乗り物酔いはなぜ起こるのか|nausea の語源は「船」だった
Why Do We Get Motion Sickness?
Easy Reading
車の中でスマホを見ると気持ち悪くなるのに、運転しているときは平気。この違いの正体は、目と耳の奥(内耳)が脳に送る情報の『食い違い』です。紀元前400年のヒポクラテスの記録から、現代の自動運転車の悩みまで、乗り物酔い2400年の旅をやさしい英文で読み解きます。
監修:原田高志(原田英語.com)
英文
Why Do We Get Motion Sickness?
Have you ever felt fine in a moving car, but suddenly queasy the moment you looked down at your phone?
This strange feeling has a name: motion sickness, and it happens even with nothing truly wrong in your body.
Scientists believe the cause is a mismatch between what your eyes see and what your inner ear feels.
Your inner ear senses the car turning, but your eyes, locked on a still screen, tell your brain nothing is moving.
Two conflicting messages reach your brain at once, and that confusion is what makes you feel sick.
Around 400 BCE, the Greek physician Hippocrates already wrote that sailing on the sea disorders the body.
In fact, the English word nausea comes from naus, the ancient Greek word for ship.
Centuries later, old Chinese records describe the same sickness on land, inside carts and carried chairs called litters.
The same conflict hitting you in a car today once hit travelers riding a bumpy wooden cart.
Here is a fact that surprises most people: many animals with a backbone, from dogs and cats to horses, can feel this sickness too.
Scientists believe horses and rats feel that same nausea, even though their bodies cannot vomit the way ours can.
Today, the same old conflict is appearing in a brand new place: the self-driving car.
As passengers stop watching the road and stare at their phones instead, engineers now race to design screens that won't make riders feel sick.
(244 words)
重要語句
| 語句 | 意味 | 英語の定義 |
|---|---|---|
| motion sickness | 乗り物酔い | a feeling of sickness caused by the movement of a car, ship, or plane |
| mismatch | 食い違い、ずれ | a situation in which two pieces of information do not agree with each other |
| inner ear | 内耳(耳の奥にあり、平衡感覚をつかさどる部分) | the part inside the ear that senses balance and movement |
| nausea | 吐き気 | an unpleasant feeling in the stomach that makes you want to vomit |
| vomit | 吐く | to bring up food from the stomach through the mouth |
全文和訳
車に乗っている間は平気なのに、スマートフォンの画面に目を落とした途端に気持ち悪くなった、という経験はありませんか。この不思議な感覚には名前があります。乗り物酔いです。体のどこにも実際の異常はないのに起こります。科学者たちは、その原因を、目が見ているものと、耳の奥が感じているものの『食い違い』だと考えています。耳の奥(内耳)は車が曲がっているのを感じ取っているのに、静止した画面に釘付けの目は、何も動いていないと脳に伝えます。相反する2つの情報が同時に脳へ届き、その混乱が気持ち悪さを引き起こしているのです。紀元前400年ごろ、ギリシャの医師ヒポクラテスはすでに、『海を渡ることは体を乱す』と書き残していました。実際、英語で吐き気を意味するnauseaという語は、古代ギリシャ語で『船』を意味するnausに由来します。時代が下ると、古い中国の記録には、荷車や輿(こし)と呼ばれる乗り物でも、陸の上で同じ症状が起きていたと記されています。今日あなたを車の中で襲うのと同じ食い違いが、かつては揺れる木の荷車に乗る旅人たちを襲っていたのです。多くの人が驚く事実があります。犬や猫から馬まで、背骨のある多くの動物も、この症状を感じるのです。科学者たちは、馬やネズミも同じ吐き気を感じていると考えています。人間のように吐くことはできないのですが。そして今、まったく同じ古い食い違いが、まったく新しい場所に現れています。自動運転車です。乗客が道路を見るのをやめてスマートフォンを見つめるようになったことで、技術者たちは、乗客を気持ち悪くさせない画面の設計を急いでいます。
コラム:吐き気の語源は「船」だった〜乗り物酔い2400年の旅〜
「nausea」の語源は、船だった
乗り物酔いは、スマートフォンが生んだ新しい悩みだと思われがちですが、実はそうではありません。紀元前400年ごろ、古代ギリシャの医師ヒポクラテスは、すでに『海を渡ることは体を乱す』という趣旨の記録を残しています。2400年前から、人は同じ症状に悩まされてきたのです。
英語で吐き気を表す nausea という単語は、古代ギリシャ語で『船』を意味する naus に由来します。船に乗ると気持ち悪くなる、という体験があまりに普遍的だったため、その感覚そのものを指す言葉の語源が『船』になったというわけです。当時の人々にとって、乗り物酔いといえば、まず船酔いのことだったのでしょう。
脳の中で起きている「感覚の言い争い」
では、なぜ乗り物の中で気持ち悪くなるのでしょうか。現在もっとも有力とされているのが『感覚不一致説』です。私たちの体には、体の傾きや動きを感じ取る内耳、景色を見る目、体の傾きを感じる筋肉や関節と、動きを教えてくれる仕組みが複数あります。ふだんはこの複数の情報がぴったり一致しているので、私たちは違和感なく歩いたり座ったりできます。
ところが車の中でスマートフォンの画面を見つめていると、内耳は『車が揺れている、曲がっている』と感じているのに、目は『静止した画面しか見えない、動いていない』と脳に伝えます。この矛盾した2つの報告が同時に脳へ届くことが、気持ち悪さの正体だと考えられています。読書や画面注視が乗り物酔いを悪化させやすいのは、このためです。
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気持ち悪くなるだけでは終わらない理由、という仮説
感覚が食い違うだけなら、ただ混乱するだけで済みそうなものです。ではなぜ、吐き気という強い反応まで起きるのでしょうか。1977年、心理学者ミシェル・トレイスマンが科学誌『サイエンス』で提唱した『毒物排出説』という仮説があります。
この仮説によれば、私たちの体には、腐った食べ物などの毒を飲み込んだときに、感覚の混乱をきっかけに吐き気を起こして体外へ排出する、古くからの防御反応が備わっています。乗り物酔いは、本来は毒への防御反応であるこの仕組みが、乗り物の中の感覚の食い違いによって、誤って作動してしまったものではないか、という考え方です。ただし、この仮説には異論を唱える研究者もおり、乗り物酔いの『なぜ』は、今も完全には解明されていません。
人間だけじゃない。そして自動運転車で広がる新しい悩み
乗り物酔いは、人間だけの悩みではありません。犬・猫・ネズミ・馬・サルなど、背骨のある多くの動物で、程度の差はあれ同じ症状が確かめられています。馬やネズミも乗り物酔いの吐き気を感じているとみられますが、人間のように吐くことができない体のつくりなので、苦しさが外から見えにくいのです。ネズミの吐き気は、口を大きく開ける独特のしぐさなど、行動から推し量っているもので、本人に聞けるわけではありません。なお、魚が乗り物酔いをするのかどうかは、いまのところはっきり分かっていません。4種類の魚とヒキガエルを調べた研究では、乗り物酔いといえる特徴が見つかりませんでした。
陸の上での乗り物酔いも、決して新しい話ではありません。古い中国の記録には、荷車(cart)や、人がかついで運ぶ輿(こし、litter)に乗った人が、同じように気分を悪くしていたことが記されています。船の上でも、荷車の上でも、車の中でも、感覚が食い違えば、人は同じように気持ち悪くなるのです。
そしていま、この2400年来の悩みは、自動運転車という新しい場所で問題になっています。運転をしなくてよくなった乗客が、道路の代わりにスマートフォンの画面を見つめる時間が増えたことで、かえって乗り物酔いを起こしやすくなっているというのです。技術者たちは、乗客の体の反応をセンサーで読み取り、画面や座席の設計を調整することで、この新しい形の乗り物酔いを減らそうとしています。
次に車の中で気持ち悪くなったら、スマホを置いて、遠くの景色や地平線をぼんやり眺めてみてください。目と耳の奥の言い争いが、少し静かになるかもしれません。
確認クイズ
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Q1. 本文によると、科学者が考える乗り物酔いの主な原因は何か。
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Q2. 本文によると、馬やネズミについて正しいのはどれか。
よくある質問
乗り物酔いを防ぐ方法はありますか。
本文で紹介した『感覚不一致説』からすると、遠くの景色や地平線など、実際に動いている風景を見て、目と内耳の情報を一致させることが助けになるとされています。ただし効き方には個人差があり、必ず防げると保証されているわけではありません。