原田先生のとっておきの話

「ハミング」で副鼻腔炎が治る? X(Twitter)で250万回再生の論文が話題 ― 鼻づまり地獄からの解放は「鼻歌」だった ―

HUMMING × SCIENCE × YOGA

「ハミング」で副鼻腔炎が治る?
X(Twitter)で250万回再生の論文が話題

― 鼻づまり地獄からの解放は「鼻歌」だった ―

💬 あなたの鼻、ちゃんと通っていますか?

「もう何年も片方の鼻が詰まっている」「市販の点鼻薬が手放せない」「朝起きると口がカラカラ」――もし思い当たるなら、この記事は読む価値があります。2026年2月、X(旧Twitter)で250万回以上再生されたある投稿が、世界中の鼻づまり難民に衝撃を与えています。

きっかけは、テック系インフルエンサーの David Daines(@daviddorg)氏が2026年2月3日に投稿したこの一言でした。

🐦 @daviddorg(2026年2月3日)

「WOAH(うおお)。強めのハミングを1日1時間×4日間で、副鼻腔炎が永久に治るかもしれない。たったいま最初の1時間をやり終えたところ。鼻腔がパーンと開いて、声もクリアになった。メンテナンスは1日10分でOK」

リプライ欄は大騒ぎ。「1時間もハミングできるわけないだろ!」「30年間の鼻詰まり持ちだけど今20分経過、4日後に報告する!」「これ、インドのヨガで何千年も前からやってるやつでは?」――そして1週間後にはこんな報告も。

🐦 @Vinchanzo_18(2026年2月10日)

「ありがとう、4日間で人生変わった。朝起きたら鼻がスッキリ通ってる。奇跡だ」

バズったのはわかった。でも問題は「これ、本当に科学的根拠があるの?」ということ。調べてみたら、想像以上にしっかりした研究が出てきました。

🔬 元ネタの論文 ― Eby(2006)の症例報告

Daines氏が引用していたのは、George A. Eby が2006年に医学誌 Medical Hypotheses に発表した論文です。タイトルを訳すとこうなります。

「強いハミングを1日1時間行うことで
慢性副鼻腔炎を4日間で終息させた:
症例報告と、内因性一酸化窒素の刺激による
作用メカニズムの仮説」

この論文の内容をかいつまむと、こういうことです。

慢性副鼻腔炎(CRS)に苦しむ被験者が、低い音程(約130Hz)で強くハミングを行いました。初日は就寝前に1時間、翌日からは1日4回×各60〜120回のハミングを4日間継続。すると初日の翌朝には鼻がすっきり通り、4日目にはCRSの症状がほぼ消失したというのです。

なぜこんなことが起きるのか? カギを握るのが一酸化窒素(NO)という物質です。

💨 一酸化窒素(NO)― 鼻の中の「天然の殺菌ガス」

一酸化窒素と聞くと車の排気ガスを想像しますが、実はヒトの体内でも自然に生成される重要な物質です。1998年にノーベル生理学・医学賞の対象にもなりました。

特に注目すべきは、副鼻腔(顔の骨の中にある空洞)が体内最大のNO生成工場であるということ。健康な副鼻腔のNO濃度は20ppm以上にもなり、このNOには次のような力があります。

抗菌作用:細菌の増殖を直接阻害する

抗真菌作用:カビ(真菌)を殺す。200ppmでカンジダ・アルビカンスを4時間で100%死滅

抗ウイルス作用:ウイルスの複製を阻止する

繊毛運動の活性化:鼻腔内の「お掃除ブラシ」の動きを促進する

血管拡張作用:血流を改善し、粘膜の健康を保つ

つまり副鼻腔は、呼吸のたびにNOという「天然の消毒ガス」を鼻腔に供給する自前のディフェンスシステム。ところが副鼻腔炎になると、この換気が滞り、NOが行き届かなくなるのです。

📊 スウェーデンの研究が証明した「ハミングの威力」

Eby論文の科学的バックボーンになっているのが、スウェーデン・カロリンスカ研究所の Eddie Weitzberg と Jon Lundberg による2002年の研究です。この研究は世界的に権威のある American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine に掲載されました。

10名の健常者を対象にした実験で判明した事実が、これです。

15倍

ハミング時の鼻腔内NO量は
静かな呼気と比べて15倍に増加

さらに2003年の追跡研究では、副鼻腔と鼻腔をつなぐモデルで実験した結果、ハミング中に副鼻腔内の空気の96%が入れ替わることがわかりました。静かな呼吸ではわずか4%以下。つまりハミングは、副鼻腔の「換気」をとてつもなく効率化し、大量のNOを鼻腔に流し込む行為だったのです。

しかも、低周波(約130Hz)のハミングが最も効果的であることも確認されています。低い音で「ん〜〜〜」と振動させるのがポイントです。

🧘 実はインドでは何千年も前からやっていた

X のリプライで複数のインド系ユーザーが指摘していたのが、ブラマリ・プラーナーヤーマ(Bhramari Pranayama)です。

サンスクリット語で「蜂(Bhramari)」を意味するこの呼吸法は、まさにハミングそのもの。口を閉じて鼻から「ん〜〜〜」と蜂の羽音のような低い音を出しながら呼気する古代ヨガの技法です。

🏥 西洋医学の発見(2002年〜)

ハミングで鼻腔NOが15倍に増加

副鼻腔の換気が劇的に改善

NOの抗菌・抗真菌作用を確認

🙏 古代インドの知恵(数千年前〜)

ブラマリ呼吸法で心身を整える

副鼻腔の振動が治癒を促す

不安の軽減・集中力の向上

2019年にインドのプドゥチェリーで行われた臨床試験(60名の慢性副鼻腔炎患者を対象としたランダム化比較試験)では、ブラマリ・プラーナーヤーマを1日2回実践したグループは、通常治療のみのグループと比較して、SNOT-22スコア(副鼻腔炎の症状スコア)が39.13から24.79へ有意に改善。しかもこの効果は2週間目から現れ始め、12週まで持続しました。

古代の知恵が、現代のサイエンスで裏付けられたわけです。

🎯 実際のやり方 ― Eby論文に基づくプロトコル

では実際に、論文に記載されたやり方を整理してみましょう。

内容 頻度
1日目 就寝前に強いハミングを1時間連続 1回(約1,080回のハミング)
2〜5日目 各セッション60〜120回のハミング 1日4回(就寝前含む)
維持期 症状消失後のメンテナンス 1日10分程度

🎵 ハミングのコツ(論文より)

① 口を閉じ、低い音程(男性は「ん〜」、女性はやや高くてもOK)で強く鼻に振動を感じるように

② 振動は鼻腔内で最大限感じられるが、めまいが出ない程度の強さで

③ 1回のハミングは呼気の長さ分(数秒間)、吸って→ハミングを繰り返す

④ 鼻の奥がブブブと振動する感覚があれば正解

⚠️ 冷静に見るべきポイント ― 限界と注意点

ここまで読むと「すぐやろう!」となりそうですが、英語教師としても科学リテラシーの大切さはお伝えしたい。冷静に押さえるべき点があります。

🔍 知っておくべき限界

① N=1の症例報告である
Eby論文は著者自身が被験者の「たった1人の体験談」です。正式な臨床試験(RCT)ではありません。掲載誌の Medical Hypotheses は「仮説提唱」に特化したジャーナルであり、その性格上、通常の査読付き論文より慎重に読む必要があります。

② ハミングでNOが増えること自体は堅い科学
一方、カロリンスカ研究所のWeitzberg & Lundberg(2002)の研究は、一流誌に掲載された確かなエビデンスです。ハミングで鼻腔NOが15倍になることは再現性のある事実です。

③ 「NO増加」と「副鼻腔炎の治癒」の間にはまだギャップがある
NOに抗菌・抗真菌作用があることは確かですが、ハミングで生成されるNOが治療レベル(200ppm以上)に達するかどうかは、まだ完全には検証されていません。

④ 副鼻腔炎の種類によって効果は異なる可能性
鼻ポリープによる重度の閉塞がある場合、そもそも副鼻腔の換気口(自然口)が塞がっているため、ハミングの効果は限定的かもしれません。

とはいえ、Daines氏のポスト内での言葉を借りれば――

「① 効果の大きさが顕著、② 安価でリスクが極めて低い介入、③ 厄介な問題を解消する可能性がある、④ メカニズムに合理的な根拠がある(NO → 抗真菌)。こういう条件が揃っていたら、試してみる価値はあるだろう

これは妥当な判断です。副作用がほぼゼロで、コストもゼロ。もちろん、重度の副鼻腔炎や鼻ポリープがある方は耳鼻科医の診察が優先ですが、補助的に試してみる分には極めて合理的と言えます。

🌍 副鼻腔炎は「現代の隠れた国民病」

そもそも副鼻腔炎(慢性)は、世界的に見ても驚くほど多い疾患です。

約8.7%

世界全体の有病率
(2024年メタ分析)

約12%

米国の自己報告
有病率

1〜6%

日本の推定有病率
(CT/内視鏡基準)

日本でも慢性副鼻腔炎は増加傾向にあり、特に好酸球性副鼻腔炎という治りにくいタイプが近年増えています。抗生物質の長期使用は耐性菌のリスクを高め、手術をしても症状が完全に消えないケースも少なくありません。だからこそ、「コストゼロ・副作用ゼロ」の補助療法に注目が集まるのは自然なことです。

📚 英語教師の視点 ― この話題で学べる英語表現

最後に、この話題に出てきた「使える英語表現」を拾っておきましょう。

英語表現 意味 ポイント
case report 症例報告 臨床試験(clinical trial)とは別物
N=1 被験者が1名 科学的な「エビデンスレベル」を示す表現
plausible mechanism もっともらしいメカニズム plausible = 「ありえる」。possibleより一段上
low-risk intervention リスクの低い介入 医療分野の超頻出フレーズ
escape velocity 脱出速度(転じて「広まる勢い」) Daines氏が研究の普及について使った比喩表現
don’t get my hopes up 期待させないでくれ 日常会話で使える!リプライで実際に登場

中でも “plausible” は学術英語で非常によく出てくる単語です。「possible(可能)」と「probable(おそらく)」の中間に位置する絶妙な語感を持っています。日本語では「もっともらしい」「妥当な」「ありそうな」と訳されますが、科学的な議論では「一見理にかなっている(が確定ではない)」というニュアンスで使われます。

✨ まとめ ― 鼻歌が人生を変えるかもしれない

整理しましょう。

ハミングで鼻腔内のNO(一酸化窒素)が15倍に増加する(2002年・スウェーデン)

NOは抗菌・抗真菌・抗ウイルス作用を持つ「天然の殺菌ガス」

2006年の症例報告で、4日間の強いハミングにより慢性副鼻腔炎の症状が消失

インドの古代ヨガ「ブラマリ・プラーナーヤーマ」は、まさにこの原理の実践

2019年の臨床試験でも、ブラマリ呼吸法で副鼻腔炎の症状スコアが有意に改善

ただしエビデンスはまだ発展途上。大規模RCTは今後の課題

コストゼロ、リスクほぼゼロ。「試す価値がある」は合理的な判断

「たかが鼻歌」が250万回も再生されたのは、それだけ多くの人が鼻づまりに苦しんでいるから。そして「薬に頼らず自分の体で治せるかもしれない」という希望は、何よりも魅力的だったからでしょう。

今夜、寝る前にちょっとだけ「ん〜〜〜」と唸ってみてください。あなたの副鼻腔で一酸化窒素がブワッと放出される、その瞬間を想像しながら。科学って、意外と身近なところに転がっているものです。

📖 参考文献

Weitzberg E, Lundberg JO. “Humming Greatly Increases Nasal Nitric Oxide.” Am J Respir Crit Care Med. 2002;166(2):144-145.

Eby GA. “Strong humming for one hour daily to terminate chronic rhinosinusitis in four days.” Med Hypotheses. 2006;66(4):851-854.

Lundberg JO. “Nitric Oxide and the Paranasal Sinuses.” Anat Rec. 2008;291(11):1479-1484.

Bakshi SS, et al. “The Efficacy of Yogic Breathing Exercise Bhramari Pranayama in Relieving Symptoms of Chronic Rhinosinusitis.” Int J Yoga. 2019;12(2):120-123.

Taneja MK. “Nitric oxide Bhramari Pranayam and deafness.” Indian J Otol. 2016;22(1):1-3.

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