中高英語教師のニュースレター Vol.3|説明より先に解かせる
教える前に、わざと間違えさせる
教える前に解かせて、わざと間違えさせる。2009年の実験は、そのほうがあとまで残ると示しました。ほかに、永田町で開かれた教育AIサミット2026、Yes/Noで終わらせない帯活動とディクトグロス、そのまま言える教室英語4本、CuripodとELSA Speak、生徒の英文を生徒自身に直させる無料ツール4選、昔の英語にYesとNoが4つあった話。
監修:原田高志(原田英語.com)
08.12.2026 Vol.3
おはようございます。水曜日です。
今日の最後は、「予習」の順番の話です。教科書を読ませてから問題を解かせる。この順番を、私たちはまず疑いません。ところが、まだ教えていないことを先に解かせたらどうなるかを、5つの実験で調べた研究があります。
しかもその研究は、先に解かせて答えられなかった問題だけを取り出して比べています。先に言ってしまうと、間違えたほうが、あとまで残りました。
TODAY'S PICK
永田町に、教師と高校生とAIが集まった一日
教育AI活用協会(AIUEO)「教育AIサミット2026」2026年8月7日・衆議院第一議員会館
2026年8月7日、衆議院第一議員会館で「教育AIサミット2026」が開かれました。テーマは「AI時代の教育宣言」。国会議員、文部科学省・デジタル庁の関係者、EdTech企業、そして現場の教員や高校生までが同じ建物に集まり、2つの会場で同時にセッションが進んだといいます。
教育政策を作る人と、それを教室で使う人が、同じ日に同じ場所にいる。意外と珍しいことです。制度は現場を知らないまま決まり、現場は制度の意図を知らないまま従う。この種の場は、そのすれ違いを少しずつ埋めようとしているのだと思います。
いちばん注目したいのは、同じ部屋に高校生がいたことです。使う本人の声が、決める人に直接届く場があるかどうか。
教室のなかでも同じです。「この活動、どうだった?」と生徒に聞く5分を、学期に一度でも取っているかどうか。今日の教室英語4本のうち3本は、生徒の側から言葉を引き出すための一言にしました。
PR TIMES|衆議院第一議員会館で「教育AIサミット2026」を8月7日に開催、全プログラム決定
WARM-UPS
今日の帯活動(5分でできる)
1本目は応答の形を直す。2本目は聞く力と書く力を同時に使わせる
Yes / No で終わらせない。助動詞で返す
- 教師が全員に、Yes / No で答えられる質問を1つ投げる。Do you have a smartphone? のような、迷わず手が挙がる問いにする
- Yes や No だけで答えるのは禁止。質問に使われた助動詞を、そのまま返して答える(Do you 〜? なら Yes, I do.)
- 教師は質問の形をわざと変えていく。Are you 〜? / Have you 〜? / Did you 〜? / Can you 〜? を混ぜる
- 最後に1人だけ指名して、質問する側をやらせる。聞く側に回ると、助動詞を自分で選ぶ必要が出てきます
- 💡 日本語には「動詞をそのまま返して答える」という形がありません。だから生徒は Yes / No で止まります。返すのは助動詞であるという一点を体に入れるだけで、応答が急に英語らしくなります。付加疑問の指導にも、そのままつながります。
聞いて、単語だけメモして、書き起こす(ディクトグロス)
- 教師が短い英文を、普通の速さで2回読む。1回目は聞くだけ。ペンは置かせる
- 2回目は単語だけメモを取らせる。文で書かせない。拾えた語だけでよい
- ペアでメモを持ち寄り、2人ぶんを合わせて元の英文を復元する。一字一句同じでなくてよい。意味が通る英文になればよい
- 1組を指名して黒板に書かせ、教師の原文と並べる。違っていたところが、そのクラスの弱点の一覧になります
- 💡 ディクトグロスと呼ばれる古典的な手法です。書き取り(ディクテーション)と違って、一字一句を当てるゲームではありません。意味を保ったまま自分の文法で組み直させるので、聞く力と書く力が同時に動きます。復元の途中でペアが交わす日本語の相談も、そのまま文法の議論になっています。
CLASSROOM ENGLISH
そのまま使える教室英語
明日そのまま口に出せる4本。1つずつ音が鳴ります
活動の残り時間を告げるとき
Thirty seconds left. Finish the sentence you're on.
残り30秒。いま書いている文だけ終わらせて。
「あと30秒」だけだと、生徒は慌てて手を止めます。どこまでやればいいかを一緒に言うと、最後の30秒が急に静かになります。書く活動でも話す活動でも使えます。
生徒が日本語で答えたとき
Good idea. Can you try that in English?
いい考えだね。それ、英語で言ってみられる?
まず中身を認めてから、言語を戻す。順番を逆にすると、次から手が挙がらなくなります。try が入っているので、うまくいかない前提になっているのも効きます。
生徒の声が小さくて聞き取れないとき
I heard the first part. Can you say the rest again?
最初のところは聞こえたよ。残りをもう一回言ってくれる?
Louder, please. は、聞こえなかった責任を生徒のほうへ返してしまいます。「ここまでは届いた」と先に言うと、言い直しが罰ではなくなります。
机間指導で1人に声をかけるとき
This part is really good. Where did you get that word?
ここ、すごくいいね。この単語どこで見つけたの?
褒めたあとに出どころを聞くと、生徒は自分の工夫を言葉にします。それを全体に紹介すれば、1人への声かけがそのままクラス全員の教材になります。
AI TOOLKIT
AI × 英語指導
教師向け1つ、生徒向け1つ
教師向けCuripod
トピックを1行入れるだけで、スライド・発問・投票・記述課題までが入った授業パッケージを作ってくれるツール。生徒は各自の端末から回答し、教室の画面に結果が集まります。全員の答えが一度に見えるので、挙手では拾えない生徒の考えが表に出ます。無料の範囲で十分に動きます。
使いどころ:🎓 「今日の本文の内容について、賛成か反対かを問う1問」だけを作って使ってみてください。全員の回答が画面に並んだところで、少数派の意見を1つだけ読み上げる。それだけで、次の発問への食いつきが変わります。授業全部を置き換えようとせず、5分だけ差し込むのがコツです。
生徒向けELSA Speak
生徒が話した英語を音単位で判定して、どこがどう違うのかを示してくれる発音練習アプリ。「通じる/通じない」ではなく、どの音が原因で通じないのかまで返ってくるのが、教師には真似のできないところです。無料でも1日ぶんの練習は回せます。
使いどころ:🎓 全員に入れさせる必要はありません。発表前の生徒や、発音を気にして声が小さくなる生徒に、1人だけすすめる。「先生に聞かれずに何回でも失敗できる場所」があると、教室での声が変わります。機械に直させて、教師は中身を褒める。この分担がいちばん効きます。
NEWS FLASH
今日のニュース
今週の動きから3本。どれも教室に持っていけます
SCIENCE · 08.06
「壊れた」はずのメガロドンの化石、37年ぶりに博物館の棚で見つかる
デンマークの博物館で、37年前に収蔵されたまま忘れられていた標本が、巨大ザメ・メガロドンの化石だと分かりました。壊れた別の何かだと思われて、棚に置かれ続けていたものです。
英語ニュースの語彙として、fossil(化石)、specimen(標本)、collection(収蔵品)、overlooked(見落とされていた)、identify(正体を特定する)が並びます。
「ずっとそこにあったのに、誰も気づかなかった」という筋書きは、生徒がいちばん食いつく形です。理科の先生と話題を合わせられるのも、この手のニュースの強みです。
UK · EDUCATION · 2025
「ウェールズ語・教育法2025」成立。学校教育に到達目標を法律で書き込む
英国ウェールズで、学校教育におけるウェールズ語の到達目標を法律に明記する法案が成立しました。「授業で扱う」ではなく「どこまで到達させるか」を法律の側が書いた点が新しいところです。
日本の英語教育も、学習指導要領という形で目標を定めています。同じことを、別の国が別の言語について、別の書き方でやっている。比べてみると、自分たちの前提が見えます。
条文は英語で公開されていて、法律文としては読みやすい部類です。高3の多読素材にも使えます。
legislation.gov.uk|Welsh Language and Education (Wales) Act 2025
JAPAN · EDUCATION · 08
神田外語大学「英語教育公開講座 2026」、今年もオンラインで
神田外語大学と神田外語学院が毎年夏に開いている、中学・高校の英語教員と教職志望学生に向けた公開講座です。2026年はオンライン開催でした。
夏は研究会と講座が重なります。出られなかった年でも、講座の内容や講師の顔ぶれを見ておくと、いま何が現場の課題とされているのかが分かります。2学期の校内研修の題材を探すときの、いちばん手早い方法です。
FREE TOOLS
無料の学習ツール4選
今号のテーマは「生徒が書いた英文を、生徒自身に直させる」
Hemingway Editor
英文を貼ると、長すぎる文、受動態、難しすぎる語を色分けして示してくれるサイト。文法の誤りではなく読みにくさを指摘してくれるのが、他のツールと違うところです。「文が長い」と教師が言うより、画面が黄色く光るほうが早い。読みやすさの学年目安も出ます。
LanguageTool
文法・綴り・語法の誤りを指摘してくれる無料のチェッカー。なぜ違うのかの説明が付くので、赤を入れるだけで終わりません。アカウント登録なしで、ブラウザ上で英文を貼るだけで使えます。日本語の説明表示にも対応しています。
Purdue OWL
パデュー大学が公開している、英語ライティング解説の総本山。文法、句読点、引用の作法、パラグラフの組み方まで、教員が「これ、どう説明すればいいんだったか」と迷ったときの参照先になります。全部無料で、広告もありません。
Grammarly
英文の誤りに加えて、言い回しの自然さまで提案してくれる定番のツール。無料版でも基本的な誤りの指摘は十分に働きます。生徒に使わせるなら、提案をそのまま受け入れさせず「なぜそう直されたのか」を1つだけ書かせると、添削が学習に変わります。
STORY BREAK
生徒に話したくなる小ネタ
授業の余り3分で話せる2本
昔の英語には、Yes と No が4つあった
いまの英語で「はい/いいえ」は yes と no の2つです。ところが16世紀ごろの英語には、yea / nay / yes / no の4つがありました。
使い分けの決まりは、質問が肯定文の形か、否定文の形かでした。
- ▼ Will he go?(肯定の形の問い)には yea / nay
- ▼ Will he not go?(否定の形の問い)には yes / no
この区別は当時から難しかったらしく、トマス・モアが同時代の書き手の使い分けを批判した記録が残っています。ネイティブでも間違えていたということです。
その後 yea と nay は日常から消え、yes と no が全部を引き受けました。いま生徒が「否定疑問文の答え方がややこしい」と言うのは、この統合の後始末を引き受けているからでもあります。今日の帯活動1本目の直前に話すと、よく効きます。
メガロドンは「大きな歯」という意味だった
今日のニュースに出てきた megalodon。この名前をそのまま日本語にすると「大きな歯」です。
- ▼ megal- はギリシャ語で「大きい」
- ▼ -odon はギリシャ語で「歯」
このサメの化石は、ほとんどが歯です。骨が軟骨でできていて残らないため、残ったのは歯だけ。だから名前も歯になりました。
megal- は身近な語にも生きています。megaphone(大きい+音)、megabyte(大きい+バイト)、megacity(大きい+都市)。-odon のほうは mastodon(乳首のような歯)、iguanodon(イグアナの歯)。
恐竜と古生物の名前は、ほとんどがギリシャ語とラテン語の部品でできています。「名前を訳すと、その生き物の特徴がそのまま出てくる」と伝えると、生徒が図鑑を引きはじめます。
QUOTE
今日の名言
心理言語学者フランク・スミスの言葉
“One language sets you in a corridor for life. Two languages open every door along the way.”
1つの言語は、あなたを一生ひとつの廊下に立たせる。2つ目の言語は、その廊下沿いの扉を、すべて開けてくれる。
フランク・スミス(心理言語学者、1928-2020)
廊下という比喩がよくできています。1つの言語しか持たないことは、閉じ込められることではありません。進めます。ただし、進むしかない。
教室で紹介するなら、こう聞いてみてください。「いま英語で開けたい扉が1つあるとしたら、何?」。ゲームでも、音楽でも、留学でもいい。目的が具体的な生徒ほど、語彙の増え方が違います。答えを聞かずに、心のなかで決めさせるだけでもかまいません。
THE FLIP
常識がひっくり返る話
説明の前に解かせて、間違えさせたほうが残りました
授業の順番は、たいてい決まっています。まず説明して、それから解かせる。当たり前です。教えていないことを解かせても、生徒は答えられません。答えられない問題を配るのは、意地悪だとさえ思います。
だから予習も「先に読んでおいで」になります。読んで、内容を頭に入れてから授業に来る。そのほうが授業がよく分かる。私たちはそう信じてきました。
実際、その順番でうまくいっているように見えます。少なくとも、その日の授業のなかでは。
ところが
2009年、リン・リッチランドらの研究チームが、この順番をひっくり返しました。
実験はこうです。ある文章を読ませる前に、まだ教えていない内容について質問を出します。当然、ほとんど答えられません。もう一方のグループには質問を出さず、そのぶん文章を読む時間を長く与えました。
そのあとテストをすると、先に質問を受けた側のほうが成績がよくなりました。
驚くのはここからです。研究チームは、先の質問で答えられなかった項目だけを取り出して比べ直しました。それでも、先に質問された側が勝ちました。5つの実験すべてでです。
つまり、間違えたことそのものが、あとの学習の準備になっていたということになります。
「答えられない問題を配るのは意地悪だ」という私たちの感覚は、たぶん半分だけ正しい。答えられないまま放置するのが意地悪なのであって、答えられない状態を作ってから教えるのは、いちばん効く順番だったわけです。
人は、自分が知らないと気づいた瞬間に、いちばんよく聞きます。説明の前に「わからない」を作っておく。授業の設計としては、それだけのことです。
ひとつ条件があります。点を付けないこと。間違えることが仕事なのに、そこに点が付いてしまったら、誰も安心して間違えられません。
明日の授業でやること|説明の前に、答えられない問いを1つ
- 新しい文法事項を説明する前に、その形を使う英作文を1問だけ出す。「習っていないから書けなくて当たり前」と先に言っておく
- 30秒で書かせて、回収も採点もしない。2〜3人に、書けたところまで読ませる
- そこで初めて説明に入る。生徒が詰まった箇所を、そのまま説明の入口にする
- 授業の最後に、同じ問題をもう一度出す。書けるようになったことを、本人の目で見せて終わる
この号で触れたリンク
- PR TIMES|「教育AIサミット2026」を8月7日に衆議院第一議員会館で開催
- ScienceDaily|博物館の収蔵品からメガロドンの化石が見つかる(8/6)
- legislation.gov.uk|Welsh Language and Education (Wales) Act 2025
- 神田外語大学・神田外語学院|英語教育公開講座 2026
- Curipod|発問と投票つきの授業スライドを作るツール
- ELSA Speak|音単位で判定する発音練習アプリ
- Hemingway Editor|英文の読みにくさを色で示す
- LanguageTool|理由つきの無料文法チェッカー
- Purdue OWL|英語ライティング解説の総本山
- Grammarly|言い回しの自然さまで提案する定番ツール
- PubMed|Richland, Kornell & Kao, The pretesting effect(2009)
- University of Chicago Learning Lab|Richland, Kornell & Kao (2009) 全文PDF
説明の前に、答えられない問いを1つ。明日、1コマだけ順番を入れ替えてみてください。生徒が「わからない」と言う時間が少し増えます。でも、そこがいちばん働いている時間です。
このニュースレターが役に立ったら、ぜひ同僚の先生にもシェアしてください 🙌
またあした。
Vol.3 08.12.2026