ローマのコンクリートの白い粒は、混ぜ残しではなく、ひびをふさぐ材料だった?
歴史のウソ・ホントNo.254

ローマのコンクリートの白い粒は、混ぜ残しではなく、ひびをふさぐ材料だった?

ローマのコンクリートの白い粒に、ひびをふさぐ力が?

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この判定の対象「ローマのコンクリートは、自分でひび割れを直す」

うなり度 読む時間8分 出典5件 確認した事実30件
もくじ
  1. ローマのコンクリートには、ミリ単位の小さな白い粒がたくさん入っている
  2. 2023年、MITのチームは白い粒を「生石灰を直接混ぜた跡」だと考えた
  3. ひびに水が入ると、白い粒が溶けてひびを埋める、という説
  4. 今の材料でまねして作ると、0.5mmのひびが水を通さなくなった
  5. 2025年、ポンペイの工事現場が「熱い混ぜ方」の証拠になった
  6. 深掘り講義
  7. まとめ
  8. 英語で読む(A2・4択5問)
  9. 出典・ウラ取り

ローマにあるパンテオンという建物は、128年に完成の式が行われました。屋根は、大きな丸いドームです。鉄の棒を入れないコンクリートのドームとしては、今も世界最大で、今も建っています。

古代ローマのコンクリートを近くで見ると、白い小さな粒がたくさん混ざっています。大きさは、ミリ単位の小さなものです。この粒は長いあいだ、「よく混ぜなかった跡」や「材料の質が悪かった跡」だと考えられてきました。

2023年、アメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)のチームが、この白い粒について新しい説を出しました。ひびができたときに、ひびをふさぐ材料になっていたかもしれない、という説です。この記事では、まず白い粒がどうやってできたのかを見ます。次に、ひびをふさぐ実験を紹介します。最後に、2025年にポンペイの遺跡で見つかった工事現場の話をします。

01ローマのコンクリートには、ミリ単位の小さな白い粒がたくさん入っている

ローマのコンクリートは、今のコンクリートとは作り方が違います。火山の石などの大きな石を、モルタルで固めて作りました。モルタルは、石灰と火山灰などに水を加えて練ったものです。ローマの人々は、これで壁や土台、水道橋、道路、橋を作りました。

石灰は、石灰岩などの石を焼いて作ります。焼いた石灰は「生石灰」と呼ばれます。生石灰に水を加えると、熱を出しながら「消石灰」に変わります。ふつうは、先に消石灰にしてから、火山灰と混ぜると考えられてきました。

ローマのコンクリートの白い粒は、この石灰のかたまりです。研究者は、これまでいろいろな理由を考えてきました。石灰の焼き方が足りなかった。焼きすぎた。よく混ぜなかった。どれも、「うまく作れなかった跡」という見方です。

022023年、MITのチームは白い粒を「生石灰を直接混ぜた跡」だと考えた

MITのアドミール・マシック(Admir Masic)さんたちは、イタリアのプリウェルヌムという遺跡でモルタルを集めました。ローマの近くにあった町で、紀元前2世紀から13世紀まで人が住んでいました。調べたのは、この町の壁に使われた、約2000年前のモルタルです。

チームは、白い粒を顕微鏡や、光や電子を当てる装置で細かく調べました。粒は、炭酸カルシウムという物質のいろいろな形でできていました。そして、粒が高い温度でできたことを示す手がかりも見つかりました。

ここからチームが考えたのが、「ホットミキシング(熱い混ぜ方)」です。消石灰にしてから混ぜるのではありません。生石灰を、そのまま、または消石灰と一緒に、火山灰や水と混ぜるのです。すると、生石灰が水と反応して熱を出します。論文によると、モルタルの温度は、まわりより55〜60度ほど上がります。ところどころ200度をこえる場所もできます。

論文の考えでは、この熱い混ぜ方をすると、生石灰のかたまりは外側だけが反応します。内側には、カルシウムを多く含む部分が残ります。それが、あの白い粒だというのです。

03ひびに水が入ると、白い粒が溶けてひびを埋める、という説

チームは、白い粒が、ひびを直す材料になるのではないかと考えました。しくみは、こうです。

コンクリートにひびができると、ひびは白い粒のところを通りやすくなります。そこへ雨水などが入ると、粒の中のカルシウムが水に溶け出します。カルシウムを含んだ水は、ひびの中で炭酸カルシウムの結晶になって固まります。こうして、ひびが内側から埋まる、というのです。

古代の手がかりもあります。古代ローマのカエキリア・メテッラという人の墓では、モルタルの細いひびが、方解石で埋まっているのが見つかっていました。方解石とは、炭酸カルシウムの結晶です。

ただし、ここまでは「説」です。論文も、白い粒がひびを埋める材料に「なりうる」と書いています。この研究は、古代の壁で、ひびがふさがっていく様子をそのまま観察したわけではありません。

ひびが白い粒を通ると、粒のカルシウムが水に溶けて、ひびの中で結晶になる、という説
ひびが白い粒を通ると、粒のカルシウムが水に溶けて、ひびの中で結晶になる、という説

04今の材料でまねして作ると、0.5mmのひびが水を通さなくなった

そこでチームは、実験で確かめました。今のセメントに生石灰を加えて、ローマ風のモルタルを作ったのです。比べるために、生石灰を入れないモルタルも作りました。

固まったモルタルは、わざと縦に割りました。そして、0.5mmのすき間を空けて合わせ直しました。0.5mmは、シャープペンシルの細い芯の太さくらいです。そのあと、ひびに水を流し続けました。

はじめ、ひびには1時間に10〜30リットルの水が流れていました。生石灰を入れたモルタルでは、ひびの形によって1〜3週間で、水がほとんど流れなくなりました。ひびの中は、新しくできた方解石で埋まっていました。MITの発表文によると、生石灰を入れないモルタルでは、水は流れ続けました。

論文によると、ふつうのコンクリートでも、幅0.2mmくらいまでのひびは、自然にふさがることがあるとされます。それより広いひびで水が流れにくくなったなら、ほかのしくみも働いたことになる、と論文は書いています。0.5mmのひびは、その「広いひび」にあたります。

なお、MITの発表文では「2週間以内に完全に治った」と書かれています。論文のほうは「1〜3週間で、ほとんどゼロ」です。この記事では、論文の数字を使っています。

052025年、ポンペイの工事現場が「熱い混ぜ方」の証拠になった

2025年、マシックさんたちのチームが、新しい論文を出しました。ポンペイは、79年にベスビオ山の噴火で埋まった町です。

ポンペイの「IX 10, 1」という番号で呼ばれる家で、工事の途中だった現場が見つかりました。この町は、62年に大きな地震に遭っていました。地震のあと、町では建物の修理が続いていました。この家も、修理の工事の最中に、噴火で埋まったのです。

現場には、材料の山が残っていました。石灰と火山性の砂を、乾いたまま混ぜておいた山です。積み上げた石のブロックや、再利用するために取っておいたかわらもありました。鉛のおもりや、鉄の斧などの道具も見つかりました。

チームが乾いた材料の山を調べると、生石灰を、乾いた火山灰と先に混ぜていたことが分かりました。水は、そのあとで加えていたのです。作りかけの壁のモルタルも、この材料の山とよく似ていました。2023年に考えた「熱い混ぜ方」が、実際の工事現場で確かめられたことになります。MITの発表文も、この現場を、熱い混ぜ方が使われていたことの、これまでで最もはっきりした証拠だと説明しています。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

石灰は「焼く」「水を加える」「空気にふれる」で、石に戻っていく

石灰岩の主な成分は、炭酸カルシウムです。これを焼くと、生石灰(酸化カルシウム)になります。生石灰に水を加えると、熱を出して消石灰(水酸化カルシウム)になります。消石灰は、空気中の二酸化炭素とゆっくり反応して、また炭酸カルシウムに戻ります。

ローマのモルタルでは、もう1つ大事な反応が起きます。石灰と火山灰が、水と一緒に反応して固まるのです。これを「ポゾラン反応」といいます。ポゾランとは、火山灰のように、石灰と反応して固まる材料のことです。この反応を使ったモルタルのおかげで、ローマ人は、海の中にも建物を作れるようになりました。

白い粒の説は、この流れの最後の段階を使っています。粒に残った石灰が、ひびに入った水に溶け、炭酸カルシウムとして固まる。つまり、石灰が「石に戻る」反応で、ひびを埋めるのです。

古代の本の説明と、遺跡の証拠が食い違った

古代ローマの作り方を知る手がかりとして、よく使われてきたのが本です。建築家ウィトルウィウスが書いた『建築について』と、プリニウスが書いた『博物誌』です。ウィトルウィウスの説明は、石灰に水を加えて消石灰にしてから使う、と読まれてきました。

ところが、ポンペイの工事現場では、生石灰を乾いた火山灰と先に混ぜていました。2025年の論文は、熱い混ぜ方が、ウィトルウィウスの説明と違うことをはっきり書いています。そのうえで、ウィトルウィウスの説明は、ある時代(ローマに皇帝が現れる少し前のころ)のやり方だけを書いたものかもしれない、と注意しています。いつでもどこでも同じやり方だったとは限らない、というのです。

2023年の論文は、言葉にも目を向けました。ウィトルウィウスは、壁塗りに使う石灰には「macerata(よくひたした)」という言葉を使っています。壁画やしっくいでは、溶け残った石灰の粒が後で水を吸ってふくらみ、絵を傷めるからです。一方、建物の構造に使う石灰には「extincta(消した)」という別の言葉を使っています。論文は、extincta が、ほかの材料と一緒に水と反応させることを指していた可能性があると書いています。

海の中のコンクリートは、別のしくみでも強くなる

ローマ人は、海の中にもコンクリートの建物を作りました。海のコンクリートの研究では、石灰や火山の石が海水に溶けたあと、新しい鉱物の結晶が育つことが報告されています。トバモライトやフィリップサイトといった鉱物です。

つまり、ローマのコンクリートが長持ちする理由は、1つではないと考えられています。白い粒によるひび埋めは、そのうちの1つの候補です。

この研究が、今の工事で注目される理由

今のコンクリートに使うセメントは、作るときに大量の二酸化炭素を出します。論文によると、セメント1トンを作ると、最大で1トンの二酸化炭素(に相当するガス)が出ます。セメントづくりは、世界の温室効果ガスの最大8%を占めます。

コンクリートが長持ちすれば、作り直す回数が減ります。そのため、ひびを自分でふさぐコンクリートは、環境の面でも研究されています。MITのチームは、2023年の時点で、生石灰を入れたこの材料を商品にする準備を進めていると発表しました。

06まとめ

古代ローマのコンクリートに入っているミリ単位の白い粒は、長いあいだ「よく混ぜなかった跡」と見られてきました。2023年、MITのチームは、生石灰を直接混ぜる「熱い混ぜ方」の跡だと考えました。2025年には、79年の噴火で埋まったポンペイの工事現場で、その作り方が確かめられました。

白い粒がひびをふさぐという話は、今の材料でまねした実験では確かめられました。0.5mmのひびが、1〜3週間で水をほとんど通さなくなったのです。ただ、古代の壁でそれが起きているかどうかは、まだ説の段階です。ポンペイの工事現場には、生石灰と火山灰を乾いたまま混ぜた材料の山が、水を加える前の姿で、79年のまま残っていました。

人に話すなら、こう言おう

ローマのコンクリートって、白い粒が混ざってるんだって。ずっと混ぜ方が雑な跡だと思われてたけど、2023年の研究で、ひびに水が入ると粒が溶けて、ひびを埋める材料になるって説が出たの。まねして作ったら0.5ミリのひびがふさがったんだよ。
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英語で読む

The White Spots in Roman Concrete

CEFR A2230 words4択 5問全訳つき
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英文をタップすると、その文の訳が出ます。

The Pantheon in Rome was opened in the year 128.ローマのパンテオンは、128年に完成の式が行われました。 Its round concrete roof is still standing today.その丸いコンクリートの屋根は、今も建っています。 If you look closely at old Roman concrete, you can see many small white spots.古代ローマのコンクリートを近くで見ると、小さな白い粒がたくさん見えます。 They are only millimeters across.大きさは、ミリ単位のほんの小さなものです。 For a long time, people thought they were a sign of poor mixing.長いあいだ、人々はそれを、よく混ぜなかった跡だと考えていました。

In 2023, a team at MIT studied 2,000-year-old concrete from an old city wall in Italy.2023年、MITのチームが、イタリアの古い町の壁に使われた2000年前のコンクリートを調べました。 The white spots were made of lime.白い粒は、石灰でできていました。 The team said the Romans mixed in quicklime, a very reactive kind of lime, directly.チームは、ローマ人が、とても反応しやすい石灰である生石灰を、そのまま混ぜたのだと言いました。 When it is mixed in this way, some of the lime does not fully react and stays as small lumps.このように混ぜると、石灰の一部は反応しきらずに、小さなかたまりのまま残ります。

The team had an idea.チームは、ある考えを持ちました。 When a crack forms and water gets in, the lime in the spots dissolves.ひびができて水が入ると、粒の中の石灰が溶けます。 Then it turns into new crystals and fills the crack.そして新しい結晶になって、ひびを埋めるというのです。

To test this idea, they made modern concrete with quicklime.この考えを確かめるため、チームは生石灰を入れた今のコンクリートを作りました。 They broke it and left a crack half a millimeter wide.それを割って、幅0.5ミリのひびを作りました。 Then they ran water through the crack.そして、ひびに水を流しました。 After one to three weeks, almost no water could pass.1〜3週間たつと、水はほとんど通らなくなりました。 But the water kept flowing through concrete made without quicklime.でも、生石灰を入れずに作ったコンクリートでは、水は流れ続けました。

In 2025, the team studied a building site in Pompeii.2025年、チームはポンペイの工事現場を調べました。 A volcano buried the city in the year 79.79年、火山の噴火がこの町を埋めました。 Workers there had mixed dry quicklime with volcanic ash before adding water.そこで働いていた人たちは、水を加える前に、乾いた生石灰を火山灰と混ぜていました。 Still, scientists have not proved that old Roman walls fix their own cracks.それでも、古代ローマの壁が自分でひびを直していることは、まだ証明されていません。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2How wide was the crack in the test?

    実験のひびの幅はどれくらいでしたか。

  3. Q3Why did some lime stay as small lumps?

    なぜ石灰の一部が小さなかたまりのまま残ったのですか。

  4. Q4In paragraph 3, the word "dissolves" is closest in meaning to

    第3段落の "dissolves" に最も意味が近いのはどれですか。

  5. Q5Which is true, according to the story?

    本文の内容と合うのはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • concrete名詞
    コンクリート

    The new bridge is made of concrete.

    その新しい橋はコンクリートでできている。

    💡 形容詞では「具体的な」という意味もある(a concrete plan=具体的な計画)。

  • lime名詞
    石灰

    Farmers sometimes put lime on their fields.

    農家は畑に石灰をまくことがある。

    💡 果物のライムも同じつづり。文の中身で見分ける。

  • quicklime名詞
    生石灰

    Quicklime gets hot when you add water.

    生石灰は水を加えると熱くなる。

    💡 quick の古い意味「生きている」から。消石灰は slaked lime。

  • crack名詞
    ひび、割れ目

    There is a crack in my phone screen.

    私の電話の画面にひびが入っている。

    💡 動詞では「ひびが入る、割れる」。

  • dissolve動詞
    溶ける、溶かす

    Sugar dissolves quickly in hot tea.

    砂糖は熱い紅茶にすぐ溶ける。

    💡 melt は熱で溶ける、dissolve は液体に溶けこむ。

  • crystal名詞
    結晶

    Salt forms small crystals when the water dries.

    水がかわくと、塩は小さな結晶になる。

    💡 形容詞は crystal clear(とてもすんだ、はっきりした)。

  • volcanic ash名詞
    火山灰

    The car was covered with volcanic ash.

    車は火山灰でおおわれていた。

    💡 volcano(火山)の形容詞が volcanic。

  • bury動詞
    埋める

    The dog buried a bone in the garden.

    犬は庭に骨を埋めた。

    💡 発音は「ベリー」。過去形は buried。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 30件)。

  1. Seymour, L. M. et al. (2023) Hot mixing: Mechanistic insights into the durability of ancient Roman concrete, Science Advances 9(1): eadd1602doi.org
  2. Vaserman, E. et al. (2025) An unfinished Pompeian construction site reveals ancient Roman building technology, Nature Communications 16: 10847doi.org
  3. Riddle solved: Why was Roman concrete so durable?(MIT News, 2023年1月6日)news.mit.edu
  4. Seymour et al. 2023 全文(PubMed Central)pmc.ncbi.nlm.nih.gov
  5. Pompeii offers insights into ancient Roman building technology(MIT News, 2025年12月9日)news.mit.edu

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