「サメはがんにならない」はウソで、この説を広めた本の著者もサメのがんを認めていた
都市伝説ファクトチェックNo.185

「サメはがんにならない」はウソで、この説を広めた本の著者もサメのがんを認めていた

サメのがんは、1800年代から記録されている。

ウソFALSE

この判定の対象「サメは、がんにならない」

うなり度 読む時間8分 出典6件 確認した事実26件
もくじ
  1. サメやエイの腫瘍は、1800年代から40例以上記録されている
  2. サメのがんが知られにくかった理由と、都合よく使われた1回の実験
  3. サメの軟骨を患者で試した臨床試験では、効果が出なかった
  4. 深掘り講義
  5. まとめ
  6. 英語で読む(A2・4択5問)
  7. 出典・ウラ取り

1992年、アメリカで1冊の本が出ました。題名は『サメはがんにならない(Sharks Don't Get Cancer)』。著者は I・ウィリアム・レーンです。翌1993年には、アメリカのテレビ局 CBS のニュース番組「60ミニッツ」がこの話を取り上げました。

本がすすめていたのは、サメの軟骨から作ったものを口から飲むことなどです。軟骨は、骨よりやわらかい組織です。サメの骨は、ほとんどが軟骨でできています。サメは軟骨が多いからがんにならない。だから、サメの軟骨を飲めばがんに効く。そんな考えが広まっていきました。

ところが、2004年にこの流れを調べた生物学者によると、レーン自身も、本の中で、サメもがんになることを認めていました。題名とは逆のことが、本の中に書かれていたのです。

この記事では、まず、サメのがんがどのくらい記録されているかを紹介します。次に、「サメはがんにならない」という話がなぜ生まれたのかを見ます。最後に、サメの軟骨を実際に患者で試した結果を紹介します。

01サメやエイの腫瘍は、1800年代から40例以上記録されている

2000年4月、アメリカのジョンズ・ホプキンス大学とジョージ・ワシントン大学の研究者が、米国がん学会の大会で発表をしました。テーマは、サメとその仲間の腫瘍の記録です。腫瘍とは、体の細胞が勝手に増えてできた固まりのことです。体に広がる悪性のもの(がん)と、広がらない良性のものがあります。

もとにしたのは、アメリカの国立がん研究所の「動物の腫瘍の記録」です。この記録はジョージ・ワシントン大学に置かれ、動物の腫瘍の例を集めています。研究者たちは、腫瘍かどうかをとても厳しい基準で確かめました。それでも、サメや、エイなどの仲間に、40例の腫瘍が見つかりました。

サメが、軟骨にできる腫瘍になった例もありました。サメの軟骨は「がんに効く」として売られていました。その軟骨そのものにも、腫瘍ができていたのです。

2004年12月、ジョンズ・ホプキンス大学の生物学者ゲイリー・オストランダーらが論文を出しました。オストランダーは、2000年の発表にも加わっていた人です。論文がのったのは、がん研究の専門誌『キャンサー・リサーチ』です。大学の発表によると、論文には、サメとその仲間の腫瘍の例が40以上のっています。古いものは1800年代の半ばまでさかのぼります。論文の要旨には、がんを2つ持っていたサメが2匹いたことも書かれています。

02サメのがんが知られにくかった理由と、都合よく使われた1回の実験

では、なぜ「サメはがんにならない」と思われたのでしょうか。オストランダーは2000年の発表で、いくつかの理由をあげています。

1つ目は、サメが人から離れた海で暮らしていることです。そのため、がんの原因になる汚染物質にふれにくいと考えられます。また、腫瘍のあるサメが人につかまる機会も少なくなります。

2つ目は、サメの軟骨をすすめる人たちが、研究の結果を都合よく選んで使ったことです。たとえば、実験室でサメに腫瘍を作ろうとした試みが、1回失敗しました。この1回の失敗が、「サメはがんにならない」証拠のように扱われたのです。

けれども、オストランダーは別の魚の例をあげています。カレイの仲間のイングリッシュ・ソールという魚です。この魚でも、実験室で腫瘍を作ろうとした試みは何度も失敗しました。ところが、アメリカ西海岸のピュージェット湾のような場所では、この魚にがんが多いことが知られています。実験室で腫瘍ができなかったからといって、がんにならないとは言えないのです。

オストランダーは、こうも述べています。がんは、生き物の系統樹(生き物の親せき関係を表した図)のどこにでもある。がんにならない動物がいるという考えは、この分野の研究者にはしっくりこない、と。

03サメの軟骨を患者で試した臨床試験では、効果が出なかった

では、サメの軟骨は、がんに効くのでしょうか。この考えには、科学的なきっかけがありました。

米国国立がん研究所(NCI)の資料によると、軟骨には血管がありません。そこで、軟骨の細胞は、血管がのびるのを止める物質を作っているのではないか、と考えられました。腫瘍は、直径数mmより大きくなるには、新しい血管から酸素や栄養をもらう必要があります。血管がのびるのを止めれば、腫瘍が大きくなるのを止められるかもしれません。1980年代の初めには、サメの軟骨にも、血管がのびるのを止める物質があると報告されました。

ところが、患者で試すと、結果は期待どおりではありませんでした。2005年に発表された臨床試験では、治る見込みのない乳がんと大腸がんの患者を2つのグループに分けました。どちらも普通の治療を受けます。そのうえで、一方にはサメ軟骨の製品を、もう一方には見た目もにおいも同じ偽物を、1日3〜4回飲んでもらいました。分析できた83人の結果では、生きられた期間に差はありませんでした。サメ軟骨を飲んだグループで、生活の質がよくなる様子も見られませんでした。

2010年には、手術ができない肺がんの患者379人で、別の試験の結果が出ました。抗がん剤と放射線の治療に、サメ軟骨の抽出物を足したグループ(188人)と、偽物を足したグループ(191人)を比べたのです。ここでも、生きられた期間に、はっきりした差は出ませんでした。

臨床試験では、本物と見た目もにおいも同じ偽物を比べて、効き目を確かめた。
臨床試験では、本物と見た目もにおいも同じ偽物を比べて、効き目を確かめた。
LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

「血管を止める物質」は、サメの軟骨だけのものではない

がんの研究では、「血管新生」という考え方が大切です。血管新生とは、新しい血管がのびてくることです。NCI の資料によると、腫瘍が直径数mm、細胞の数でいうと約10万〜100万個より大きくなるには、新しい血管が必要です。腫瘍も、普通の体の組織と同じように、酸素と栄養のほとんどを血液からもらっているからです。

そこで研究者たちは、血管がのびるのを止める物質を体の中で探しました。2000年の大学の発表によると、最初に探された場所の一つが、血管の少ない軟骨でした。サメは軟骨の多い動物なので、注目されたのです。

けれども、オストランダーは、こう指摘しています。ニワトリの軟骨にも、人の軟骨にも、ほかの組織にも、血管の成長を止める物質はあります。人の血管が今のような形に並んでいる理由の一つも、血管ののびすぎを止める物質が体にあることです。サメの軟骨に何か特別な物質があるとしても、それが何にでも効くがんの薬になると言うのは、今のデータからは無理がある、というのです。

2004年の論文も、軟骨の成分の中には、がんの進行を遅らせるものがあるかもしれない、と書いています。ただし、精製していない粗い抽出物は効かない、と結論づけています。

「食品」として売られたサメ軟骨

NCI の資料によると、アメリカでは、軟骨の製品は薬ではなく、栄養補助食品として売られていました。サメ軟骨だけで、40以上の商品名がありました。アメリカでは、栄養補助食品は食品として扱われます。病気に効くとはっきり言わなければ、売る前に国の審査を受けなくてもよいのです。

一方で、アメリカの食品医薬品局(FDA)は、軟骨をがんなどの治療に使うことを認めていません。NCI の資料には、FDA が、あるサメ軟骨製品を1999年9月から2004年7月までに買った人に、代金の一部を返す制度を知らせたことも書かれています。NCI は、牛やサメの軟骨をがんの治療に使うことは、きちんと計画された臨床試験の中以外ではすすめられない、としています。

2004年の論文は、サメ軟骨のブームでサメが減り、患者が治療から離れたと指摘した

2004年の論文は、サメ軟骨ががんの薬として売りこまれたことで、2つの悪い結果が起きたと書いています。1つは、サメの数が大きく減ったことです。もう1つは、患者が、効き目の確かめられた治療から遠ざかってしまったことです。オストランダーは2000年の発表で、海の生態系の頂点にいるサメを減らすと、生態系が大きく乱れるおそれがあるとも述べています。

ホホジロザメのゲノムが示したのは、「がんにならない」ではない

2019年、ホホジロザメの全ゲノム(遺伝情報のすべて)が読まれました。遺伝子の数は、2万4520個と見積もられました。研究チームは、ゲノムを安定に保つ(DNAが壊れにくくする)働きの遺伝子に、進化の中で選ばれてきた跡を見つけました。そして、大きなゲノムや大きな体、長い寿命などが、その理由ではないかという仮説を立てました。傷を治す働きの遺伝子にも、同じような跡がありました。

この研究は、サメの体のしくみを知る手がかりになります。ただし、論文の要旨には、サメが「がんにならない」とは書かれていません。サメのがんの記録がある以上、「がんになりにくいしくみ」を探す研究と、「がんにならない」という話は、分けて考える必要があります。

04まとめ

「サメはがんにならない」はウソです。サメやエイの腫瘍は、1800年代の半ばから40例以上記録されています。がんを2つ持っていたサメもいました。この話を広めた1992年の本の著者も、本の中でサメのがんを認めていました。

サメの軟骨を患者で試した臨床試験では、生きられた期間に差は出ませんでした。オストランダーの言葉を借りれば、がんは生き物の系統樹のどこにでもあります。サプリの広告で「〇〇はがんにならない」という言葉を見たら、その証拠が論文で確かめられているかを調べてみてください。

人に話すなら、こう言おう

サメはがんにならないって話、ウソなんだって。サメの腫瘍の記録は40例以上あるらしい。しかもこの話を広めた本の著者も、サメががんになることは本の中で認めていたんだって。
READ IN ENGLISH

英語で読む

Do Sharks Get Cancer?

CEFR A2209 words4択 5問全訳つき
0:00

英文をタップすると、その文の訳が出ます。

In 1992, a book came out in the United States.1992年、アメリカで1冊の本が出ました。 Its title was "Sharks Don't Get Cancer."その題名は『サメはがんにならない』でした。 The book said that people should take shark cartilage, the soft bone of sharks.本は、人々がサメの軟骨、つまりサメのやわらかい骨を飲むべきだと言っていました。 In 1993, a TV news show also talked about the idea.1993年には、テレビのニュース番組もこの考えを取り上げました。

But sharks do get cancer.しかし、サメはがんになります。 In 2000, scientists looked at old records of tumors in animals.2000年、科学者たちが動物の腫瘍の古い記録を調べました。 They found 40 cases of tumors in sharks and related fish, like rays.彼らは、サメと、エイのような仲間の魚に、40例の腫瘍を見つけました。 Some sharks even had tumors in their cartilage.軟骨に腫瘍があったサメもいました。 A paper in 2004 described more than 40 examples, from as early as the mid-1800s.2004年の論文は、1800年代半ばまでさかのぼる40以上の例を紹介しました。

Now look at the book again.ここで、もう一度その本を見てみましょう。 The writer of the 1992 book agreed in the book that sharks can get cancer.1992年の本の著者は、本の中で、サメもがんになりうると認めていたのです。 But the title said the opposite.しかし、題名は反対のことを言っていました。

Why did people think cartilage could help?人々はなぜ、軟骨が役に立つと考えたのでしょうか。 Tumors need new blood vessels to grow bigger.腫瘍が大きくなるには、新しい血管が必要です。 Cartilage has no blood vessels, so scientists looked in it for things that stop blood vessels from growing.軟骨には血管がないので、科学者たちは、血管がのびるのを止めるものがその中にないか探しました。 But other kinds of cartilage, like chicken cartilage, also have such things.しかし、ニワトリの軟骨のような、ほかの軟骨にもそうしたものがあります。

Doctors tested shark cartilage on patients.医師たちは、サメの軟骨を患者で試しました。 In one test with 83 patients, some took shark cartilage and others took a fake pill.83人の患者での試験では、サメの軟骨を飲む人と、偽物を飲む人に分けました。 The two groups lived for about the same time.2つのグループが生きた期間は、ほとんど同じでした。 A test with 379 lung cancer patients also found no clear difference.379人の肺がん患者での試験でも、はっきりした差は見られませんでした。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2How many cases of tumors did scientists find in 2000?

    2000年に科学者たちは何例の腫瘍を見つけましたか。

  3. Q3Why did scientists look for useful things in cartilage?

    科学者たちが軟骨の中に役立つものを探したのはなぜですか。

  4. Q4In paragraph 5, the word "fake" is closest in meaning to ...

    第5段落の fake という語にいちばん近い意味はどれですか。

  5. Q5Which is true according to the story?

    本文の内容に合うものはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • cancer名詞
    がん

    Doctors are looking for new ways to treat cancer.

    医師たちは、がんの新しい治療法を探している。

    💡 ラテン語で「カニ」。星座の「かに座」も Cancer。

  • tumor名詞
    腫瘍

    The doctor found a small tumor in his arm.

    医師は彼の腕に小さな腫瘍を見つけた。

    💡 アメリカつづり。イギリスでは tumour。

  • cartilage名詞
    軟骨

    There is cartilage at the tip of your nose.

    鼻の先には軟骨がある。

    💡 発音は「カーティリッジ」。

  • blood vessel名詞
    血管

    Blood moves through our blood vessels.

    血液は血管の中を流れる。

    💡 vessel はもともと「容器、船」の意味。

  • record名詞
    記録

    The school keeps a record of every student.

    学校は生徒一人ひとりの記録を残している。

    💡 動詞は「記録する」で、アクセントが後ろ(re-CORD)に移る。

  • opposite名詞
    反対のこと

    Hot is the opposite of cold.

    「熱い」は「冷たい」の反対だ。

    💡 形容詞や前置詞としても使う(the opposite side=反対側)。

  • patient名詞
    患者

    The nurse talked kindly to the patient.

    看護師は患者にやさしく話しかけた。

    💡 形容詞では「がまん強い」。

  • fake形容詞
    偽物の

    The police found a fake ticket.

    警察は偽物のチケットを見つけた。

    💡 fake news(偽のニュース)でよく使う。反対は real(本物の)。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 26件)。

  1. Ostrander, G. K. et al. (2004) Shark cartilage, cancer and the growing threat of pseudoscience, Cancer Researchdoi.org
  2. Shark Cartilage Cancer 'Cure' Shows Danger Of Pseudoscience(ジョンズ・ホプキンス大学の発表、2004年、ScienceDaily 掲載)sciencedaily.com
  3. Shark Cancers Cast More Doubt On Cartilage Pills(ジョンズ・ホプキンス大学の発表、2000年、ScienceDaily 掲載)sciencedaily.com
  4. Cartilage (Bovine and Shark) (PDQ®)–Health Professional Version(米国国立がん研究所)cancer.gov
  5. Loprinzi, C. L. et al. (2005) Evaluation of shark cartilage in patients with advanced cancer, Cancerdoi.org
  6. Marra, N. J. et al. (2019) White shark genome reveals ancient elasmobranch adaptations associated with wound healing and the maintenance of genome stability, PNASdoi.org

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