しかしアメリカのESL教育現場では、まったく違うアプローチが主流です。
動詞を「5つの箱」に無理やり押し込むのではなく、個々の動詞が持つ固有の「パターン」を辞書的に学ぶ。
──その数、約30パターン。これがアメリカ式「Verb Pattern」の世界です。
1日本の「5文型」とアメリカの「Verb Pattern」──根本的な発想の違い
まず、両者の発想の違いを明確にしましょう。日本の5文型は「文の構造を5つに分類する」というアプローチ。一方、アメリカのVerb Patternは「動詞ごとに使えるパターンを覚える」というアプローチです。
SV / SVC / SVO / SVOO / SVOC
全ての英文をこの5つに当てはめる
→ 演繹的(トップダウン)
約30種類の動詞パターン
各動詞がどのパターンで使えるかを辞書で確認
→ 帰納的(ボトムアップ)
たとえるなら、日本式は「全ての生物を5つの界に分類する」という生物学的分類法。アメリカ式は「この動物はどんな環境で、何を食べ、どう行動するか」を一匹ずつ観察する動物行動学。どちらも「英語の構造を理解する」という目的は同じですが、切り口がまったく異なります。
ここで重要なのは、「5文型が間違い」ではないということ。5文型は英語の大枠を掴むには有効です。しかし、実際に英語を「使う」段階になると、5文型だけでは説明できない現象が大量に出てくる。そこをカバーするのがVerb Patternなのです。
2A.S.ホーンビーとは何者か──「学習者用辞書」の革命児
Verb Patternの体系を築いた人物──それがアルバート・シドニー・ホーンビー(A.S. Hornby, 1898-1978)です。イギリス生まれの英語教育学者で、実は日本と深い縁がある人物です。
BIOGRAPHY
A.S.ホーンビーの生涯と業績
驚くべきことに、Verb Patternの原点は「日本人の英語学習の困難」への観察から生まれたのです。ホーンビーは日本で約20年間教壇に立ち、日本人学生が「この動詞の後にはtoが来るのか、-ingが来るのか」で混乱する姿を見続けました。その経験から「動詞ごとに使えるパターンを明示すべきだ」という発想に至ったのです。
皮肉な歴史:ホーンビーは「日本人のために」Verb Patternを開発したのに、それを最も活用したのはアメリカのESL教育現場。一方の日本は、C.T.オニオンズの5文型分類をいまだに教え続けている──というのが現在の状況です。
3Verb Patternの全体像──約30パターンを体系的に理解する
ここからが本題です。Verb Patternとは具体的にどのようなものなのか。ホーンビーが体系化し、後に拡張された約30パターンの中から、日本人学習者にとって特に重要なものを中心に解説します。
大前提:Verb Patternは「文型」とは違います。「この動詞はこのパターンで使える」「この動詞はこのパターンでは使えない」という動詞ごとの”取扱説明書”です。同じ動詞でも複数のパターンを持つことが普通です。
カテゴリA:動詞+名詞句系(Verb + NP)
ここまでは5文型とほぼ対応しています。「なんだ、同じじゃないか」と思いましたか?ここからが本番です。
カテゴリB:5文型では分類不能──to不定詞・動名詞系
ここが核心です。日本の5文型では、”I want to go.” も “I enjoy swimming.” も同じ「第3文型(SVO)」に分類されます。しかしVerb Pattern的には、この2つはまったく別物。wantの後にはto不定詞しか来ない。enjoyの後には-ingしか来ない。この「動詞ごとの制約」を知らないから、日本人は “I enjoy to swim.”(×)のような間違いを犯すのです。
カテゴリC:that節・wh節・引用系
カテゴリD:使役・知覚・NP+不定詞/分詞系
カテゴリE:前置詞・副詞辞系
KEY INSIGHT
5文型 ≒ VP1〜VP5。残りの15パターン以上が「5文型の外」にある。
日本の5文型はVerb Patternの最初の5つにほぼ対応しています。つまり5文型は「約30パターンのうちの最初の5つ」しかカバーしていないのです。残りの大部分──to不定詞/動名詞の使い分け、that節の取り方、句動詞、知覚・使役構文──これらは5文型の「外」にあり、日本の教育では「例外」や「熟語」として断片的に教えられています。
Verb Pattern 主要動詞リスト
各パターンの代表的な動詞を一覧化。辞書で確認する際のガイドとしてお使いください。
このリストの使い方:上のリストを丸暗記する必要はありません。重要なのは「一つの動詞が複数のパターンを持つ」という感覚を掴むこと。たとえば ask は VP11(ask where…)、VP12(ask him that…)、VP14(ask him to do…)と3つ以上のパターンを持ちます。新しい動詞に出会ったら、OALDやLDOCEで「どのパターンを持つか」を確認する──その習慣が英語力を根本から変えます。
4具体例で実感!──5文型では説明できない英語の現実
理論はわかった。では、5文型とVerb Patternで実際にどれほど説明力が違うのか、具体例で体感してみましょう。
ケース①:suggest は「SVOO」で使えない問題
× suggestは「V + NP + to不定詞」パターンを持たない!
I suggested going to the doctor.(VP7: V + 動名詞)
5文型的には suggest も advise も「第4文型」に見えますが、suggest は advise と違い「V + NP + to不定詞」を許しません。5文型ではこの違いを説明できない。Verb Patternなら一目瞭然。
ケース②:explain の後に「人」を直接置けない問題
× explainは「V + NP + NP」(SVOO)パターンを持たない!
Please explain why it happened.(VP11: V + wh節)
tell me / show me とは違い、explain me とは言えない。「第4文型をとれる動詞」と「とれない動詞」を区別するのがVerb Patternの真骨頂。
ケース③:stop / remember / try──to と -ing で意味が変わる
VP9 パターン
I stopped smoking. = タバコを吸うのをやめた(中止)
I remembered locking the door. = 鍵をかけたことを覚えている(過去の行為)
I tried opening the window. = 試しに窓を開けてみた(実際に開けた)
5文型では両方とも「SVO」。しかし意味がまったく違う。Verb Patternでは VP6(to不定詞)と VP7(動名詞)を明確に区別するため、この違いが構造的に可視化されます。
ケース④:知覚動詞──原形・現在分詞・過去分詞で意味が変わる
I saw her cross the street.
I saw her crossing the street.
I saw the street blocked by police.
5文型では3つとも「第5文型(SVOC)」。しかしVerb PatternではVP15・VP16・VP17の3パターンに明確に分かれ、意味の違いが構造に反映されます。
5なぜアメリカのESL教育はVerb Patternを採用するのか
アメリカのESL(English as a Second Language)教育は、世界中から集まる移民・留学生を対象としています。そのため「すぐに使える実用性」が最優先。この環境が、Verb Patternアプローチとの相性を抜群にしています。
理由①:多国籍の学習者に「一つの文法体系」を教えるのが困難
アメリカのESLクラスには、スペイン語話者、中国語話者、アラビア語話者、韓国語話者…とあらゆる母語の学習者がいます。それぞれの母語の文法構造が異なるため、「5文型のような一律の枠組み」を教えてもピンとこない学習者が大量に出てくる。それよりも「この動詞はこう使う」「この動詞にはtoが来る」という個別具体的な情報の方が、母語に関係なく全員に役立つのです。
理由②:「辞書を引く力」を育てる教育哲学
アメリカのESL教育は「自立した学習者を育てる」ことを重視します。Verb Patternは学習者用辞書(OALD、LDOCEなど)の動詞エントリーに体系的に記載されているため、「辞書を引けばパターンがわかる」という自学自習のサイクルが回ります。
例:OALDで “suggest” を引くと──
suggest doing sth ✅
suggest (that)... ✅
suggest sth to sb ✅
のように、使えるパターンが一目でわかる。「SVOOだからsuggest me〜でもいいよね?」という間違いが起きません。
理由③:Communicative Language Teaching(CLT)との親和性
1980年代以降、アメリカのESL教育はCLT(コミュニカティブ・ランゲージ・ティーチング)が主流になりました。文法を「知識」として教えるのではなく、「コミュニケーションの中で文法を身につける」アプローチです。
Verb Patternは「この動詞をこの場面でこう使う」という実践的な単位なので、CLTの授業に自然に組み込めます。一方、5文型は抽象的すぎて「この場面でどう使うか」に直結しにくい。
理由④:コーパス言語学の発達
1990年代以降、大規模なコーパス(言語データベース)の発達により、「ネイティブが実際にどのパターンで動詞を使っているか」が数値で分析できるようになりました。この研究成果がVerb Patternの体系化をさらに精緻にし、ESLの教科書や辞書に反映されています。
まとめると:アメリカのESL教育がVerb Patternを採用する理由は、①多国籍対応、②自律学習促進、③CLTとの親和性、④コーパスによる裏付け──の4点。いずれも「実際に英語を使えるようにする」という実用主義が背景にあります。
6日本の「5文型」の功罪──何が良くて、何が限界なのか
ここで公平に、日本の5文型の「良い点」と「限界」を整理しておきましょう。Verb Patternを礼賛するだけでは片手落ちです。
5つだけなので、英語学習の入口として「英語の大枠」を掴むには最適。初学者の安心感にもつながる。② 読解力の基盤になる
長文読解で「この文のSはどれ?Vはどれ?」と分析する力は、5文型の訓練で鍛えられる。受験英語では特に有効。
③ 100年の実績
C.T.オニオンズが体系化して以来、日本の英語教育を支えてきた実績は無視できない。
to不定詞 vs 動名詞、句動詞、前置詞の選択…5文型では説明できないことが山ほどある。② 「分類する力」≠「使う力」
文型を分類できても、正しい英文を作れるとは限らない。分析と産出は別のスキル。
③ 動詞の個性を無視する
suggest と tell を同じ「第4文型」として扱うのは、リンゴとトマトを同じ「赤い食べ物」として扱うようなもの。実用場面では区別が必要。
結論:5文型は「英語の大枠を理解するための入門ツール」としては優秀。しかし「英語を実際に使うためのツール」としては不十分。理想は「5文型で大枠を掴み、Verb Patternで個々の動詞の使い方を深める」という二段階のアプローチです。
7Verb Patternを活用した最強の学習法──今日から始める3ステップ
ここからは実践編です。日本人学習者がVerb Patternの考え方を取り入れて、今日から英語力を上げるための具体的な方法を3ステップで紹介します。
最も即効性のある方法がこれです。OALD(Oxford Advanced Learner’s Dictionary)やLDOCE(Longman Dictionary of Contemporary English)を引いたら、意味よりも先に「パターン表記」を見る習慣をつけましょう。
recommend sth (to sb) ── この本を(人に)薦めるrecommend doing sth ── 〜することを薦めるrecommend (that)... ── 〜するよう薦めるrecommend sb to do sth ── ❌ この形は載っていない!→ つまり “I recommend you to read this.”(×)ではなく “I recommend reading this.”(✅)や “I recommend that you read this.”(✅)が正しいとわかる。
新しい動詞に出会ったら、意味と一緒に「どのパターンで使えるか」をノートに記録します。以下のようなフォーマットがおすすめ。
| 動詞 | 使えるパターン | 使えないパターン |
|---|---|---|
| suggest | V + -ing / V + that節 / V + NP | V + NP + to不定詞 ❌ |
| advise | V + -ing / V + NP + to不定詞 / V + that節 | ── |
| enjoy | V + -ing / V + NP | V + to不定詞 ❌ |
| explain | V + NP / V + NP + to sb / V + that節 / V + wh節 | V + NP + NP(SVOO)❌ |
ポイントは「使えないパターン」も記録すること。間違いの予防に直結します。
知識を「使える力」に変える最終段階です。動詞パターンを意識しながら瞬間英作文を行います。
① V + -ing:She suggested leaving early.
② V + that節:She suggested that we (should) leave early.
③ V + NP:She suggested an early departure.
一つの日本語に対して、使えるパターンを全て使って英作文する。これを繰り返すと、動詞パターンが無意識レベルで身につきます。
3ステップの循環
↓
ノートに記録・比較(STEP 2)
↓
瞬間英作文で体に入れる(STEP 3)
↓
また新しい動詞で STEP 1 へ
8おすすめ辞書・教材──Verb Patternが学べるリソース
Verb Patternを本格的に学ぶためのリソースを紹介します。「学習者用英英辞書」こそが最強の動詞パターン教材です。
Oxford Advanced Learner’s Dictionary(OALD)
Longman Dictionary of Contemporary English(LDOCE)
A.S. Hornby『A Guide to Patterns and Usage in English』
Cambridge Grammar of English(Carter & McCarthy)
無料で今すぐ始められる方法:OALDオンライン版(oxfordlearnersdictionaries.com)にアクセスし、普段よく使う動詞を10個引いてみてください。意味ではなく「パターン表記」に注目する。それだけで、英語の見え方が変わるはずです。
まとめ──「動詞から英語を見る」という発想の転換
日本の5文型は「文を分類する」ためのツール。
アメリカのVerb Patternは「動詞を使いこなす」ためのツール。
両者は対立するものではなく、補完し合うものです。
5文型で「英語の骨格」を理解し、
Verb Patternで「動詞の筋肉」を鍛える。
この二刀流こそが、日本人の英語力を次のレベルに引き上げる鍵です。
