中高英語教師のニュースレター Vol.6|ランダム指名という技術
英語教育ニュースレター 第6号
日本の英語力ランキングが11年連続で低下し、過去最低の96位に。中学英語の全国学力調査は今年度から『話すこと』を含む4技能すべてがCBT方式に。そして「怖がられるから避けている指名の仕方」が、実は発言を増やしていたという研究まで。明日の授業にそのまま使える形でまとめました。
監修:原田高志(原田英語.com)
08.15.2026 Vol.6
おはようございます。今日いちばんお伝えしたいのは、「怖がられるから避けている」と思われがちな指名の仕方が、実は生徒の発言を増やしていたという研究です。挙手した人だけを当てるほうが優しい。その直感がひっくり返ります。ほかに、日本の英語力ランキングが過去最低を更新したニュースと、明日そのまま使える帯活動を2本。
TODAY'S PICK
日本の英語力ランキング、11年連続で低下|過去最低の96位に
EF英語能力指数(EF EPI)2025年版のデータをもとにした報道(2025年12月ごろ)
教育大手EFが毎年発表する「EF英語能力指数(EF EPI)」の最新版で、日本は123の国・地域中96位でした。アフガニスタンと並ぶ順位で、指数導入以来もっとも低い記録です。
5段階評価のうち最も低い「非常に低い」区分に日本が入るのは、今回が初めて。順位の下落は11年連続です。アジア25カ国・地域の中でも17位と、地域内でも下位にいます。
この手のランキングに一喜一憂しすぎないほうがよい、と個人的には思っています。テストの設計も受験者層も国ごとに違い、単純比較には限界があります。
ただ、11年連続で下がり続けているという向きは無視できません。1つの教室でできることは限られますが、生徒が自分の言葉で英語を組み立てて話す時間を確保することなら、明日から始められます。最後に紹介する「ランダム指名」も、その発話量を増やすための工夫です。
WARM-UPS
今日の帯活動(5分でできる)
準備ゼロか黒板だけで回せる、5〜6分の帯活動2本です
名前カードを引いて即興1問1答
- 出席番号か名前を書いたカードを、事前に人数分用意しておく
- カードをよく混ぜ、1枚引いて名前を呼ぶ
- 呼ばれた生徒に、簡単な質問(What did you do last night? など)を1つ聞き、1文で答えさせる
- 引いたカードは山の下に戻し、次の1枚を引く。10分程度、テンポよく続ける
- 💡 カードを戻すことで『もう当たらない』という油断を防ぎ、全員が最後まで聞く姿勢を保てます
ジェスチャーだけで英単語を当てるゲーム
- 既習の単語(動詞が中心)を10個ほど、小さな紙に1語ずつ書いておく
- 1人が紙を1枚引き、声を出さずにジェスチャーだけで表現する
- 他の生徒は、それが何の単語かを英語で答える(Is it 'run'? のように)
- 正解が出たら次の生徒に交代し、テンポよく回す
- 💡 声を出せないぶん、答える側は自然と英語で確認の質問を作る練習になります
CLASSROOM ENGLISH
そのまま使える教室英語
そのまま使える教室英語、5本です
まだ発言していない生徒を、当ててみたいとき
Let's hear from someone we haven't heard from yet.
まだ発言していない人の声を聞いてみましょう。
特定の生徒を名指しする前の、やわらかい前置きです。
指名された生徒が、言葉に詰まってしまったとき
Take a moment — I'll come back to you.
少し考えていいよ。あとでまた聞くから。
『分かりません』で終わらせず、順番をあとに回すだけの言い方です。
指名する前に、全員に考える時間を与えたいとき
Think for ten seconds before I call on anyone.
誰かを当てる前に、10秒考えてみて。
指名の前置きに考える時間を挟むだけで、答えられる生徒が増えます。
1人の答えに、他の生徒の考えも重ねたいとき
Who wants to add to that?
それに付け加えたい人はいる?
正誤を判定する前に、他の視点を引き出す一言です。
今日はランダムに当てていくことを、あらかじめ伝えたいとき
I'm calling on names at random today, so stay ready.
今日はランダムに当てていくから、心の準備をしておいてね。
抜き打ちではなく『今日はそういう日』だと事前に共有する言い方です。
AI TOOLKIT
AI × 英語指導
教師向け1つ、生徒向け1つ
教師向けMagicSchool AI(Text Leveler機能)
教師向けのAIツール集で、なかでも Text Leveler は、貼り付けた英文をワンクリックで複数の読解レベルに書き換えてくれる機能です。同じ内容を、習熟度別に3段階そろえるといった使い方ができます。
使いどころ:🎓 生徒に読ませたい英文を Text Leveler に貼り付け、対象の学年やレベルを選ぶだけで、やさしい版が新しいテキストとして生成されます。
生徒向けELSA Speak
AIが発音を1音ずつ判定してくれる、発音特化の学習アプリです。2015年から提供されている老舗で、単語のどの音がずれているかを具体的に指摘してくれます。
使いどころ:🎓 短い例文を録音すると、単語ごとに発音の正確さがスコアで表示されます。同じ文を3日続けて録音させ、スコアの変化を宿題として記録させると効果的です。
NEWS FLASH
今日のニュース
教室にそのまま持ち込める、英語教育まわりのニュース3本です
JAPAN · 07.16
全国学力・学習状況調査、中学英語が『話すこと』を含む4技能すべてでCBT方式に
今年度の全国学力・学習状況調査で、中学校英語が初めて「聞く・読む・書く・話す」の4技能すべてをコンピューター上で実施しました(CBT方式)。「話すこと」の調査では、配布されたヘッドセットで音声を録音・アップロードします。
生徒がヘッドセットに向かって話す経験そのものが、まだ珍しい学校も多いはずです。
GLOBAL · 2026年1月〜
TOEFL iBTが大幅刷新、ケンブリッジ大学は新形式のスコア受け入れを一時停止
2026年1月から、TOEFL iBTが大きく変わりました。アダプティブ方式、CEFR準拠の新しい採点、試験時間の短縮です。これを受けてケンブリッジ大学は、新形式でのスコア受け入れを一時停止したと伝えられています。
海外進学を考える生徒には、出願先が新旧どちらの形式に対応しているかを必ず確かめるよう伝えてください。
GLOBAL · EDUCATION
AIによる英作文フィードバックの効果、メタ分析で確認される
43件の研究・234通りの効果量をまとめたメタ分析で、AIによるフィードバックが英作文の力に中程度の有意な効果を持つと報告されました。文法や語彙の正確さだけでなく、構成や論理展開への言及も、AIのほうが人の添削より均等に分布していたといいます。
ただし、内容の深さや論理の妥当性は、まだ教師の目が欠かせない領域のようです。
FREE TOOLS
無料の学習ツール4選
今号のテーマは「読む力を鍛える無料ツール」です
Newsela Lite
時事ニュースの記事を、同じ内容のまま複数の読解レベルに書き分けて提供してくれる無料サービスです。クラス全員が同じ話題を、それぞれの読解力に合った文章で読めます。
ReadTheory
読解問題を解くと、正答率に応じて次の問題の難易度が自動調整される無料サイトです。生徒ごとの成績がダッシュボードに残るので、宿題の進捗確認にも使えます。
News in Levels
1つのニュースを3段階の難易度で読める無料サイトです。レベル1は基礎語彙だけで書き直されているので、多読の入り口として使いやすくなっています。
Vocabulary.com
単語の意味を選ぶたびに出題の傾向が変わる、適応型の語彙学習サイトです。定義だけでなく、実際の用例と一緒に単語を覚えられる点が強みです。
STORY BREAK
生徒に話したくなる小ネタ
生徒に話したくなる小ネタ、2本です
quiz(クイズ)の語源は、実は誰も分かっていない
よく語られる話があります。「1791年、ダブリンの劇場支配人リチャード・デイリーが、48時間以内に無意味な言葉を街中に広められるかで賭けをした。従業員に quiz という文字を街のあちこちにチョークで書かせ、見事に勝った」。
ところが、この逸話を裏づける当時の記録は1つも見つかっていません。quiz という語自体、賭けが行われたとされる年より前から使われていた形跡があります。本当の語源は、いまだにはっきりしません。
「分からないことを、分からないと言えるのは知的な態度だ」。そう伝えられる、ちょうどいい小ネタです。
salary(給料)は塩の代金、はよく聞く話だが実は怪しい
salary はラテン語 salarium(塩に関する手当)から来ていて、sal(塩)とつながっています。ここまでは正確です。
ところが「ローマ兵は給料の代わりに塩そのものを受け取っていた」という有名な話には、裏づける古代の記録が1つも残っていません。salarium はおそらく「塩を買うためのお金」程度の意味で、現物支給ではなかったようです。
この「もっともらしいが裏の取れない話」は、18世紀ごろの辞書がきっかけで広まったと考えられています。
QUOTE
今日の名言
今日の名言
“One language sets you in a corridor for life. Two languages open every door along the way.”
1つの言語は、人生という廊下にあなたを閉じ込める。2つの言語は、その途中にあるすべての扉を開く。
フランク・スミス(心理言語学者、1928-2020)『To Think』より
廊下を歩くだけでも、人生は成立します。ですが扉の向こうに何があるかを知っているかどうかで、歩き方そのものが変わります。
今日のランダム指名の話も、生徒がその扉に自分から手をかける回数を増やすための工夫です。
THE FLIP
常識がひっくり返る話
指名されるのが怖い教室ほど、実は発言が増えていた
挙手した生徒だけを当てる。多くの教師が、これを「優しい指名の仕方」だと考えています。準備ができていない生徒をいきなり当てれば、恥をかかせてしまうかもしれない。だから手が挙がるのを待ちます。
この配慮は、一見とても合理的です。挙手した生徒なら、少なくとも答える準備ができています。
ところが
ところが、大学の授業のケースディスカッションを対象にした Dallimore, Hertenstein, Platt(2013)の研究は、逆の結果を出しました。ランダム指名(cold-calling)を多く行うクラスほど、自主的に挙手して発言する生徒が、時間とともに増えていったのです。しかも、指名されることへの不快感が高まった証拠は見られませんでした。
さらに興味深いのは性別の差です。ランダム指名が少ないクラスでは、男子学生の発言が多くなりがちでした。ところがランダム指名を多く行うクラスでは、女子学生も男子学生と同じくらい自主的に発言するようになりました。
「当てられるかもしれない」という状態そのものが、発言のハードルを均等に下げていたと考えられます。
「挙手を待つ優しさ」には、発言できる生徒とできない生徒の差を、そのまま固定してしまう側面があるのかもしれません。
ランダム指名なら、生徒に「いつか当たる」という心の準備をさせられます。乱暴に名前を呼ぶことと、計画的にランダムに当てること。似ているようで、別の技術です。
Dallimore, Hertenstein & Platt(2013)論文
明日の授業でやること|明日の授業でやること
- 名前を書いたカードやアイスの棒を用意し、順番がランダムだと生徒に見える形にする
- 指名の直前に、必ず5〜10秒の『考える時間』を挟む
- 答えられなくても『あとでまた聞くね』と伝え、その場で終わらせない
- 同じ授業内で、挙手を待たずに指名する場面を、最低3回は作る
この号で触れたリンク
- Nippon.com「Very Low Proficiency: Japan Drops into Bottom Group」
- リセマム「全国学力テスト、中学英語は4技能CBTを初実施」
- TOEFL iBT 2026年の変更点まとめ記事
- Cogent Education(Taylor & Francis)の論文ページ
- MagicSchool AI 公式サイト
- ELSA Speak 公式サイト
- Newsela Lite
- ReadTheory
- News in Levels
- Vocabulary.com
- Merriam-Webster「The Questionable Origin of 'Quiz'」
- Kiwi Hellenist「Salt and salary」
- Dallimore, Hertenstein & Platt(2013)論文
優しさのつもりだった指名の仕方が、実は差を広げていたかもしれない。今日いちばん考えさせられた話でした。挙手を待つことにも、ランダムに当てることにも、それぞれ理由があります。大事なのは、自分がいまどちらを選んでいるかを分かっていることです。
2学期が本格的に始まる時期です。今日の1つでも、明日の教室に持ち込んでいただけたら嬉しいです。
またあした。
Vol.6 08.15.2026