指を鳴らす音の正体|60年実験した医師がいた
Why Does Cracking Your Knuckles Make a Sound?
Easy Reading
指を鳴らしたときの『ポキッ』という音の正体は、長年、医学界でも決着がついていませんでした。2015年のアルバータ大学の研究がMRIで有力な答えを示し、さらに1人の医師が60年かけて自分の手で確かめた、行き過ぎなほど気の長い実験の話も残っています。
監修:原田高志(原田英語.com)
指をポキポキ鳴らす人を見て、あの音は一体何なのだろうと思ったことはありませんか。今日は、長年医学界でも意見が分かれていたこの謎に、MRIを使った研究がどう答えを出したのか、そして1人の医師が60年かけて確かめた気の長い実験の話を読んでいきます。
英文
Why Does Cracking Your Knuckles Make a Sound?
Have you ever cracked your knuckles and wondered what that popping sound actually is?
For decades, doctors had two competing theories about it, and no one could say for sure.
In 2015, a researcher named Gregory Kawchuk and his team at the University of Alberta decided to find out.
They slid a volunteer's finger into a tube and slowly pulled it inside a real-time MRI scanner.
As the joint was pulled, fluid built up inside it, showing up as a bright white spot on the scan.
Then, in under a third of a second, a cavity suddenly opened inside the joint, and that was the pop.
This overturned an older 1971 idea, which claimed the sound came from a bubble collapsing, not forming.
So the pop isn't a bubble bursting; it's closer to the sound of a suction cup being pulled off a window.
But does cracking your knuckles all day actually damage them?
One doctor decided to test that question on himself, in the most patient experiment imaginable.
For more than sixty years, Donald Unger cracked the knuckles on his left hand every day, but never touched his right hand.
When he finally compared X-rays of both hands, he found no difference in arthritis between them.
In 2009, he was awarded an Ig Nobel Prize for his decades of self-experimentation.
His research couldn't rule out every risk, but it gave a small, patient answer to a question people had argued about for years.
(244 words)
重要語句
| 語句 | 意味 | 英語の定義 |
|---|---|---|
| cavity | 空洞、すき間 | an empty space inside something solid or inside a part of the body |
| joint | 関節 | the place where two bones meet and can bend |
| volunteer | 志願者 | a person who offers to do something without being forced or paid |
| overturn | (通説などを)覆す | to prove that an earlier idea or decision was wrong |
| self-experimentation | 自己実験 | testing something by trying it on yourself, often over a long period of time |
全文和訳
指をポキッと鳴らして、あの音は一体何なのだろうと思ったことはありませんか。何十年ものあいだ、医師たちのあいだには2つの対立する説があり、どちらが正しいのか誰にも断言できませんでした。2015年、アルバータ大学のグレゴリー・コーチャックという研究者とそのチームが、この謎を確かめることにしました。彼らは志願者の指をチューブに入れ、リアルタイムで撮影できるMRI装置の中でゆっくり引っ張りました。関節が引っ張られるにつれて中に液体がたまっていき、画像には明るい白い点として映し出されました。そして0.3秒足らずのうちに、関節の中に突然すき間ができ、その瞬間にあの音が鳴りました。この発見は、1971年の『音は泡がはじけるときに出る』という古い説を覆すものでした。つまりあの音は泡がはじける音ではなく、吸盤を窓からはがすときの音に近いのです。では、指を1日じゅう鳴らし続けると、関節は本当に傷むのでしょうか。ある医師は、この問いを自分自身で確かめることにしました。それは、考えられる限り気の長い実験でした。ドナルド・アンガーは60年以上のあいだ、毎日左手の指を鳴らし続け、右手には一切触れませんでした。最終的に両手のレントゲン写真を比べたところ、関節炎に差は見られませんでした。2009年、彼は何十年にもわたるこの自己実験に対して、イグ・ノーベル賞を贈られました。彼の研究であらゆる危険性が否定されたわけではありませんが、長年議論されてきた問いに、1つの小さくて気の長い答えを与えてくれました。
コラム:『指を鳴らす』というありふれた癖が、科学論争になっていた
2015年の研究が示したのは『はじける泡』ではなく『できる泡』
指を鳴らす音について、1971年に発表された古い説は『関節の中の泡がはじけて音が出る』というものでした。この説は長いあいだ広く信じられていましたが、2015年にアルバータ大学のグレゴリー・コーチャック教授らのチームが、これを覆す結果を発表します。
チームは志願者の指をケーブルにつないだチューブに入れ、リアルタイムで撮影できるMRI装置の中でゆっくり引っ張りました。関節が引っ張られると、中の液体が画像に白く映し出され、そして0.3秒足らずのうちに、関節の中に突然すき間(空洞)ができた瞬間に、あの『ポキッ』という音が鳴っていたのです。コーチャック教授は、この現象を『真空ができるようなものだ。関節の面が急に離れると、広がった分を満たす液体が足りず、空洞ができる。それが音の正体だ』と説明しています。泡がはじけるのではなく、急に空洞ができる、その瞬間の音だったというわけです。
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『パキッ』の正体を突き止めるのに、0.3秒あれば十分だった
この研究は『指を引っ張る実験』という愛称で呼ばれています。志願者となったのはカイロプラクター(脊椎などの手技療法を行う施術者)のジェローム・フライヤー氏で、10本の指を1本ずつチューブに入れ、ケーブルでゆっくり引っ張ってもらいました。関節が『パキッ』と鳴る瞬間は、MRIの映像でわずか0.3秒足らずの出来事として記録されています。
それまで半世紀近く決着のつかなかった謎が、指を1本ずつ引っ張るというシンプルな方法と、リアルタイムで撮影できるMRIという道具の組み合わせで、ようやく目で見える形になりました。
60年間、片手だけ鳴らし続けた医師がいた
指を鳴らす音の正体が分かっても、もう1つ別の疑問が残ります。指を鳴らす癖そのものは、関節を傷めるのでしょうか。この問いに、驚くほど気の長い方法で挑んだ人物がいます。
医師のドナルド・アンガー氏は、60年以上にわたって毎日、左手の指の関節だけを鳴らし続け、右手には一切触れませんでした。最終的に両手のレントゲン写真を比較したところ、関節炎の有無に左右の差は見られませんでした。この結果は1998年に医学誌『Arthritis & Rheumatism』への手紙として発表され、2009年、アンガー氏はこの数十年にわたる自己実験に対してイグ・ノーベル賞(医学賞)を贈られています。
1つの癖の正体を確かめるために、ある人はMRIという最新の技術を使い、別の人は60年という時間そのものを使いました。ありふれた指の癖ひとつにも、こうして確かめようとした人たちがいたのです。
確認クイズ
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Q1. 本文によると、2015年のMRI研究で分かった、指を鳴らす音の正体として正しいのはどれか。
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Q2. ドナルド・アンガー氏の自己実験について、本文の内容と合っているのはどれか。
よくある質問
指を鳴らすと関節炎になりますか。
医師のドナルド・アンガー氏が60年以上かけて自分の手で確かめたところ、指を鳴らし続けた左手と、鳴らさなかった右手のあいだに関節炎の差は見られませんでした。ただしこれは1人の結果であり、あらゆる危険性が否定されたわけではない、という点には注意が必要です。