かない理由の説明にはなっています。自分に合う本を探すと内容が幼くて退屈になり、読みたい記事を開くと知らない語が多すぎて止まる。この板挟みで、たいてい終わります。

混ぜて読むと、この板挟みから出られます。読みたい記事のほうを、自分が読み切れる形に加工してしまうからです。難しい記事のまま、知らない語の割合だけを下げられます。

気をつけることが、3つあります

便利なぶん、外し方もはっきりしています。

① 日本語だけ拾って、英文を飛ばす。これが最大の落とし穴です。日本語だけ読んでも話の筋は分かってしまうので、英文を見ずに進めます。対策は単純で、英文が来たら目を止めること。できれば小声で読みます。「今日は英文を読んだ気がしないな」と思った日は、英語の割合を10%上げてください。

② 「分かった」と「覚えた」を混同する。文脈から意味を当てられることと、その語を自分で使えることは別です。対策は、1回の読書で気になった表現を3つだけメモすること。翌日、その3つを使って英作文を1文ずつ書きます。入れたものを出すところまでやって、やっと自分の語になります。

③ 試験は100%英語だということ。共通テストも英検も、日本語は混ざってきません。この道具は、いつか置く日を決めて使ってください。週に1回、英語の割合を10ポイントずつ上げていけば、20%から始めて1か月ほどで60%に届きます。そこから先は、混ぜる量を減らしていく期間です。試験の3か月前には、この道具なしで読める状態にしておきたいところです。

今日の英語のひとかけら

Keep reading, even if you don't get every word.

全部の単語が分からなくても、読み続けてください。

keep + -ing で「〜し続ける」。keep to read とは言いません。even if は「たとえ〜でも」で、まだ起きていないことにも使えます。get は understand のくだけた言い方で、会話ではこちらのほうがよく聞きます。I don't get it. なら「分からない」です。

このツールが作ってくれるのは、英語脳そのものではないと思っています。英語脳ができるまで走り続けるための、助走路です。走るのは自分で、距離を稼ぐのも自分です。

英語を英語のまま読めるかどうかは、生まれつきの才能では決まりません。これまでに読み切った量で決まります。日本語という足場を使ってでも、まず最後まで読み切ってしまうこと。足場は、いつでも外せます。

明日、これをやってみてください。読みたい記事を1本選ぶ。英語を20%で混ぜる。途中でクリックせずに、最後まで読み切る。読み終わってから戻って答え合わせをして、気になった表現を3つだけメモする。ここまでで15分ほどです。

予測がずれていたところが、そのまま伸びしろです。

原田高志

よくある質問

英語の割合は、何%から始めればいいですか。

自分にちょうどいいと思う数字より、少し低めから始めてください。読み切れずに閉じてしまった日は、学べた量がゼロになります。英検3級のあたりまでなら10〜20%、準2級で高1・高2なら20〜30%、2級で共通テストを受けるなら30〜45%が目安です。物足りないくらいで正解です。

学校の教科書や、入試の過去問にも使っていいですか。

使わないでください。教科書は、1文ずつ構造を確かめる時間です。過去問は、本番と同じ100%英語で解くから意味があります。この道具の置き場所は、そのどちらでもありません。授業や過去問の時間はそのままにして、その外側にある「読む時間の総量」を増やすために使います。

貼り付けた文章は、どうなりますか。

Mazelingoのページには、入力した文章は翻訳のために LLMのAPIへ送信されます と書かれています。人に見せられない文章は貼らないでください。個人情報、友達とのやりとり、学校の内部の書類は避けます。ニュース記事やブログのように、もともと公開されているものを使うのが安全です。