ハダカデバネズミは、年をとっても死にやすくならないらしい
生き物No.118

ハダカデバネズミは、年をとっても死にやすくならないらしい

30歳近くでも、死ぬ確率は上がらなかった。

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この判定の対象「ハダカデバネズミは、年をとっても死にやすくならない」

うなり度 読む時間10分 出典4件 確認した事実29件
もくじ
  1. ハダカデバネズミは、ネズミほどの大きさで30年以上生きる
  2. 2018年の研究:飼育下のハダカデバネズミは、何歳になっても、1日に死ぬ確率が1万分の1以下だった
  3. 別のチームの反論:2018年の研究のデータには、1978〜2008年の約30年分、死んだ記録が1件もなかった
  4. 2024年の研究:2018年の約2倍のデータで調べても、年をとって死にやすくなることはなかった
  5. 深掘り講義
  6. まとめ
  7. 英語で読む(A2・4択5問)
  8. 出典・ウラ取り

人は、年をとるほど死にやすくなります。大人が1年のうちに死ぬ確率は、およそ7〜8.5年ごとに2倍になっていきます。マウスやウマでも、年をとると、死ぬ確率が急に上がります。ところが、「年をとるほど死にやすくなる」という、ほ乳類なら当たり前の決まりに、合わないように見える動物がいます。

その動物は、アフリカ北東部の地下に住む、ハダカデバネズミです。体重は40gほど。ネズミくらいの大きさなのに、飼育下で30年以上生きます。2018年、ある研究チームは、数千匹の飼育記録を調べて、こう報告しました。「この動物は、年をとっても死にやすくならない」。

ただし、この報告には、別の研究チームから鋭い反論が出ました。調べた飼育データの中に、ほぼ30年分、死んだ記録が1件もない期間があったのです。

この記事では、まずハダカデバネズミがどんな動物かを紹介します。次に、2018年の研究が何を調べ、何を見つけたかを説明します。そのあと、反論の中身と、研究チームがどう答えたかを見ていきます。

01ハダカデバネズミは、ネズミほどの大きさで30年以上生きる

ハダカデバネズミは、毛がほとんどなく、大きな前歯をもつ齧歯類(ネズミやリスの仲間)です。アフリカの乾いた土地の地下にトンネルを掘り、最大300匹ほどの群れで暮らします。群れの平均は60匹です。

群れには、子どもを産む「女王」がいます。ほかの多くのメンバーは、子どもを産みません。ハチやアリと同じような、この暮らし方を真社会性と呼びます。ほ乳類では、とても珍しい暮らし方です。

普通、体の小さな動物ほど、寿命は短くなります。ところがハダカデバネズミは、体の大きさから予想される寿命の、約5倍も生きます。野生でも、子どもを産むメスが、17年同じ群れにいた記録があります。

年をとってからの体のようすも、変わっています。女王には閉経(年をとって子どもを産めなくなること)がなく、30歳を過ぎても子どもを産みます。がんのような、年をとると増える病気も、ほとんど見つかっていません。

022018年の研究:飼育下のハダカデバネズミは、何歳になっても、1日に死ぬ確率が1万分の1以下だった

2018年の論文を書いたのは、グレアム・ルビー(Graham Ruby)、ロシェル・バッフェンシュタイン(Rochelle Buffenstein)らです。バッフェンシュタインは、1980年にケニアでハダカデバネズミを集めた研究者の一人でした。そのとき集めたハダカデバネズミの子孫は、南アフリカやアメリカの研究施設で、30年以上飼われてきました。

チームは、飼育記録の残る3848匹を調べました。そのうち、記録が日付まで細かく分かるのは3329匹でした。数え始めたのは、子どもを産めるようになる生後6か月(183日)からです。生後6か月から数えて分析した個体は、3299匹です。

チームが調べたのは、「ある年齢まで生きた個体が、次の1日に死ぬ確率」です。この確率を、死亡率(死の危険度)と呼びます。人やマウスでは、この確率が、年とともにどんどん上がります。

ところがハダカデバネズミでは、この確率がほとんど上がりませんでした。1日に死ぬ確率は、どの年齢でも1万分の1を超えませんでした。平均すると、1日当たり10万分の8ほどです。

普通のほ乳類は、年をとるほど死ぬ確率が急に上がる。ハダカデバネズミでは、死ぬ確率の線がほとんど水平だった
普通のほ乳類は、年をとるほど死ぬ確率が急に上がる。ハダカデバネズミでは、死ぬ確率の線がほとんど水平だった

比べるために、チームは実験用マウスのデータも、同じ方法で調べました。マウスでは、生後800日より前から、死ぬ確率が急に上がり始めました。800日は、マウスの最大寿命の約55%に当たります。

チームの結論は、「ハダカデバネズミは、老化しないほ乳類だ」というものでした。ただし論文の中では、「まだ見えていない老化がある可能性は、否定できない」とも書いています。また、年をとっても死にやすくならないと、このデータではっきり言えるのは、少なくとも約12歳までだ、とも書いています。

03別のチームの反論:2018年の研究のデータには、1978〜2008年の約30年分、死んだ記録が1件もなかった

2019年、別の研究チームのフィリップ・ダマン(Philip Dammann)らが、2018年の論文と同じ雑誌にコメントを載せました。コメントの要旨には、2018年の論文の結論は「早すぎる」と書かれています。

ダマンらの1つ目の指摘は、データが若い個体に偏っていることです。ルビーらが飼育している群れは、2007年以降に、匹数が急に増えました。そのため、データの87%は、観察期間が8年以下の若い個体でした。18年以上観察された個体は、23匹だけで、全体の1%に足りません。しかも、その23匹はどれも、死ぬ前に記録が終わっていました。

2つ目の指摘は、もっと重いものでした。ダマンらが、元のデータを調べなおしました。すると、1978年7月から2008年1月まで、ほぼ30年のあいだ、死んだ記録が1件もなかったのです。

ダマンらがルビーらに問い合わせると、答えはこうでした。分析に入っていたのは、2008年1月30日より後も生きていた個体と、その後に生まれた個体だけだった。つまり、2008年1月30日より前に死んだ個体は、もともとデータに入っていなかったのです。

ダマンらは、死んだ記録が欠けていると、結果がどれほどゆがむかを試しました。使ったのは、自分たちが飼っているデバネズミ(ハダカデバネズミの親せきに当たる種類)339匹のデータです。このデータから、2010年より前に死んだ個体を消してみたのです。

すると、生後半年から数えた寿命の中央値(寿命を短い順に並べたときの真ん中の値)は、7.99年から10.80年に延びました。死ぬ確率も、全部のデータで計算したときより25%以上小さく出ました。早く死んだ個体の記録が抜けると、実際より長生きに見えてしまう、ということです。

042024年の研究:2018年の約2倍のデータで調べても、年をとって死にやすくなることはなかった

ルビーらは、すぐにこの反論に答えました。2008年1月1日より前のデータを使わない方法で、計算をやり直したのです。結果は、前とほとんど同じでした。

そして2024年、チームは、さらに5年分のデータを加えた論文を出しました。記録は7536匹に増え、そのうち分析できたのは6957匹です。生後6か月まで育った6893匹のうち、死んだのは755匹でした。残りの6138匹は、死ぬ前に記録が終わっていました。

結果は、またも同じでした。年齢が約35歳までの範囲で、1日に死ぬ確率は1万分の1を超えませんでした。死んだ記録のうち、一番年をとってから死んだのは、30.9歳の個体です。記録が一番長く続いたのは35.2歳の個体で、そのときもまだ生きていました。

チームは、2016年5月より後のデータだけを使う計算もしました。このデータは、2018年の論文で使ったデータと重なりません。重ならないデータでも同じ結果が出たので、チームは、これは結果の「再現」に当たると書いています。

一方で、近い仲間のデバネズミでは、結果が違いました。同じく群れで暮らすダマラランドデバネズミなどのデータでは、年をとるほど、死ぬ確率がはっきり上がったのです。こちらの寿命の中央値は3622日(約10年)、最大寿命は約20年でした。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

人が死ぬ確率は、年をとるにつれて倍々に増えていく

1825年、ベンジャミン・ゴンペルツ(Benjamin Gompertz)は、人がどの年齢で死んだかをまとめた表を調べました。そして、大人が1年のうちに死ぬ確率は、年齢とともに指数関数的に増えることに気づきました。指数関数的とは、「一定の年数ごとに2倍、4倍、8倍」と増えていく増え方です。人では、2倍になるのにかかる年数が、およそ7〜8.5年です。

のちに、ゴンペルツの式に「年齢に関係ない死の危険」をたす形が考えられました。事故のように、若くても年をとっていても、同じだけある危険のことです。この2つを合わせた式を、ゴンペルツ・メイカムの法則と呼びます。

この考え方を使うと、「老化」をこう決めることができます。体が衰えることで、死ぬ危険が年齢とともに上がっていくこと。これを、人口学(人の数や寿命を調べる学問)の言葉で、人口学的な老化と呼びます。ルビーらが「老化しない」と言ったのは、この意味での老化です。

途中で記録が終わった動物も、計算に使える方法がある

動物の寿命を調べるとき、全ての個体が死ぬまで待てるわけではありません。別の施設に移ったり、研究のために使われたり、調べた日にまだ生きていたりするからです。こうした個体の記録は、死ぬ前に途中で終わります。これを打ち切りと呼びます。

打ち切りがあっても使えるのが、カプラン・マイヤー法という計算方法です。記録が途中で終わった個体でも、「この日までは生きていた」ことは分かります。この方法は、その情報をむだにせず計算に使えます。ルビーらの2018年の分析でも、生後6か月から数えた3299匹のうち、死んだのは447匹だけで、残りは打ち切りでした。

ただし、この方法にも弱点があります。それが、ダマンらの指摘した「記録の欠け」です。研究で記録を取り始める前に死んだ個体が、データにまったく入っていないことがあります。そうなると、長生きした個体ばかりがデータに残り、死ぬ確率が実際より小さく見えてしまいます。

そこでルビーらは、2008年より前のデータを使わない形にしぼって、計算し直しました。こうすれば、死んだ記録がそろっている期間だけで比べられます。それでも結果が変わらなかったので、ルビーらは、記録の欠けが結論を左右していないことを示せたのです。

「もっと先で老化が始まるかもしれない」は、否定しきれない

ルビーらは2018年の論文で、正直な一文を書いています。「まだ見えていない老化がある」という考えは、反証できない、というものです。反証とは、間違いだとデータで示すことです。

どれだけ長く調べても、「もっと先で老化が始まるかもしれない」と言えてしまいます。ダマンらも、普通のほ乳類なら、死ぬ危険が上がり始めるのは最大寿命の後半からだ、と指摘しました。もしハダカデバネズミの最大寿命が30年を大きく超えるなら、今のデータでも、まだ足りないかもしれません。

飼育下で長生きでも、野生で同じように生きるとは限らない

2024年の論文は、飼育下で死ぬ危険がとても低いのは、飼育のしかたを工夫して、よい環境を整えたおかげでもあるだろう、と書いています。飼育場所の温度は28〜30℃に保たれ、食べ物も十分にあります。野生では、子どもを産まない個体は、2〜3年しか群れにいないという報告もあります。

つまり、飼育下の数字が示すのは、その動物の体が「どれだけ長くもつか」です。野生の暮らしの中でどれだけ生きるかとは、別の話です。

ちなみに、この研究の研究費を出したのは、アメリカの企業カリコ・ライフサイエンシズです。著者たちも、この会社に所属していました。論文は、この点も明記しています。

05まとめ

ハダカデバネズミは、体重40gほどなのに、飼育下で30年以上生きます。数千匹の記録では、どの年齢でも、1日に死ぬ確率が1万分の1を超えませんでした。2024年の論文には、著者らのもとで一番長生きした個体が、40歳まで生きたとも書かれています。ただし、この40歳という数字は、死ぬ確率の分析に使ったデータには入っていません。

一方で、2008年より前の約30年分は、死んだ記録がそろっていませんでした。この欠けを指摘された研究チームは、その期間を外して計算し直しました。さらに5年分のデータを加えても、同じ結果になりました。

人に話すなら、こう言おう

人もネズミも年をとるほど死にやすくなるけど、ハダカデバネズミは30年近くたっても死ぬ確率が上がらなかったんだって。ただ、昔の記録に穴があるって反論もあるらしいよ。
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英語で読む

The Rodent That Does Not Get Riskier With Age

CEFR A2216 words4択 5問全訳つき
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英文をタップすると、その文の訳が出ます。

For people, the chance of dying gets higher every year.人にとって、死ぬ確率は年ごとに高くなっていきます。 It doubles about every 7 to 8.5 years.それはおよそ7〜8.5年ごとに2倍になります。 Mice and horses follow the same rule.マウスやウマも同じ決まりにしたがいます。

But the naked mole-rat may be different.でも、ハダカデバネズミはちがうかもしれません。 This small animal weighs only about 40 grams and lives under the ground in Africa.この小さな動物は体重が約40gしかなく、アフリカの地下で暮らしています。 In labs, it can live for more than 30 years.研究施設では、30年以上生きることがあります。 The queen can still have babies after she is 30 years old.女王は30歳を過ぎても子どもを産むことができます。

In 2018, a team studied the records of more than 3,000 mole-rats.2018年、ある研究チームが3000匹以上のハダカデバネズミの記録を調べました。 They found that the chance of dying on any day stayed very low.彼らは、どの日に死ぬ確率もとても低いままだと分かりました。 It was never more than 1 in 10,000, even for old animals.年をとった個体でも、それが1万分の1を超えることはありませんでした。 In mice, the chance of dying goes up fast before 800 days.マウスでは、800日になる前から死ぬ確率が急に上がります。 The team said this animal does not age in the usual way.チームは、この動物はふつうのしかたでは年をとらないと言いました。

Other scientists did not agree.ほかの科学者たちは賛成しませんでした。 They looked at the data and found a big hole.彼らはデータを見て、大きな穴を見つけました。 From 1978 to 2008, no deaths were written down at all.1978年から2008年まで、死亡がまったく記録されていなかったのです。 If old deaths are missing, the animals can look stronger than they really are.昔の死亡が抜けていると、動物は実際よりも丈夫に見えてしまうことがあります。

So the first team did the math again without the old years.そこで最初のチームは、昔の年を除いてもう一度計算しました。 Then, in 2024, they added five more years of data from almost 7,000 animals.そして2024年、約7000匹の、さらに5年分のデータを加えました。 The answer was the same both times.どちらのときも、答えは同じでした。 The 2024 paper also says that their oldest mole-rat lived to be 40.2024年の論文は、彼らが世話をしたいちばん長生きのハダカデバネズミが40歳まで生きたとも書いています。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2How much does a naked mole-rat weigh?

    ハダカデバネズミの体重はどれくらいですか。

  3. Q3Why did other scientists not agree with the 2018 team?

    ほかの科学者たちは、なぜ2018年のチームに賛成しなかったのですか。

  4. Q4In paragraph 4, the word "missing" is closest in meaning to …

    第4段落の missing という語に最も意味が近いのはどれですか。

  5. Q5What happened when the first team did the math again?

    最初のチームがもう一度計算したとき、どうなりましたか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • chance名詞
    確率、可能性、機会

    There is a good chance of rain today.

    今日は雨が降る可能性が高い。

    💡 the chance of ~ で「~の確率」。

  • double動詞
    2倍になる、2倍にする

    The price of the ticket doubled this year.

    今年、チケットの値段が2倍になった。

    💡 形容詞・名詞としても使う。triple は「3倍」。

  • weigh動詞
    重さが~ある

    My bag weighs five kilograms.

    私のかばんは5kgある。

    💡 名詞は weight(重さ)。gh は発音しない。

  • record名詞
    記録

    The school keeps a record of every student.

    学校は生徒一人ひとりの記録を残している。

    💡 名詞は前を強く(レコード)、動詞は後ろを強く読む。

  • age動詞
    年をとる、老いる

    Some wines get better as they age.

    年数がたつほどおいしくなるワインもある。

    💡 名詞「年齢」としてよく知られるが、動詞でも使う。aging は「老化」。

  • agree動詞
    賛成する、意見が一致する

    I agree with your idea.

    あなたの考えに賛成です。

    💡 agree with +人・意見。反対は disagree。

  • missing形容詞
    欠けている、見当たらない

    One page of the book is missing.

    その本は1ページ抜けている。

    💡 miss(~がなくて困る、見のがす)から。

  • data名詞
    データ、資料

    We need more data before we decide.

    決める前に、もっとデータが必要だ。

    💡 もとは複数形(単数 datum)だが、今は単数扱いも多い。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 29件)。

  1. Ruby, J. G., Smith, M., Buffenstein, R. (2018) Naked mole-rat mortality rates defy Gompertzian laws by not increasing with age, eLife 7:e31157doi.org
  2. Dammann, P. ほか (2019) Comment on 'Naked mole-rat mortality rates defy Gompertzian laws by not increasing with age', eLife 8:e45415doi.org
  3. Ruby, J. G., Smith, M., Buffenstein, R. (2019) Response to comment on 'Naked mole-rat mortality rates defy Gompertzian laws by not increasing with age', eLife 8:e47047doi.org
  4. Ruby, J. G., Smith, M., Buffenstein, R. (2024) Five years later, with double the demographic data, naked mole-rat mortality rates continue to defy Gompertzian laws by not increasing with age, GeroScience 46:5321-5341doi.org

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