中高英語教師のニュースレター Vol.2|思い出させる練習
「もう一度読んでおいで」を、言い換える
「もう一度読んでおいで」を1週間後まで追いかけた2006年の実験は、順位がひっくり返ることを示しました。ほかに、2026年の英語教育で何が伸びているか、教科書を閉じさせる帯活動2本、そのまま言える教室英語5本、MagicSchool.ai と Language Reactor、表現が本当に使われているか確かめる無料ツール4選、アンパサンドの正体。
監修:原田高志(原田英語.com)
08.11.2026 Vol.2
おはようございます。火曜の朝です。
今日は最後まで読んでいただきたい号です。「もう一度読んでおいで」。私たちが1日に何度も口にしているこの一言を、1週間後まで追いかけた実験があります。
結果を先に言ってしまいます。5分後と1週間後で、順位がひっくり返ります。そのあいだに何が起きているのかを、いちばん最後に書きました。
TODAY'S PICK
2026年の英語教育で「いま伸びている力」は何か
Pearson Languages|2026年の英語教育トレンド(2026年公開)
教材大手のピアソンが、2026年の英語教育トレンドとして3つを挙げています。
- ▼ マルチモーダル学習。文字だけでなく、音声・映像・図を組み合わせて学ぶこと
- ▼ マルチリンガリズム。生徒がすでに持っている他の言語も、授業に持ち寄ってよいとする考え方
- ▼ AIを補助として使う教員の再定義。AIに任せる仕事と、人がやる仕事を引き直すこと
どれも真新しい話ではありません。すでに現場で始まっている流れを、あらためて言葉にしたという色の濃い1年です。
とくに強く出ているのが、human connection(人と人のつながり)を守り直す動きでした。AIが教材を大量に、しかも一瞬で作れるようになったことで、その場に人がいることの値打ちのほうが逆に浮かび上がった、という論調です。
技術が増えても、教師の仕事は減らない。2026年のトレンドは、この一文にまとまります。
ただ、中身は入れ替わります。プリントを作る時間は減り、そのぶん「誰に何を言うか」を決める時間が増える。今日の帯活動2本は、どちらもAIには代われない「クラス全員で同じ言葉を分け合う」時間を、5分だけ確実に取り戻すために選びました。
Pearson Languages|2026 language teaching trends
WARM-UPS
今日の帯活動(5分でできる)
1本目は教科書を閉じさせる。2本目は本文を配る前に3分使う
教科書を閉じて30秒リテリング
- 今日の本文を、いつも通り1回読む。黙読でも音読でもよい
- 合図で、全員に教科書を閉じさせる。机の上に伏せさせるところまでやる
- ペアで30秒ずつ、何も見ずに「何が書いてあったか」を英語で言う。日本語の単語が混ざってもよい
- 教科書を開き、言えなかったところに鉛筆で線を引かせる。そこが今日の読みどころになる
- 💡 ④が肝です。教師が「ここが大事」と言うより、生徒が「言えなかった」と気づくほうが早い。線が引かれた場所は、そのまま今日扱うべき箇所の一覧になります。クラス全体で見て回れば、次に説明する順番まで決まります。
見出しだけ配って、中身を当てる
- 英文ニュースの見出しだけを板書する。本文は見せない
- ペアで、この記事に出てきそうな英単語を5つ書き出す。それぞれ理由も一言ずつ
- 2〜3組に発表させ、教師が黒板に集約する。同じ語が複数のペアから出たら○を付ける
- 本文を配り、当たった語に印を付けさせる。当てた数は競わない。なぜその語を思いついたかを1人に聞いて終わる
- 💡 読む前に語を予想させると、本文に入ったときの読む速さが変わります。すでに頭のなかにある語は、目が拾ってくれるからです。見出しは、その日読ませたい記事のものでかまいません。準備は板書1行だけです。
CLASSROOM ENGLISH
そのまま使える教室英語
明日そのまま口に出せる5本。1つずつ音が鳴ります
ペアワークを始めるとき
You have two minutes. Person A goes first.
2分あります。Aの人から始めて。
誰から話すかを先に決めるだけで、始まりのもたつきが消えます。窓側を A、廊下側を B と学期のはじめに決めておくと、この一文が毎回そのまま使えます。
答えをもう一歩広げたいとき
Say more about that.
それ、もう少し聞かせて。
Why? は、同じことを求めていても問い詰めているように響くことがあります。求めるものは同じで、責めていないのが、この4語の値打ちです。
誰かの発言を全体へ返すとき
Who can add one more thing to that?
それに、もう1つ足せる人は?
正解を求めていないので、手が挙がりやすい。しかも前の生徒の発言が教材になるので、人の答えを聞いている生徒が増えます。
音読の前に
Read it once for meaning, then once for speed.
1回目は意味のために、2回目は速さのために読んで。
「2回読みなさい」だけだと、2回とも同じ読み方になります。回ごとにねらいを言い分けると、2回目がまったく別の練習に変わります。
授業の終わりに
Close your books. What do you remember?
教科書を閉じて。何が残ってる?
この号のいちばん最後に書いた実験が、そのまま一言になったものです。閉じさせてから聞く。順番がすべてで、開いたまま聞くとまるで別のことになります。
AI TOOLKIT
AI × 英語指導
教師向け1つ、生徒向け1つ
教師向けMagicSchool.ai
元教員が立ち上げた、教員のためのAIツールを80以上まとめたプラットフォーム。授業計画、ルーブリック作成、生徒への返信文、保護者連絡の下書きまで、教員が毎週繰り返している作業に絞って設計されています。2026年初めに教員登録数500万人を超えました。
使いどころ:🎓 今週の教科書本文を貼り、授業計画の機能に「中2、45分、目標は本文の名詞化に気づかせること」と条件まで入れてみてください。返ってくるのは草稿です。そのまま使わず、自分の学級に合わせて2〜3か所を書き換える。AIが出すものは素材で、最後の1割を自分の目で足す。それくらいの距離がちょうどいいと思います。
生徒向けLanguage Reactor
Netflix と YouTube に二言語字幕・辞書ポップアップ・単語保存を足す無料の Chrome 拡張。生徒が家で見ている海外ドラマや洋画に、英語字幕と日本語字幕を同時に表示して、気になる語をクリックで確認できます。再生速度も落とせます。
使いどころ:🎓 生徒には、この3段階をすすめてみてください。「英語字幕だけで観る → 分からなかった1シーンだけ日本語字幕をオン → もう一度英語字幕だけで観る」。1日1シーンで十分です。教材ではなく本物の映像で英語に触れる時間を、家庭学習として日常にできます。「1話まるごと」と言うと続きません。
NEWS FLASH
今日のニュース
昨日から今朝までの動きと、いま読まれている研究から3本
JAPAN · SPACE · 08.11
H3ロケット9号機、みちびき7号機の打ち上げに成功(今日未明)
JAXA の H3ロケット9号機が、8月11日の午前4時23分に種子島宇宙センターから打ち上げられ、約30分後に「みちびき7号機」を予定の軌道へ入れました。天候不良で延期されていた再挑戦での成功です。
みちびきは、日本版GPSと呼ばれる衛星測位システムの衛星です。今回の7号機が7機目、つまり最後の1機にあたり、これで7機体制がそろいました。
英語の見出しには、この日の出来事を伝える語がそのまま並びます。successfully launched(打ち上げに成功した)、deploy(衛星を切り離して所定の位置に置く)、put into orbit(軌道に乗せる)、payload(ロケットが積む機器)。同じ出来事を伝える日本語と英語の記事を並べて配るだけで、1時間ぶんの教材になります。
News On Japan|H3 Rocket No. 9 Successfully Launches Japan GPS Satellite
US · EDUCATION · 08.10
米国の多くの学区で、2026年度が8月10日から始動
テキサス州、オクラホマ州、ノースカロライナ州など、米国南部を中心に多くの学区が8月10日(月)に始業しました。日本が夏休みのあいだに、太平洋の反対側では新学年の第1週が動いています。
back-to-school、first day of school、homeroom。教科書に載っているこれらの語が、実際にはどの時期に英語の新聞へ並ぶのか。教科書の語彙が現実の暦とつながるところを見せる、年に一度の好機です。
「日本の4月始まりのほうが世界では珍しい」という話まで持っていけると、5分の雑談が比較文化の話になります。
Fox19|When is the First Day of School? Here's when your student heads back
GLOBAL · RESEARCH
いま語彙研究で続いているのは「字幕つき動画」と「思い出す練習」
英語教育の代表的な学術誌 Language Teaching Research(Sage)で、近年くり返し扱われているテーマが2つあります。字幕つき動画からどれだけ語が身につくかと、思い出す練習(retrieval practice)が複数語からなる表現にも効くかです。
本文まで読むと重いですが、要旨(abstract)だけなら1本5分です。しかも英語教員にとっては、そのまま英文多読の素材になります。
「今週は要旨を1本読む」と決めておくと、2学期の授業の言い方が少しずつ変わります。
FREE TOOLS
無料の学習ツール4選
今号のテーマは「その言い方が本当に使われているか、確かめる」
SKELL
語を1つ入れるだけで、実際の英文コーパスから例文が約40本、よく一緒に使う語、意味の近い語が一画面で出ます。アカウント不要、無料。「この言い方、英語として自然ですか」という生徒の質問に、その場で証拠を見せられるのが最大の強みです。コーパスとは、実際に書かれた・話された英語を大量に集めたデータベースのことです。
Tatoeba
世界中の利用者が投稿した例文と、その対訳を集めた巨大な文の辞書。日本語の対訳が非常に多いのがこのサイトの特徴で、英作文指導で「同じ意味を別の形で言うとどうなるか」を探すときに向きます。1文単位なので、そのまま小テストの素材にもできます。
PlayPhrase.me
入れた表現が実際に使われている映画やドラマの場面だけを、次々に再生してくれるサイト。I'm on it. や You've got to be kidding me. のような、教科書に載っていない一言の temperature(どのくらい砕けた言い方か)を、生徒に体で分からせるのに向いています。
Forvo
単語1つの発音を、世界中の話者が投稿した音声で聞ける発音辞書。固有名詞と地名にいちばん強く、教材を作っている最中の「この地名、どう読むんだ」を一発で解決してくれます。同じ語でも国によって読みが違うことが、並んだ音声から見えます。
STORY BREAK
生徒に話したくなる小ネタ
授業の余り3分で話せる2本
&(アンパサンド)は、アルファベットの27番目だった
& の名前を英語で言えるでしょうか。ampersand(アンパサンド)です。この名前の由来がおもしろい。
19世紀までのイギリスの学校では、アルファベットを唱えるとき、Z のあとに & も一緒に唱えていました。つまり & は、事実上「27番目の文字」だったわけです。
ところが、そのまま「エックス、ワイ、ゼット、アンド」と唱えると、最後の and が接続詞と紛らわしい。そこでこう唱えました。「and per se and」。per se はラテン語で「それ自体で」。つまり「そして、それ自体でアンドという字」。
これを子どもが早口で唱え続けた結果、音が崩れて ampersand になりました。黒板に & を書いて「これ、名前があるの知ってる?」から入ると、教室が静かになります。
アメリカだけが Z を zee と読む理由
アルファベットの最後の文字は、イギリスでは zed、アメリカでは zee です。カナダもオーストラリアもニュージーランドも zed。zee と読むのは、ほぼアメリカだけです。
もともとは zed が本来の形でした。ギリシャ語の zeta が、フランス語を経由して英語に入った形です。では zee はどこから来たのか。
17世紀のイングランドの一部の地域に zee という読み方があり、それが移民とともにアメリカへ渡りました。そして1828年、辞書編纂者の ノア・ウェブスター が自身の辞書で zee を正式な読みとして採用します。ウェブスターは colour を color に、centre を center に変えた人物でもあります。
いまのアメリカ英語の綴りと発音の多くは、1人の辞書編纂者の判断で決まりました。生徒が知っている ABC song の最後が zee で韻を踏んでいるのも、この流れの結果です。イギリスの子どもは、あの歌を最後だけ違う形で歌います。
QUOTE
今日の名言
作家リタ・メイ・ブラウンの言葉
“Language is the road map of a culture. It tells you where its people come from and where they are going.”
言語は、その文化の道路地図である。その言葉を使う人たちがどこから来て、どこへ向かおうとしているのかを教えてくれる。
リタ・メイ・ブラウン(作家、1944年生まれ)『Starting from Scratch』1988年
この一文の値打ちは、road map という比喩にあります。地図は、行き先を決めてはくれません。どこから来たかと、どこへ行けるかを見せるだけです。
教室で紹介するなら、直前の小ネタとつなげてください。ampersand も zee も、いまの英語がどこから来たかを示す道しるべです。「英語を覚える」から「英語の来た道を見る」へ、5分だけ視点を上げられます。
THE FLIP
常識がひっくり返る話
「もう一度読んでおいで」が、いちばん効かない復習でした
単語が覚えられない、と言ってきた生徒に、私たちはたいてい同じことを言います。「もう一度読んでおいで」。
教科書本文も同じです。読ませて、音読させて、もう一度音読させる。復習とは「もう一度見ること」だと、私たちは思っています。
生徒のほうも、まったく同じように思っています。赤シートで隠して思い出すより、眺めているほうが「できるようになった気」がするからです。しかもその感覚は、決して嘘ではありません。
ところが
2006年、ワシントン大学の ヘンリー・ローディガー と ジェフリー・カーピキー が、この一言を実験にかけました。
250語ほどの英文を読ませたあと、片方のグループには繰り返し読み返させ、もう片方にはテストで思い出させます。そして時間を置いて、どちらが残っているかを測りました。
5分後に測ると、読み返した側の勝ちです。ここまでは、私たちの実感どおりです。
ところが1週間後に測り直すと、順位がひっくり返ります。思い出した側が 61%、読み返した側は 40%。しかも実験の前、学生自身は「読み返すほうが覚えられる」と予測していました。研究者はこのズレを illusion of competence(できるようになった、という錯覚)と名づけています。
つまり、音読を何度も重ねる授業は、5分後の手ごたえが最高で、1週間後にいちばん残らないということになります。授業の終わりに生徒が「わかった」という顔をしているとき、いちばん警戒すべきなのかもしれません。
やることは難しくありません。見せる時間を1分減らして、閉じさせる時間を1分作る。それだけです。
テストを増やせ、という話ではないことも大事です。採点しない、点にもならない「思い出すだけの1分」で足りる、というのがこの研究のいちばんの要点です。
明日の授業でやること|教科書を閉じさせる1分
- 本文を読ませたら、教科書を閉じさせて「何が書いてあった?」を30秒、ペアで言わせる
- 単語テストの前の時間を、「答えを見て覚える」から「何も見ずに思い出してみる」に変える
- 授業のはじめの1分、前の時間の内容を、教科書を開かせずに言わせる。出てこなくてよい。出てこなかったことに意味がある
- 「もう一度読んでおいで」を「もう一度、何も見ずに言ってみて」に言い換える。今日から言葉を変えるだけでできます
この号で触れたリンク
- Pearson Languages|2026 language teaching trends
- MagicSchool.ai|教員向けAIツール集
- Language Reactor|Netflix・YouTube の二言語字幕拡張
- News On Japan|H3ロケット9号機 みちびき7号機の打ち上げ成功(8/11)
- Fox19|When is the First Day of School?(8/03)
- Language Teaching Research(Sage Journals)
- SKELL|語を入れると実例文40本とコロケーションが出るコーパス検索
- Tatoeba|対訳つき例文データベース
- PlayPhrase.me|映画・ドラマから表現の実例を再生
- Forvo|世界の話者による発音辞書
- PubMed|Roediger & Karpicke, Test-enhanced learning(2006)
- Frontiers in Education|間隔をあけた思い出し練習とEFL学習者の流暢さ(2026)
閉じさせる1分。明日の授業で、どこか1か所だけ入れてみてください。生徒が黙っている時間が少し増えますが、それでいいのだと思います。眺めている時間より、たぶんずっと働いています。
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またあした。
Vol.2 08.11.2026