本文へスキップ
日刊原田英語 Harada Eigo Daily
NEWSLETTER 標準 読了 12分

学習スタイルに効果はある?条件をそろえた研究は別の結果

ニュースレター|Vol.39

視覚型の生徒には図を、聴覚型の生徒には音を。教室でいちばん信じられている考え方の1つですが、条件をそろえて確かめた研究はほとんど存在していませんでした。今日はそこまで降ります。帯活動2本、教室英語4本、コロケーションを調べる無料ツール4選つき。

監修:原田高志(原田英語.com)

おはようございます。今日の山は最後の節です。教室でいちばん広く信じられている考え方を1つ、研究のほうから見直します。先に読んでも構いません。

09.17.2026 Vol.39

おはようございます。

今日いちばん役に立つのは、たぶん最後の節です。「この子は視覚型だから図で」「この子は耳がいいから音で」。職員室で毎日交わされているこの話が、条件をそろえて確かめると残らなかった、という研究の話をします。

その前に、帯活動を2本と、そのまま言える教室英語を4本。今日の無料ツールは、語と語のつながりを調べる4つです。生徒の英作文が「意味は合っているのに変」なときに効きます。

TODAY'S PICK

高校の英語、B2に届いていたら必修を免除する案が出ています

共同通信(高知新聞ほか掲載)2026年4月23日

次期学習指導要領の「外国語(英語)」を検討している中央教育審議会の作業部会が、4月23日に開かれました。

そこで文部科学省が示したのが、高校入学の時点で高い外国語能力がある生徒について、必修科目の履修を免除できるようにするという案です。その指標として挙げられたのが、語学力の国際規格 CEFRB2 以上でした。

CEFRは上からC2、C1、B2、B1、A2、A1の6段階です。B2は上から3番目で、複雑な文章の内容が分かり、母語話者とも問題なくやりとりできる水準とされます。文科省の基準では英検準1級から1級に相当します。いまの高校の科目は、おおむねA2からB1で設計されています

この案でいちばん効いてくるのは、免除されたあとの時間の使い道のほうです。

報道によれば、免除された生徒は学校設定科目で発展的な学習をするか、別の外国語を学ぶことになります。学校の裁量で、大学の授業、専門機関の外国語講座、海外のサマースクールを受けることも認められる形です。

つまりこれは「できる生徒を英語から解放する制度」ではありません。英語の授業をやめて、その先へ行かせる制度です。そう読むと、現場で先に決めておくべきことがはっきりします。誰がB2を測るのか。免除した生徒の評価をどう付けるのか。そして、B2に届いていない生徒の授業が、そのぶん薄くならないか

制度が降りてくる前に、この3つを職員室で一度話しておくと、あとが楽になります。

WARM-UPS

今日の帯活動(5分でできる)

どちらも黒板だけで回せます。5分ずつ。

同じ1文を、3つの速さで言う

対象 中1〜高校 時間 5分 準備 黒板のみ

  1. 教科書から8語前後の1文を選び、黒板に書きます
  2. 「まず、ゆっくり。1語ずつ区切って読んでください」と言い、全員で3回
  3. 「次はふつうの速さ。区切りを2か所だけ残します」と言って、切れ目に線を2本引き、3回
  4. 「最後は一息で。息継ぎなしで言い切ってください」と言って3回。言い切れた人に手を挙げさせます
  5. 同じ文を、明日の授業の最初にもう一度だけ言わせます
  • 💡 速さを上げるのではなく、息継ぎの数を減らすと言い換えるのがコツです。速く読めと言うと雑になりますが、息継ぎを減らせと言うと、かたまりで捉えようとします。

黒板の1文から、語を1つずつ消していく

対象 中1〜高2 時間 5分 準備 黒板のみ

  1. 10語前後の英文を黒板に書き、全員で2回読みます
  2. 「いま、1語消します」と言って、どれか1語を消します。消した場所には下線だけ残します
  3. 消えた語も声に出しながら、全文を読ませます
  4. 1語ずつ消していき、最後は下線だけの状態で全文を言い切らせます
  5. 最後に「では、ノートに書いてみてください」と言って、何も見ずに書かせます
  • 💡 消す順番を、生徒に選ばせないのがコツです。先生が内容語から先に消すと難しくなりすぎるので、a / the / to のような短い語から消していくと、最後まで全員が残ります。

CLASSROOM ENGLISH

そのまま使える教室英語

今日の4本は、どれも「もう一歩だけ聞く」ための言い方です。

音読の前に、黙読だけで終わりそうなとき

Read it once with your eyes, then once with your mouth.

まず目で1回、そのあと口で1回読んでください。

「音読しなさい」より動きが分かります。2回あることが先に伝わるので、1回目を雑に読む生徒が減ります。

同じ誤りが2人から出たとき

If two of you got it wrong the same way, that's worth looking at.

2人が同じ間違い方をしたなら、そこは見る価値があります。

間違いを個人の失点ではなく、クラスで扱う材料に変える一言です。名前を出さずに済みます。

正解した生徒に、もう一歩聞きたいとき

Tell me the word you almost chose.

もう少しで選びそうだった語を教えてください。

正解した生徒からいちばん多くの情報が出るのが、この問いです。迷った語が分かると、次に出す問題が決まります。

理由を言わせたいが、英語では出てこないとき

You can use Japanese for the reason, but the answer stays in English.

理由は日本語で構いません。でも答えは英語のままにしてください。

英語で言えないから黙る、という状態を外します。答えの部分だけ英語に残すので、授業が日本語に流れません。

AI TOOLKIT

AI × 英語指導

教師向け1つ、生徒向け1つ

教師向けTwee

英語の授業で使う教材を、レベルを指定して作らせるツールです。本文、対話文、空所補充、内容理解の設問、ライティングの課題、語彙の練習まで、40種類以上の形で出せます。CEFRのA1からC2まで、水準を指定できるのがこのツールの要です。作ったものはPDFやWordで書き出せるほか、Googleフォームやリンクで配ることもできます。無料で試せる枠があります。

使いどころ:🎓 いきなり「教材を作って」と打たないでください。先に本文を1つ作らせ、それから設問を足していくのが確実です。たとえば「B1レベルで、修学旅行をテーマにした180語の本文」と指定してから、同じ画面で「この本文に内容理解の設問を4つ」「この本文から語彙の練習を1つ」と続けます。1回で全部作らせると、設問が本文とずれます。

生徒向けLangua

AIを相手に英語で話す練習ができるサービスです。役割を決めた会話や、興味のある話題での議論ができ、間違えたその場で直しと説明が返ってきます。初心者向けに、何を言えばよいか案内してくれるモードもあります。20以上の言語に対応しています。⚠ 無料で試せますが、期間を延ばすにはカードの登録が必要です。生徒に勧めるときは、そこまで伝えてください。

使いどころ:🎓 生徒には「話題を自分で決めてから始めなさい」と言ってください。題材を決めずに始めると、毎回あいさつと天気で終わります。部活、好きな動画、昨日の夕食。1つ決めて、それだけで5分話す。終わったら、直された箇所を3つだけノートに書き写す。ここまでを1セットにすると続きます。

NEWS FLASH

今日のニュース

今週、生徒に話せそうな3本です。

WORLD · 09.15

脳は50歳から75歳のあいだに、大きく作り替えられている

人の脳が、ゲノムをどう制御し、どう整理しているか。その仕組みが中年期を境に大きく変わっていくことが分かった、という報告です。加齢とともにアルツハイマー病などの危険が急に高まる理由の手がかりになる可能性があるとされています。

教室では、年齢と学習の話に使えます。「もう年だから英語は無理」と言う保護者にも、生徒自身にも、脳が変わり続けているという事実のほうを先に置けるからです。

WORLD · 09.14

若い世代のがんが増えている。生物学的な老化の速さが関係するかもしれない

55歳未満のがんが増えていることについて、生物学的な老化の速さがその一因かもしれない、という研究です。実際の年齢と、体の内側の老化の進み方は、必ずしも同じではないという考え方が土台にあります。

英語の授業では、biological age と chronological age という2つの言い方をそのまま渡せます。同じ「年齢」でも英語は2語に分ける、という具体例として強い題材です。

WORLD · 09.15

「アインシュタイン問題」の図形から、思いがけない物理が出てきた

同じ模様をくり返さずに平面を埋めつくす図形。数学で「アインシュタイン問題」と呼ばれてきたこの形に、光をねじる働きがあることが分かったという報告です。

数学が得意な生徒に渡すと効きます。英語の記事の見出しだけでも読ませてみてください。この einstein は、物理学者の名前ではありません。ドイツ語の ein Stein(1つの石)をもじった言葉遊びです。タイル1種類だけで平面を埋めるので、そう名づけられました。人名だと思って読んだ生徒は、必ず一度止まります。そこが語彙の話の入口になります。

FREE TOOLS

無料の学習ツール4選

今号のテーマは「語と語のつながり(コロケーション)を調べる」。生徒の英作文が、意味は合っているのに変だというときに効きます。

SkELL

語を1つ入れると、その語が実際に使われている例文と、よく一緒に使われる語が一覧で出ます。Sketch Engine という大きなコーパスの、学習者向けの無料版です。画面が3つに分かれていて、例文、よく組む語、似た語をすぐに行き来できます。生徒に見せるときは「よく組む語」の画面だけで十分です。

Just the Word

英語の組み合わせを打ち込むと、それが実際にどれくらい使われているかを棒グラフで見せます。make a mistake と do a mistake を並べて入れれば、どちらが自然かが一目で分かります。緑の棒と赤の棒で出るので、英語が苦手な生徒にも伝わります。書いた英文の自己点検に向いています。

Ozdic

名詞を引くと、その語と組む形容詞・動詞・前置詞が、品詞ごとに整理されて出ます。オックスフォードのコロケーション辞典をもとにした無料のサイトです。decision を引けば、make / take / reach a decision がすぐに並びます。英作文の授業で、1語だけ配って調べさせる使い方がしやすいつくりです。

Linggle

一部を伏せたまま検索できるのがこのツールの特徴です。play _ piano のように空所を入れて打つと、そこに入る語と使われている割合が出ます。前置詞や冠詞で迷ったとき、辞書を引くより速く答えが出ます。生徒には「迷ったら、迷っている場所にアンダーバーを入れて打ちなさい」と伝えてください。

STORY BREAK

生徒に話したくなる小ネタ

どちらも、体と服の話です。

muscle(筋肉)は、もともと「小さなネズミ」でした

語源辞典Etymonlineによれば、muscle はラテン語の musculus から来ています。この語の意味は「小さなネズミ」。mus(ネズミ)に、小さいものを表す語尾がついた形です。

名前の理由は、動きです。腕に力を入れたとき、力こぶが皮膚の下で盛り上がって動く。その様子が、皮膚の下をネズミが走るように見えたと考えられていました。おもしろいことに、ギリシャ語でも mys という1語が、ネズミと筋肉の両方を指しています。英語に入ったのは14世紀の終わりごろです。

ついでに、貝の mussel も同じ musculus から来ています。こちらは大きさと形がネズミに似ていたためです。muscle と綴りが分かれ始めたのは1600年ごろで、はっきり分かれたのは1870年代でした。

生徒には、力こぶを作らせながら言ってください。There's a little mouse in your arm. 一度で入ります。

candidate(候補者)は、「白い服を着た人」でした

Etymonlineによれば、candidate はラテン語の candidatus。もとの意味は「白い服を着た」です。candidus(白い、輝く)から来ていて、さらにさかのぼると candere(輝く)に行き着きます。

古代ローマで公職を目指す人は、toga candida という真っ白なトーガを着て人前に立ちました。白さを出すために、細かい白墨の粉をまぶしていたと言われます。その白が、志の潔白さを示すしるしでした。英語に入るのは1600年ごろです。

同じ candere からは candle(ろうそく)も出ています。選挙の候補者とろうそくが、「輝く」という1語でつながっているわけです。

生徒に渡すなら、選挙の話のときに1文で足せます。A candidate used to wear white. 白い服の話は、忘れません。

QUOTE

今日の名言

今日の名言

“We acquire, in other words, only when we understand language that contains structure that is 'a little beyond' where we are now.”

言いかえれば、私たちが言語を身につけるのは、いまの自分より「少しだけ先」にある構造を含んだ言葉を、理解できたときだけです。

スティーヴン・クラッシェン(応用言語学者)『Principles and Practice in Second Language Acquisition』1982年、第2章。全文が本人のサイトで無料公開されています

「少しだけ先」という言い方が効きます。今日の授業で出す英文が、生徒にとって少し先にあるか。全部分かる英文なら、そこで身につくものはありません。逆に半分も分からなければ、理解が起きないので、やはり身につきません。教材を選ぶときの物差しとして、この1文を職員室の机に貼っておく価値があります。

THE FLIP

常識がひっくり返る話

視覚型・聴覚型に合わせて教えた研究は、条件をそろえると、ほとんど残りませんでした

この子は視覚型だから、図で見せたほうが入る。あの子は耳がいいから、音で入れたほうがいい。

職員室でいちばんよく交わされる見立ての1つだと思います。研修で扱われることも多く、生徒自身が「自分は目から派です」と言うこともあります。実際、そう言われた生徒に図を渡すと、たしかに手が動きます。

そして、この考え方には納得のいく理由があります。人によって得意なことは違う。同じ説明でも、届く子と届かない子がいる。教室で毎日目にしている事実と、きれいに一致します。だから広がりました。

英語教育でも同じです。単語カードを見せる、音声を流す、体を動かす。生徒の型に合わせて入口を変える工夫は、誠実な工夫として続けられてきました。

ところが

ところが、これを確かめるには、決まった形の実験がいります

2009年、Psychological Science in the Public Interest 誌に、Pashler らの検証報告が載りました。彼らが必要だとした設計はこうです。まず生徒を学習スタイルで分類する。次に、その分類とは無関係に、学習方法をくじで割り当てる。そうすると、型と方法が一致した生徒と、一致しなかった生徒ができます。最後に、全員に同じテストを受けさせる。

型に合わせることに効果があるなら、一致した生徒のほうが点が高くなるはずです。

報告が見つけたのは、次のことでした。この設計を備えた研究は、学習スタイルの文献の中にほとんど存在していなかった。そして、きちんとした設計で行われた数少ない研究のうち、1本を除いてすべてが否定的な結果でした。否定的というのは、どの型の生徒にも、同じ方法がいちばんよかったという意味です。その後のRogowskyらの研究も、型に合わせることを支持しない結果を報告しています。

それでも信じられ続けています。2012年ごろからは「神経神話(neuromyth)」と呼ばれるようになりましたが、教育に関わる人の最大89パーセントがこの考え方を信じているという調査があります。

ここで、間違えていたのは先生ではありません。確かめる形をした研究が、そもそも世に出ていなかったのです。研修で配られた資料にも、書いてありませんでした。

そして大事なのは、この報告が否定したのが「型に合わせること」だけだという点です。図を使うことも、音を使うことも、否定されていません。むしろ逆で、どの生徒にも同じ方法がいちばんよかったという結果が出ているのですから、教室でやるべきことは1つに絞れます

生徒を型で分けるのをやめて、その内容にいちばん合った見せ方を選ぶ。発音は音で、語順は図で、場面は映像で。生徒の型ではなく、教える中身のほうが入口を決める、ということです。

明日の授業でやること|明日の授業でやること

  1. 今日扱う内容を1つ選び、「これは音・図・動きのどれで見せるのが自然か」を、生徒ではなく内容の側から決めます
  2. 決めた1つの見せ方で、クラス全員に同じように出します。生徒によって入口を変えないでください
  3. 5分後に「いま分かったことを1文で言ってください」と全員に書かせ、書けなかった生徒の数を数えます
  4. 数が多ければ、生徒の型を疑うのではなく、見せ方をもう1つ足します。同じ内容を、別の入口からもう一度出してください

この号で触れたリンク

学習スタイルの話は、長く信じられてきたぶん、手放すのに抵抗があります。私もそうでした。

ただ、あの報告が否定したのは「生徒を型で分けること」だけです。目の前の生徒をよく見ることも、入口を工夫することも、何ひとつ否定されていません。むしろ、型で分けるのをやめたぶん、内容そのものに合った見せ方を選ぶ時間が増えます。

明日は1つだけ試してみてください。生徒の型ではなく、教える中身のほうに「これは音か、図か」と聞いてみる。それだけです。

またあした。

Vol.39 09.17.2026

動画で見る

教育でいちばん大きな神話(学習スタイルを扱った回) (Veritasium) 今日の最後の節と同じ、学習スタイルの話を英語で扱っています。英語字幕を出して見てください。

よくある質問

学習スタイル(視覚型・聴覚型)に合わせた指導に、効果はないのですか?

2009年にPsychological Science in the Public Interest誌に載ったPashlerらの検証報告によれば、効果を確かめるのに必要な設計(学習スタイルで分類したうえで、学習方法をくじで割り当てる形)を備えた研究はほとんど存在せず、その設計で行われた数少ない研究も、1本を除いてすべて否定的な結果でした。

では、図や音を使うのをやめるべきですか?

いいえ。否定されたのは「生徒の型に合わせて入口を変えること」だけです。どの生徒にも同じ方法がいちばんよかったという結果なので、生徒の型ではなく、教える内容に合った見せ方を選ぶのが筋になります。