英語になった日本語|kawaii も「班長」も通じます
はらだコラム 第4回
kawaii は2014年にコリンズ英語辞典の見出し語になりました。でも今日いちばん驚いてほしいのは、そこではありません。英語で「大ボス」を意味する head honcho の honcho は、日本語の「班長」です。気づかれないまま英語になった日本語を、そのまま使える例文つきで3つ紹介します。
監修:原田高志(原田英語.com)
「その服、kawaii ね」。これを英語のネイティブが言っても、いまはもう普通のことです。kawaii は2014年に、イギリスのコリンズ英語辞典に正式な見出し語として載りました。cute という単語がちゃんとあるのに、わざわざ日本語の音のまま英語に入っていったのです。
ただ、今日いちばん面白いのは、そこではありません。英語には、日本語から来たと気づかれないまま使われている単語があります。たとえば、会社の大ボスを指す head honcho の honcho。これ、日本語の「班長」です。
cute では足りなかったから、kawaii が入った
コリンズ英語辞典に載っている kawaii の説明は、だいたいこんな内容です。「明るい色づかいと、子どもっぽい見た目のキャラクターを特徴とする、かわいらしさを重んじる日本の芸術・文化のスタイル」。
読んで分かるとおり、これは cute の言いかえではありません。cute は見た目の話です。kawaii のほうは、アニメやキャラクターグッズが背負ってきたもの全部が、まとめて入っています。一語で説明しきれないものを説明するために、辞書は一語をまるごと借りてきたわけです。
オックスフォード英語辞典にも kawaii の項目があります。そこに載っている英語での最も古い使用例は、1965年のニューヨーク・タイムズです。使われはじめてから辞書に入るまで、半世紀かかっています。言葉が英語の市民権を得る速さは、思っているよりずっとのんびりしています。
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気づかれていない日本語、3語
ここからが本題です。英語のネイティブが、日本語だと知らないまま使っている単語を3つ。どれも今日そのまま使えます。
honcho(責任者、ボス)= 班長
班(はん)と長(ちょう)です。第二次大戦のころに日本語に触れたアメリカの軍人が、覚えて持ち帰りました。いまは head honcho の形で「いちばん偉い人」を指します。
▼ Who's the head honcho around here?(ここの責任者、どなたですか)
tycoon(大物実業家)= 大君(たいくん)
もとは将軍の呼び名です。1857年ごろに英語へ入り、南北戦争のころのアメリカで「大物」の意味で流行りました。リンカーンは、側近たちから the Tycoon と呼ばれていました。その後、1920年代のジャーナリズムで「けた外れの金持ちの実業家」という、いまの意味に落ち着きます。
▼ a tech tycoon(IT業界の大物)
skosh(ちょっとだけ)= 少し
戦後の日本にいたアメリカ兵が持ち帰り、1950年代のアメリカで広まりました。「すこし」の u が落ちて「スコシュ」になっています。耳で覚えた形が、そのまま英語になったわけです。
▼ Just a skosh more, please.(もうちょっとだけお願いします)
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2024年、オックスフォードは日本語を23語まとめて入れた
2024年3月、オックスフォード英語辞典が日本語由来の単語を23語、いっぺんに追加しました。isekai(異世界)、onigiri、donburi、katsu、takoyaki、okonomiyaki、karaage、tonkatsu、santoku(三徳包丁)、kintsugi(金継ぎ)、omotenashi、mangaka、tokusatsu(特撮)などです。
面白いのは内訳です。23語の半分以上が、食べ物と料理の言葉でした。言葉が国境を越えるときの入り口は、思想でも文学でもなく、たいてい食卓なのだと思います。
この追加は、オックスフォード大学と東京外国語大学の共同作業で進められたものです。日本語の側から「この語はもう英語として使われている」と示した結果でもあります。
同じことが、日本語の中でも起きています
逆方向も見ておきます。「エモい」は emotional から。「バズる」は buzz から。「リア充」の「リア」は real です。英語の単語を材料にして、英語には無い日本語ができているわけです。
buzz はもともと「蜂がブンブンいう音」で、そこから「うわさが広がる」という意味になりました。日本語はそれを動詞にして「バズる」にしています。英語圏の人がこれを見たら、私たちが honcho を見たときと同じ顔をするはずです。
ついでに、英語だと思われがちな「ガチ」は英語ではありません。相撲の「ガチンコ」、つまり真剣勝負のことです。英語から来た言葉と、そうでない言葉を見分けるのは、慣れるとかなり楽しい遊びになります。
今日の英語のひとかけら
Who's the head honcho around here?
ここの責任者、どなたですか。
honcho は日本語の「班長」から来た英語で、その場でいちばん偉い人のことです。head をつけた head honcho の形でよく使います。くだけた言い方なので、かしこまった場面よりも、職場やお店で気軽にたずねるときに向いています。
辞書に載るかどうかを決めているのは、権威ではありません。たくさんの人が使い続けたかどうか、それだけです。kawaii も honcho も、誰かが許可を出して英語になったわけではなく、使う人が増えて、辞書があとから追いかけただけです。
この話は、授業の脱線によく使います。「英語のなかに日本語が入ってるんだよ」と言うと、だいたい生徒が顔を上げます。honcho の正体が班長だと言うと、たいてい笑いが起きます。
今日は一語だけ持って帰ってください。いちばん使いやすいのは skosh です。次に誰かに何かを足してもらうとき、Just a skosh more. と言ってみてください。
原田高志
よくある質問
kawaii は英語の会話でそのまま使って通じますか?
アニメやキャラクターの文化に触れている相手なら、まず通じます。ただし全員ではありません。初めて話す相手には That's so cute. のほうが確実です。kawaii を使うと「見た目がかわいい」だけでなく「日本のあの感じ」まで含んでしまうので、そこまで込めて言いたいときに選ぶ語だと考えてください。
head honcho は「頭」と「長」で意味が重なっていませんか?
重なっています。honcho だけで「責任者」なので、head は本来なくても通じます。それでも英語では head honcho の形がすっかり定着しています。日本語の「ATM機」や「チゲ鍋」と同じで、借りた語の中身が忘れられると、こういう重ね方が起きます。直そうとするより、そういうものとして覚えるほうが実用的です。