本文へスキップ
日刊原田英語 Harada Eigo Daily
NEWSLETTER 標準 読了 12分

1万時間の法則は本当か?量より中身でした

英語教育ニュースレター Vol.33

「1万時間の法則」のもとになった1993年のバイオリン奏者の研究を、2019年に同じ手順でやり直した論文があります。18歳までに積んだ練習は、最上位の13人が8,224時間、その次の13人が9,844時間でした。上の群のほうが短いのに、腕前は上です。時間を積むだけでは、ある水準から先は動きません。練習の中身を変える手順と、帯活動2本、そのまま使える教室英語5本、1段上を決めるための無料の道具4選つきの第33号です。見逃した高校英語教員向けセミナーの講演録画が公開されている話も取り上げます。

監修:原田高志(原田英語.com)

「たくさん練習させれば伸びる」を、今日は数字で見ます。1万時間の法則のもとになった研究を、そっくり同じ手順でやり直した論文がありました。結果は逆でした。第33号です。

09.11.2026 Vol.33

おはようございます。

「1万時間やれば一流になる」。この話のもとになったのは、1993年にベルリンの音楽大学で行われたバイオリン奏者の調査です。

最後の節で、そのあとの検証を調べました。2019年に同じ手順でやり直すと、最上位の13人が18歳までに積んだ練習は8,224時間。その次の13人は9,844時間でした。上の群のほうが、時間は短かったのです。

では何が分かれ目なのか。1回ごとに何を狙ったか、そして狙いが当たったかがその場で分かるかどうかでした。帯活動2本と教室英語5本は、この2つを教室で作るために選びました。

無料の道具は、生徒の「1段上」をはっきりさせる4つです。

TODAY'S PICK

見逃した高校英語教員向けセミナーの講演録画が、いま公開されています

ReseEd(2026年5月20日)。録画の公開ページは旺文社パスナビ for School

朝日出版社と旺文社が、2026年度の「高校英語教育セミナー」を全3回で開きました。第1回は6月20日に東京、第2回は7月19日に東京、第3回は8月29日に大阪です。第2回と第3回はオンライン配信もありました。

対象はおもに高校英語教員で、参加費は無料。定員は会場が各回50名程度、オンラインが100名程度でした。

講師は、第1回が神田外語大学特任教授の黒田龍之助氏。第2回が河合塾の山本博貴氏と、愛知淑徳中学校・高等学校の丸田孝治氏。第3回が甲陽学院中学校・高等学校の西村玲和氏と、安城学園高等学校の中島浩平氏です。

この第2回と第3回の講演録画が、旺文社パスナビ for School に出ています。第2回は英語の基礎をどう積ませるかと、文法を目で見える形にする授業設計。第3回は大学入試に向けたリスニングと発音の指導と、生成AIを授業準備に使う実演です。

録画は会員限定です。会員登録をして、認証済みのアカウントでログインする必要があります。公開は期間限定だと書かれています。

録画を見るときに、1つだけ決めてから再生してください。「今年の授業で1つ変えるなら、どこか」です。

研修は、聞いた量では変わりません。今日の最後の節で見るとおり、積んだ時間そのものは、ある水準から先の差を作りませんでした。効いていたのは、1回ごとに何を狙ったかです。

2時間ぶんの録画を最後まで見て、翌週に何も変わらなかった経験は、たいていの先生が持っています。逆に、15分だけ見て「明日この発問をまねする」と決めた回は残ります。

見る前に紙を1枚出して、狙いを1行書く。それだけで、同じ録画が別のものになります。

WARM-UPS

今日の帯活動(5分でできる)

狙いを先に言わせる2本。準備は要りません

話す前に、今日狙う形を宣言する

対象 中2〜高3 時間 5分 準備 黒板のみ

  1. 黒板に狙える形を4つ書く。because を2回使う/過去形を3回使う/30秒言い切る/同じ語を2回使わない
  2. ペアになり、話す前に1つ選んで英語で宣言する。I'll use because twice. の形でよい
  3. 30秒話す。聞く側は、宣言された形が何回出たかだけを数える
  4. 終わったら数だけ伝える。内容の感想は言わない
  • 💡 聞く側が何を聞けばよいかは、話す側の宣言で決まります。返すのは数字だけなので、英語が苦手な生徒でも相手に返せます。

できた人から、支えを1つずつ外す

対象 中1〜高3 時間 5分 準備 準備なし

  1. 黒板に、話すときの支えを3つ書く。日本語のメモ/英語のメモ/黒板に出した型
  2. 1回目は3つとも見てよい。時間は30秒
  3. 2回目に入る前に、自分でどれか1つを消す。消したものを隣の人に言ってから話す
  4. 3回目は残り1つで話す。3つとも外せた生徒は手を挙げる
  • 💡 同じ活動でも、支えの数を変えれば難しさが動きます。何回やったかではなく、いくつ外せたかを数えてください。

CLASSROOM ENGLISH

そのまま使える教室英語

狙いを言わせ、狙いの当たり外れをその場で返す5本

活動を始める前に、狙いを言わせるとき

Before you speak, tell me what you are aiming for.

話す前に、何を狙うのか言ってください。

aim for は「〜を狙う」です。狙いを口に出させると、話し終わったあとに当たり外れを本人が判定できます。

もう一度やりたいと言われたとき

Do it again with one less note in front of you.

メモを1つ減らして、もう一度やってみましょう。

同じ条件でもう一度やっても、難しさは変わりません。one less で支えを1つ外します。

聞いていた生徒に返させるとき

You were listening. How many times did you hear it?

聞いていましたね。何回聞こえましたか。

「よかった」ではなく数を返させます。数なら、英語で長く言えない生徒でも返せます。

うまくいったのに、本人が理由を言えないとき

It worked. Now tell me what made it work.

うまくいきましたね。では、何がよかったのか言ってください。

make + 目的語 + 動詞の原形で「〜させる」です。当たった理由を言えた生徒は、次も当てにいけます。

長くやれば伸びると思っている生徒に

Practising longer will not help. Practising harder will.

長くやっても変わりません。難しくすれば変わります。

最後の will のあとは help が省かれています。時間を足すのではなく、条件を1つ厳しくするよう伝えてください。

AI TOOLKIT

AI × 英語指導

教師向け1つ、生徒向け1つ

教師向けMicrosoft Copilot

マイクロソフトのAIチャットです。ブラウザから無料で使えます。同じ課題を難しさ別に何段階も作るのは手間がかかります。そこを任せられます。

使いどころ:🎓 段階の数を必ず指定してください。「中2に出す口頭の質問です。What did you do last Sunday? を、答えるのに必要な語数が1段ずつ増えるように、3段階で書き直してください」と打つ。段階の数を書かないと、いきなり難しい版が1つだけ返ってきます。

生徒向けSpeak & Improve

ケンブリッジ大学の研究プロジェクトです。ケンブリッジ大学出版・評価部門と English Language iTutoring も加わっています。ブラウザから無料で使えます。Linguaskill のスピーキング試験をもとにした練習が10本あり、話した英語にレベルと指摘がその場で返ります。

使いどころ:🎓 生徒に渡すときは、1回受けて終わりにしないことを先に言ってください。1回目の結果を見て、直す点を1つだけ決めてから2回目に入ります。3回受けて点だけ眺めた生徒と、2回目に狙いを決めた生徒とでは、あとの伸びが変わります。

NEWS FLASH

今日のニュース

秋の採用と、10月の無料オンライン大会

JAPAN · 09.04

名古屋市の教員採用「秋選考」に、中学校英語が約5人分あります

名古屋市が教員採用の秋選考を出しました。募集は特別支援学校が10人程度、中学校が技術で5人程度、英語で5人程度、美術が若干名です。申し込みは9月15日から10月5日まで、試験は11月7日で、結果は12月上旬に出ます。選考は小論文と個人面接2回で、2回目の面接に模擬指導が入ります。模擬指導で、あれもこれも見せようとすると何も残りません。狙いを1つに絞る練習が要ります。

JAPAN · 09.10

高校教育がこれからどう変わるかを聞く会が、10月6日にオンラインであります

キャリア協育アクション推進コンソーシアムが「協育アクションフォーラム Vol.5」を開きます。10月6日の13時30分から15時、Zoomのウェビナーで、参加費は無料です。申し込みは9月30日まで。文部科学省の担当者と、山梨県立甲府工業高等学校の校長が登壇します。対象は教育行政の担当者や全校種の教職員などです。高校の枠組みが変わると、中学の出口も動きます。中学校の先生が聞いても損はありません。

GLOBAL · 10.19

東アジアの英語教師に向けたオンライン大会が、10月19日から12日間あります

ブリティッシュ・カウンシルの TeachingEnglish が「ASEAN TeachingEnglish Online Conference 2026」を開きます。10月19日から30日まで、オンラインで、参加は無料です。東アジアの英語教師に向けた回で、授業でそのまま試せる活動や、いろいろな生徒を取りこぼさない進め方を扱います。同じページに、10月23日の英語教師向けウェビナー2本も出ています。開始時刻と申し込みの方法は、下のページで確かめてください。

FREE TOOLS

無料の学習ツール4選

今号のテーマは「同じ活動を、1段だけ難しくする」。次に何ができればよいのかを決めるための無料の道具を4つ集めました。

CEFR-J

東京外国語大学の投野由紀夫研究室が、科学研究費を受けて20年かけて作った枠組みです。CEFRを12の段階に分け直し、段階ごとに「何ができるか」の一覧を置いてあります。日本の中高生の多くは、CEFRのA1とA2の範囲に収まります。そこを細かく割ってあるので、「いまA1.2だから、次はA1.3」と1段先を指させます。語彙リストや文法プロファイルも公開されています。

Debatabase(IDEA)

国際ディベート教育協会(IDEA)が置いている論題集です。700本を超える論題があり、教育・環境・科学・スポーツなど15の分野に分かれています。1つの論題に賛成と反対の両方の論が並ぶので、生徒が「反対側なら何と言うか」を英語で読めます。1文で終わる答えを、理由つきの答えに1段上げたいときに使えます。

Conversation Questions for the ESL/EFL Classroom

The Internet TESL Journal が公開している質問集です。話題ごとにページが分かれ、1つの話題に英語の質問がいくつも並んでいます。Internet、School、Sports、English study と幅が広く、教科書のどの単元にも当てられます。上から順に使わず、答えるのに理由が要る質問だけを抜いて出すと、それだけで難しさが1段上がります。

iSLCollective

英語の先生どうしが作った教材を共有している場所です。19万2千本を超える無料の教材が集まっています。動画を使った授業(video lessons)も置いてあり、映像を見せるだけの時間を、答えながら見る時間に変えられます。同じ題材でも難しさの違うものが何枚も出てくるので、1段上を選び直すのが速いです。

STORY BREAK

生徒に話したくなる小ネタ

授業の余り3分で話せる2本

coach(コーチ)は、もともとハンガリーの村の名前でした

coach は1550年代の英語で「4輪の屋根つきの馬車」を指しました。語のもとはハンガリー語の kocsi で、意味は「コチ(Kocs)村の(馬車)」です。この村でその馬車が最初に作られました。名前がそのまま乗り物の名前になり、16世紀のうちにヨーロッパ中の言葉へ広がります。

人を指すようになったのは1830年ごろのオックスフォード大学です。学生のあいだで、試験まで学生を運んでくれる家庭教師のことを coach と呼びました。学生を試験まで運んでいく人、という見立てです。スポーツの指導者を指すようになったのは、そのあとの1861年でした。

いまも coach は、運ぶ側の語です。バスも coach、飛行機の普通席も coach と言います。生徒に「コーチって、もとは馬車なんだよ」と言うと、a coach と言われたときにどちらの意味か考える癖がつきます。

expert の中には「試す」が入っています

expert が英語に入ったのは14世紀の終わりで、そのころは「経験を積んだ、腕のある」という形容詞でした。「経験によって賢くなった人」という名詞になるのは15世紀の初めです。

もとはラテン語の experiri「試す、ためす」。さらにさかのぼると、印欧祖語の *per-「試す、危険をおかす」に行き着きます。同じ根から出たとされる英語が、ずらりと並びます。experience(経験)、experiment(実験)、empirical(実際に確かめた)。そして peril(危険)と pirate(海賊)も同じ根にさかのぼるとされています。

熟練を表す語と、危険を表す語が同じところから出ているわけです。試すことには外れる可能性があり、外れたぶんだけ分かることがある。その両方が1つの根に入っています。

今日の最後の節で見るのは、まさにここです。同じ時間を使っても、外れる可能性のあることを試した人だけが上に行きました。

QUOTE

今日の名言

やってみることでしか、できるようになりません

“Men become builders by building and lyre-players by playing the lyre.”

人は、建てることで建築家になり、竪琴を弾くことで竪琴弾きになります。

アリストテレス(紀元前384-322)『ニコマコス倫理学』第2巻第1章。英訳はW・D・ロス

2300年前から、やってみることでしか身につかないと言われてきました。ここに1つ足すのが今日の話です。建てれば建築家になります。ただし、同じ家を10回建てても建築家にはなりません。1回ごとに前より難しいものを建てた人だけが上に行きます。最後の節の数字が、それを見せます。

THE FLIP

常識がひっくり返る話

上位13人が積んだ練習は、その次の13人より短いままでした

1993年、K・アンダース・エリクソンらが Psychological Review 第100巻3号に論文を出しました。ベルリンの音楽大学のバイオリン奏者を腕前で3つの群に分け、これまでに積んだ練習時間を聞き取った研究です。

最上位の群が20歳までに積んだ練習は、平均でおよそ1万時間でした。この数字が、2008年のマルコム・グラッドウェル『Outliers』(邦題『天才! 成功する人々の法則』)で「1万時間の法則」として広まります。

ただしエリクソン自身は、2016年にロバート・プールとの共著『Peak』で、そう読まれるのは違うと書いています。「1万時間はあくまで平均でした。その群の10人のうち半分は、その年齢で1万時間に届いていませんでした」。それでも、1万時間という数字だけが残りました。

ところが

2019年、ブルック・マクナマラとメガ・マイトラが、同じ手順でやり直しました。Royal Society Open Science 第6巻、論文番号190327です。バイオリン奏者39人を13人ずつ3つの群に分け、誰がどの群かを分からないようにしたうえで集計しました。

18歳までに積んだ練習時間は、最上位の13人が8,224時間。その次の13人が9,844時間。いちばん下の13人が4,558時間でした。

上の2つの群のあいだには、統計的にはっきりした差がありません(p = 0.364)。長く練習していたのは、最上位ではなく2番目の群でした。練習時間で説明できたのは、腕前の違いのうち26%でした。

では練習は無駄なのか。違います。いちばん下の13人と真ん中の13人のあいだには、はっきりした差が出ています(p = 0.005)。4,558時間と9,844時間のあいだでは、練習時間の差と腕前の差が重なっていました。

重ならなくなるのは、そこから上です。同じマクナマラらは2014年に、88本の研究(のべ11,135人)を集め直しています。練習時間で説明できた割合は、こうでした。

  • ・ゲーム 26%
  • ・音楽 21%
  • ・スポーツ 18%
  • 学校の勉強 4%
  • ・仕事 1%未満

バイオリンの話ですが、教室に置き換えるとこう読めます。英語に触れる時間がまだ少ない生徒には、時間を増やす手が残っています。すでに毎日やっている生徒に「もっとやれ」と言っても、動くとは限りません。その生徒に渡すのは時間ではなく、1段難しい条件です。

動画で見る

専門家になるには何が要るのかを、4つに整理した動画 (Veritasium) 1万時間だけでは足りない理由を、4つの条件に分けて順に説明していきます。英語の動画です。

明日の授業でやること|明日の1時間で、練習の中身を1つ動かす

  1. 活動を始める前に、生徒に狙いを1つ英語で宣言させる。10秒でよい
  2. 聞く側には、宣言された形が何回出たかだけを数えさせる。感想は言わせない
  3. 狙いが当たった生徒には、その場で支えを1つ外して同じ30秒をやらせる。時間は足さない
  4. 授業の終わりに、当たった生徒へ「何がよかったのか」を1文で言わせる。言えた内容を黒板に写す

この号で触れたリンク

手順のうち、いちばん短いのは1つ目です。話す前に狙いを1つ言わせる。10秒しかかかりません。

やってみると、狙いを言えない生徒が出ます。英語が言えないのではなく、何を練習しているのかを考えたことがないのです。そこが分かれば、次の1時間から変えられます。

またあした。

Vol.33 09.11.2026

よくある質問

練習量を増やしても意味がない、ということですか。

そうではありません。2019年にバイオリン奏者39人でやり直した研究があります。いちばん下の13人と真ん中の13人のあいだには、練習時間ではっきりした差が出ました。差が消えるのは、ある水準を超えてからです。そこから先を分けるのは、1回ごとに何を狙ったかでした。最後の節に手順を4本置きました。

授業時間は増やせません。何から変えればいいですか。

活動を始める前の10秒からです。生徒に「今から何を狙うか」を1つ言わせてから始めます。狙いを声に出すと、聞いている側も何を聞けばよいかが決まります。帯活動の1本目がそのやり方です。準備は要りません。