原田英語ジャーナル

【IELTS vs TOEFL】なぜ世界の大学は“この2択”を迫るのか?スピーキング採点基準に隠された「本当に使える英語」の正体

海外留学やグローバルキャリアを目指す誰もが、一度は必ずその名を目にする2つの英語試験、IELTS(アイエルツ)TOEFL(トーフル)。世界中の大学や機関が、入学許可の判断基準としてこのどちらかのスコア提出を求めるのは、もはや常識です。

しかし、なぜこの2つの試験なのでしょうか。数ある英語試験の中で、なぜIELTSとTOEFLだけが、これほどまでに絶対的な「世界標準」として君臨しているのでしょうか。そして、多くの日本人学習者が最も苦戦するスピーキング試験において、採点官は一体私たちの英語力の「何」を見ているのでしょうか。

その答えは、単なる試験対策のテクニックを超え、大学での研究や議論に耐えうる「本物の英語力」とは何か、という根源的な問いに繋がっています。今回は、両試験の成り立ちと、特にスピーキングの採点基準を深く、そして具体的に掘り下げることで、私たちが本当に身につけるべき「教えるべき英語」の核心に迫ります。

✅ IELTS vs TOEFL 問題の核心―なぜ世界はこの2択を求めるのか

この問題の本質を理解するための重要ポイントを整理します。

  • 圧倒的な歴史と信頼性:TOEFLは1964年からアメリカの非営利団体ETSが、IELTSは1989年からイギリスのブリティッシュ・カウンシル等が共同で開発・運営しています。長年の研究と膨大なデータに裏打ちされた評価システムは、世界中の大学から絶大な信頼を得ています。
  • 「アカデミック英語」を測る精密な設計:両試験の目的は、日常会話力ではなく、大学の講義を理解し、文献を読み、レポートを書き、ディスカッションに参加するための「学術的な環境で通用する英語力」を測ることに特化しています。
  • 運命の分かれ道「スピーキング形式」:最大の違いはスピーキング試験にあります。TOEFLはコンピューターに向かってマイクに録音する形式で情報処理能力が問われ、IELTSは試験官と1対1で対話する面接形式でコミュニケーション能力が重視されます。
  • 採点基準が示す「理想の英語運用能力」:両試験とも「流暢さ」「語彙」「文法」「発音」を評価しますが、その重点の置き方が異なります。TOEFLは情報の要約や論理構成力を、IELTSはより自然な会話のやり取りや柔軟な表現力を重視する傾向が見られます。
  • 大学が本当に見たい能力:大学側は、完璧な発音の持ち主を求めているわけではありません。両試験を通じて、複雑な情報を理解し、自分の意見を論理的に構築し、他者とコミュニケーションできる学生を見極めようとしています。

これらの要素が、IELTSとTOEFLを単なる語学テストではない、グローバルな学術社会への「パスポート」たらしめているのです。

孤独なPCか、生身の対話か―スピーキング試験の決定的違いと攻略テクニック

多くの受験者が頭を悩ませるのが、スピーキング試験の形式選択です。この違いは、単なるスタイルの差ではなく、求められる能力の質にも影響を与えます。それぞれの特徴と、スコアを伸ばすための具体的なテクニックを見ていきましょう。

① TOEFL:PCに向かう論理の構築力
TOEFLのスピーキングは、ヘッドセットを装着し、コンピューターのマイクに向かって回答を録音する形式です。目の前に人間がいないため公平性は保たれやすいですが、機械を相手に話す無機質さに緊張する人も少なくありません。この形式では、与えられた時間内で情報を的確に整理し、序論・本論・結論といった一貫性のあるスピーチを構築する能力が極めて重要になります。特に、講義や会話を聞いてその内容を要約する統合問題(Integrated Task)は、TOEFLの真骨頂です。

【攻略テクニック】
テンプレートの活用:「The reading passage discusses…, and the lecturer casts doubt on it by stating that…」のような型を準備し、思考のフレームワークとして使うと時間内に話しやすくなります。
PREP法を意識:自分の意見を述べる問題では、Point(結論)→ Reason(理由)→ Example(具体例)→ Point(再結論)の構成で話すと、論理性が格段に上がります。
メモ取りの技術:聞きながらキーワードや話の転換点を素早く書き留める練習が不可欠です。記号や略語を自分なりに決めておくと効率が上がります。

② IELTS:試験官との「対話力」
一方、IELTSは試験官と1対1の対面形式で行われます。自己紹介のような身近な話題から始まり、特定のテーマについて短いスピーチをし、最後はその内容についてディスカッションを行います。こちらは、より自然な会話に近く、相槌やアイコンタクトといった非言語的なコミュニケーションも評価の雰囲気に影響します。IELTSで問われるのは、その場の流れを読み、質問の意図を汲み取り、柔軟に会話をキャッチボールする能力です。

【攻略テクニック】
パラフレーズ(言い換え)を制する:試験官の質問の言葉をそのまま繰り返すのではなく、「In other words…」「What I mean is…」などを使って自分の言葉で表現し直すと、語彙力をアピールできます。
Part 2スピーチの構成術:1分間の準備時間で、話す内容をキーワードでメモします。過去→現在→未来の時間軸や、5W1H(Who, What, When, Where, Why, How)のフレームワークを使うと、2分間のスピーチが間延びしません。
効果的なフィラー(つなぎ言葉):沈黙は減点対象です。考えがまとまらない時は、「Well, that’s an interesting question…」「Let me think for a moment…」といった表現で間をつなぎ、流暢さを維持しましょう。

採点官の視点―スコアを分ける4つの評価基準と具体的テクニック

では、採点官(およびAI)は具体的に何をもって「使える英語」と判断しているのでしょうか。両試験に共通する4つの評価項目を紐解き、ハイスコア獲得の秘訣を探ります。

① 流暢さと一貫性 (Fluency and Coherence)
これは「いかにスムーズに、論理的に話せるか」です。頻繁な言い直しや不自然な間はマイナス評価に繋がります。
【テクニック】接続詞(However, Therefore, In addition)や談話標識(First of all, To sum up)を効果的に使い、話の流れを明確にしましょう。沈黙を恐れず、考えをまとめるための自然な間は問題ありませんが、言葉に詰まったらフィラーを使うのが得策です。

② 語彙力 (Lexical Resource)
「どれだけ豊かで適切な言葉を使えるか」が問われます。同じ単語の繰り返しは避けましょう。
【テクニック】例えば「important」の代わりに「crucial, vital, essential」、「good」の代わりに「beneficial, advantageous, positive」など、類義語をストックしておきましょう。また、「solve a problem」や「make a decision」のような、自然な語の組み合わせ(コロケーション)を意識すると、よりネイティブらしい表現になります。

③ 文法の幅と正確さ (Grammatical Range and Accuracy)
「どれだけ多様な文法構造を、正確に使えるか」です。簡単な文(単文)ばかりでなく、複雑な文(複文)も使えることをアピールする必要があります。
【テクニック】関係代名詞(who, which, that)や接続詞(although, while)を使った文、仮定法(If I were…)などを意識的に会話に盛り込みましょう。ただし、無理に複雑な文を作ってミスを連発するよりは、シンプルでも正確な文を話す方が評価は高くなります。ミスを恐れすぎず、修正できれば「Sorry, I mean…」と自然に言い直せば大丈夫です。

④ 発音 (Pronunciation)
多くの人が誤解していますが、これは「ネイティブのような発音」を求めているわけではありません。重要なのは「明瞭さ(Clarity)」、つまり試験官がストレスなく聞き取れるかどうかです。
【テクニック】個々の音の正確さに加え、単語のどこを強く読むか(ストレス)、文全体の抑揚(イントネーション)、そして単語と単語の音のつながり(リンキング)を意識しましょう。自分のスピーキングを録音して聞き返し、どこが聞き取りにくいか客観的に分析するのが最も効果的な練習法です。

<まとめ>テクニックの先に目指すもの―真のグローバル人材への道

IELTSとTOEFLが世界の大学から信頼される理由は、単に英語力を測るだけでなく、その先にある「アカデミックな環境での成功可能性」を見極めるための、洗練されたツールだからです。

スピーキング試験の形式の違いや採点基準の裏には、「論理的に思考し、表現する力」と「柔軟に対話し、コミュニケーションを続ける力」という、グローバルな知の探求に不可欠な2つの能力が反映されています。今回紹介したテクニックは、ハイスコアを獲得するための強力な武器になります。

しかし、最も重要なのは、これらのテクニックが目指す先を理解することです。それは、小手先で試験を乗り切ることではなく、自分の考えや知識を、世界の誰とでも共有し、議論できる本質的なコミュニケーション能力を養うことに他なりません。この2大試験は、私たちに「教えるべき英語」そして「学ぶべき英語」の未来を示しているのです。