中高英語教師のニュースレター Vol.1|待ち時間は3秒
3秒だけ、黙ってみる
英語広場に引っ越しての第1号。指名したあとの沈黙をストップウォッチで測った1972年の研究から、待てていなかったのは生徒のほうではないと分かります。ほかに、中学英語の全国学力調査が4技能すべてコンピュータ方式になった件、原稿を書かせない帯活動2本、教室英語4本、DiffitとYouGlish、教育ニュース3本、無料ツール4選、OKの語源。
監修:原田高志(原田英語.com)
08.10.2026 Vol.1
おはようございます。週のはじまりです。ニュースレターは今号から、この「日刊原田英語」に引っ越しました。番号も心機一転、Vol.1 から数え直します。原田英語.com に残した Vol.171 までのバックナンバーも、どうぞそのままお使いください。
そして今号から、「今日はどこの国の話」という設定をやめました。先生の役に立つかどうかだけで、中身を決めます。
今日いちばんの読みどころは、いちばん最後です。指名したのに答えが返ってこない、あの数秒について、1972年に教室でストップウォッチを回した研究があります。先に言ってしまうと、待てていなかったのは生徒のほうではありませんでした。
TODAY'S PICK
中学英語、4技能すべてがコンピュータ上の試験になった
文部科学省・国立教育政策研究所「令和8年度 全国学力・学習状況調査」結果公表(リシード 7/16)
2026年7月16日、今年度の全国学力・学習状況調査の結果が公表されました。中学校英語は今回から、「聞く・読む・話す・書く」の4技能すべてを CBT で実施しています。CBT は Computer Based Testing の略で、紙の冊子ではなく、生徒が一人1台の端末で解く方式のことです。
結果の出し方も変わりました。これまでの「平均正答率○%」ではなく、IRT スコアという尺度で示されています。IRT は項目反応理論といって、問題の難しさと生徒の力を、同じ1本のものさしの上に並べる統計の方法です。難しい問題に正解したほうが高く出る、と考えていただければ十分です。
今回の中学校英語は4技能の平均が 499。5段階のバンド分布は、バンド1が6.4%、バンド2が27.1%、バンド3が36.2%、バンド4が24.7%、バンド5が5.7%でした。そして2027年度からは、小中学校のすべての教科が紙から端末へ全面的に移ります。
数字より先に、出題の形が変わったことを見てください。「話す」が、端末に向かって録音する形で全国一斉に行われた。これは教室の帯活動の値打ちが上がったということです。原稿を書いてから読み上げる練習しかしてこなかった生徒は、この形式で止まります。今日の帯活動2本は、どちらも紙に書かせず、口から出させることだけを狙って選びました。
リシード|【全国学力テスト】小中の平均正答率を公表、中学英語は4技能CBTを初実施
WARM-UPS
今日の帯活動(5分でできる)
どちらも原稿を書かせない。口から先に出させる2本
30秒スピーキング・スプリント
- 教師がお題を1つ、英語で言う。What did you eat this morning? のように、全員がすでに答えを持っている問いにする
- 30秒、ペアの片方だけが話し続ける。言いよどんでも、途中で止まってもよい。日本語だけは使わない
- 交代してもう30秒。終わったら「相手が言ったことを1つ」英語で教師に報告させる
- 同じお題で、もう一度。今度は45秒。2回目は必ず伸びますので、そこを本人に自覚させて終わる
- 💡 同じお題を2回やるのがすべてです。1回目は言葉を探す時間、2回目は言い方を選ぶ時間になります。流暢さの練習として知られる 4/3/2 法(同じ話を4分・3分・2分と時間を縮めて3回話す)の、教室版の短縮形だと思ってください。時間を縮めるのではなく伸ばすのは、中学生には「もっと話していい」のほうが効くからです。
聞いてすぐ言う。3文リレー
- 教師が教科書本文から1文を読む。生徒は教科書を閉じたまま聞く
- 全員で1回、声に出して真似る。ここではまだ意味の確認をしない
- ペアの片方が、その文を何も見ずに相手へ言う。詰まったら、相手が最初の1語だけヒントを出す
- 1文ずつ足していき、3文まで。3文目まで来たら教科書を開いて、答え合わせを10秒で
- 💡 ②と③のあいだで教科書を開かせないのがコツです。見て確かめてしまうと、思い出す機会がそこで消えます。3文目で詰まるのが普通なので、「詰まったら1語ヒント」を先に約束しておくと、教室が気まずくなりません。
CLASSROOM ENGLISH
そのまま使える教室英語
明日そのまま口に出せる4本。1つずつ音が鳴ります
誰も手を挙げないとき
Take thirty seconds. Talk to the person next to you first.
30秒あげます。まず隣の人と話してみて。
いきなり全体に向けて答えさせない。隣に1回言ってからなら手が挙がります。最後の first があることで「このあと全体でやるよ」まで伝わるのが、この一文の働き者なところです。
生徒が言いよどんだとき
Take your time. I'll wait.
ゆっくりでいいよ。待ってるから。
助け船を出す代わりに、待つと宣言する。言われた側は「急かされていない」と分かるので、考え直せます。この5語がどれだけ効くのかは、この号のいちばん最後に書きました。
答えが間違っていたとき
That's a useful mistake. Let's look at it together.
それ、役に立つ間違いだね。一緒に見てみよう。
wrong を使わずに済ませる言い方です。間違いを教材として扱うと先に宣言しているので、次に手を挙げる生徒が減りません。useful は good より嘘っぽくなりません。
授業を締めるとき
Tell me one thing you can say today that you couldn't say yesterday.
昨日は言えなかったのに今日は言えること、1つ教えて。
「今日わかったことは?」より、はるかに答えやすい問いです。言えるようになった英語に限定してしまうと、生徒は具体的な1文を出してきます。関係代名詞の実演にもなります。
AI TOOLKIT
AI × 英語指導
教師向け1つ、生徒向け1つ
教師向けDiffit
読ませたい英文を貼り付ける(またはトピックを入れる)と、同じ内容を語彙レベル別に書き換えた本文+語彙リスト+設問を一度に作ってくれるツール。習熟度差の大きいクラスで、同じ題材を全員に読ませたいときの支えになります。無料の範囲でも十分に使えます。
使いどころ:🎓 教科書本文の題材を入れて、2学年下のレベル版を「予習用プリント」として配る。本文に入る前に「内容は知っている」状態を作っておくと、読解のハードルが語彙から構文へ移り、授業で扱うべき点が絞れます。出てきた設問はそのまま使わず、2〜3問だけ自分の言葉に書き換える。そこが授業の顔になります。
生徒向けYouGlish
単語を入れると、YouTube 上の実際の発話から、その語が使われた瞬間だけを次々に再生してくれる発音検索。辞書の録音と違い、文脈のなかの生きた発音・強勢・速さが聞けます。アカウント不要、アメリカ英語・イギリス英語などの絞り込みつき。
使いどころ:🎓 スピーチ原稿で自信のない語を、本番前に3人分の発話で聞き比べさせる。「3人とも同じところを強く読んでいた」という発見が、強勢の指導を教師の説明から生徒の体験へ変えます。教科書の新出語を1語だけ投げてみるところから始めてください。
NEWS FLASH
今日のニュース
先週までの、日本の英語教育まわりの動きから3本
JAPAN · EDUCATION · 07.22
新潟に、公立高校としては全国初のケンブリッジ国際認定校が開校予定
新潟県南魚沼市に、2027年4月に開校予定の「国際フロンティア高校(仮称)」が、公立高校では全国で初めてケンブリッジ国際教育プログラムを導入します。全国募集です。
注目したいのは、1年生の全員が数学と英語をケンブリッジの教材で、英語で学ぶという点です。他の教科は日本語のまま。つまり「英語を勉強する」と「英語を使って学ぶ」を、意図的に分けて配置しています。
CLIL(内容言語統合型学習)を、公立高校が正面から制度に組み込んだ例として、進路指導でも聞かれる学校になりそうです。
JAPAN · PUBLISHING · 08
『英語教育』2026年8月号、全英連静岡大会に向けた特集
大修館書店の月刊『英語教育』8月号が出ています。第76回全国英語教育研究大会(全英連静岡大会)の分科会発表に向けた取り組みを軸に、高校の授業づくり、文法指導と語彙指導、ユニバーサルデザイン、そして生成AIを取り入れた小学生の学びまで並んでいます。
夏の学会・研究会シーズンです。同じ悩みを持った人が、どんな形でそれを研究にしているのか。目次を眺めるだけでも、2学期の見通しが変わります。
JAPAN · TESTING
全国学力調査、中学校英語のCBTサンプル問題が公開されている
今年から4技能すべてが端末での実施になった中学校英語について、サンプル問題が事前に公開されています。実際の画面がどう見えるか、「話す」でどんな指示が出るのかを、生徒に見せる前に自分で通しておくことをおすすめします。
画面の見た目に慣れているかどうかで、同じ力の生徒でも結果が変わります。2学期に1回、パソコン室で通しでやらせるだけでも違います。
FREE TOOLS
無料の学習ツール4選
今号のテーマは「英文のレベルを、目の前の生徒に合わせる」
Compleat Lexical Tutor(Lextutor)
英文を貼り付けると、その文章に出てくる語がどの頻度帯に属するかを割合で出してくれる老舗の分析サイト。VocabProfile という機能です。「最初の1000語で何%をカバーできるか」が数字で出るので、この英文がうちのクラスに重いのか軽いのかを、勘ではなく数字で判断できます。副教材を選ぶときに強い味方です。
Rewordify
難しい英文を貼り付けると、難語をやさしい言い換えに置き換えて表示してくれるサイト。置き換えた語は色つきで残るので、クリックすれば元の語も確認できます。「原文のままだと読めないが、内容には触れさせたい」という時期の生徒に。印刷用の活動プリントもその場で作れます。
Breaking News English
同じニュースを最大7段階の難しさで用意してくれている、教師向けの定番サイト。音声、ワークシート、穴埋め、ディスカッション課題まで一式が無料でダウンロードできます。同じ話題を、クラスの中で難易度だけ変えて配るという使い方が一番効きます。
News in Levels
こちらは3段階。Level 1 は使用語彙が1000語程度に抑えられていて、同じ出来事が Level 3 では普通のニュース英語で書かれています。1つの記事を Level 1 → Level 3 の順に読ませると、生徒は「同じことを言っているのに、語が入れ替わっただけだ」と自分で気づきます。音声つき。
STORY BREAK
生徒に話したくなる小ネタ
授業の余り3分で話せる2本
OK は、1839年のふざけた誤字から生まれた
OK は、世界でいちばん通じる英語だと言われます。この語がはじめて活字になったのは、1839年3月23日、ボストン・モーニング・ポスト紙の紙面でした。
当時のボストンの新聞界では、わざと綴りを間違えて略すという言葉遊びが流行っていました。all correct(全部正しい)を、わざと oll korrect と綴って o.k. と略す。ただそれだけの冗談です。
翌1840年の大統領選で、マーティン・ヴァン・ビューレンの支持者が、出身地の名にかけて OK Club を作ります。これでこの2文字は全国に広まりました。
冗談の綴り間違いが、いまや世界中の空港で通じています。生徒には「英語で世界一有名な2文字ってなんだと思う?」から入ってください。
knight の k と gh は、昔はちゃんと発音していた
knight、know、write の頭の子音。night と light の gh。いまは誰も読みません。生徒が「英語の綴りは理不尽だ」と言うのは、まったく正しい感想です。
ただし、理不尽になるまでには順番があります。中世の英語では、knight は「クニヒト」に近い音で、k も gh も読んでいました。ところが1400年代から1700年代にかけて、母音の発音だけが大きく動きます(大母音推移と呼ばれます)。そのあいだに、読まれなくなる子音も出てきました。
では、なぜ綴りだけが動かなかったのか。印刷機です。1476年にウィリアム・キャクストンがイングランドへ印刷機を持ち込み、綴りが本の形で固定されました。音は変わり続け、綴りは印刷所で止まった。
英語の綴りは、600年前の発音の化石です。「読まない文字」を見つけたら「昔は読んでたんだよ」と一言添えるだけで、生徒の顔つきが変わります。
QUOTE
今日の名言
ネルソン・マンデラの言葉
“If you talk to a man in a language he understands, that goes to his head. If you talk to him in his language, that goes to his heart.”
相手にわかる言語で話しかければ、それは頭に届く。相手自身の言語で話しかければ、それは心に届く。
ネルソン・マンデラ(1918-2013)
マンデラは獄中で、看守たちの言語であるアフリカーンス語を学びました。交渉のためではなく、相手の心に届くためにです。
教室で紹介するなら、こう聞いてみてください。「英語を話せるようになると、誰の心に届くようになる?」。英語を「受験に要るもの」から「誰かに届くもの」へ置き直す問いになります。答えが出なくてもかまいません。問いだけ置いて次に進むほうが、あとで効きます。
THE FLIP
常識がひっくり返る話
答えを待てていなかったのは、生徒ではありませんでした
指名した。生徒が黙る。1秒、2秒。この数秒は、教室の前に立っていると異様に長く感じます。
だから私たちは助け船を出します。「ヒントを言うとね」「じゃあ別の人」「わかる人いる?」。親切のつもりです。実際、沈黙が続けばその生徒が気の毒だ、という気持ちもあります。
生徒のほうも、黙っている数秒を「自分が答えられていない時間」だと感じています。だから多くの教室では、質問と答えのあいだに間がほとんどありません。
ところが
1972年、教育研究者の メアリー・バッド・ロウ が、教室にストップウォッチを持ち込んで実際に測りました。
教師が質問してから、次にしゃべり出すまでの平均は1秒未満。生徒が話し終えたあと、教師が反応するまでも1秒未満でした。
そこでロウは、教師に「3秒待つ」ことだけを訓練します。すると、生徒の側がこう変わりました。答えの長さが 300〜700% 伸びる。聞かれてもいないのに補足を言い出す子が増える。「わかりません」が減る。そしてそれまでほとんど発言しなかった生徒が、答え始めました。
変えたのは、教材でも発問の質でもありません。黙っていた秒数だけです。
ロウはもう1つ大事なことを見つけています。待ち時間には2種類あって、質問したあとの沈黙(wait time 1)だけでなく、生徒が話し終えたあとの沈黙(wait time 2)も同じくらい効く、というのです。生徒は言い切ったあとにまだ続きを持っていることが多いのに、教師の「いいですね、次」がそれを消していた、ということになります。
3秒は、やってみると本当に長いです。ただ、長いと感じているのは、教室でたぶん1人だけです。
Kent State University CTL|Wait Time: Making Space for Authentic Learning
明日の授業でやること|3秒だけ黙ってみる(1クラスで1週間)
- 指名したら、心の中で one, two, three と数え終わるまで一切しゃべらない。ヒントも「うーん」も無しで
- 生徒が言い終わったあとも、もう3秒黙る。多くの場合、そこから続きが出てきます
- 3秒がどうしても耐えられない日は、指名の前に Take thirty seconds. と全員に考える時間を配ってから当てる
- 1つのクラスだけで1週間試す。手が挙がった数を毎時間メモしておくと、金曜に自分で驚けます
この号で触れたリンク
- リシード|【全国学力テスト】小中の平均正答率を公表、中学英語は4技能CBTを初実施(7/16)
- リセマム|全国募集のケンブリッジ国際認定校が新潟に開校予定(7/22)
- 大修館書店|『英語教育』2026年8月号
- 教育家庭新聞|全国学力・学習状況調査CBTサンプル問題(中学校英語)
- 国立教育政策研究所|全国学力・学習状況調査
- Diffit|英文をレベル別に書き換える教師向けツール
- YouGlish|YouTube発音検索
- Compleat Lexical Tutor|英文の語彙レベルを測る
- Rewordify|難語をやさしく言い換えて表示
- Breaking News English|同じニュースを7段階の難易度で
- News in Levels|同じニュースを3段階で
- Kent State University CTL|Wait Time: Making Space for Authentic Learning
- ERIC|Rowe, M.B.『Wait-Time and Rewards as Instructional Variables』(1972)
引っ越し第1号でした。誌面は新しくなりましたが、中身の決め方はこれから1つだけです。先生の役に立つかどうか。その日いちばん使えるものだけを、9つ並べます。
3秒。明日、1回だけ数えてみてください。
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またあした。
Vol.1 08.10.2026