おなかの赤ちゃんがしゃっくりをするのは、何のためなのか
体と食べ物No.138

おなかの赤ちゃんがしゃっくりをするのは、何のためなのか

脳が体の地図を作る合図、という説がある。

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もくじ
  1. おなかの赤ちゃんのしゃっくりは、受精から9週ほどで始まる
  2. 妊娠の後半になると、しゃっくりの回数は少しずつ減るが、1回の長さは約8分のまま
  3. 早く生まれた赤ちゃんの脳は、しゃっくりのたびに反応していた
  4. しゃっくりは、脳が体の内側を感じとる練習かもしれない
  5. 深掘り講義
  6. まとめ
  7. 英語で読む(A2・4択5問)
  8. 出典・ウラ取り

妊娠の後半、おなかの中で「ピクッ、ピクッ」と、時計のように規則正しい動きを感じることがあります。キックとは違う、小さなリズムです。この動きの1つが、赤ちゃんのしゃっくりです。

おなかの赤ちゃんのしゃっくりは、思ったよりずっと早く始まります。受精から9週ほどで、もう超音波の画面に現れるのです。まだ肺で息をしたこともない赤ちゃんが、なぜしゃっくりをするのでしょう。

この問いには、まだはっきりした答えがありません。けれど2019年、ロンドンの研究チームが、しゃっくりの役目の手がかりを見つけました。早く生まれた赤ちゃんを調べると、しゃっくりに合わせて、脳がはっきり反応していたのです。

この記事では、まず赤ちゃんのしゃっくりがいつ始まり、どれくらい起きるかを見ます。次に、しゃっくりに脳が反応していたという研究を紹介します。最後に、しゃっくりが何のためにあるのかについての説をならべます。

01おなかの赤ちゃんのしゃっくりは、受精から9週ほどで始まる

しゃっくりとは、横隔膜が急にキュッと縮む動きです。横隔膜は、胸とおなかの間にある、呼吸のための筋肉です。そのすぐ後に、声門(のどの奥の、声を出すところ)が閉じます。声門が閉じるときの音が「ヒック」です。

2007年のポペスク(E. A. Popescu)らの論文によると、しゃっくりは受精から9週ほどで現れます。そして、妊娠26週ごろまでは、横隔膜の動きの中で一番多いのがしゃっくりです。

1990年、ピライ(M. Pillai)とジェームズ(D. James)は、45人のおなかの赤ちゃんを調べました。妊娠中期から、何度も記録し続けたのです。すると、しゃっくりは、週数が進むほど減っていきました。特に、24〜26週の間に、ぐっと少なくなります。かわりに増えてくるのが、呼吸の練習のような胸の動き(胎児の呼吸様運動)でした。

しゃっくりも呼吸の練習の動きも、赤ちゃんが活発に動いている時間に起きていました。じっと休んでいる時間には、あまり起きません。

02妊娠の後半になると、しゃっくりの回数は少しずつ減るが、1回の長さは約8分のまま

では、妊娠の後半には、どれくらいしゃっくりが起きるのでしょう。

2017年、鎌田(Hideo Kamata)らのチームが、23人の妊婦さんに協力してもらいました。妊婦さんには、おなかの動きを測る小さな記録装置を、1〜2週ごとに家でつけてもらいました。調べたのは、妊娠28〜39週の、合わせて1035時間分の記録です。

チームがしゃっくりと見なしたのは、規則正しいピクッという動きです。2〜4秒おきに、1分に15回以上くり返すものを、しゃっくりとしました。

しゃっくりが起きた回数は、28〜33週では、1時間あたり平均0.19回でした。およそ5時間に1回です。34〜39週では、1時間あたり0.15回で、およそ7時間に1回でした。週数が進むと、少しずつ減っていきます。一方、1回のしゃっくりが続く時間は、どちらの時期も約8分で、ほとんど変わりませんでした。

03早く生まれた赤ちゃんの脳は、しゃっくりのたびに反応していた

2019年、ロンドン大学(UCL)のチームが、ある研究を発表しました。論文の筆頭著者は、ホワイトヘッド(Kimberley Whitehead)です。チームが調べたのは、病院の新生児病棟にいる赤ちゃんの脳波です。217人分の脳波の記録を見直すと、そのうち13人が、記録の間にしゃっくりをしていました。

13人の中には、早く生まれた赤ちゃんも、予定日ごろに生まれた赤ちゃんもいました。脳波をとったのは、もしおなかの中にいたら、妊娠30〜42週にあたる時期です。チームは、胴につけたセンサーで、横隔膜が縮むのを1回ずつとらえました。そして、合わせて1316回のしゃっくりについて、その前後の脳波を調べました。

1回分の脳波の反応は小さくて見分けにくいものです。そこでチームは、赤ちゃん1人ひとりについて、横隔膜が縮んだ瞬間をそろえて、脳波を何回分も重ねて平均しました。すると、3つの波が続けて現れました。最初の2つの波は、手足や顔をさわられたときに出る波とよく似ていました。頭のどのあたりに強く出るかが、似ていたのです。

この反応は、予定日より10週も早い時期の赤ちゃんでも見られました。つまり、しゃっくりで横隔膜が縮むという体の中のできごとが、信号として脳に届いているのです。

しゃっくりで横隔膜が縮むと、その信号が脳に届き、脳波に3つの波が現れた。
しゃっくりで横隔膜が縮むと、その信号が脳に届き、脳波に3つの波が現れた。

04しゃっくりは、脳が体の内側を感じとる練習かもしれない

ホワイトヘッドらは、この結果をこう考えました。大人の脳には、胸の中など、体の内側からの感覚を受け持つ場所があります。息がちゃんとできているかを見張り、呼吸の筋肉を調節するのに役立つ場所です。

脳には、体のどこで何が起きたかを知るための、地図のようなしくみがあります。動物の赤ちゃんの研究では、体の表面の地図は、手足を動かした感覚が脳に届くことで、詳しくなっていくと考えられています。同じように、体の内側の地図を作るにも、早い時期に体の内側から届く信号が必要なのではないか。しゃっくりは、その信号を脳に送る役目をしているのかもしれません。

チームは、もしそうなら、新生児にしゃっくりがとても多い理由も説明できる、と書いています。ただし、この研究で分かったのは、しゃっくりに脳が反応することまでです。しゃっくりが本当に、脳が呼吸をうまく調節できるようになるのに役立っているかは、まだ確かめられていません。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

しゃっくりの役目については、4つの説がある

しゃっくりが何のためにあるのかは、昔から議論されてきました。主な説を、根拠の強さとあわせて見てみましょう。

1つ目は、呼吸の筋トレ説です。2012年のハウズ(Daniel Howes)の論文によると、1899年にはフェローニという人が、こう考えていました。しゃっくりは、胎児が呼吸の筋肉をきたえる準備だ、というのです。けれどハウズは、これに反論しています。呼吸の筋肉は、長く働き続けるのが得意な筋肉です。一瞬だけ強く縮むしゃっくりが、そうした筋肉をきたえるとは考えにくい、というのです。

2つ目は、えら呼吸のなごり説です。2003年、ストラウス(C. Straus)らが唱えました。しゃっくりには、2つの特徴があります。息を吸うときに声門が閉じること。そして、吸う空気に二酸化炭素が多いとおさまることです。この2つは、えらと肺の両方で呼吸する多くのカエルが、えらに水を送る動きと共通している、というのです。チームは、カエルと共通するこの古い神経のしくみが、乳を吸う動きなどのもとになったと考えました。そのため、ほ乳類にも残ったのではないか、というわけです。

3つ目は、げっぷの反射説です。ハウズは、しゃっくりは、乳を飲む赤ちゃんの胃から空気を抜くための反射ではないか、と提案しました。息を吸う筋肉が強く縮み、声門が閉じると、胸の中の圧力が急に下がります。その力で、胃の空気を食道へ引き上げ、口から出すというのです。ハウズ自身、この説にはまだ証拠がないと書いています。

ここからは筆者の考えです。羊水の中にいる胎児は、空気を飲みこむことがありません。そうだとすると、げっぷの反射説だけで、おなかの中のしゃっくりを説明するのは難しそうです。

4つ目が、ホワイトヘッドらの脳への信号説です。この説は、脳の反応を実際に測ったデータから出てきました。ただし、示されたのは「しゃっくりの信号が脳に届く」ことまでです。その信号が、脳が体の内側の地図を作るのに役立つかは、これからの課題です。

肺の側からの手がかりもあります。2022年、ゲルトナー(V. D. Gaertner)らのチームが、早産の赤ちゃん1人のしゃっくりを、肺の中の空気の動きが見える装置で調べました。しゃっくりでは、ふつうの呼吸より、1回に動く空気の量が多くなっていました。そして、その空気の一部は、肺の奥まで届いていました。チームは、しゃっくりが胎児の育ちに何らかの働きをしている可能性がある、と書いています。ただし、調べたのは1人だけです。

赤ちゃんがしゃっくりをしている時間の数字は、研究によって違う

新生児がしゃっくりをしている時間は、ホワイトヘッドらの論文では「1日の約1%」と見積もられています。ところが、ハウズの論文には「最大で2.5%」とあります。測った赤ちゃんの週数や、測り方が違えば、数字もずれます。1つの数字だけを覚えるより、「新生児や胎児では、しゃっくりがとても多い」という幅で理解しておくほうが安全です。

胎児のしゃっくりは、論文になる200年近く前から書き残されていた

審査のある医学の論文で、胎児のしゃっくりを初めて書いた医師は、ドイツ・マンハイムの産婦人科医アルフォンス・メルマン(Alphons Mermann、1852〜1908年)だとされてきました。ただし、医学史の研究者ミラー(C. C. Miller)とペトロイアヌ(G. A. Petroianu)によると、似た現象は、メルマンより200年近く前にも書き残されていました。おなかの中のリズムは、論文になるずっと前から気づかれていたのです。

05まとめ

おなかの赤ちゃんのしゃっくりは、受精から9週ほどで始まります。妊娠26週ごろまでは、横隔膜の動きの中で一番多い動きです。妊娠の後半でも、しゃっくりは1時間あたり0.15〜0.19回(5〜7時間に1回ほど)起き、1回は8分ほど続きます。

2019年の研究では、早く生まれた赤ちゃんで、しゃっくりに合わせて脳波に3つの波が現れました。ここから考えると、おなかの中の「ピクッ、ピクッ」も、赤ちゃんの脳が自分の体の内側を知っていくための信号なのかもしれません。おなかの動きで気になることがあれば、健診のときに医師や助産師に相談してください。

人に話すなら、こう言おう

おなかの赤ちゃんって、受精から9週くらいでもうしゃっくりしてるんだって。早く生まれた赤ちゃんを調べたら、しゃっくりに合わせて脳が反応してたらしい。体の中の感じ方を覚えてるのかもって説があるよ。
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英語で読む

Why Do Babies Hiccup Before They Are Born?

CEFR A2218 words4択 5問全訳つき
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英文をタップすると、その文の訳が出ます。

Many pregnant women feel small, regular jumps in their bellies.多くの妊婦さんは、おなかの中で小さく規則正しくはねる動きを感じます。 They are not kicks.それはキックではありません。 They can be the baby's hiccups.それは、赤ちゃんのしゃっくりのことがあります。

A hiccup happens when the diaphragm, a big muscle under the lungs, suddenly pulls tight.しゃっくりは、肺の下にある大きな筋肉、横隔膜が急にきゅっと縮むときに起こります。 Then the throat closes quickly and makes the hic sound.次にのどがすばやく閉じて、「ヒック」という音が出ます。 Babies start to hiccup about nine weeks after the egg is fertilized.赤ちゃんは、受精から約9週でしゃっくりを始めます。 Until about week 26 of pregnancy, hiccups are the most common movement of the diaphragm.妊娠26週ごろまでは、しゃっくりが横隔膜の動きの中で一番多いのです。

In 2017, a team gave 23 pregnant women a small recorder to use at home.2017年、あるチームが、23人の妊婦さんに家で使う小さな記録装置をわたしました。 The recorder felt the small regular moves on the mother's belly.その装置は、お母さんのおなかの小さく規則正しい動きをとらえました。 Late in pregnancy, a hiccup bout started 0.15 to 0.19 times an hour.妊娠後半には、しゃっくりは1時間に0.15〜0.19回始まりました。 Each bout lasted about eight minutes.1回のしゃっくりは、約8分続きました。

But why do babies hiccup?でも、赤ちゃんはなぜしゃっくりをするのでしょうか。 In 2019, scientists in London studied the brain waves of 13 babies in a hospital.2019年、ロンドンの科学者たちが、病院にいる13人の赤ちゃんの脳波を調べました。 Some of them were born early.その中には、早く生まれた赤ちゃんもいました。 When a baby hiccupped, three waves appeared in the brain.赤ちゃんがしゃっくりをすると、脳に3つの波が現れました。 The scientists think hiccups may help the brain learn about the inside of the body.科学者たちは、しゃっくりが、脳が体の内側について学ぶ助けになっているのかもしれないと考えています。

There are other ideas too.ほかの考えもあります。 Some say hiccups come from the way frogs move water over their gills.しゃっくりは、カエルがえらに水を送る動き方から来ている、と言う人もいます。 Others say hiccups help babies push air out of the stomach.しゃっくりは、赤ちゃんが胃から空気を出す助けになる、と言う人もいます。 Nobody knows for sure yet.まだ、確かなことはだれにも分かっていません。 So when you get hiccups, remember that you have done this since before you were born.だから、しゃっくりが出たら、生まれる前からずっとしてきたことだと思い出してください。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2When do babies start to hiccup?

    赤ちゃんはいつしゃっくりを始めますか。

  3. Q3What happened in the brain when a baby hiccupped in the 2019 study?

    2019年の研究で、赤ちゃんがしゃっくりをしたとき脳では何が起きましたか。

  4. Q4In paragraph 3, the word "bout" is closest in meaning to ...

    第3段落の bout という語にもっとも近い意味は?

  5. Q5Which is true about the story?

    この話の内容と合っているのはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • hiccup名詞・動詞
    しゃっくり(をする)

    I have the hiccups after drinking soda.

    炭酸を飲んだら、しゃっくりが出ている。

    💡 have the hiccups で「しゃっくりが出ている」。音をまねた語。

  • pregnant形容詞
    妊娠している

    My aunt is pregnant with her first baby.

    おばは最初の赤ちゃんを妊娠している。

    💡 名詞は pregnancy(妊娠)。

  • diaphragm名詞
    横隔膜

    The diaphragm helps us breathe.

    横隔膜は私たちが息をするのを助ける。

    💡 発音は「ダイアフラム」。g は読まない。

  • muscle名詞
    筋肉

    Exercise makes your muscles strong.

    運動で筋肉が強くなる。

    💡 c は読まない。「マッスル」。

  • fertilize動詞
    受精させる、肥料をやる

    Farmers fertilize their fields in spring.

    農家は春に畑に肥料をまく。

    💡 名詞 fertilizer は「肥料」。

  • recorder名詞
    記録装置、レコーダー

    The recorder saved every sound.

    その記録装置はすべての音を保存した。

    💡 楽器のリコーダーも同じつづり。

  • bout名詞
    (何かが続く)ひとしきり、一回

    He had a bout of coughing at night.

    彼は夜にひとしきりせきこんだ。

    💡 a bout of ~ で「ひとしきりの~」。病気や発作によく使う。

  • gill名詞
    えら

    Fish breathe through their gills.

    魚はえらで呼吸する。

    💡 ふつう複数形 gills で使う。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 16件)。

  1. Whitehead, K. ほか (2019) Event-related potentials following contraction of respiratory muscles in pre-term and full-term infants, Clinical Neurophysiology 130:2216-2221doi.org
  2. Pillai, M., James, D. (1990) Hiccups and breathing in human fetuses, Archives of Disease in Childhood 65:1072-1075doi.org
  3. Popescu, E. A. ほか (2007) Magnetographic assessment of fetal hiccups and their effect on fetal heart rhythm, Physiological Measurement 28:665-676doi.org
  4. Kamata, H. ほか (2017) Counting fetal hiccups using a fetal movement acceleration measurement recorder, Journal of Maternal-Fetal & Neonatal Medicine 30:475-478doi.org
  5. Howes, D. (2012) Hiccups: A new explanation for the mysterious reflex, BioEssays 34:451-453doi.org
  6. Straus, C. ほか (2003) A phylogenetic hypothesis for the origin of hiccough, BioEssays 25:182-188doi.org
  7. Gaertner, V. D. ほか (2022) Intrapulmonary Volume Changes during Hiccups versus Spontaneous Breaths in a Preterm Infant, Neonatology 119:525-529doi.org
  8. Miller, C. C., Petroianu, G. A. (2018) Alphons Mermann (1852-1908): hiccups, hygiene and Hebammen, Journal of Medical Biography 26:29-33doi.org

文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。

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