AI時代に英語学習は必要か|訳せる時代に学ぶ3つの理由
はらだコラム
AI翻訳があるのに、なぜ英語を学ぶのか。「おはよう」が「攻撃せよ」と訳されて人が逮捕された事件、会話の返事が返るまでの0.2秒、ウェブの49.7%が英語だという数字。確かめられる事実を3つ並べて、それでも学ぶ理由を書きました。
監修:原田高志(原田英語.com)
「AIが訳してくれるのに、どうして英語を勉強するんですか」。この質問は、毎年決まって出ます。しかも、いい質問だと思っています。
昔なら「将来のため」で押し切れました。いまは押し切れません。スマホのカメラを向ければ看板が日本語になり、話しかければ相手の言葉で返ってきます。だから今日は、それでも学ぶ理由を3つだけ、確かめられる話に絞って書きます。
AIの訳が合っているかは、読める人にしか分かりません
2017年10月、ヨルダン川西岸で、ある建設作業員が逮捕されました。ブルドーザーの横で、コーヒーとタバコを持って笑っている自分の写真をFacebookに載せただけです。アラビア語で添えた言葉は「おはよう」でした。
Facebookの自動翻訳が、それをヘブライ語で「彼らを攻撃せよ」、英語で「彼らを傷つけろ」と訳しました。警察が動きました。数時間拘束されたあとに間違いだと分かり、Facebookは謝罪しています(The Jerusalem Post)。
この話のいちばん怖いところは、翻訳が間違えたことではありません。その投稿を、アラビア語が読める警官が一人も見ていなかったことです。原文を読める人が一人いれば、5秒で終わっていました。
機械翻訳の間違いは、「いかにも間違いらしい日本語」では出てきません。すらすら読める、自然な日本語で出てきます。だから、訳だけを読んでいる人には気づけません。
翻訳研究者のリン・ボウカー(カナダ・ラヴァル大学)は、これを 機械翻訳リテラシー と呼びました(Lynne Bowker、Jairo Buitrago Ciro 著 Machine Translation and Global Research、Emerald、2019年)。機械翻訳を使う人の側に、出てきた訳を判断する力が要る、という考え方です。いまも同じ名前の研究プロジェクトを率いています。
2025年の調査でも、二つの言語を使えるわけではない人ほど、訳を確かめる手立てがないまま機械翻訳に頼っていた、と報告されています(Toward Machine Translation Literacy、EMNLP 2025。博物館で452人を調べたものです)。
電卓と同じだと思っています。電卓があるから暗算はいらない、とはなりません。桁がひとつ違う答えが出たときに「おかしい」と思えるのは、自分でも計算できる人だけです。
会話には、0.2秒しかありません
会話には、翻訳を待つ時間がありません。
2009年、10の言語の会話を録画して、「はい・いいえで答える質問」に返事が返るまでの時間を測った研究があります(Stivers ほか、米国科学アカデミー紀要、2009年)。デンマーク語・日本語・韓国語・イタリア語・アメリカ英語・オランダ語・ラオ語に加えて、ナミビア、メキシコ、パプアニューギニアで話されている言語まで入っています。
平均でいちばん速かったのは日本語で 7ミリ秒、いちばん遅かったのはデンマーク語で 約470ミリ秒。いちばん多かった返事の間は、言語によって 0〜200ミリ秒の幅にありました。0.2秒です。
翻訳アプリを挟むと、どんなに速くても数秒かかります。返事が3秒遅れる会話を想像してみてください。それは会話ではなく、交互の発表になります。
相手が笑ったから言い方を変える。途中で「あ、そっちの意味か」と気づいて言い直す。会話でいちばん大事なところは、その0.2秒の中で起きています。機械に渡せるのは、言い終わった文だけです。
訳されたものしか読めない、という不自由
2026年6月の時点で、世界のウェブサイトの49.7%が英語で書かれていました。日本語は5.0%です(W3Techs。内容の言語が判別できたサイトの中での割合で、最新の数値はこのページで更新されています)。
AIに訳してもらえばいい、と思うかもしれません。ただ、訳してもらうには、まずそのページにたどり着く必要があります。検索に打ち込む言葉も、AIに出す指示も、言葉です。
日本語だけで検索しているあいだ、私たちが見ているのは5.0%の側です。英語でも検索できる人は、そこに49.7%を足せます。どちらの言語が優れているかという話ではなく、読める範囲の広さの話です。
訳が付くのを待つ人と、原文に当たれる人。この差は、英語が得意かどうかより先に、何を読めるかのところで開きます。
では、AIは使わないほうがいいのか
そんなことはありません。私は毎日使っています。
変わるのは、使う場所です。AIに代わりに読んでもらうのをやめて、一緒に読むほうへ動かす。それだけで、使うほど力が付きます。
- ・分からない英文を、まず自分で読む。それから訳を出して、自分の読みとどこが違うかを見る
- ・自分で書いた英文をAIに直させ、なぜ直したのかを英語で説明させる
- ・訳が出てきたら英文に戻り、その日本語がどの語から来たのかを指で追う
3つとも、順番は同じです。先に自分、あとでAI。逆にすると、その日にできることは増えますが、来年できることは増えません。
認知科学者のダグラス・ホフスタッターは、外国語を学ぶことをエベレストにたとえました。自分の足で登りたい人もいれば、ヘリコプターで頂上に降ろしてほしい人もいる。では、外国語という山ではどうだろうか、と問いかけています(The Atlantic「Learn a Foreign Language Before It's Too Late」2023年7月13日)。同じ主題で、2026年6月30日にもTIMEに書いています。
どちらを選んでもいいと思います。ただ、ヘリコプターで降ろしてもらった人は、山のことを知らないままです。私は、そこが惜しいと思っています。
今日の英語のひとかけら
You cannot check a translation you cannot read.
自分で読めない訳は、確かめようがありません。
a translation you cannot read は、translation のうしろに which や that が省かれた形です。「あなたが読めない訳」。今日の話を一文にすると、これになります。
英語を学ぶ理由が「AIに勝つため」だとしたら、たぶん勝てません。速さでも、覚えている語の量でも。でも、AIが出してきたものが正しいかどうかを決めるのは、これからも人のほうです。その判定ができる人になるための勉強だと考えると、私は少し気が楽になります。
そして、目の前の相手と0.2秒で笑い合えるのは、いまのところ人だけです。
明日やることは1つです。英文を見たら、まず3分だけ自分で読む。訳を出すのは、そのあと。この順番にするだけで、AIを使うほど読めるようになります。
原田高志
よくある質問
AI翻訳があるのに、英語を学ぶ意味はありますか。
あります。理由は3つです。①機械翻訳の間違いは自然な日本語で出てくるので、原文が読めない人には気づけません。②会話の返事は0.2秒前後で返るので、翻訳アプリを挟むと会話の形が崩れます。③ウェブサイトの49.7%は英語で、日本語は5.0%です(W3Techs、2026年6月)。
英語の勉強とAIは、どう組み合わせればいいですか。
先に自分、あとでAIの順にしてください。まず自分で読み、そのあとに訳を出して、自分の読みとどこが違うかを見ます。順番を逆にすると、その日にできることは増えますが、来年できることは増えません。