英語のリスニングに字幕を足しても、伸びませんでした
英語教育ニュースレター Vol.23
英語が速くて聞き取れないと言われたとき、まず字幕を出したくなります。2014年にメイヤーらが英語を母語としない大学生に行った実験では、速い9分の動画に字幕を重ねても理解テストの成績は上がりませんでした。上がったのは、話している場面をそのまま映した映像を足した別の実験のほうです。帯活動2本、そのまま使える教室英語5本、スライドと掲示物に貼れる無料の画像サイト4選つきの第23号です。
監修:原田高志(原田英語.com)
今日のテーマは、リスニングで生徒がついてこられないときに何を足すか、です。字幕でしょうか。それとも絵でしょうか。2014年の実験は、片方でだけ成績が上がりました。第23号をどうぞ。
09.01.2026 Vol.23
おはようございます。
今日は、聞かせ方の話です。英語が速くて生徒がついてこられないとき、まず字幕を出したくなります。文字があれば分かるはずだから、と。
2014年、メイヤーらが英語を母語としない大学生に2つの実験をしました。字幕を足したほうでは、理解テストの成績が上がりませんでした。上がったのは、もう一方の実験です。何を足したのかは、最後の「常識がひっくり返る話」に書きました。
帯活動2本と教室英語5本は、そこで効いたものを授業の形にしたものです。無料ツールは、スライドと掲示物に貼れる画像を4つ集めました。
TODAY'S PICK
高校生の英検受験は142万人。2級以上で卒業するのは2人に1人でした
ReseEd(2026年8月17日)。出典は日本英語検定協会「統合報告書2026」(2026年6月公開)
英検協会が対象期間を2025年度(2025年4月1日〜2026年3月31日)として出した報告書の数字です。
- ▼ 2025年度に英検を受けた高校生 … 142万人(前年度より8.4万人増)
- ▼ 新設の準2級プラス以上の志願者 … 7.9万人増
- ▼ 高校卒業までに英検テストファミリーを受けた経験がある生徒 … 86%
- ▼ 高校卒業時の2級以上取得率 … 49.1%
- ▼ 2級以上の取得者数 … この10年で2.5倍
受けている生徒は増え続けています。高校卒業までに一度は受けた生徒が86%。2級以上を持って卒業するのは49.1%、およそ2人に1人です。
この2つの数字は、別のことを言っています。86%は「受けさせる」という仕事がほぼ終わったこと。49.1%は、残りの半分がまだそこに届いていないことです。
準2級プラス以上の志願者が7.9万人増えたのも、同じ絵の一部だと思います。上の級に挑む生徒は、確かに増えています。
級が上がると、読む英文も聞く英文も長くなります。そこで止まっている生徒に単語帳をもう1冊渡しても、たぶん届きません。だから今日は、速い英語をどう聞かせるかだけを1号ぶん使って書きました。
ReseEd|高校生の英検受験142万人に増加(2026年8月17日)
WARM-UPS
今日の帯活動(5分でできる)
今日の研究をそのまま形にした2本です。1本目は音を流す前に絵を置き、2本目は聞いたことを絵に戻します。
音を流す前に、写真を1枚だけ見せる
- これから聞かせる英文の場面が写っている写真か挿絵を1枚だけ、黒板に貼る。教科書のページを開かせるだけでもよい
- 30秒だけ見せて、「この話に出てきそうな英単語」を隣どうしで3つ挙げさせる
- 出てきた語を黒板に書く。外れていてもそのまま書く
- 音を流す。聞き終わったら、黒板の語のうち実際に出てきたものに丸をつける
- 💡 絵は、英語をもう一度英語で見せるものではありません。だから聞くための余裕を奪いません。外れた語に丸がつかないことも、生徒には情報です。
聞いたことを、下手な絵で描いて隣に見せる
- 教科書の4〜5文を、教師が2回読む。生徒はペンを持たない
- 読み終わったら30秒で、聞こえた内容をノートに絵で描かせる。棒人間でよいと先に言う
- 隣どうしで絵を見せ合い、違うところを1つ見つけさせる
- 違っていたところの英文だけ、もう一度読む
- 💡 絵に描けなかった文が、聞き取れていない文です。どこが分からなかったかを、生徒が日本語で説明しなくてよくなります。
CLASSROOM ENGLISH
そのまま使える教室英語
今日は、音を流す前と後で使う5本です。
音を流す前
Before you listen, look at this photo and tell me one word you expect to hear.
聞く前に、この写真を見て、聞こえてきそうな単語を1つ言ってください。
1つだけに絞るのが大事です。3つ言わせると、当てにいく生徒が出て、聞く前に疲れます。
速くて聞き取れない、と言われたとき
The speed is the problem, not you, so let's slow it down.
問題は速さです。あなたのせいではありません。速度を落としましょう。
「もう一度聞いてごらん」より先に、原因を速さのほうに置いてやる。同じ音源を落として流し直すだけで、手が動き出します。
2回目を流す前
Put your pen down this time and just listen.
今回はペンを置いて、聞くことだけしてください。
書きながら聞くと、書いている数秒ぶんが丸ごと抜けます。書かせるのは3回目からにすると、抜けた場所を生徒が自分で言えるようになります。
板書やスライドの英文を減らすとき
I'm leaving only three words on the board, so listen for the rest.
黒板には3語だけ残します。あとは耳で拾ってください。
全文を貼ると、生徒は読み始めて聞くのをやめます。残す語を教師が選ぶこと自体が、その時間のねらいの宣言になります。
絵を描かせるとき
Draw what you heard, even if it looks terrible.
聞こえたことを絵にしてください。下手でもかまいません。
「上手に描かなくていい」と先に言わないと、絵の得意な生徒だけが手を動かします。terrible と言い切ってしまうほうが、教室は動きます。
AI TOOLKIT
AI × 英語指導
教師向け1つ、生徒向け1つ
教師向けNapkin AI
打ち込んだ文章を読んで、図の候補をいくつも出してくれます。流れ図、対比の図、時間の並び。出てきた図は、色も文字も後から直せます。無料プランは週に500クレジットで、1週間ごとに戻ります(繰り越しはできません)。無料で書き出した図には Napkin の印が入ります。PNG と PDF で保存できます。
使いどころ:🎓 教科書の説明文の要点を、日本語でも英語でもよいので3行だけ貼りつけてください。出てきた図から1つ選んだら、図の中の語を2〜3語まで削る。メイヤーとジョンソンが2008年に成績の上がった条件として報告したのが、この「図のそばに2〜3語」でした。
生徒向けMicrosoft Designer
覚えたい英文を打ち込むと、その場面の絵を作ります。Microsoft のアカウントがあれば無料で使えます。単語カードに絵を1枚足すだけで、あとで思い出す手がかりが1つ増えます。
使いどころ:🎓 生徒には単語ではなく文で打たせてください。train ではなく a boy running to catch the last train のように。場面ごと絵になるので、その語が使われる状況まで一緒に残ります。全部の語でやると手が止まるので、「どうしても覚えられない5語だけ」と決めさせてください。
NEWS FLASH
今日のニュース
今週の3本です。
JAPAN · 08.18
TOEICの受験票が、2027年7月から紙をやめてアプリになります
国際ビジネスコミュニケーション協会(IIBC)が2026年8月18日に発表しました。TOEIC Listening & Reading 公開テストの受験票を、2027年7月からデジタルに切り替えます。専用アプリは2027年5月に出ます。受験者は顔写真と本人確認書類のICチップ情報をあらかじめ登録し、当日はその照合を受けます。2025年に不正が見つかったことを受けた対応で、紙の受験票は廃止されます。開始は2026年9月の予定から延期されました。
- 📌 いまの高2が高3の夏を迎えるころに、この形になります。学校で団体受験を案内するときの持ち物の説明が変わるので、進路指導の資料を一度見ておいてください。
JAPAN · 08.20
大学教員の41.7%が、AIを受けて授業や評価をすでに変えていました
デジタル・ナレッジの eラーニング戦略研究所が、2026年7月2日から8日にかけて大学教員115人(国公立43人・私立72人)に聞いた調査です。学生のAI利用を受けて授業・課題・評価の方法を変更済みが41.7%。変更を考えている人を足すと6割を超えました。回答者自身も、71.3%が毎日か週に数回AIを使っています。
- 📌 高校で書かせた英作文が、大学ではどう扱われるかという話でもあります。回答は115人なので、大学全体の姿とは言えません。
JAPAN · 08.31
中高生の33%が「ひとりで静かに過ごしたい」と答えました
認定NPO法人3keys が、13歳から18歳の約4,002人に聞いた調査です(2025年9月1日〜29日、インターネット調査。中学生1,074人・高校生2,705人・その他223人)。「知っている人に会いたくない」「ひとりで静かに過ごしたい」という非交流重視が約3割(33%)。この層は、困ったときに「誰にも相談しない」と答える割合が、ほかの層のおよそ2倍でした。
- 📌 ペア活動を組む前に、思い出しておきたい数字です。3人に1人は、話す相手が増えることを助けだと感じていません。話さなくても参加できる役を1つ用意しておくと、その生徒の手が動きます。
FREE TOOLS
無料の学習ツール4選
今号のテーマは「スライドと掲示物に貼れる、無料の画像」。今日の研究のとおり絵を足すなら、まず貼る物が要ります。
Openverse
WordPress のプロジェクトが運営している画像検索です。クリエイティブ・コモンズなど、使ってよい条件がはっきりしている画像を、いくつものサイトから横断して探せます。画像ごとにライセンスが表示されるので、貼る前に条件を確かめられます。英単語をそのまま打ち込めば、その語の場面が出てきます。
Pics4Learning
学校で使うために作られた写真集です。1999年から Tech4Learning とフロリダ州オレンジ郡の公立学校が運営しており、世界の写真家が寄付した3万枚以上が入っています。学校の授業・作品・ウェブページ・行事に無料で使えます。商用利用はできません。「著作権を確かめる時間がない」ときの、いちばん短い道です。
The Noun Project
1つの物や動作を1枚で表すアイコンが集まっています。無料で使う場合は、作者名を表示すること、色は黒のまま使うこと、という条件がつきます。写真だと情報が多すぎる語(decide、compare、increase のような動詞)は、アイコンのほうが伝わります。板書のとなりに1つ置くだけで、意味の説明が要らなくなります。
ウィキメディア・コモンズ
ウィキペディアが使っている画像の置き場です。実在の場所・人・出来事の写真がとにかく強く、教科書に出てくる地名や建物は、たいてい見つかります。各ページに再利用の条件と表記の文が書いてあります。英語版のページ名で検索すると当たりやすくなります。
STORY BREAK
生徒に話したくなる小ネタ
今日は「見る」と「板」の話です。
idea は、もともと「見えた形」でした
idea が英語に入ったのは14世紀の終わりごろ。ラテン語の idea からで、そのもとはギリシャ語の idea です。意味は「形。物の見た目」。さらにさかのぼると idein、つまり「見る」という動詞に行き着きます。
同じ語根から出てきた英語が、ほかにもあります。vision(視力)、view(眺め)、evident(明らかな)、そして wise(賢い)。「賢い」は、もともと「見えている」だったわけです。
英語で「思いついた」と言うとき、いまも見る言葉が並びます。I see.(分かりました)Do you see what I mean?(言いたいこと、分かりますか)I get the picture.(話が見えました)。生徒が日本語で「あ、分かった」と言ったら、英語なら I see it now. と言えることを教えてあげてください。
board は板です。取締役会も、そこから出ました
古英語の bord は「板。平らな面」でした。それが古英語の終わりから中英語のはじめに「食卓」の意味まで広がります。すると次は、その卓の上に出るもの、つまり「食事」(14世紀はじめ)。下宿で毎日出る食事を指すようになったのが14世紀の終わりです。
もうひと跳びあります。1570年代に「会議をする卓」。そこから1610年代には、卓を囲む人たち、つまり「経営を任された人たち」を指すようになりました。board of directors という言い方が記録に出るのは1712年です。
だから blackboard(黒板)と room and board(部屋と食事つき)と board of directors(取締役会)は、全部おなじ1枚の板から出ています。生徒に blackboard の board を指させてから、この順に話すと1分で終わります。
QUOTE
今日の名言
言葉と、言葉でないもの
“Human cognition is unique in that it has become specialized for dealing simultaneously with language and with nonverbal objects and events.”
人間の認知が特別なのは、言葉と、言葉ではないものごとを、同時に扱えるように作られていることです。
アラン・パイヴィオ(心理学者、ウェスタンオンタリオ大学)『Mental Representations』1986年、オックスフォード大学出版局、53ページ
二重符号化と呼ばれる考え方を、パイヴィオ本人がまとめた一文です。言葉の入口と、絵の入口は別々にある。だから英語が詰まっている生徒に英語を足しても渋滞は解けず、絵を足すと通ります。今日の実験は、この一文を英語の学習者で確かめたものだと読めます。
THE FLIP
常識がひっくり返る話
聞き取れない生徒に足すものは、字幕ではありませんでした
教科書のQRコードから流れる英語が速い。生徒が「聞き取れません」と言う。そのとき、まず思いつくのは文字を出すことです。スクリプトを配る。スライドに英文を貼る。字幕を出す。
理屈も通っています。耳で拾えないなら、目で拾えばいい。同じ英語が2つの入口から入るのだから、片方が詰まっていても、もう片方から届く。
実際、多くの教材が字幕つきで作られています。デジタル教科書にも、音声と一緒に英文が出る画面があります。文字を出すことは、親切な手当てだと思われてきました。
ところが
2014年、カリフォルニア大学サンタバーバラ校のリチャード・E・メイヤーらが、英語を母語としない大学生を対象に2つの実験をしました(Applied Cognitive Psychology 28巻5号、653〜660ページ)。
実験2では、化学反応を説明する速い9分の英語の動画に、話しているのと同じ内容の字幕を重ねました。理解テストの成績は、上がりませんでした。論文はその理由を、字幕を使うだけの余裕が学習者に残っていなかったのではないか、と述べています。
成績が上がったのは実験1のほうです。南極の生きものを説明するゆっくりした16分の英語の音声に、話している場面と動物をそのまま映した映像を足しました。理解テストの成績が上がりました。
⚠ この2つは、別の教材を使った別の実験です。同じ動画で字幕と映像を比べたわけではありません。「字幕より映像が上」とまでは言えません。
それでも、教室で使える形は残ります。字幕は、英語をもう一度英語で出しているだけです。耳が詰まっている生徒には、詰まっているのと同じ入口をもう1つ増やすことになります。写真や映像は英語を通らずに入るので、残っている余裕を食いません。
文字を全部消せ、という話でもありません。メイヤーとジョンソンが2008年に出した実験では、図のそばに2〜3語だけ置いた組のほうが、文字なしの組より記憶テストの成績が高くなりました(Journal of Educational Psychology 100巻2号、380〜386ページ。効果量は0.47と0.70)。消すのは英文であって、キーワードではありません。
Applied Cognitive Psychology|Multimedia Learning in a Second Language: A Cognitive Load Perspective
明日の授業でやること|明日のリスニングで、順番を1つ入れ替える
- 音を流す前に、その英文の場面が写っている写真か挿絵を1枚だけ見せる。30秒でよい
- スクリプトや字幕を出すのは、1回目を流したあとにする。1回目は音と絵だけで聞かせる
- スライドに英文を丸ごと貼るのをやめ、図のそばにキーワードを2〜3語だけ残す
- 写真を見せた回と見せなかった回で、内容についての質問の正答数を数えて比べる
この号で触れたリンク
- ReseEd|高校生の英検受験142万人に増加(2026年8月17日)
- 日本英語検定協会|「統合報告書2026」を公開(2026年6月2日)
- ReseEd|TOEIC「デジタル受験票」2027年7月から運用…不正対策を強化
- ReseEd|大学教員、AI活用拡大を受け「授業・課題・評価方法」変更済み41.7%
- こどもとIT|中高生の33%が「非交流重視」、思春期の居場所ニーズを約4000人に調査
- Applied Cognitive Psychology|Multimedia Learning in a Second Language: A Cognitive Load Perspective(Mayer, Lee & Peebles, 2014)
- ERIC|Revising the Redundancy Principle in Multimedia Learning(Mayer & Johnson, 2008)
- InstructionalDesign.org|Dual Coding Theory(Paivio)
- Online Etymology Dictionary|idea
- Online Etymology Dictionary|board
- Napkin AI
- Microsoft Designer(AI画像作成)
- Openverse
- Pics4Learning
- The Noun Project
- ウィキメディア・コモンズ
入れ替えるのは、順番だけです。スクリプトを配る前に、写真を1枚。それで1回目の聞き方が変わります。
9月が始まりました。夏の疲れが残っている教室では、音だけの5分が長く感じられます。絵が1枚あるだけで、その5分の入口が変わります。
またあした。
Vol.23 09.01.2026
よくある質問
字幕を出すのは、やめたほうがいいということですか。
違います。成績が上がらなかったのは、速い9分の動画に、話しているのと同じ英文の字幕を重ねた実験です。速度を落としたときや、2回目に見せるときまで調べた研究ではありません。順番を変える話であって、やめる話ではありません。
写真を先に見せると、聞き取る力がつかなくなりませんか。
その心配は分かります。ただ、映像を足した実験1で上がったのは内容を理解できたかを測るテストで、聞き取りの訓練を絵で置き換えた研究ではありません。1回目は絵を添えて流し、2回目は絵なしで流す。この使い方がよいと思います。