中高英語教師のニュースレター Vol.11|読む前の1分が効く
英語教育ニュースレター Vol.11
英文が読めない原因は、読解力だけではありません。1988年の研究では、野球をよく知っている「読む力が低い」生徒が、知らない「読む力が高い」生徒を上回りました。読む前の1分に何を渡すか。帯活動・教室英語・無料ツールを、この一点でそろえた号です。
監修:原田高志(原田英語.com)
08.20.2026 Vol.11
おはようございます。第11号です。
今日は「読む前の1分」の号です。英文を読ませたあとに何をするかではなく、読ませる前に何を渡すか。帯活動2本・教室英語4本・無料ツール4選は、すべてこの1分のために選びました。いちばん読んでほしいのは、最後の「常識がひっくり返る話」です。
TODAY'S PICK
AIは、書き手が誰かを知ると添削の中身を変えていた
Education Week(2026年6月18日・Sarah D. Sparks 記者)
スタンフォード大学の Institute for Human-Centered AI にいる Mei Tan さんと Lena Phalen さんが、8年生(日本の中学2年生)が書いた説得的な作文600編でAIの添削を調べました。使ったのは GPT-4o、GPT-3.5-Turbo、Meta の Llama-3.3 70B、Llama-3.1 8B の4つです。
作文の本文は変えません。書き手の説明(人種・性別・英語力・障害の有無・成績・やる気)だけを添えて投げます。すると、返ってくる添削が変わりました。
- ・女子とされた作文には、love のような親しみをこめた語が増えた
- ・男子とされた作文には、直接的な指摘と、次に直す課題が出た
- ・やる気がないとされた作文には、基本的な直しの指摘が中心になった
- ・人種を添えた作文には、ほめる言葉が増える一方、中身に踏み込んだ指摘は減った
書き手の力を低く見積もったような書き方が混じることもありました。記事が強調しているのは、この違いは1本ずつ読んでも気づけないという点です。何百本も並べて、はじめて見えます。
この研究は「AIに添削させるな」とは言っていません。AIに渡す情報を減らせ、と読むのが実務的です。
- ①生徒の英作文をAIに投げるとき、英文だけを渡す。「帰国子女」「英検3級」「授業に消極的」といった説明をプロンプトに書かない
- ②同じ英文を、説明ありと説明なしの2通りで投げて読み比べる。自分が使っているモデルで何が起きるかは、5分で分かります
生徒に返す前に、必ず自分で1回読むこと。ここは変わりません。
Education Week|AI Changes Its Feedback on Students' Writing When It Knows Their Race, Gender
WARM-UPS
今日の帯活動(5分でできる)
今日の帯活動|英文に入る前の数分で、話の土台をつくる2本
題名だけ見せて、知っていることを英語で集める
- 本文は開かせず、英語の題名(または話題を表す語1つ)だけを黒板に書く。
- 30秒、ペアで「その話題について知っていること」を出し合わせる。日本語で構わないと先に言っておく。
- 出てきたものを英語1語または1句にして黒板に集める。生徒が日本語で言ったものは、教師がその場で英語に直して書く。
- 黒板の語を残したまま本文を開かせ、「黒板にある語が本文に出てきたら指で押さえて」と伝えて読ませる。
- 💡 集めた語を消さずに残すのが要点です。読んでいる最中に、自分の知識と本文が当たります。狙いは語彙ではなく、「何の話か」を先に決めておくことです。
日本語で30秒、そのあと英語で3分
- 本文の話題を、教師が日本語で30秒だけ話す。固有名詞・年号・場所の3つに絞り、内容の要約はしない。
- 「いま話したことが本文のどこに出てくるか、探しながら読んで」と伝えて、3分黙読させる。
- 読み終えたら本を閉じ、30秒で話した3つが本文のどこにあったかをペアで確認させる。
- 最後に、日本語で言わなかったことを1つだけ英語で言わせる。
- 💡 30秒を要約に使うと、生徒は英文を読まなくなります。固有名詞・年号・場所の3つに限ると、話の枠だけが渡り、中身は英文を読まないと分かりません。
CLASSROOM ENGLISH
そのまま使える教室英語
そのまま使える教室英語|読む前と、読んでいる途中にかける4本
本文を開かせる前に、話題を思い出させたいとき
Before we read, what do you already know about this?
読む前に。これについて、もう知っていることはありますか。
already を入れるのがポイントです。「知らなくて当然」ではなく「もう持っているはず」という前提が伝わるので、答えが出やすくなります。
知らない単語が多くて手が止まってしまったとき
You don't need every word to get the story.
話をつかむのに、全部の単語は要りません。
get the story で「話の筋をつかむ」。You don't have to understand everything. でも同じことが言えますが、こちらのほうが短く、読みながらでも耳に入ります。
生徒が出した知識が、正しいか分からないとき
Put that on the board. We'll check it after we read.
それ、黒板に書いておこう。読んだあとで確かめます。
その場で正誤を決めないための一言です。間違いも黒板に残るので、読んだあとに本文で確かめる作業がそのまま次の活動になります。
読み終えて、読む前の予想と突き合わせるとき
Which of our guesses turned out to be right?
私たちの予想のうち、どれが当たっていましたか。
turn out to be は「結果として〜だと分かる」。our と複数形にして、クラス全体の予想として扱うと、外れた生徒が名指しされません。
AI TOOLKIT
AI × 英語指導
教師向け1つ、生徒向け1つ
教師向けSchoolAI
教師が Spaces という学習の場をつくり、その中で生徒がAIとやり取りします。やり取りの様子が教師側から見えるのが特長です。公式サイトは「AI that connects teachers with every student」を掲げ、教師が設計した2万3千以上の Spaces を分析したところ、約6割が知識の再生ではなく、推論や判断を求めるものだったと書いています。教師向けの無料お試しがあります。
使いどころ:🎓 背景知識づくりに使うなら、Space の指示文にこう書きます。「あなたは高校1年生に、これから読む英文の背景を説明する役です。中学卒業程度の英語だけを使い、1回の返答は3文までにしてください。答えを先に言わず、生徒が知っていることを1つ質問してから説明を始めてください」。返答の長さと語彙を先に縛るのがコツです。
生徒向けGemini Notebook(旧 NotebookLM・Google)
PDF・ウェブサイト・YouTube動画・音声ファイルを入れると、その中身だけを材料に答えるGoogleの調べもの用ツールです。Audio Overview(音声の概要)、Mind Maps、Flashcards、Quizzes、Infographics、Slide Deck を作れます。英文記事を1本入れて、読む前に背景を入れる使い方に向いています。
使いどころ:🎓 生徒への渡し方です。①これから読む英文記事のURLを1本入れる。②Audio Overview を作り、読む前に2〜3分だけ聞く。③英文に入り、聞いて知っていたことが本文のどこに出てくるかを探す。音声を先に聞いてから読むので、知らない語が並んでいても話の筋を見失いません。
NEWS FLASH
今日のニュース
ニュース FLASH|3本
JAPAN · 08.03
全国学力テストの分析結果、国語と英語に共通の弱点は「根拠を示す力」
国立教育政策研究所が2026年8月3日、令和8年度の全国学力・学習状況調査の分析結果を公表しました。中学校英語でもっとも低かったのは、「話すこと」の設問19が正答率25.8%・無解答率17.0%、「書くこと」の設問10(2)が正答率28.4%・無解答率14.4%です。国語では根拠を示して自分の考えを表現する力、英語では自分の考えの理由を説明する力に課題があると指摘されています。
「話すこと」で17.0%が何も答えていません。言えないのではなく、言い出せていないのだと思います。理由を求める設問では、Because で始まる1文の型を先に配ってしまって構いません。
JAPAN · 07.28
「Next Education Award 2026」募集中。大人の部は8月31日、中高生の部は9月30日締切
一般財団法人活育財団が、第3回「Next Education Award 2026」の応募を受け付けています。今年のテーマは「AI × Well-being」。締切は大人の部が2026年8月31日(月)、中高生の部が9月30日(水)で、ファイナル(プレゼンと表彰式)は10月25日に東京都内で行われます。締切が動くことがあるので、出す前に公式サイトで確かめてください。
中高生の部があります。AIを使った探究や自由研究をしている生徒がいれば、そのまま出せます。大人の部は今月末が締切です。声をかけるなら今週です。
JAPAN · 07.14
月刊『英語教育』2026年8月号、第1特集は「要約指導」
大修館書店の月刊『英語教育』2026年8月号(2026年7月14日発売)は、第1特集が「要約指導におけるテクノロジーの活用 学習を促す評価の視点から」(石井雄隆先生 責任編集)、第2特集が「テストや調査を正しく読み解く 外国語評価リテラシーを高めよう」です。ルーブリック評価、チェックリストに基づくフィードバックの生成AIによる自動化、中学校英語学力調査のCBT実施といった見出しが並びます。
要約は、1本目のニュースにあった「根拠を示す力」とつながっています。どこを残してどこを削るかを決める作業が、そのまま理由づけの練習になります。
FREE TOOLS
無料の学習ツール4選
今号のテーマは「読む前の1分で、背景知識を足す」無料ツール4選です
Simple English Wikipedia
ふつうの英語版ウィキペディアと同じ項目を、やさしい語と短い文で書き直した姉妹版です。トップページには28万本以上の記事があると出ており、「Simple English の語と文法を使う」「子どもや英語を学んでいる大人のためのもの」と説明されています。読む前の1分に、話題の項目の冒頭2文だけを映すのに向いています。日本語で背景を話す代わりに、英語のまま渡せます。
ReadWorks
読解指導を目的とする非営利団体が運営していて、公式サイトに「教師と生徒には無料であり、これからも無料であり続ける」と書かれています。幼稚園から高校3年相当までを対象に6,000本以上のテキストを持ち、生徒の背景知識を育てることを正面から掲げています。同じ話題の記事を数日続けて読ませられるので、単発の英文を配るより知識が積み上がります。
CommonLit
小学3年生から高校3年生までを対象にした英文のライブラリで、テキスト部分は教師に無料で開放されています(有料の総合プログラムは別にあります)。文学作品と説明文が数千本そろい、難易度と学年で絞り込めます。日本の教科書の題材に近いものを1本選び、予備の1本として先に配ると、教科書に入ったときの負荷が下がります。
Google Arts & Culture
メトロポリタン美術館、ルーヴル美術館、大英博物館など、世界の美術館・博物館の所蔵品を写真で拡大しながら見られるサイトです。ストリートビューや360度動画もあり、英文に出てくる場所や時代を1分見せるのに使えます。言葉より先に絵を見せるほうが早い題材、たとえば歴史・美術・建築を扱う英文で効きます。
STORY BREAK
生徒に話したくなる小ネタ
生徒に話したくなる小ネタ|授業の余り3分で話せる2本
jumbo(ジャンボ)は、もともと1頭のゾウの名前でした
「非常に大きい」という意味の jumbo が形容詞として記録に出てくるのは、Etymonline によると1882年からです。その年の2月、ロンドン動物園にいたゾウのジャンボが、アメリカの興行師 P.T. バーナムに売られて大騒ぎになりました。ジャンボは1861年にアビシニア(いまのエチオピア周辺)で捕らえられたと伝えられています。
では、そのゾウの名前はどこから来たのか。ここははっきりしていません。1823年に「不格好で扱いにくい男」を指す俗語 jumbo の用例が1つありますが、それ以降の例は、ゾウのジャンボが有名になるまで見つかっていないとEtymonlineは書いています。西アフリカの言語でゾウを指す語(コンゴ語の nzamba など)から来たという説もありますが、決め手はありません。
いま jumbo jet や jumbo size と言うとき、私たちは1頭のゾウの名前を形容詞として使っていることになります。語が大きくなったのではありません。大きなゾウの名前が、そのまま語になりました。固有名詞がふつうの語に変わる例として、生徒に話しやすい1本です。
robot は、1920年のチェコの劇のために作られた言葉です
robot という語が世に出たのは、チェコの作家カレル・チャペックが1920年に書いた戯曲『R.U.R.』です。同じ年にプラハで出版され、初演は1921年でした。
もとになったのはチェコ語の robota、意味は「強制労働」。中央ヨーロッパの農奴が、領主の土地で負わされた労役を指す言葉です。さらにさかのぼると「奴隷」を意味する rab に行き着きます。
面白いのは、この語を思いついたのがカレル本人ではないところです。カレルはのちに新聞 Lidové noviny の記事で、robot を提案したのは兄のヨゼフだったと書いています。
robot は「働く機械」ではなく、もとは「働かされる者」でした。だから今も、休まず言われたとおりに動く感じが残っています。形容詞は robotic。He answered in a robotic voice.(機械的な声で答えた)のように使えます。
QUOTE
今日の名言
今日の名言|授業を組むときの物差しになる一文
“Memory is the residue of thought.”
記憶とは、考えたことの残りかすである。
ダニエル・T・ウィリンガム(認知心理学者・バージニア大学)『Why Don't Students Like School?』(2009年)の第3原理
ウィリンガムは、教師が気にすべきなのは「生徒に何を考えてほしいか」ではなく「その課題が実際に生徒に何を考えさせるか」だと書いています。プリントを配る前に、一度この問いを自分に向けてみてください。その10分で生徒が実際に考えたことが、そのまま残ります。
THE FLIP
常識がひっくり返る話
読解力が上がれば何でも読める、とは限りませんでした
英文が読めない生徒を前にすると、私たちはまず読解力を疑います。だから対策も読み方の指導になります。段落の最初と最後を見る。指示語が何を指すかを押さえる。知らない語は飛ばす。どれも役に立つ技術です。
この考え方は、読む力は話題によらないという前提の上に立っています。読む力さえ付けば、環境問題でもAIでもスポーツでも同じように読めるはずだ。授業もテストも、だいたいこの前提で組まれています。
その前提を正面から確かめた研究があります。材料は野球でした。
ところが
1988年、Donna Recht と Lauren Leslie が Journal of Educational Psychology に発表した「Effect of prior knowledge on good and poor readers' memory of text」。中学1〜2年生にあたる64人を、読む力の高低と野球の知識の高低で4つに分けました。全員に野球の1イニングを描いた同じ文章を黙読させ、そのあとミニチュアの野球場の上で木のこまを動かして、何が起きたかを再現させます。
野球をよく知っている「読む力が低い」生徒が、野球を知らない「読む力が高い」生徒より、うまく再現しました。そして「読む力が高いが野球を知らない」生徒の成績は、「読む力も野球の知識も低い」生徒とほぼ同じでした。
ただし、この1本を万能の答えとして扱うのは行き過ぎです。読解研究のティモシー・シャナハンは3つの留保を挙げています。①30年以上たっても同じ種類の結果を出した研究が続いていない。②使われた文章が研究用に作られた1本だけ。③読む力が下位30パーセンタイルの生徒が最初から除かれている。ここから「読み方の指導は要らない」と結論するのは誤読だ、というのが彼の立場です。知識と読み方は、どちらかを選ぶものではありません。
私も同じ考えです。読み方を教えるのをやめる必要はありません。変えるのは1つだけ。読ませる前の1分を空けておくことです。話題を知らないまま英文に入らせていないか、次の授業で確かめてみてください。
Shanahan on Literacy|Prior Knowledge(この研究への留保)
明日の授業でやること|明日の授業でやること:読む前の1分を作る
- 次に扱う英文を開き、話の土台になっている固有名詞・年号・場所を3つだけ書き出す。要約は書かない。
- 授業では本文を開かせる前に、その3つを黒板に書き、30秒で日本語の説明を添える。ここは日本語で構わない。
- 「この3つが本文のどこに出てくるか探しながら読んで」と伝えて読ませる。読む目的が1つに決まる。
- 読み終えたら、黒板の3つを指して Which of our guesses turned out to be right? と聞き、本文で確かめさせる。
この号で触れたリンク
- Education Week|AI Changes Its Feedback on Students' Writing When It Knows Their Race, Gender(2026年6月18日)
- ReseEd|2026年度分析結果公表、国語・英語に共通の弱点は「根拠を示す力」
- PR TIMES|AI時代の教育実践を全国から募集「Next Education Award 2026」応募受付開始
- Next Education Award 2026 公式サイト
- 大修館書店|英語教育 2026年8月号
- SchoolAI 公式サイト
- Gemini Notebook(NotebookLM)
- Simple English Wikipedia
- ReadWorks
- CommonLit
- Google Arts & Culture
- Etymonline|jumbo
- Wikipedia|R.U.R.
- Wikipedia|Baseball Study(Recht と Leslie、1988年)
- Shanahan on Literacy|Prior Knowledge, or He Isn't Going to Pick on the Baseball Study
今日は、読ませる前の1分だけで組みました。授業時間は増やせませんが、5分の帯活動の中身は入れ替えられます。次に扱う英文を1本選んで、固有名詞と年号と場所を3つ書き出すところから始めてみてください。10分もかかりません。
またあした。
Vol.11 08.20.2026
よくある質問
背景知識を先に日本語で与えると、英語の授業として問題がありませんか。
30秒から1分に区切るなら、問題は小さいと思います。目的は答えを配ることではなく、英文に入る前に「何の話か」を決めておくことです。そのあとの3分から5分を英語で使えるなら、英語に触れる時間はむしろ増えます。
野球の研究(Recht と Leslie、1988年)は、読み方の指導が不要だという意味ですか。
違います。ティモシー・シャナハンは、この研究が1本きりで同種の結果が続いていないこと、使われた文章が研究用の1本だけであること、読む力が下位の生徒が除かれていることを指摘し、知識と読み方は両方だと書いています。本号もその立場です。