英単語の覚え方|文脈から推測させたあと、覚える30秒を取る
英語教育ニュースレター Vol.17
知らない語は、文脈から推測させたほうが身につく。長くそう言われてきました。2003年にオランダの研究者が行った実験では、推測させた場合と訳を先に与えた場合で、覚えた量はほぼ同じでした。違ったのは、かかった時間です。帯活動2本、教室英語4本、語のレベルを無料で調べるツール4選つきの第17号です。
監修:原田高志(原田英語.com)
08.26.2026 Vol.17
おはようございます。
今日は語彙の話です。知らない語が出てきたとき、すぐ意味を言うか、文脈から推測させるか。多くの教室で、後者のほうがよいとされてきました。
比べた実験があります。結果は「どちらでも覚えた量は同じ」でした。ただし、推測させるほうは時間がかかります。推測をやめる話ではなく、推測のあとに何を足すかの話です。最後の「常識がひっくり返る話」に、明日そのまま使える手順まで書きました。
TODAY'S PICK
すぐに答えを出さない教科書AIが、キッズデザイン賞を取りました
ICT教育ニュース(2026年8月20日)。東京書籍の発表は2026年8月19日
東京書籍の生成AIサービス 「教科書AIワカル」 が、第20回キッズデザイン賞の「感性・創造性育成部門」を受賞しました。
中学生が教科書の内容についてAIに質問し、自分に合った説明を受け取れるサービスです。対応しているのは、2025年度版の中学校英語教科書 『NEW HORIZON』 と、数学の教科書です。
AIがすぐに回答を提示するのではなく、対話をしながら、生徒が自分のペースで理解へ進めるようにしてあります。生徒は何度でも聞き直せます。しかも答えのもとが教科書なので、その場で開いて確かめられます。
「すぐに答えを出さない」は、教室でもよいこととされています。待つ、聞き返す、もう一度考えさせる。どれも私たちが毎日やっていることです。
ただし、何を待つかで話が変わります。
考え方や解き方なら、待つ意味があります。生徒が自分で組み立てられるからです。一方、語の意味は、待っても出てきません。知らない語は、知らないままです。
待つ場面と、渡す場面を分けてください。考え方は待つ。語の意味は渡して、そのあと覚える時間を取る。この2つを混ぜると、授業は静かになりますが、進みません。
ICT教育ニュース|東京書籍、教科書に連動した生成AIサービス「教科書AIワカル」がキッズデザイン賞を受賞
WARM-UPS
今日の帯活動(5分でできる)
語をどう選ぶか、訳をどう決めるか。黒板だけで回せる2本です。
知らない語を、生徒に3つ選ばせる
- 教科書の1段落を指定し、1分で読ませる。訳させない
- その段落から、意味が分からない語を3つだけノートに書かせる
- ペアで見せ合い、2人とも書いていた語に丸を付けさせる
- 手を挙げさせて多かった語を3つ黒板に書き、意味をその場で渡す
- 💡 教師が選んだ語と、生徒が止まった語は、よくずれます。多かった3語だけを扱えば、残りの時間を覚える活動に回せます。丸が付いた語は、その日のうちに1回使わせてください。
辞書に並ぶ3つの訳から、この文に合う1つを選ぶ
- 教科書から1文を選び、黒板に書く。1語だけ下線を引く
- その語の訳を3つ、黒板の端に並べて書く。どれも辞書に載っているものにする
- 生徒はこの文に合う1つを選び、選んだ理由を隣の人に日本語で1つ言う
- 答えを確かめたあと、選ばれなかった訳が当てはまる別の文を、教師が1つ言う
- 💡 訳が3つ並ぶ語は、生徒が「意味を1つに決められない語」です。理由を言わせると、前後のどこを見て決めたのかが本人にも見えます。最後の1文があると、捨てた訳も無駄になりません。
CLASSROOM ENGLISH
そのまま使える教室英語
語の意味をめぐる4本です。渡す場面と、待つ場面で言い方を変えます。
知らない語を飛ばして読んでいるとき
Underline one word you want me to explain.
説明してほしい語を1つ、線を引いてください。
「分からない語はありますか」だと手が挙がりません。1つに限ると、生徒は選ぶ作業として取り組めます。挙がった語がそのまま今日の語彙になります。
意味を教えたあと、そのまま進みそうなとき
Take thirty seconds to memorise it before we move on.
先へ進む前に、30秒で覚えてください。
意味を渡しただけでは残りません。30秒という短い枠を切ると、生徒は声に出すか、書くか、隠して言うかを自分で選びます。
訳を聞かれたが、まず考えさせたいとき
Give me your best guess, and I will tell you if you are close.
まず予想を言ってください。近いかどうかを伝えます。
「近いかどうかを伝える」と約束すると、外れる不安が下がります。予想が出たら、そこで長く粘らずに正しい意味を渡してください。
授業の終わりに、残す語を決めさせるとき
Which three words from today do you want to keep?
今日の語のうち、残しておきたい3つはどれですか。
全部覚えなさいと言うと、どれも残りません。3つに絞らせると、次の授業の始めにその3語だけを確かめられます。
AI TOOLKIT
AI × 英語指導
教師向け1つ、生徒向け1つ
教師向けNOLEJ
手持ちの素材から、15種類以上の学習活動を作るサービスです。動画やPDFを読み込ませ、目的とレベルを決めると、対話型の動画・クイズ・ゲーム・フラッシュカード・授業案などができます。作ったものは Moodle・SCORM・H5P・Excel などの形で書き出せます。無料で始められます。サイトの説明では、20か国以上で17万人以上が使っています。
使いどころ:🎓 教科書の1段落をPDFか文章で読み込ませ、フラッシュカードだけを作らせてください。出てくる語は多すぎるので、その中から生徒が今日つまずいた3語を残して、あとは消します。語を選ぶのは教師の仕事です。残した3語を印刷して配れば、次の授業の始めの1分がそのまま埋まります。
生徒向けWordUp
英単語を、役に立つ順に並べて見せてくれるアプリです。公式の説明によると、約25,000語を、映画やテレビ番組など実際に話されている英語での使われ方をもとに並べています。知っている語と知らない語を答えていくと、自分の語彙の地図ができます。Zann という一連のアプリの1つで、無料で使え、有料の上位プランもあります。
使いどころ:🎓 生徒に渡すときは、使い方を1つに決めてください。「知っている/知らない」を答えるところまでです。並んだ語を上から覚えさせない。地図ができたら、教科書に出てきた語がその中のどのあたりにあるかを見せてください。自分がどこで止まっているかが分かると、単語帳の使い方が変わります。
NEWS FLASH
今日のニュース
二学期の直前に動いた3本です。
JAPAN · 08.02
ネイティブキャンプが、中高生向けのニュース英語教材を出しました
オンライン英会話のネイティブキャンプが、8月2日に「デイリーニュース 中高生」の提供を始めました。毎日のニュース記事を題材に、語彙・読解・発音を確かめてから、講師とその記事について話す形です。中学生・高校生に向けて、話題も選び直されています。料金はファミリープランで月額1,980円(税込)、ほかのプランもあります。授業で扱うのは難しくても、英字新聞まで届かない生徒に渡せる中間の教材として、名前を知っておくと生徒への返答が1つ増えます。
JAPAN · 08.17
「家庭のAIルール10か条」が無料で公開されました
SHIFT AI が8月17日、家庭で生成AIをどう使うかをまとめた資料を無料で公開しました。宿題にAIを使ってよいか、どこまで任せるか、個人情報をどう守るかといった判断のしかたが並んでいます。背景にあるのは、2026年7月に小学生の子を持つ保護者722人に聞いた調査です。41.1%が家庭でAIについて話したことがなく、はっきりしたルールがある家庭は10.1%でした。禁止でも丸投げでもなく、AIを「学びの相棒」として扱う立場です。英語の宿題でも同じ線引きが要ります。保護者会で配る資料を1から作らずに済みます。
JAPAN · 08.13
昼休みの15分で受けられる無料の英語セミナーが、9月にあります
クリーク・アンド・リバー社が、無料のオンラインセミナー「クリスのランチタイム英会話」を9月も開きます。【英文法編】が12時15分から15分間、【発音編】が12時45分から15分間。9月は2日・9日・16日・30日です。文法編では as … as の比べ方、before や after などの順序を表す語、数えられる名詞と数えられない名詞、both と neither と either を扱います。発音編は似た音の聞き分けです。講師は日本在住およそ30年の Chris Larimore さん。Zoomで、各回の定員は30人。昼休みにそのまま受けられます。
FREE TOOLS
無料の学習ツール4選
今号のテーマは「語のレベルと使われ方を、無料で調べる」。どの語を教えるかを決めるための4つです。
WordSift
文章を貼りつけると、その中でよく出る語が大きく表示される無料のサイトです。よく出る50語の一覧、語の意味と類義語、画像、その語が出てきた文までまとめて見られます。スタンフォード大学の Kenji Hakuta を中心に、Council of Great City Schools の助成で作られました。英語を学ぶ生徒の支援を目的に設計されています。長文を扱う前に、どの語を先に渡すかを決めるのに向いています。
New General Service List(NGSL)
日常の英語でよく使われる語を集めたリストです。中核のリストは2,809語で、日常英語のおよそ92%をカバーします。2013年に Charles Browne、Brent Culligan、Joseph Phillips の3人が最初の2本を公開しました。いまはTOEIC向けのTSL、ビジネス向けのBSL、学術向けのNAWLなど、中核のNGSLと組み合わせて使うリストが並びます。クリエイティブ・コモンズで、商用利用も含めて無料。登録も広告もありません。
Google Books Ngram Viewer
本の中で、ある語や句がどれくらい使われてきたかを、年ごとのグラフにする無料のツールです。対象はおよそ1500年から2022年まで。英語のほか、フランス語、ドイツ語、スペイン語、中国語などでも調べられます。新しいデータに入れ替わり、最大7語のつながりまで追えるようになりました。「この言い方はいつから増えたのか」を、生徒の前でその場で見せられます。
lognostics
語彙研究者の Paul Meara が公開している、語彙のテストと分析の道具です。知っている語かどうかを答えていく V_YesNo、1万語までの語彙の規模を測る Y_Lex、書いた英文の語の珍しさを見る V_Unique などが並びます。多くはブラウザでそのまま動きます。使った感想を返すことと引き換えに、無料で公開されています。生徒に受けさせるより、まず自分で1本受けてみてください。
STORY BREAK
生徒に話したくなる小ネタ
語彙にまつわる語を2つ。授業の余り3分で話せます。
vocabulary は「呼ぶための道具を集めた場所」でした
vocabulary をさかのぼると、中世ラテン語の vocābulārium に行き着きます。もとになっているのは vocābulum(語、名前)で、さらにその奥に vocāre(呼ぶ)があります(Wiktionary|vocabulary)。
面白いのは、くっついている2つの部品です。-bulum は「そのための道具」を表し、-ārium は「集めてある場所」を表します。つなげると、呼ぶための道具を集めた場所になります。
単語帳のことだと思うと、ぴったりの成り立ちです。
生徒には、同じ家族の語を並べて見せてください。vocal(声の)、vocable(語、音のかたまり)。どちらも「呼ぶ」から出ています。vocabulary を「単語」とだけ覚えている生徒は、ここで vocal とつながります。
thesaurus と treasure は、もとは同じ語です
thesaurus のもとは、古代ギリシャ語の θησαυρός(thēsaurós)。意味は「宝物庫、宝」です。これがラテン語に入って thēsaurus になりました(Wiktionary|thesaurus)。
英語の treasure(宝)は、同じ語源から別の道を通って入ってきた語です。2つは、もとをたどると同じ1語です。
1852年にピーター・マーク・ロジェが『Thesaurus of English Words and Phrases』を出したあと、「類語辞典」という意味が定着しました。ピーター・マーク・ロジェが『Thesaurus of English Words and Phrases』を出し、その題がそのまま本の種類の名前になりました。宝物庫という古い意味を知っていると、この題の付け方が読めます。
英作文で thesaurus を引かせるときに、この話を1つ足してください。引き出しから宝を選ぶという感覚が、置き換えの作業に変わります。
QUOTE
今日の名言
語を1つ選ぶことの重さを、140年近く前に書いた人がいます
“The difference between the almost right word and the right word is really a large matter—'tis the difference between the lightning-bug and the lightning.”
ほぼ正しい語と、正しい語の違いは、実に大きい。ホタルと稲妻ほどの違いがある。
マーク・トウェイン(1835-1910)。1888年10月15日、ジョージ・ベイントン宛ての手紙より。のちに『The Art of Authorship』(1890年)に収録
lightning bug はホタルのことです。lightning(稲妻)と1語しか違わないのに、指すものはまったく違います。英作文で「だいたい合っている語」を通してしまう場面は多いはずです。次の添削で、1文だけ「もっと近い語はないか」と聞いてみてください。
THE FLIP
常識がひっくり返る話
文脈から推測させても、覚えた量は同じでした
知らない語が出てきたとき、すぐ意味を言わない。前後から考えさせる。多くの教室で、こちらのほうがよい指導だとされてきました。
理由も筋が通っています。自分で考えて手に入れた意味は忘れにくい。辞書を引く力も、推測する力も同時に育つ。教科書の指導書にも、そう書かれていることがあります。
では、推測させたほうが本当に多く覚えるのでしょうか。この2つを直接くらべた実験があります。
ところが
2003年、オランダのフローニンゲン大学の Jan-Arjen Mondria が、Studies in Second Language Acquisition 誌(25巻4号、473〜499ページ)で報告しました。
比べたのは2つの方法です。
- ①meaning-inferred method … 文脈から意味を推測する → 単語表で答えを確かめる → 覚える
- ②meaning-given method … 訳を先に渡し、すぐ覚えにかかる
結果はこうです。①と②で、あとに残った量はほぼ同じでした。違ったのは時間です。①はかなり時間がかかり、そのぶん効率が落ちました。
もう1つ分かったことがあります。①の3つの段階には、どれにも学習の効果がありました。ただしいちばん効いたのは「覚える」段階で、「確かめる」と「推測する」の効果はほぼ同じ大きさでした。
⚠ 私が確かめられたのは、論文の要旨に書かれているところまでです。何語を、どんな学習者が扱ったのかまでは、原典を読まないと分かりません。日本の中学校・高校の授業をそのまま調べた研究でもありません。
この結果は、推測をやめようという話ではありません。推測で終わらせないという話です。
推測させる時間は、それ自体が学習になっています。ただ、そこで授業が次に進んでしまうと、いちばん効く段階が抜け落ちます。抜け落ちるのは「覚える」です。
しかも推測には時間がかかります。1語に2分かけて、そのあと覚える時間が残らないなら、順番を入れ替えたほうが早い。推測は短く、覚える時間は必ず取る。今日の教室英語の2本目(Take thirty seconds to memorise it before we move on.)が、その合図になります。
明日の授業でやること|推測させた語は、その場で30秒だけ覚えさせる
- 知らない語が出たら、推測に使う時間を先に決めて言う。「30秒だけ考えてください」でよい
- 時間が来たら、当たっていても外れていても、正しい意味をその場で渡す
- 続けて30秒、その語だけを覚えさせる。声に出す、書く、隠して言う。やり方は生徒に選ばせる
- 次の授業の始めに、その語だけを1問出す。思い出せなければ、もう一度30秒取る
この号で触れたリンク
- ICT教育ニュース|東京書籍「教科書AIワカル」がキッズデザイン賞を受賞
- リセマム|ネイティブキャンプ、中高生向けニュース英語提供…毎日更新
- こどもとIT|宿題にAIはどこまでOK? SHIFT AIが「家庭のAIルール10か条」を公開
- ICT教育ニュース|C&R社、無料セミナー「クリスのランチタイム英会話」9月開催
- NOLEJ
- WordUp(Zann)
- WordSift(Stanford)
- New General Service List
- Google Books Ngram Viewer
- lognostics(Paul Meara)
- Wiktionary|vocabulary
- Wiktionary|thesaurus
- Quote Investigator|The Difference Between the Almost Right Word and the Right Word
- Cambridge Core|Mondria(2003年)
明日やることは1つです。推測させた語に、30秒の「覚える時間」を足してください。
推測は無駄ではありません。ただ、そこで終わると残らない。授業を1つ足すのではなく、いま使っている2分の中身を入れ替えるだけです。
またあした。
Vol.17 08.26.2026
よくある質問
文脈から意味を推測させるのは、やめたほうがよいということですか。
違います。2003年の研究で分かったのは、推測させた場合と訳を先に与えた場合で、覚えた量がほぼ同じだったことと、推測させるほうが時間がかかったことです。推測そのものにも学習の効果は出ています。推測だけで終わらせない、というところまでが分かっている範囲です。
紹介されている研究は、日本の中高生を調べたものですか。
違います。オランダの研究者による実験で、母語ではない言語の語を覚える場面を作って調べたものです。日本の中学校・高校の授業に、そのまま当てはめることはできません。