brain rot の意味は?172年前にソローが使っていた言葉
はらだコラム 第5回
2024年、オックスフォード英語辞典の『今年の言葉』に brain rot(脳が腐る)が選ばれました。SNSの見過ぎを自虐する若者言葉かと思いきや、最初に使ったのは19世紀の思想家ヘンリー・デイヴィッド・ソローだったそうです。
監修:原田高志(原田英語.com)
SNSを見すぎて頭がぼーっとする感覚を、英語圏の若い世代は brain rot(脳が腐る)と呼びます。2024年、この言葉がオックスフォード英語辞典の「今年の言葉」に選ばれました。
いかにも今どきの自虐スラングですが、実は172年前から使われていたそうです。しかも言い出したのは、森の中で静かに暮らしたことで知られる思想家、ヘンリー・デイヴィッド・ソローでした。
『ウォールデン 森の生活』に、すでに書かれていた
ソローが1854年に出した『ウォールデン 森の生活』に、brain rot はすでに登場しているそうです。森の小屋で2年ほど過ごした記録で、社会から距離を置いて簡素な暮らしを考えた随筆として知られています。
オックスフォード英語辞典によれば、この言葉の使用頻度は2023年から2024年で230%も増えました。Oxford University Pressの発表によると、Gen Z・Gen Alpha と呼ばれる世代のあいだで、SNS上に一気に広まったといいます。
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ソローが心配していたのは、スマホではありません
もちろん19世紀にSNSはありません。ソローが brain rot で言いたかったのは、骨の折れる考えより、手軽で単純な考えばかりがもてはやされる風潮への違和感だったようです。
手段は違っても、心配ごとの根っこは変わっていないのかもしれません。難しいことを考えるのが面倒になり、簡単で刺激の強いものに手が伸びる。その状態に名前を付けたくなる気持ちは、時代を超えて同じでした。
自分たちの習慣に、自分たちで名前を付けた
この言葉のおもしろさは、SNSを一番よく使う世代が、SNSの見過ぎを自分たちで名指しして流行らせたという点です。大人に「スマホばかり見て」と叱られて生まれた言葉ではありません。
自分の習慣を、外からではなく内側から見て、名前を付ける。案外、難しいことです。自分を客観視して言葉にできるというのは、皮肉に聞こえて、かなり知的な作業だと思います。
言葉は、出番が来るまで待っていることがある
brain rot は、生まれてから172年、ほとんど使われずに辞書の片隅で眠っていたはずです。それが、まったく想像もしなかった文脈で、突然必要とされました。
単語を覚えるとき、「こんな単語、いつ使うんだろう」と思うことがあります。その単語がいつ必要になるかは、覚えた本人にも分からない。ソロー自身も、172年後にSNSを説明する言葉として使われるとは、思ってもいなかったはずです。
今日の英語のひとかけら
A word can wait a hundred years for the world to catch up with it.
言葉というものは、世界がその意味に追いつくまで、100年待つこともある。
brain rot が172年の時を経て使われ始めたことに寄せた一文です。
流行語は、生まれてすぐ広まって、すぐ消えるものだと思われがちです。ですが brain rot のように、遠い過去の言葉が、まったく別の時代に呼び起こされることもあります。
単語帳に載っている、いま自分には縁のなさそうな単語も、172年後ではなく、もっと近い将来に急に必要になるかもしれません。そう考えると、覚えた単語を「今使わないから」で切り捨てるのは、少しもったいない気がします。
原田高志