やさしい英語で多読!【音声つき】

【やさしい英文de多読!】<55> Hantavirus: The Mouse-Borne Mystery That Started a Cruise Ship Crisis ハンタウイルス:クルーズ船を襲った「ネズミのウイルス」の正体 ~英文を楽しく&音声つきで読もう!~

原田英語マン
原田英語マン
今日のテーマは「ハンタウイルス」。クルーズ船で発生した感染、朝鮮戦争で名づけられた歴史、そして名優ジーン・ハックマンの妻の死——「ネズミのウイルス」をめぐる驚きの物語を読み解きます。

📖 英文(230 words)

In April 2026, a Dutch cruise ship called the MV Hondius left Argentina with 147 people on board. The ship was heading to the Canary Islands. But on April 11, one passenger died suddenly. Soon, more people got sick. By early May, three people had died, and several others were in the hospital. The cause was a virus that few people had heard of before — hantavirus.

Hantavirus is carried by mice and rats. People usually get sick when they breathe in dust from the urine, droppings, or saliva of infected rodents. The virus does not spread from person to person easily. However, one type called the Andes virus can sometimes pass between people in close contact. Scientists believe this is what happened on the cruise ship.

The name “hantavirus” comes from the Hantan River in Korea. During the Korean War in the 1950s, more than 3,000 American soldiers got a strange illness with high fever and bleeding. Doctors did not know the cause for many years. Finally, in 1976, a Korean scientist found the virus and named it after the river.

Most people recover from hantavirus, but the lung type can be deadly. Last year, the wife of the famous actor Gene Hackman died from it at home. Cleaning old houses where mice live can be dangerous. Always open windows first and use a wet cloth, not a broom.

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📝 重要語句

hantavirus:ハンタウイルス
a virus carried by mice and rats(ネズミが運ぶウイルス)
cruise ship:クルーズ船
a large ship for vacation travel(休暇旅行のための大きな船)
passenger:乗客
a person traveling on a ship, plane, or train(船・飛行機・電車に乗っている人)
rodents:げっ歯類
small animals like mice and rats with sharp front teeth(ネズミなど前歯の鋭い小動物)
droppings:糞
solid waste from animals(動物の固形の排泄物)
saliva:唾液
the liquid in your mouth(口の中の液体)
spread:広がる、感染する
to move from one place or person to another(ある場所や人から他へ移ること)
recover:回復する
to get better after being sick(病気の後によくなること)
deadly:命にかかわる
able to kill someone(人を死に至らせるほどの)
broom:ほうき
a brush with a long handle for cleaning floors(床掃除用の長い柄のついたブラシ)

🇯🇵 日本語訳

2026年4月、オランダ船籍のクルーズ船「MVホンディウス号」が乗客・乗員147名を乗せ、アルゼンチンを出港しました。目的地はカナリア諸島。ところが4月11日、一人の乗客が突然亡くなったのです。続いて、次々と体調を崩す人が現れ、5月初旬までに3名が死亡、数名が入院する事態となりました。原因は、ほとんどの人が耳にしたこともないウイルス——「ハンタウイルス」でした。

ハンタウイルスはネズミ類が運ぶウイルスです。感染したげっ歯類の尿や糞、唾液が乾いて舞い上がった粉じんを吸い込むことで、人間に感染するのが一般的です。基本的に人から人へはうつりにくいウイルスなのですが、「アンデスウイルス」と呼ばれる種類だけは、ごく近い接触のある人同士でまれに感染することが知られています。今回の船内感染も、このアンデスウイルスによるものと考えられています。

「ハンタウイルス」という名前は、朝鮮半島を流れる漢灘江(ハンタン川)に由来します。1950年代の朝鮮戦争中、3,000人以上の米兵が原因不明の高熱と出血を伴う病に倒れました。長年その正体は謎でしたが、1976年、ついに韓国人科学者がウイルスを発見し、川の名を冠して命名したのです。

ハンタウイルスに感染しても多くの人は回復しますが、肺に症状が出るタイプは命を落とす危険があります。昨年も、名優ジーン・ハックマン氏の夫人がこのウイルスで自宅で亡くなりました。古い家屋や物置の掃除には要注意。まず窓を開けて換気し、ほうきで掃かず、湿らせた布で拭き取るのが鉄則です。

🐭 コラム:「ネズミのウイルス」が世界を揺さぶる

たった一隻のクルーズ船から発生した感染が、十数か国の保健当局を動かしている——2026年5月、世界はそんな現実を目の当たりにしています。WHO(世界保健機関)が「世界的リスクは低い」と評価する一方で、なぜこれほど大きなニュースになっているのでしょうか。その背景には、ハンタウイルスの「知られざる素顔」があります。

🔸 史上初——クルーズ船でのハンタウイルス集団感染

クルーズ船での集団感染といえば、ノロウイルスや胃腸炎が代表的。記憶に新しいところでは、2020年に横浜港で隔離された「ダイヤモンド・プリンセス号」での新型コロナ感染がありました。しかし、ハンタウイルスがクルーズ船で広がった例は史上初。米ニューメキシコ大学のハンタウイルス研究者は「完全に予想外だった」と語っています。今回の感染源は、出港前にアルゼンチン・チリ・ウルグアイを4か月間旅行していたオランダ人男性とみられ、彼が現地でげっ歯類のウイルスに感染し、船内で人から人へと広がった可能性が指摘されています。

🔸 朝鮮戦争と「漢灘江の謎」——名前の由来

ハンタウイルスという名前を聞いて、地理に詳しい方は「ハンタン?」とピンとくるかもしれません。これは韓国を流れる漢灘江(ハンタンガン)という川の名前。1950年代の朝鮮戦争中、米兵を中心に国連軍兵士3,000人以上が原因不明の高熱・出血・急性腎不全を伴う病に倒れました。死亡率は5〜15%。当時は「韓国型出血熱」と呼ばれ、戦場の医師たちを長年悩ませました。ウイルスの正体が判明したのは戦争終結から実に23年後の1976年。韓国の医学者イ・ホワン博士が、流行地である漢灘江の名にちなんで「ハンタンウイルス」と命名したのが、今や世界中で報道される「ハンタウイルス」の語源なのです。

🔸 名優の妻を奪った悲劇——ジーン・ハックマン家の事件

2025年、ハリウッドに衝撃が走りました。アカデミー賞俳優ジーン・ハックマンの妻、ベッツィ・アラカワさん(65歳)がニューメキシコ州サンタフェの自宅で亡くなったのですが、その死因がハンタウイルスだったのです。米国では1993年から2023年までに890件の感染が報告されており、その大半は西部の乾燥地帯。家屋にネズミが侵入し、その糞や尿が乾燥して舞い上がった粉じんを吸い込むことで感染すると考えられています。世界全体では年間6万〜10万件の感染があるとされ、その約半数が中国で発生しています。

🔸 知っておきたい——意外とシンプルな予防法

怖い話が続きましたが、過度に恐れる必要はありません。ハンタウイルスは「鍵を握るのはネズミとの接触を避けること」。具体的には次の3点です。

  • 掃除前は換気——倉庫や別荘など、長期間閉め切った場所はまず窓を開けて30分以上換気する
  • ほうき・掃除機は使わない——粉じんが舞い上がるとウイルスを吸い込みやすくなるため、必ず濡れ布巾で拭く
  • 手袋とマスクを着用——ネズミの糞や巣を発見したら、素手で触らず必ず保護具を使う

朝鮮半島の小さな川の名前を持つこのウイルスは、私たちに改めて教えてくれます。「自然との距離感を、忘れてはいけない」と。クルーズ船という究極の「閉ざされた空間」で起きた今回の事件は、現代社会のもろさと、たった一匹のネズミが世界を揺さぶる可能性を突きつけているのです。

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