「砂糖を食べると子どもが興奮する」は、実験では確かめられなかった
都市伝説ファクトチェックNo.063

「砂糖を食べると子どもが興奮する」は、実験では確かめられなかった

変わったのは、親の見る目のほうだった。

ウソFALSE

この判定の対象「砂糖を食べると子どもが興奮する」

うなり度 読む時間9分 出典5件 確認した事実17件
もくじ
  1. 「砂糖をとった」とウソを伝えるだけで、母親には息子が落ち着きなく見えた
  2. 家族ごとに砂糖たっぷりの食事を3週間続けても、子どもの行動は変わらなかった
  3. 23の実験をまとめても、砂糖をとった子の行動に差は見つからなかった
  4. 甘いものを食べた大人が元気になる、という結果も出なかった
  5. 深掘り講義
  6. まとめ
  7. 英語で読む(A2・4択5問)
  8. 出典・ウラ取り

アメリカのある実験に、5〜7歳の男の子とその母親が参加しました。研究者は、一部の母親にこう伝えます。「息子さんには、砂糖をたっぷりとってもらいました」。

でも、これはウソでした。男の子たちは全員、砂糖の入っていない人工甘味料をとっていたのです。

そのあと、親子が一緒に過ごす様子をビデオで撮りました。すると「砂糖をとった」と聞かされた母親たちは、自分の子を「より落ち着きがない」と評価しました。子どもには、どちらの組にも同じものを与えています。変わったのは、子どもではなく、子どもを見る母親の目のほうでした。

「砂糖を食べると子どもが興奮する」は、親なら一度は聞く話です。この記事では、まず母親の思い込みを調べた実験を紹介します。次に、子どもに本当に砂糖を食べさせた実験と、23の実験をまとめた研究を見ます。最後に、大人の気分を調べた研究と、この思い込みがどこから来たのかを考えます。

01「砂糖をとった」とウソを伝えるだけで、母親には息子が落ち着きなく見えた

この記事の最初に書いた母親と男の子の実験は、1994年に発表されました。発表したのは、ダニエル・フーバー(Daniel W. Hoover)とリチャード・ミリッチ(Richard Milich)です。

集まったのは、母親が「うちの子は砂糖に弱い」と感じている男の子35人です。親子はくじで2つの組に分けられました。

  • A組:母親に「息子さんは砂糖をたくさんとった」と伝える。
  • B組:母親に「息子さんがとったのは、砂糖なしのもの」と伝える。

本当は、どちらの組の子も、アスパルテームという人工甘味料をとっていました。アスパルテームは、砂糖のかわりに甘みをつける物質です。つまり、2つの組の子どもに差はありません。

それでも、A組の母親は、B組の母親より、息子を「多動だ」と評価しました。多動とは、じっとしていられず動き回ることです。A組とB組の評価の差は、統計で調べると、偶然とは言いにくい大きさでした。

ビデオを見ると、母親の行動にも差がありました。A組の母親は、息子のそばにぴったりくっついていることが多かったのです。息子を注意したり、見つめたり、話しかけたりする回数も多めでした。ただし、母親の行動の差は、「そういう傾向があった」という程度です。また、項目によっては、考え方がかたいタイプの母親ほど、この差が強く出ていました。

子どもは同じなのに、「砂糖を食べたはずだ」という思い込みだけで、母親には子どもが違って見え、接し方も変わったわけです。

02家族ごとに砂糖たっぷりの食事を3週間続けても、子どもの行動は変わらなかった

では、本当に砂糖を食べさせたらどうなるのでしょうか。同じ1994年、マーク・ウォルレイク(Mark L. Wolraich)らが、大がかりな実験の結果を医学誌に発表しました。

参加したのは2つのグループです。3〜5歳のふつうの子25人と、親が「砂糖に弱い」と言う6〜10歳の子23人でした。

子どもと家族は、3週間ずつ、次の3種類の食事を順番に続けました。

  1. 砂糖たっぷりの食事(人工甘味料なし)。
  2. 砂糖を減らし、アスパルテームで甘くした食事。
  3. 砂糖を減らし、サッカリンという別の人工甘味料で甘くした食事(比べるための食事)。

どの食事も、着色料や保存料などの食品添加物をほぼ抜いてありました。そして論文によると、これは「二重盲検」の実験でした。二重盲検とは、食べる側も調べる側も、いまどの食事なのかを知らないやり方です。

砂糖の期間にとった砂糖の量は、かなり多いものでした。幼い子は砂糖の期間に、体重1kgあたり1日平均約5.6gの砂糖をとっていました。体重20kgの子なら、1日に100g以上です。

行動と、記憶や学習などのテストの成績は、毎週調べられました。結果はこうです。

  • 「砂糖に弱い」と言われた子では、39項目のどれにも、食事による差がなかった。
  • 幼い子では、31項目のうち4つだけ差が出た。けれども、その4つの差は、決まった向きにそろってはいなかった。

研究チームは、ふだんより多くとっても、砂糖もアスパルテームも子どもの行動や認知に影響しない、と結論しました。認知とは、覚える・考えるといった頭の働きのことです。

0323の実験をまとめても、砂糖をとった子の行動に差は見つからなかった

実験が1つだけだと、たまたまの結果かもしれません。そこで1995年、ウォルレイクらは、それまでの研究をまとめて分析しました。たくさんの研究を集めて、1つの答えを出す方法を「メタ分析」と言います。

集める研究には、きびしい条件をつけました。

  • 決まった量の砂糖を与えていること。
  • 砂糖のかわりに人工甘味料をとる場合を用意して、比べていること。
  • 子ども・親・研究者の誰も、どちらをとったか知らないこと。

この条件を満たしたのは、16本の報告にふくまれる23の実験でした。これらの実験では、行動や成績が14種類の方法で測られていました。どの方法で見ても、砂糖をとった子に「差がある」とは言えませんでした。

論文の結論は、砂糖は子どもの行動や認知に影響しない、というものです。そして、親が「砂糖で変わる」と強く思い込む理由も書いています。親の期待のせいか、「いつも一緒に起こること」を原因と結果のように結びつけてしまうためかもしれない、というのです。

ただし、論文には大事な注意も書かれています。砂糖のごく小さな効果や、一部の子にだけ出る効果までは、否定できないというのです。

子どもは同じでも、「砂糖を食べたはず」と思うと、大人の目には落ち着きがなく見えることがある。
子どもは同じでも、「砂糖を食べたはず」と思うと、大人の目には落ち着きがなく見えることがある。

04甘いものを食べた大人が元気になる、という結果も出なかった

英語には「シュガーラッシュ」という言葉があります。甘いものを食べて、急に元気になることです。では、大人が甘いものを食べると、本当に元気になるのでしょうか。

2019年、イギリスとドイツの研究者たちが、31の研究のデータをまとめました。対象は18歳以上の健康な大人、合わせて1259人です。調べたのは、糖などの炭水化物(ごはんやパン、砂糖などに多くふくまれる栄養)をとったあとの気分です。

結果、炭水化物をとったあとのどの時点でも、気分がよくなる効果は見つかりませんでした。それどころか、とった後の1時間は、疲れを感じやすく、頭がさえない傾向がありました。炭水化物の入っていないものをとったときと比べた結果です。著者たちは、この結果は「シュガーラッシュは作り話だ」と広く知らせるのに役立つかもしれない、と書いています。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

砂糖か甘味料かを、子どもにも親にも知らせない理由

砂糖の研究で、いちばん大事な工夫は、誰が砂糖をとったかを知らせないこと(目隠し)です。もし親が「今日は砂糖の日だ」と知っていたら、どうなるでしょう。フーバーとミリッチの実験が示したとおり、親の評価そのものが変わってしまいます。

そこで研究者は、見た目も味もそっくりな「比べる用」のもの(プラセボ)を用意します。そして、子ども・親・測る人の誰にも、どちらかを知らせません。これが二重盲検です。「二重」とは、受ける側と測る側の両方、という意味です。

1995年のメタ分析は、この条件を満たした研究だけを集めました。逆に言えば、親の印象だけにたよった報告は、ふくめていません。親は「わが子は砂糖で変わる」と強く感じています。それなのに、目隠しをした実験では差が出ません。親の実感と実験の結果は、食い違っているのです。

「こうなるはず」と思うと、子どもの見え方も接し方も変わる

フーバーとミリッチの実験で本当に調べられたのは、子どもではなく、母親の「期待」の働きです。人は、こうなるはずだと思うと、それに合うものを見つけやすくなります。

この実験で大事なのは、母親の行動まで変わった点です。母親は子のそばを離れず、注意する回数も多めでした。大人がそわそわと近くで見張れば、子どもの側も落ち着かなくなるかもしれません。母親の期待が母親の行動を変え、その行動が、今度は子どもを変えるかもしれません。こうして、「砂糖で落ち着きがなくなる」という思い込みは、ますます本当らしく見えて、強まっていくのかもしれません。

「差が見つからない」は「効果がまったくない」と同じではない

「砂糖は影響しない」というメタ分析の結論を読むときは、注意がいります。1995年の論文では、14の測り方のすべてで、「95%信頼区間」が0をふくんでいました。95%信頼区間とは、本当の効果の大きさが、おそらく入っている幅のことです。その幅に0が入っていれば、「差がある」とは言えません。

けれども、それは「効果がちょうどゼロ」という証明ではありません。だから著者たちは、小さな効果や一部の子への効果は否定できない、と書き足しました。科学の論文で「影響しない」と書かれているときは、いつも、このような幅のある結果をもとにしています。

「砂糖で興奮する」という思い込みが生まれた理由

1975年、ファインゴールド(B. F. Feingold)という研究者が、ある論文を書きました。子どもの多動や、勉強がうまくいかない問題を、食べ物に入った「人工の香料と着色料」に結びつける論文です。題名のとおり、話題の中心は食品添加物で、砂糖ではありません。ウォルレイクらの1994年の実験では、添加物をほぼ抜いた食事で、砂糖と甘味料を比べていました。これは、砂糖の影響と、添加物の影響を区別するためだと考えられます。

一方、1995年の論文は、親の思い込みの理由として「いつも一緒に起こること」をあげました。甘いお菓子が出るのは、誕生日会やお祭りのような、もともと子どもがはしゃぐ場面です。お菓子と大さわぎがいつもセットで目に入れば、「砂糖のせいだ」と結びつけたくなります。原因と、たまたま一緒にあるものを取り違えるのは、人がよくやる考え違いです。

お菓子とパーティーのように「いつも一緒に起こること」のうち、どちらが原因なのかを見分けるのは、実は簡単ではありません。パーティーで砂糖をとる子と、とらない子を比べても、どちらの子もパーティーの楽しさではしゃぐからです。だからこそ、場面を同じにして、砂糖か甘味料かだけを知らせない実験が必要でした。1994年の家族ごとの実験は、毎日の暮らしの中で、その実験をしたのです。

05まとめ

「砂糖で子どもが興奮する」は、砂糖か甘味料かを知らせない実験では確かめられませんでした。家族ごと3週間ずつ砂糖たっぷりの食事を試しても、23の実験をまとめても、行動や成績にはっきりした差は出ていません。

はっきり変わったのは、「砂糖を食べたはず」と思った大人の、子どもの見え方でした。次に子どもがお菓子のあとで走り回っていたら、砂糖より先に、そこがパーティー会場かどうかを見てみてください。

人に話すなら、こう言おう

砂糖で子どもが興奮するって、実験だと確かめられないんだって。「砂糖をとらせた」とウソを伝えたら、お母さんのほうが子どもを「落ち着きがない」と見たらしいよ。
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英語で読む

Was It the Sugar or the Party?

CEFR A2227 words4択 5問全訳つき
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英文をタップすると、その文の訳が出ます。

Many parents say that sugar makes children wild.砂糖を食べると子どもが大はしゃぎする、と言う親はたくさんいます。 But is it true?でも、それは本当でしょうか。 Scientists have tested this idea many times.科学者たちは、この考えを何度も確かめてきました。

In 1994, two researchers in the United States studied 35 boys and their mothers.1994年、アメリカの2人の研究者が、35人の男の子とその母親を調べました。 The boys were five to seven years old.男の子たちは5歳から7歳でした。 The researchers told some mothers, "Your son has just had a lot of sugar."研究者たちは一部の母親に「息子さんは、たった今たくさんの砂糖をとりました」と伝えました。 But it was not true.でも、それは本当ではありませんでした。 Every boy got a sweetener with no sugar in it.男の子は全員、砂糖の入っていない甘味料をとっていたのです。 Still, those mothers said their sons were more active than the other mothers did.それでも、その母親たちは、ほかの母親たちよりも、息子が落ち着きがないと言いました。 They also stayed closer to their sons.また、息子のそばを離れずにいました。

In another study, families changed their food for three weeks at a time.別の研究では、家族が3週間ずつ食事を変えました。 Sometimes the food had a lot of sugar.砂糖がたっぷりの食事のときもありました。 Sometimes it had a sweetener instead.かわりに甘味料を使った食事のときもありました。 The families did not know which food they were eating.家族は、自分たちがどちらの食事をしているのか知りませんでした。 Every week, the scientists checked the children.科学者たちは毎週、子どもたちを調べました。 They found no clear difference in how the children acted or thought.子どもの行動にも考える力にも、はっきりした差は見つかりませんでした。

In 1995, a team put 23 studies together.1995年、ある研究チームが23の研究をまとめました。 Again, sugar did not change how children acted or thought.ここでも、砂糖は子どもの行動や考える力を変えませんでした。 A 2019 study looked at 1,259 healthy adults.2019年の研究では、健康な大人1259人を調べました。 Sugar and similar foods did not improve their mood.砂糖やそれに似た食べ物は、気分をよくしませんでした。 In the first hour, people even felt more tired.最初の1時間は、むしろ疲れを感じていました。

So why do so many parents believe it?では、なぜこんなに多くの親がそう信じているのでしょうか。 Maybe sweets often come with parties, and children get excited at parties anyway.もしかすると、お菓子はよくパーティーと一緒に出てきて、子どもはそもそもパーティーではしゃぐからかもしれません。 Next time a child runs around after cake, look at the party, not the cake.今度ケーキのあとで子どもが走り回っていたら、ケーキではなくパーティーのほうを見てみましょう。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2How long did the families eat each kind of food?

    家族はそれぞれの食事をどのくらいの期間続けましたか。

  3. Q3Why did some mothers say their sons were more active?

    一部の母親が、息子の落ち着きがないと言ったのはなぜですか。

  4. Q4In paragraph 4, the word "mood" is closest in meaning to ...

    第4段落の "mood" という語に最も意味が近いものはどれですか。

  5. Q5Which is true about the story?

    本文の内容に合うものはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • sweetener名詞
    甘味料

    This tea has a sweetener instead of sugar.

    このお茶には、砂糖のかわりに甘味料が入っている。

    💡 sweet(甘い)+-en(〜にする)+-er(もの)。「甘くするもの」。

  • researcher名詞
    研究者

    The researcher wrote down every result.

    その研究者は、結果を一つ残らず書きとめた。

    💡 research(研究)+-er(人)。do research(研究する)もよく使う。

  • active形容詞
    活発な、よく動く

    My little brother is very active in the morning.

    弟は朝とても元気に動き回る。

    💡 名詞は activity(活動)。club activities(部活動)。

  • behavior名詞
    ふるまい、行動

    The teacher was happy with the class's behavior.

    先生はクラスのふるまいに満足していた。

    💡 動詞は behave(ふるまう)。イギリスつづりは behaviour。

  • difference名詞
    ちがい、差

    Can you see the difference between these two pictures?

    この2枚の絵のちがいがわかりますか。

    💡 形容詞は different(ちがった)。make a difference で「変化をもたらす」。

  • mood名詞
    気分、機嫌

    She is in a good mood today.

    彼女は今日、機嫌がいい。

    💡 in a good / bad mood(機嫌がいい/悪い)の形でよく使う。

  • tired形容詞
    疲れた

    I was tired after the long walk.

    長い散歩のあとで、私は疲れていた。

    💡 be tired of 〜 は「〜にうんざりしている」。

  • excited形容詞
    わくわくした、興奮した

    The children were excited about the trip.

    子どもたちは旅行にわくわくしていた。

    💡 人が主語なら excited、物事が主語なら exciting(わくわくさせる)。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 17件)。

  1. Hoover, D. W. & Milich, R. (1994) Effects of sugar ingestion expectancies on mother-child interactions, Journal of Abnormal Child Psychologydoi.org
  2. Wolraich, M. L. et al. (1994) Effects of diets high in sucrose or aspartame on the behavior and cognitive performance of children, New England Journal of Medicinedoi.org
  3. Wolraich, M. L., Wilson, D. B. & White, J. W. (1995) The effect of sugar on behavior or cognition in children: a meta-analysis, JAMAdoi.org
  4. Mantantzis, K. et al. (2019) Sugar rush or sugar crash? A meta-analysis of carbohydrate effects on mood, Neuroscience & Biobehavioral Reviewsdoi.org
  5. Feingold, B. F. (1975) Hyperkinesis and learning disabilities linked to artificial food flavors and colors, American Journal of Nursing(PubMed)pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。

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