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日刊原田英語 Harada Eigo Daily
NEWSLETTER Vol.9 標準 読了 12分

中高英語教師のニュースレター Vol.9|褒め方1つで変わること

英語教育ニュースレター

ARゲームで覚えた単語は、従来型の授業の1.5倍以上定着したという新しい研究。そして「すごいね、頭いいね」が逆効果になりうると示した1998年の研究。ゲーム感覚の復習ツール4選、教室英語、AIツールもあわせてお届けします。

監修:原田高志(原田英語.com)

08.18.2026 Vol.9

おはようございます。今日は2本立てです。単語をゲームで覚えさせる効果を測った新しい研究と、褒め方1つで生徒のやる気が変わるという研究。どちらも、明日の授業でそのまま試せる形にしてあります。

TODAY'S PICK

ARゲームで覚えた単語は、伝統的な授業の1.5倍以上定着した

Frontiers in Psychology(2026年8月10日)

中国の大学生160人を対象に、AR(拡張現実)を使ったゲーム形式の単語学習アプリと、従来型の教師主導の単語指導を比べる実験が行われました。全14回の授業で同じ語彙を学んだあと、事後テストの平均点はAR群が10.121点、従来型が6.643点。効果量(Cohen's d)は1.18で、教育研究では「非常に大きい」とされる差です。

AR群が使ったアプリは、カードをカメラでスキャンすると単語の3Dモデルが浮かび上がる作りでした。発音や例文とあわせて、認識・マッチング・スペリングなどのゲーム課題にその場で取り組めます。

AR(拡張現実)そのものが効いた、と決めつけないことです。学習者への聞き取りで挙がった理由は3つでした。「新しさによる興味」「理解がクリアになる満足感」「双方向性による意欲」。

この3つは、AR機材が無くても、その場で正誤が返るクイズ形式である程度は再現できます。効いたのは機材ではなく、すぐに反応が返ってくるゲーム性のほうだと考えると、明日の授業にも持ち込めます。

WARM-UPS

今日の帯活動(5分でできる)

準備ゼロか、黒板だけで回せる2本です

サイコロ文法リレー

対象 中2〜高校 時間 5分 準備 サイコロ1個(無ければスマホのアプリでも可)

  1. 黒板に1〜6の文法項目を書く(例:①現在完了②受け身③関係代名詞④比較⑤仮定法⑥不定詞)
  2. 生徒がサイコロを振り、出た目の文法を使って即興で1文作る
  3. ペアで交互に振り、10ターン続ける
  4. 出せなかった項目があれば、クラス全体でその場で1つ例文を作って埋める
  • 💡 出た目の文法を『使わなければならない』という制約が、逆に考える時間を圧縮してくれます。

背中合わせ道案内(描写と再現)

対象 中1〜高校 時間 8分 準備 簡単な図形やイラストを2種類(先生が事前に用意)

  1. ペアで背中合わせに座らせ、Aだけに絵を見せる
  2. Aは英語だけで、Bに絵の描き方を説明する(Bは質問してもよい)
  3. 制限時間内にBが絵を完成させ、答え合わせをする
  4. 役割を交代してもう一度行う
  • 💡 『伝わらなかった一言』をあとでクラス全体に共有すると、伝達に必要な語彙が具体的に見えてきます。

CLASSROOM ENGLISH

そのまま使える教室英語

明日、そのまま口に出せる4本です

説明が長くなりすぎたと気づいたとき

Let me stop myself there — over to you.

ここで一度切りますね。あとはみなさんに任せます。

教師が話しすぎていることに自分で気づき、生徒に主導権を渡す一言。長い説明を潔く切り上げる合図になります。

答えが半分だけ合っているとき

You're on the right track, but check the ending.

方向性は合っています。でも語尾を確認してみて。

全部を否定せず、どこまで合っているかを示してから、直す場所だけを絞り込む言い方です。

練習の前に生徒の肩の力を抜きたいとき

This is just practice. Mistakes are welcome here.

これはただの練習です。間違えて大歓迎。

本番ではなく練習だと明言することで、間違いへの抵抗感を下げます。

沈黙が気まずく感じられたとき

Take the silence as thinking time, not dead air.

この沈黙は、気まずい時間じゃなくて、考えている時間です。

沈黙そのものを問題視せず、意味づけを変えて教室の空気をほぐす一言です。

AI TOOLKIT

AI × 英語指導

教師向け1つ、生徒向け1つ

教師向けFlint(Sparky機能)

生徒とやり取りする学習用チャットボットを、プレーンな説明だけで作れる教育向けAIプラットフォームです。ルーブリックや到達目標もあわせて設定できます。

使いどころ:🎓 『準1級のライティング課題を、生徒が下書きを提出したら観点別にフィードバックを返すチャットボットにして』のように、作りたいbotの役割・条件・採点基準を1文で伝えると、その場でbotが完成します。

生徒向けOtter.ai

英語の音声をリアルタイムで自動文字起こしするツールです。オンライン英会話やリスニング教材の音声を、あとから文字で読み返して復習できます。

使いどころ:🎓 レッスン中にOtter.aiを起動しておき、終わったあとに文字起こしを読み返して、聞き取れなかった部分だけをもう一度音声で確認する使い方が効果的です。

NEWS FLASH

今日のニュース

教室に持ち込めそうな3本です

JAPAN・08.17

高校生の英検受験者、142万人に

高校卒業までに英検テストファミリーを受験した生徒は86%、2級以上の取得率は49.1%にのぼりました。上位級への挑戦者も前年度比7.9万人増です。

「みんなが同じ物差しで測られている」。生徒がこれをどう受け止めているか、一度聞いてみる価値がありそうです。

US・08.12

カンザスシティ近郊、始業とともに『AI検知』を導入

カンザスシティ・カンザス校区など複数の学区で、2026年度の始業に合わせて携帯電話の終日禁止が始まりました。あわせて、宿題での無許可AI使用を検知するソフトも導入されています。校長の1人は「生徒がより集中できるようになると前向きに捉えている」と話しています。

日本の教室でAI利用のルールを決めるときの、比較材料になります。

UK・08.20(予定)

GCSE結果発表の日、8月20日

イングランドでは8月20日(木)、16歳前後の生徒が受けるGCSE(中等教育修了資格)試験の結果が一斉に発表されます。英語を含む全科目の結果がこの日に生徒の手に渡り、シックスフォームやカレッジへの出願に直結します。

「全国一斉に、この日に」という渡し方は、日本の入試と大きく違います。生徒に話すと反応が返ってくる話題です。

FREE TOOLS

無料の学習ツール4選

今号のテーマは「ゲーム感覚で語彙を鍛える」

Blooket

クイズに答えるとミニゲームに参加できる、ゲーム性の強い復習ツールです。得点よりも『参加する楽しさ』が前面に出るのが特徴です。

Wordwall

単語カード・マッチングゲーム・ワードサーチなど、テンプレートを選ぶだけで語彙練習用のゲームを作れます。無料版は作成できるゲーム数に上限があります。

Quizizz

生徒が自分のペースで進められるクイズ形式のツールです。宿題としても使いやすく、正答率がその場でグラフになって表示されます。

Baamboozle

チーム対抗で得点を取り合う形式のクイズゲームです。プロジェクターに映すだけで使え、機材の準備がほとんど要りません。

STORY BREAK

生徒に話したくなる小ネタ

授業の余り3分で話せる2本です

quarantine(隔離)は、なぜ『40』と関係があるのか

quarantine の語源は、イタリア語の quaranta giorni(40日間)です。1377年、ペストの流行を防ぐため、ヴェネツィアは入港する船を40日間沖に留め置く政策を始めました。

なぜ40日だったのか。聖書に「40日40夜」が繰り返し出てくることと関係があると考えられています。ノアの洪水も、イエスが荒野で過ごした日数も40日でした。中世ヨーロッパでは、40という数字そのものに「けじめをつける期間」という宗教的な意味があったのです。

nice はもともと『バカな』という意味だった

いま「素敵な」を意味する nice は、ラテン語の nescius(知らない、無知な)が語源です。英語に入った当初は「愚かな、無知な」という、いまとは正反対の意味でした。

そこから「臆病な」→「気難しい」→「繊細な」→「几帳面な」→「感じがよい」と、数世紀かけて少しずつ良い方向へ転がります。いまの「素敵な」に落ち着いたのは18世紀です。

1つの単語がここまで意味を変え続けた例は、英語でも珍しいとされています。

QUOTE

今日の名言

努力より先に、まず才能を褒めていませんか

“Becoming is better than being.”

『なっていく』ことは、『すでにそうである』ことより価値がある。

1960年代のことば(キャロル・ドゥエック著『Mindset』で引用)

固定された自分に縛られず、変わり続けられることの強さを言った一節です。最後の「常識がひっくり返る話」とあわせて読むと、褒め方1つで、生徒が自分をどう見るかが変わることが見えてきます。

THE FLIP

常識がひっくり返る話

『すごいね、頭がいいね』が、いちばん危ない褒め言葉でした

テストでよい点を取った生徒に、「すごいね、頭いいね」と声をかける。悪気のない、ごく自然な励ましです。多くの先生が、やる気を引き出すつもりでこの言葉を使っています。

能力や才能をまっすぐ褒めるのは、直感的には「いちばん喜ばれる褒め方」に感じられます。実際、褒められた生徒はその場で笑顔になります。

ところが

1998年、心理学者クラウディア・ミュラーとキャロル・ドゥエックが、5年生を対象に実験を行いました(Journal of Personality and Social Psychology 誌)。結果は、この直感を裏切るものでした。

課題のあと「頭がいいね」と能力を褒められた生徒は、次の難しい課題で粘り強さが落ち、失敗後の成績も悪くなりました。努力を褒められた生徒と比べての話です。

能力を褒められた生徒は、自分の能力を「生まれつき決まっているもの」と考えるようになっていました。だから、失敗を「能力が無い証拠」と受け止めてしまいます。

「すごいね」の一言そのものが悪いわけではありません。問題は、褒める先が「生まれつきの能力」に向いてしまうことです。

同じ場面でも、「難しい問題を最後まで諦めなかったね」と過程を褒めれば、生徒は能力を伸ばせるものとして捉えます。変えるのは褒める先だけです。

明日の授業でやること|明日、褒め言葉を1つだけ変えてみる

  1. 結果を褒めるとき、『すごい』の前に『どうやったか』を1つ具体的に添える(例:『その解き方を思いついたの、すごいね』)
  2. 失敗した生徒には、能力ではなく次の一手を一緒に考える言葉をかける(『次はどこを変えてみる?』)
  3. 自分がよく使う褒め言葉を1つ書き出し、能力を指しているか、過程を指しているかを振り返る

この号で触れたリンク

褒め方も教え方も、正解は1つではありません。ただ、「なんとなく良さそうだからやっていること」を、たまに裏側から確かめてみる。その時間も悪くないはずです。

またあした。

Vol.9 08.18.2026