シャドーイングの効果が出たのは下のグループでした
英語教育ニュースレター Vol.34
シャドーイングは、ある程度聞ける生徒のものだと思われがちです。43人の大学生に教科書で9回の授業をした2016年の研究では、音の聞き分けは上下どちらのグループも伸びました。ところがリスニングの得点が伸びたのは、事前のテストで下位だったグループだけでした。文字を見せずに追いかけさせる帯活動2本、そのまま使える教室英語5本、速さを落として同じ場所をくり返せる無料の道具4選つきの第34号です。シャドーイングの授業手順が無料で読める場所も紹介します。
監修:原田高志(原田英語.com)
聞こえた英語を、少し遅れて声に出す。シャドーイングです。「ついていける生徒の練習」だと思っていませんか。43人を調べた研究では、伸びた側が逆でした。第34号です。
09.12.2026 Vol.34
おはようございます。
シャドーイングを教室でやると、必ず声が消える生徒が出ます。そこで「この子にはまだ早い」と外す。よくある判断です。
最後の節で見る研究では、外される側のほうが伸びていました。43人の大学生に教科書で9回の授業をしたところ、リスニングの得点が伸びたのは、事前のテストで下位だったグループだけでした。
帯活動2本と教室英語5本は、声が消える生徒を外さずに済ませるために選びました。無料の道具は、速さを落として同じ場所をくり返すための4つです。
TODAY'S PICK
シャドーイングの授業手順が、無料で読める場所にまとまっています
The Language Teacher 第45巻6号(2021年11月)32ページ。JALT Publications
全国語学教育学会(JALT)が出している『The Language Teacher』に、シャドーイングの手順をまとめた記事が載っています。書いたのは秋田大学の Yo Hamada 氏。DOI は 10.37546/JALTTLT45.6-3 です。
記事はまず、シャドーイングがこの20年ほどで日本の英語教育に広まったことを確かめます。そのうえで2つの手順を出します。1つは、これまでの研究で使われてきた聞く力を伸ばすための授業手順。もう1つは、発音を教えるために著者が提案している手順です。
最後に、これから何を調べる必要があるかが並びます。
JALT Publications のページは、会員登録なしで読めます。記事のPDFがそのまま置いてあり、料金もかかりません。手順そのものはPDFの本文にあるので、下のリンクから開いてください。
読む前に、1つだけ決めてから開いてください。「うちの教室で、どこを削るか」です。
手順は細かく段に分かれています。全部をそのまま1時間の授業に入れると、それだけで終わります。
削る順番を決めるのは、狙いです。音を聞き分けられるようにしたいなら、文字を見せない回を残す。意味まで取らせたいなら、文字を見せる回を残す。どちらも大事だからと両方を毎回入れると、1回あたりが短くなりすぎます。
手順を丸ごと写すつもりで読まないこと。残す2つを選ぶつもりで読むと、明日の授業に入ります。
JALT Publications|Shadowing Procedures in Teaching and Their Future
WARM-UPS
今日の帯活動(5分でできる)
先生の声だけで回る2本。機械は要りません
文字を見ずに、先生の声だけを追いかける
- 教科書から英文を1段落選ぶ。生徒には教科書を閉じさせる
- 先生がふつうの速さで読む。生徒は0.5秒ほど遅れて、聞こえた音をそのまま声に出す
- 1回目は意味を考えさせない。言えなかった語は飛ばして、次の音に乗り直させる
- 2回目は教科書を開かせて、目で追いながら同じことをする
- 💡 1回目に文字を見せないのは、文字があると耳を使わずに口だけが動くからです。閉じさせた1回で、その生徒が音をどこまで拾えているかが分かります。
追いつけなかった場所に、印をつける
- 教科書を開いたまま、先生の声をもう一度追いかける
- 追いつけずに声が落ちた場所で、その語に丸をつける
- クラス全体で、丸が集まった語を3つだけ黒板に書き出す
- その3つを、区切ってゆっくり2回読む。そのあと、もとの速さで段落をもう一度追いかける
- 💡 落ちる場所は、難しい語とはかぎりません。語と語がつながって音が短くなるところでも落ちます。丸を集めると、そこが黒板に出ます。
CLASSROOM ENGLISH
そのまま使える教室英語
声が消えた生徒を、外さずに戻す5本
シャドーイングを始める前に
Don't read. Just follow the sound.
読まないでください。音だけを追いかけます。
follow the sound で「音についていく」です。Don't read. を先に言い切ると、教科書を開こうとする手が止まります。
先生と同時に言おうとしている生徒に
Start half a second behind me, not with me.
私と同時ではなく、半秒遅れて始めてください。
behind me は「私より遅れて」、with me は「私と一緒に」です。同時に言おうとすると、聞かずに口だけが動きます。
途中で声が消えた生徒に
If you lose it, wait and jump back in.
見失ったら、待って、また入り直してください。
jump back in は「途中からもう一度入る」です。最初からやり直させないでください。待てば次の文の頭で戻れます。
印をつけさせるとき
Mark the place where you fell behind.
遅れた場所に印をつけてください。
fall behind で「遅れる」です。fell は過去形。どこで落ちたかを本人に書かせると、次の1回で見るところが決まります。
「自分には聞き取れない」と言う生徒に
Your mouth was late, not your ears.
遅れたのは口のほうです。耳ではありません。
not your ears のうしろには were late が省略されています。主語が your ears と複数なので、was ではなく were です。聞こえていないのか、口が回らないのかを分けると、本人の見立てが変わります。
AI TOOLKIT
AI × 英語指導
教師向け1つ、生徒向け1つ
教師向けElevenLabs Reader
文章を自然な声で読み上げる無料のアプリです。ePubとPDF、記事のリンク、写真から読み取った文字、貼り付けた文章を読ませられます。声は数百種類から選べ、速さも変えられます。読んでいる語がその場で光るので、目で追いながら聞けます。iOSとAndroid、そしてブラウザで使えます。音声のファイルとして書き出せるのはブラウザ版だけです。
使いどころ:🎓 教科書の英文を打ち込んで、同じ英文を2つの速さで作ってください。ふつうの速さと、少し落とした速さです。最初に落としたほうで追いかけさせ、2回目でふつうの速さに戻します。声も2種類作っておくと、同じ英文でも聞こえ方が変わるので、生徒が文字を覚えて口を動かすことを防げます。
生徒向けCake
映画・ドラマ・ブイログの短い場面で英語を学ぶアプリです。字幕つきの動画を見て、同じせりふを声に出すと、AIが発音を判定します。無料で使えます。広告を消したり、内容を全部開いたりするには、有料の Cake Plus が要ります。作っているのは Cake Corp. です。
使いどころ:🎓 生徒に渡すときは、1本の動画を3回と決めさせてください。1回目は字幕を見ずに音だけ、2回目は字幕を見ながら、3回目は判定を受ける。次々に新しい動画へ移ると、判定の点数を眺めるだけで終わります。同じ場面で点が上がったときだけ、次へ進ませてください。
NEWS FLASH
今日のニュース
英検の証明書と、秋の2つの大会
JAPAN · 09.11
英検のデジタル証明書が、9月15日から不合格でも無料になります
デジタル証明書は、試験の結果をスマートフォンやパソコンの画面に出して提出できる証明書です。9月15日の午後3時から、2018年度以降に受験した人であれば、合否にかかわらずデジタル合格証明書またはデジタル英検CSEスコア証明書を無料で受け取れるようになります。対象は従来型の英検、英検S-CBT、英検S-Interview、英検CBT、英検2020 1day S-CBT の5つです。これまで不合格だった人は、紙のCSEスコア証明書を買わないとデジタル版に進めませんでした。紙の証明書は有料のままです。大学が受け付けるかどうかは、出願先ごとに確かめてください。
JAPAN · 10.10
金沢工業大学で、2つの部会の合同大会が10月10日から2日間あります
全国語学教育学会(JALT)の大学教育の部会(CUE)と、ジェンダーと語学教育の部会(GALE)が、合同の大会を開きます。10月10日の9時から11日の17時10分まで、石川県野々市市の金沢工業大学です。テーマは Equipping Students for Tomorrow: Equity, Identity, and Agency in English Language Education。柱は3つで、すべての学習者が同じように参加できるようにすること、生徒や教師がそれぞれ持っている背景を認めること、選び取る力を育てることです。発表の分野には、教室での実践、評価、教員の力量形成も入っています。大学の部会ですが、中高で受け持つ生徒がそのまま進む先の話です。
JAPAN · 11.20
JALTの年次国際大会が、11月20日から名古屋であります
第52回になる年次国際大会です。11月20日から22日まで、名古屋のWINC AICHI(愛知県産業労働センター)で開かれます。テーマは Beyond the Classroom: From Local Voice to Global Impact。教材の展示も同時にあります。参加の申し込みは、すでに受け付けが始まっています。参加費と早割の締め切りは、下のページからリンクされている料金表で確かめてください。11月に名古屋へ出るのが難しければ、10月の金沢のほうが近い先生もいます。
FREE TOOLS
無料の学習ツール4選
今号のテーマは「音を追いかける練習に使う、素材と道具」。1分で終わる素材、速さを落とせるもの、口の動きが見えるものを4つ集めました。
Listen A Minute
1つの話題を1分未満で読み上げた音声が、480本並んでいます。Accidents から Zoos まで、話題ごとにページが分かれています。各ページにMP3、全文、印刷して配れるプリント、クイズが付いていて、どれも無料です。作ったのは Sean Banville 氏。1分で終わるので、帯活動の5分にそのまま収まります。
VLC メディアプレーヤー
非営利団体 VideoLAN が配っている再生ソフトです。無料で、広告も追跡もありません。Windows・macOS・Linux・Android・iOS ほかで動きます。再生の速さを0.25倍から4倍まで変えられ、A地点からB地点までを何度もくり返す機能もあります。くり返しのボタンは、メニューの「表示」から「拡張コントロール」を出すと現れます。落ちた3語だけを、何度も聞かせられます。
Rachel's English
アメリカ英語の発音を扱っているサイトです。1,000本を超える無料の動画があり、YouTubeの登録者は610万人です。運営しているのは Rachel 氏で、もとはオペラ歌手、1999年から教えています。音を1つずつ取り上げる動画が並び、音の一覧表から引くこともできます。丸をつけた語の音を、その場で1本見せられます。
ManyThings.org
Charles Kelly 氏と Lawrence Kelly 氏が1997年から続けている、英語学習者向けのサイトです。非営利で、広告が1つも出ません。Listen & Repeat Sentences という追いかけ練習用の動画があり、ほかに『ハックルベリー・フィン』『トム・ソーヤー』などの読み聞かせ、人の声が付いた二か国語の例文も置いてあります。生徒が家で続きをやるときの行き先として渡せます。
STORY BREAK
生徒に話したくなる小ネタ
授業の余り3分で話せる2本
shadow が「あとをつける人」を指すのは、1859年からです
shadow は古英語の sceadwe、sceaduwe から来ています。意味は「日光がさえぎられてできる暗い部分」。ドイツ語の schatten、オランダ語の schaduw も同じところから出ています。
意味はそこから広がりました。13世紀の初めに「実体のないもの」、14世紀の半ばに「幽霊」、14世紀の終わりに「これから起きることの前ぶれ」。そして1859年に「人のあとをつけるスパイ」という使い方が記録されます。
動詞のほうは、古英語の終わりごろの sceadwian(覆いで守る)にさかのぼります。「影で覆う、日陰にする」の意味で出てくるのが14世紀の半ばです。「影のようについて行く」は1600年ごろに1度だけ記録されたあと、次に現れるのは1872年でした。
いまの英語でも、この「ぴったりあとについて行く」が生きています。shadow a doctor と言えば、医師について回って仕事を見る職場体験のことです。イギリスの shadow cabinet(影の内閣)も、与党の大臣1人ひとりに野党側が1人ずつ張りついている形を指します。今日の練習の名前も、ここから来ています。
echo は、声だけが残った妖精の名前です
echo が英語に入ったのは14世紀の半ばで、ラテン語の echo から、さらにさかのぼるとギリシャ語の ēkhō に行き着きます。
ギリシャ神話のエコーは山の妖精でした。ナルキッソスに恋をしますが、その思いはかないません。身が細っていき、最後に声だけが残ったと伝えられています。
語そのものの根は ēkhē「音」で、ēkhein は「鳴り響く」。印欧祖語の *(s)wagh-「鳴り響く」までさかのぼるとされ、同じ根からサンスクリット語の vagnuh「音」、ラテン語の vagire「泣く」、古英語の swogan「鳴り響く」が出ています。動詞の echo が使われ出すのは1550年代です。
いまの英語では、人の言葉をそのままくり返すことを echo と言います。That echoes what you said earlier.(それは、さっきあなたが言ったことと同じですね)。相手の言葉を返すのが echo、姿を追うのが shadow。2つ並べて出すと、どちらも覚えやすくなります。
QUOTE
今日の名言
聞くことは、ずっと後回しにされてきました
“Listening is the Cinderella skill in second language learning. All too often, it has been overlooked by its elder sister: speaking.”
外国語の学習で、聞くことはシンデレラのような技能です。姉にあたる「話すこと」の陰で、見過ごされてきました。
デイヴィッド・ナナン(David Nunan、応用言語学者)。JALTの『The Language Teacher』1997年9月号(21巻9号)に載せた Listening in Language Learning の書き出し
30年近く前の一文です。いまも同じところがあります。授業でリスニングに使う時間は、たいてい音源を流して答え合わせをする数分で、そこで何を教えたかを言える先生は多くありません。聞かせることと、聞けるように教えることは別です。今日の帯活動2本は、後ろのほうです。
THE FLIP
常識がひっくり返る話
シャドーイングで聞き取りが伸びたのは、下のグループだけでした
シャドーイングは、この20年ほどで日本の英語教育に広まりました。今日の1本目で紹介した記事に、そう書かれています。
ところが教室でやってみると、必ず声が消える生徒が出ます。口が回らない。音が拾えない。2行目で黙ってしまう。
そこで先生は考えます。この子にはまだ早い。まず単語を覚えさせて、文法を固めて、ある程度聞けるようになってからにしよう、と。
この判断は自然に見えます。追いつけていないのだから、負荷が高すぎる。下の生徒には別の課題を、上の生徒にシャドーイングを。そう配ってきた教室は少なくありません。
ところが
2016年、Language Teaching Research 第20巻1号の35〜52ページに、この配り方を調べた論文が出ています。書いたのは Yo Hamada 氏です。
国立大学で英語を学ぶ43人が対象でした。英語の教科書を使って、シャドーイングの授業を9回行います。測ったのは2つ。日本の標準的な英語リスニング試験から取った22問と、20問の書き取りの穴埋め問題です。
事前のリスニングテストの点で、43人を下位グループと中位グループに分けました。
結果はこうです。音の聞き分けは、どちらのグループも伸びました。ところが、リスニングの得点が伸びたのは下位グループだけでした。高校レベルの問題での話です。
外していた側が、伸びていた側でした。
理由は、何が伸びたかを見れば分かります。伸びたのは音の聞き分けです。単語は知っているのに、読み上げられると分からない。この状態の生徒にとって、足りないのは語彙ではなく、音と語を結びつける力です。論文の結びも、聞くことの土台の部分にシャドーイングを使うよう勧めています。
ただし、上の生徒に無駄という意味ではありません。音の聞き分けは中位グループでも伸びました。得点のほうに出なかっただけです。
だから明日は、配り方を逆にしてください。声が消えていた生徒こそ、もう1回同じ段落を追いかけさせる。すでに追いつけている生徒には、追いかけながら中身をつかむ課題を足します。
ERIC|Hamada, Y. (2016) Shadowing: Who Benefits and How?(Language Teaching Research 20(1), 35-52)
明日の授業でやること|明日の1時間で、下のグループから先に追いかけさせる
- 教科書の1段落を、先生がふつうの速さで読む。生徒は教科書を閉じて、0.5秒遅れで声に出す
- 声が消えた生徒を外さない。外す前に、同じ段落でもう1回だけやらせる
- 2回目のあと、落ちた語に丸をつけさせて、クラスで多かった3語だけ黒板に集める
- すでに追いつけている生徒には、追いかけながら日本語で1行メモを取らせる
この号で触れたリンク
- JALT Publications|Shadowing Procedures in Teaching and Their Future(The Language Teacher 45.6)
- ERIC|Hamada, Y. (2016) Shadowing: Who Benefits and How?(抄録)
- Language Teaching Research|Hamada (2016) 20(1), 35-52(DOI)
- ReseEd|英検デジタル証明書、無償発行対象を拡大…9/15午後3時から
- JALT|2026 CUE and GALE SIG Conference(10月10〜11日、金沢工業大学)
- JALT|JALT2026 第52回年次国際大会(11月20〜22日、名古屋)
- Listen A Minute(1分未満の音声480本)
- VideoLAN|VLC メディアプレーヤー
- Rachel's English(アメリカ英語の発音)
- ManyThings.org(1997年から続く、広告のない学習サイト)
- ElevenLabs Reader(文章を読み上げる無料アプリ)
- Cake(公式サイト)
- Etymonline|shadow
- Etymonline|echo
- JALT Publications|Nunan, D. (1997) Listening in Language Learning(The Language Teacher 21.9)
- TED-Ed|The myth of Narcissus and Echo(授業用ページ)
手順のうち、いちばん短いのは2つ目です。声が消えた生徒に、同じ段落をもう1回だけやらせる。1分かかりません。
やってみると、2回目で声が戻る生徒がいます。1回目に拾えなかった音が、2回目で拾えたのです。そこを見た生徒は、自分は聞き取れないという思い込みを1つ手放します。
またあした。
Vol.34 09.12.2026
よくある質問
シャドーイングは、聞き取れない生徒には難しすぎませんか。
そう考えて外してきた生徒が、いちばん伸びていました。2016年の研究では、事前のリスニングテストで下位だったグループだけが、高校レベルの問題で得点を伸ばしています。口が追いつかないことと、練習にならないことは別です。最後の節に、外さずに済ませる手順を4本置きました。
音源がありません。何を使えばいいですか。
先生の声で足ります。帯活動の2本は、どちらも先生が教科書を読むだけで回ります。機械を用意しなくても、生徒は0.5秒遅れて追いかけられます。速さを落としたいときは、無料の道具4選の2つ目を見てください。