授業の待ち時間(wait time)|教師が待つのは平均1秒でした
ニュースレター|Vol.41
質問してから次に口を開くまで、教師が待つ時間は0.7〜1.5秒。3秒以上に延ばすと、生徒の言葉と考え方にはっきりした変化が現れます。今日は、その1秒を3秒に延ばすだけの話です。帯活動2本、教室英語4本、挙手に頼らないための無料ツール4選つき。
監修:原田高志(原田英語.com)
おはようございます。今日は、道具もお金も準備も要らない話です。必要なのは2秒だけ。最後の節から読んでも構いません。
09.19.2026 Vol.41
おはようございます。
今日の話は、準備がゼロです。プリントも要らないし、アプリも入れません。必要なのは、明日の授業で2秒だけ足すこと。それだけです。
ただ、その2秒がとても長く感じます。私は最初、3秒待てませんでした。
先に、帯活動を2本と、そのまま言える教室英語を4本。今日の無料ツールは、挙手に頼らずに全員へ考える時間を配るための4つです。
TODAY'S PICK
ELEC英語教育賞、11月30日まで応募を受付中。個人の教員でも出せます
ReseEd(2026年9月16日)/ICT教育ニュース(2026年9月17日)。主催は一般財団法人英語教育協議会(ELEC)、文部科学省後援
一般財団法人英語教育協議会(ELEC)が、2026年度の「ELEC英語教育賞」の応募を受け付けています。締め切りは2026年11月30日です。
対象は、小学校・中学校・高等学校での英語教育の実践です。国公私立を問わず、特別支援学校や併設校も含まれます。
いちばん知られていないのは、ここだと思います。学校単位だけでなく、教員個人でも応募できます。1人でも、複数名でも構いません。
提出するのは、申請書・実践報告書・映像資料の3つ。ELEC のサイトにある応募フォームから出します。選考結果は2027年2月下旬までに通知されます。
副賞は、文部科学大臣賞が30万円、ELEC 理事長賞と英語教育実践奨励賞がそれぞれ10万円です。
この賞のいちばんの使いどころは、受賞することではありません。
応募書類を書くこと自体です。実践報告書を書こうとすると、自分が何をやっていたのかを、初めて言葉にすることになります。
審査の観点として、英語科全体に役立つか、ほかの学校でも使える方法か、工夫があるか、生徒の伸びが記録として示されているかが挙げられています。
この4つ目が効きます。生徒の伸びを記録として示す。ここで手が止まる先生は多いはずです。私も止まりました。日々やっていることの大半は、記録が残っていません。
出す出さないは別として、11月末までに1本だけ実践を言葉にしてみる。それだけで、来年度の授業の作り方が変わります。締め切りがあるほうが、人は書けます。
ReseEd|小中高の英語実践「ELEC英語教育賞」副賞は最大30万円
WARM-UPS
今日の帯活動(5分でできる)
どちらも道具は要りません。5分ずつ。
手を挙げさせる前に、黙って3秒数える
- 英語で質問を1つします。答えが1つに決まらないものにしてください。1語で答えが出る質問では、待っても何も起きません
- 「まだ手を挙げないでください」と言います。ここを言わないと、この5分は成立しません
- 黙って、心の中で3つ数えます。指を3本立てて、1本ずつ折って見せると数えやすくなります
- 3秒たってから「どうぞ」と言って、初めて手を挙げさせます
- 同じことを5問くり返します。3問目あたりで、挙がる手の数が変わります
- 💡 教師のほうが先に耐えられなくなります。3秒は、待つ側には10秒に感じます。指を折って見せるのは、生徒のためではなく自分が数えるためです。
答えが出たあとにも、もう3秒待つ
- 生徒が答えたら、「正解」も「惜しい」も言わずに、黙って3秒待ちます
- うなずくだけにしてください。表情も動かしすぎないほうが効きます
- たいてい、答えた生徒自身が続きを話し始めます。そこを待ちます
- 誰も続けなかったら「ほかに足したい人」と1回だけ聞きます
- 5問やって、最後に「どっちが考えやすかった?」と日本語で聞いて終わります
- 💡 答えたあとの3秒のほうが、効き目が大きいとされています。先生が「正解」と言った瞬間に、教室全体の思考が止まるからです。
CLASSROOM ENGLISH
そのまま使える教室英語
今日の4本は、どれも「待っている最中」に使う言い方です。
質問した直後、すぐ手が挙がりそうなとき
Take three seconds. Nobody answers yet.
3秒とってください。まだ誰も答えないで。
待つと宣言してしまうのがいちばん楽です。黙っているだけだと、生徒は「聞こえなかったのかな」と思って答えてしまいます。
いつも同じ生徒の手が先に挙がるとき
Hands down for now. I'll wait.
いったん手を下ろしてください。待ちますので。
早い生徒を止めるのではなく、待つのは自分のほうだと伝えます。I'll wait. の一言で、教室の空気が変わります。
1人が答え終わったあと
Anyone want to add to that?
いまの答えに、何か足したい人はいますか。
正解かどうかを言う前に挟みます。add to(付け足す)なので、間違いを直す形になりません。手が挙がりやすい聞き方です。
沈黙が続いて、気まずくなってきたとき
I'm not moving on yet.
まだ先へは進みませんよ。
沈黙が「失敗」ではないと示す一言です。これを言うと、諦めて下を向いていた生徒が、もう一度考え始めます。
AI TOOLKIT
AI × 英語指導
教師向け1つ、生徒向け1つ
教師向けBrisk Teaching
ブラウザに入れて使う拡張機能です。いま画面に開いている教材やウェブページに対して、そのまま作業ができるのが特徴で、別のサイトへ本文を貼り直す手間がありません。読解レベルの変更、設問の作成、フィードバックの下書きなどを、開いたページの上で行えます。⚠ 無料でできる範囲と有料の範囲が分かれています。生徒の答案を扱う前に、学校の規定を必ず確認してください。
使いどころ:🎓 待ち時間の話と合わせるなら、同じ本文について「答えが1つに決まらない質問」を5つ作らせる使い方をおすすめします。3秒待っても意味があるのは、考える余地のある質問だけです。事実を1つ答えるだけの質問は、待っても何も起きません。作らせた5問のうち、実際に使うのは1問で十分です。
生徒向けYoodli
話している自分を録画して、話し方を分析してくれるツールです。速さ、つなぎ言葉(ええと、あの)、そして間の取り方が数字で返ってきます。英語のスピーチやプレゼンの練習に使えます。⚠ 英語圏のビジネス向けに作られているので、表示はすべて英語です。中学生には少し難しいかもしれません。
使いどころ:🎓 生徒に使わせるとき、見るところを1つだけ指定してください。おすすめは「間」です。緊張している生徒ほど、間を取らずに話し切ろうとします。数字で見せると、本人が初めて気づきます。待つのは先生だけではありません。話す側にも間が要る、という話につなげられます。
NEWS FLASH
今日のニュース
今週、生徒に話せそうな3本です。
WORLD · 09.16
頭蓋骨の中に、知られていなかった「免疫の拠点」があった
頭蓋骨は、脳を守る硬い箱だと思われてきました。ところがその骨の中の骨髄に、脳に特有の免疫反応の拠点があったという報告です。ワシントン大学医学部(セントルイス)の研究です。
英語の授業では、harbor という語を渡せます。報告文に it harbors ~(そこに〜がひそんでいる)という形で出てきます。「港」と同じ語だと言うと、生徒が身を乗り出します。
ScienceDaily|Hidden "immune organ" in the skull may help fight brain cancer
WORLD · 09.17
脳の神経は、なめらかな管ではなかったかもしれない
教科書は100年ほど、神経のケーブルにあたる軸索をなめらかな管として描いてきました。ジョンズ・ホプキンス大学医学部の報告によれば、実際は小さな真珠をつないだひものようだというのです。
教室では、resemble の語法に使えます。resemble to とは書きません。他動詞なので、うしろに名詞が直接続きます。入試で最も多い誤りの1つなので、ニュースと一緒に渡すと定着します。
ScienceDaily|Textbooks may have misdrawn this basic brain structure for 100 years
WORLD · 09.17
アマゾンで新種のカエル。決め手はDNAと鳴き声でした
見た目のよく似た仲間が多いため、DNAと鳴き声を組み合わせて、ようやく別の種だと判断されたそうです。名前は Adenomera varcena。
この記事には distinguish(見分ける)と distinctive(特徴的な)が並んで出てきます。distinct との3語をまとめて扱える、めずらしい素材です。「新種かどうかを決める作業そのものが、この動詞です」と言うと、意味が具体的になります。
ScienceDaily|Scientists discover a mysterious new frog hiding in the Amazon
FREE TOOLS
無料の学習ツール4選
今号のテーマは「挙手に頼らない」。3秒待っても同じ手しか挙がらない教室を、動かすための4つです。
Wheel of Names
名前を入れておくと、ルーレットが回って1人を選んでくれます。登録も入れものも要らず、ブラウザだけで動きます。挙手にしていると、どうしても同じ生徒が答え続けます。選ばれる可能性が全員にあると分かるだけで、待っている3秒の中身が変わります。名簿はブラウザに保存できるので、クラスごとに作っておけます。
Plickers
生徒には紙のカード1枚だけを持たせ、先生のスマートフォンで教室を映すと、全員の答えが一度に集計されます。生徒側の端末が要りません。全員が同時に答えるので、早い生徒が場を決めてしまうことが起きません。手を挙げるのが苦手な生徒の答えが、初めて見えるようになります。無料で使える範囲があります。
Right Question Institute
生徒自身に質問を作らせる方法(Question Formulation Technique)を公開している非営利団体です。質問を作る手順が、そのまま授業で使える形にまとめられています。待つ価値のある質問とは何かを考えるときの土台になります。資料は無料で、登録すれば教材一式を入手できます。英語での提供ですが、手順そのものは日本語の授業にもそのまま持ちこめます。
Classtools.net
授業用の小さな道具が、まとめて置いてあるサイトです。ランダム指名、タイマー、カウントダウン、簡単なゲームなどが、どれも1ページで完結します。登録なしで使えるものが多く、黒板の横に映しておくだけで機能します。3秒を目で見せたいときは、ここのカウントダウンを大きく映してください。先生が数えなくて済みます。
STORY BREAK
生徒に話したくなる小ネタ
どちらも、待つことと時間の話です。
patient(患者)は、もともと「耐えている人」でした
語源辞典 Etymonline によれば、patient はラテン語の pati(耐える、経験する)から来ています。その現在分詞 patientem の意味は、「担う、支える、苦しむ、耐える、許す」でした。
英語に入ったのは、形容詞が14世紀の半ば。意味は「不運や苦しみを、不平を言わずに耐えられる」です。
名詞の「患者」は、そのすぐあと、14世紀の終わりごろに現れます。「治療を受けている、苦しんでいる人」。つまり、患者とは「耐えている人」のことでした。
そして patience(忍耐)も、同じ patientem から作られた名詞です。1200年ごろの語です。
生徒に話すなら、病院の話をするときが自然です。「待合室で待っているから患者なのではありません。耐えているほうが先です」。
今日の話とも、つながります。待つ側にも、耐える力が要るということです。
second(秒)は、「2回目に細かくしたもの」でした
1時間を60で割ると、1分になります。ラテン語では、これを「1回目の細かい部分」と呼びました。minute の由来です。
では、それをもう一度60で割ると何になるか。「2回目の細かい部分」です。
Etymonline によれば、時間の単位としての second は14世紀の終わりごろに現れ、中世ラテン語の secunda pars minuta(2番目に細分した部分)、つまり「1時間を60で2回目に割った結果」から来ています。
⚠ 順番を表す second(2番目の)と、まったく同じ語です。もともと英語では「2番目の」を other と言っていましたが、other があいまいすぎたので、second に置きかわりました。
今日の話に引きつけるなら、こうなります。3秒とは、1時間を60で2回割ったものを、3つぶん。そう言い直すと、ばかばかしいほど短く聞こえます。それでも、待てないのです。
QUOTE
今日の名言
今日の一行
“Slowing down may be a way of speeding up.”
ゆっくりにすることが、速くする方法なのかもしれません。
メアリー・バッド・ロウ(1986年の論文の題名 "Wait Time: Slowing Down May Be A Way of Speeding Up!" より)
論文の題名がそのまま名言になっている、めずらしい例です。授業を急いでいるときほど、質問のあとを待てなくなります。待たないぶん、先へは進みます。ただ、進んだ先に誰もついてきていないことがあります。この1文を教卓に貼っておくと、時間が押している日に効きます。
THE FLIP
常識がひっくり返る話
教師が待つのは0.7〜1.5秒。3秒に延ばすと、生徒の言葉と考え方が変わります
授業中、生徒に質問をします。
誰も答えません。2秒ほど沈黙が流れます。気まずくなります。そこで、たいていこうします。
「えーと、たとえばこの文だと……」と、ヒントを足してしまう。あるいは「分かる人?」ともう一度聞く。あるいは、いつも手を挙げてくれる生徒を指名する。
どれも、悪いことをしている自覚はありません。むしろ、沈黙で生徒を困らせないための配慮です。授業には進度もあります。1つの質問で30秒止まっていたら、その日の予定は終わりません。
そして、沈黙は本当に気まずいのです。教室の前に立って黙っているのは、想像以上につらい。私は、この気まずさに何年も負けていました。
ところが
メアリー・バッド・ロウという研究者が、教師が実際に何秒待っているかを測りました。
結果は、0.7秒から1.5秒。1秒前後です。
ロウは、待ち時間を2つに分けました。質問してから、次に誰かが話し出すまでの時間(wait time 1)と、生徒が答え終わってから、教師が口を開くまでの時間(wait time 2)です。
どちらも、1秒ほどしかありませんでした。
そのうえで、3秒以上に延ばしたとき何が起きるかを調べています。ロウはこう書いています。「生徒の言葉と論理に、はっきりした変化が現れる」(there are pronounced changes in student language and logic)。
1986年の論文の題名が、その結論を言い切っています。Wait Time: Slowing Down May Be A Way of Speeding Up!(待ち時間。ゆっくりにすることが、速くする方法なのかもしれない)
⚠ 3秒という数字だけが一人歩きしがちですが、大事なのは2種類あることのほうです。多くの先生は、質問のあと(1つ目)は意識できても、生徒が答えたあと(2つ目)は無防備です。
なぜ1秒では足りないのか。
生徒の頭の中で起きていることを、順に並べてみてください。質問を聞き取る。日本語に直す。答えを思いつく。それを英語に戻す。言い方が合っているか確かめる。手を挙げるかどうか決める。
6段階あります。これを1秒でやれと言われているわけです。
1秒で手が挙がる生徒は、この6段階のどこかを飛ばせる生徒です。だからいつも同じ顔ぶれになります。手が挙がらないのは、分かっていないからではありません。まだ3段階目にいるだけのことが、とても多いのです。
そして、答えたあとの3秒がなぜ効くのか。
先生が「正解です」と言った瞬間に、教室全体が考えるのをやめます。答え合わせが終わったからです。その一言を3秒遅らせるだけで、まだ考えている時間が教室に残ります。
⚠ ただし、待てば何でもよくなるわけではありません。Yes か No で終わる質問を3秒待っても、何も起きません。待つ価値があるのは、答えが1つに決まらない質問だけです。
つまり、この話は2つで1組です。待つ時間を延ばす。そして、待つ価値のある質問をする。片方だけでは、沈黙が長くなるだけで終わります。
明日の授業でやること|明日の授業でやること
- 明日いちばん最初にする質問を、1つだけ決めておきます。答えが1つに決まらないものにしてください
- その質問をしたあと、指を3本立てて、1本ずつ折ります。声には出しません。自分が数えるための道具です
- 生徒が答えたら、「正解」と言う前に、もう一度3本折ります。ここがいちばん難しいところです
- その1問だけでやめます。1時間まるごと変えようとすると、進度が崩れて次の日にやめてしまいます
この号で触れたリンク
- ReseEd|小中高の英語実践「ELEC英語教育賞」副賞は最大30万円
- ICT教育ニュース|英語教育協議会、文科省後援「2026年度 ELEC英語教育賞」応募を受付中
- ELEC|ELEC英語教育賞
- ERIC|Rowe, M. B.「Wait Times: Slowing Down May Be a Way of Speeding Up」Journal of Teacher Education, 37(1), 43-50(1986)
- Faculty Focus|Increase Student Learning in Only 3 Seconds(Jennifer Sullivan、2019年10月28日)
- ScienceDaily|Hidden "immune organ" in the skull may help fight brain cancer
- ScienceDaily|Textbooks may have misdrawn this basic brain structure for 100 years
- ScienceDaily|Scientists discover a mysterious new frog hiding in the Amazon
- Brisk Teaching
- Yoodli
- Wheel of Names
- Plickers
- Right Question Institute
- Classtools.net
- Etymonline|patient
- Etymonline|second
この話のいいところは、明日すぐ試せて、しかもお金も準備も要らないことです。
悪いところは、やってみると、想像よりずっとつらいことです。3秒は長い。教室の前で黙っていると、5秒にも10秒にも感じます。生徒の顔を見ていられなくなって、つい口を開いてしまいます。
だから、指を折ってください。数えるものがあると、待てます。
明日は1問だけで構いません。いちばん最初の質問のあと、3本の指を折る。それだけです。
またあした。
Vol.41 09.19.2026
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よくある質問
授業で質問したあと、何秒くらい待つのがよいのですか?
3秒以上が目安とされています。メアリー・バッド・ロウの研究では、教師が実際に待っていた時間は0.7〜1.5秒でした。3秒以上に延ばすと、生徒の言葉と論理にはっきりした変化が現れると報告されています。
待ち時間には2種類あると聞きました。どう違うのですか?
1つ目は、質問してから誰かが話し出すまでの時間です。2つ目は、生徒が答え終わってから教師が口を開くまでの時間です。多くの先生は1つ目しか意識していませんが、2つ目のほうが効き目が大きいとされています。「正解です」と言った瞬間に、教室全体が考えるのをやめてしまうからです。
待っても手が挙がらないときは、どうすればいいですか?
質問そのものを見直してください。Yes か No で終わる質問や、事実を1つ答えるだけの質問は、何秒待っても何も起きません。待つ価値があるのは、答えが1つに決まらない質問だけです。待ち時間を延ばすことと、質問を作り変えることは、2つで1組です。