時間がスローモーションに感じる理由|自由落下実験
Why Does Time Feel Like It Slows Down in a Scary Moment?
Easy Reading
危険な瞬間に、時間がスローモーションのように感じられるのはなぜでしょうか。2007年、神経科学者デイビッド・イーグルマンは、志願者に46メートルの塔から自由落下してもらう実験でこの現象を調べました。目や脳が実際に速く働いていたのではなく、恐怖によって記憶が『濃く』なることが正体でした。
監修:原田高志(原田英語.com)
怖い場面を切り抜けたとき、まるでスローモーションのように周りがゆっくり見えた、という話を聞いたことはありませんか。今日は、志願者に高い塔から自由落下してもらうという実験で、この『時間が遅く感じる』現象の正体を確かめた研究者の話を読んでいきます。
英文
Why Does Time Feel Like It Slows Down in a Scary Moment?
Have you ever survived a scary moment and felt like time slowed down almost to a stop?
Many people describe this same feeling after surviving something frightening.
In 2007, a neuroscientist named David Eagleman decided to test this feeling in an experiment in Dallas, Texas.
He asked 20 volunteers to fall backward from a 46-meter-high tower built for a thrill ride called the SCAD.
Each volunteer fell freely through the air for about two and a half seconds before landing safely in a large net.
During the fall, every volunteer wore a special device on their wrist called a perceptual chronometer.
This device flashed numbers on its screen faster than a person can normally read.
Eagleman's idea was simple: if time really slows down during fear, people should read the fast numbers more easily while falling.
But that is not what happened.
None of the volunteers could read the numbers any faster during the fall than they could on solid ground.
In other words, their eyes and brains were not actually processing the world in slow motion.
Later, when volunteers estimated how long their own fall had lasted, something strange appeared.
On average, they guessed their own fall had lasted 36 percent longer than they guessed for other people's falls.
Eagleman concluded that fear doesn't slow down what we see; instead, it packs the brain with a denser memory.
Looking back later, that denser memory simply feels like it must have taken longer to happen.
(245 words)
重要語句
| 語句 | 意味 | 英語の定義 |
|---|---|---|
| frightening | 恐ろしい、怖がらせるような | causing fear; making someone feel afraid |
| volunteer | 志願者、(実験に)協力する人 | a person who agrees to take part in something, such as an experiment |
| chronometer | 精密な計時器、時計 | an instrument used for measuring time very precisely |
| estimate | 見積もる、おおよその数を出す | to guess the size, amount, or length of something without measuring it exactly |
| dense | 濃密な、密度が高い | containing a lot of detail or information packed closely together |
全文和訳
怖い場面を切り抜けて、時間がほとんど止まったかのようにゆっくり感じたことはありませんか。多くの人が、恐ろしい出来事を切り抜けたあと、同じような感覚を語ります。2007年、神経科学者のデイビッド・イーグルマンは、テキサス州ダラスでこの感覚を確かめる実験を行いました。彼は20人の志願者に、SCADと呼ばれる絶叫アトラクション用の、高さ46メートルの塔から後ろ向きに落ちてもらいました。志願者たちはそれぞれ、約2.5秒間自由落下したあと、大きなネットの上に無事着地しました。落下しているあいだ、志願者は全員、『知覚時計』と呼ばれる特別な装置を手首に着けていました。この装置は、人が普段読み取れる速さより速く、画面に数字を点滅させました。イーグルマンの考えはシンプルでした。恐怖で本当に時間が遅くなるなら、落下中はその速い数字がもっと読みやすくなるはずだ、というのです。ところが、そうはなりませんでした。落下中に数字を読む速さは、地上にいるときと比べて、誰ひとり速くなっていなかったのです。つまり、目や脳が実際にスローモーションで世界を処理していたわけではなかったということです。あとから自分の落下がどのくらい続いたかを見積もってもらうと、不思議なことが起こりました。平均すると、志願者たちは自分の落下時間を、他人の落下時間よりも36%も長く見積もったのです。イーグルマンは、恐怖は見えているものを遅くするのではなく、脳によりぎっしりと詰まった記憶を作らせるのだと結論づけました。あとから振り返ると、その密度の濃い記憶は、実際より長い時間がかかったように感じられるだけなのです。
コラム:恐怖の記憶が『長く』感じられる、本当の理由
46メートルの塔から落ちてもらう、という実験
イーグルマンが実験に使ったのは、SCAD(Suspended Catch Air Device)という名前の、ダラスの遊園地に実際にある絶叫アトラクションです。参加者はワイヤーで吊り上げられ、合図とともに切り離されて、約2.5秒間自由落下したあと、大きなネットで受け止められます。塔の高さは46メートルですが、ネットはその途中に張ってあるので、実際に落ちる距離は31メートルです。
手首の『知覚時計』は、ただ数字を点滅させるだけの装置ではありません。実験の前に、参加者ひとりひとりが『どのくらいの速さまでなら数字を読み取れるか』を測定し、その人がぎりぎり読めない速さに装置を調整してあります。もし恐怖で本当に知覚が速くなるなら、その『ぎりぎり読めない速さ』の数字が、落下中だけは読めるようになるはずだ、というのがイーグルマンの狙いでした。
動画で見る
『反応が速くなった』わけではない、という結果
実験の結果、参加者は誰ひとり、落下中に数字を普段より速く読み取れませんでした。つまり、目や脳が実際に『スローモーションモード』に切り替わっていたわけではない、ということです。
これは日常生活にとっても大事な話です。『あのときはスローモーションに見えたから、うまく避けられた』と感じても、それは体の反応そのものが本当に速くなっていた証拠ではありません。イーグルマンの実験が確かめたのは、恐怖を感じているあいだも数字を読み取る速さは上がらなかった、というところまでです。
恐怖でなくても、『濃い記憶』は長く感じられる
恐怖によって記憶がぎっしり詰まる、という仕組みは、恐怖だけに起きることではありません。心理学の研究では、初めての場所や、新しい出来事の多い体験は、あとから振り返ると実際より長く続いたように感じられることが知られています。子どものころの夏休みが、大人になってからの1週間よりずっと長く感じられたのも、同じ仕組みだと考えられています。
次に『この1日を長く覚えていたい』と思ったら、恐怖に頼る必要はありません。いつもと違う道を歩く、初めての店に入るなど、小さな新しい体験を1つ増やすだけで、その記憶は濃くなります。
確認クイズ
-
Q1. 本文によると、自由落下中に志願者は数字をふだんより速く読めたか。
-
Q2. 本文によると、志願者は自分の自由落下時間をどのように見積もったか。
よくある質問
怖い思いをすると、本当に周りの景色がスローモーションで見えるのですか。
本文で紹介した実験によれば、いいえ。恐怖を感じているあいだ、目や脳が実際に周りの世界を遅く処理しているわけではありません。その代わりに、恐怖の記憶がふだんより詳しく脳に刻まれるため、あとから振り返ったときに『長く続いた』ように感じられるのです。