ホタルが光る理由|お腹で起きる「冷たい光」
Why Fireflies Glow: The Cold Light Inside a Tiny Body
夏の夜、川辺で光るホタル。あの光は熱を出しません。理由は、ホタルの体のなかで4つの成分が出会って生まれる『冷たい光』。電球の照明とはまったく別の光り方をしているのです。約220語のやさしい英文と、ホタルが世界の言葉と物語のなかで担ってきた役割を追うコラム。
監修:原田高志(原田英語.com)
今日のテーマは「ホタル」です。夏の川辺で、あのぼんやりした緑色の光を見たことがある人は多いと思います。でも、あの光、熱を出さないって知っていましたか? 電球なら火傷しそうな明るさでも、ホタルはそっと手にとまることができます。理由はお腹のなかで起きている、ちょっと不思議な化学反応です。今日はその仕組みを、そしてホタルが世界の言葉のなかでどう呼ばれてきたかを、ゆっくり見ていきましょう。
英文
Why Fireflies Glow: The Cold Light Inside a Tiny Body
On warm summer nights, you might see tiny green lights moving above a river.
Those are fireflies, and their bodies are doing something amazing.
The light comes from a chemical reaction inside their tail.
A firefly's body makes a substance called luciferin.
When luciferin meets oxygen, an enzyme called luciferase helps them react.
The energy for this reaction comes from ATP, the same fuel your own cells use.
The four ingredients meet, and light is born.
But here is the surprising part.
This light gives off almost no heat at all.
A light bulb turns most of its energy into heat, and only a small part into light.
A firefly does the opposite — nearly all the energy becomes light.
Scientists call this cold light or bioluminescence.
But why does a firefly glow at all?
The main reason is to find a partner.
Male fireflies fly through the air, flashing their light in a special rhythm.
Females wait in the grass and answer only to their own species' pattern.
So the summer night sky is really a quiet conversation.
Every flash is a tiny letter, written in cold green light.
(222 words)
重要語句
| 語句 | 意味 | 英語の定義 |
|---|---|---|
| firefly | ホタル | a small flying insect that gives off light from its body(体から光を出す、小さな飛ぶ虫) |
| chemical reaction | 化学反応 | a process in which substances change into different substances(物質と物質が出会って別の物質に変わるはたらき) |
| enzyme | 酵素 | a natural substance in living things that speeds up chemical reactions(生き物の体の中で、化学反応を速める天然の物質) |
| ATP | アデノシン三リン酸(エーティーピー) | a small molecule that living cells use as fuel for energy(生き物の細胞がエネルギーの燃料として使う小さな分子) |
| give off | 〜を発する、放つ | to send out heat, light, smell, or gas(熱・光・匂い・気体などを外へ出す) |
| bioluminescence | 生物発光 | the light made by a living creature(生き物自身が作り出す光) |
| glow | (穏やかに)光る、ぼうっと光る | to give a soft, steady light(やわらかく、静かな光をずっと出しつづける) |
| flash | ぱっと光る、点滅する | to shine very brightly for a very short time(一瞬だけ、とても明るく光る) |
| species | 種、種類 | a group of living things that are the same kind(同じ種類の生き物のグループ) |
全文和訳
夏の暖かい夜、川の上に小さな緑色の光がふわふわと動いているのを見ることがあります。それがホタルです。彼らの体のなかでは、驚くべきことが起きています。その光は、しっぽの部分で起きている化学反応から生まれます。ホタルの体は、ルシフェリンという物質を作ります。ルシフェリンが酸素と出会うと、ルシフェラーゼという酵素がその反応を助けます。この反応のエネルギーは、あなた自身の細胞も使っている ATP という燃料から来ています。4つの材料が出会って、光が生まれるのです。けれど、驚くのはここからです。この光は、ほとんど熱を出しません。電球は、エネルギーのほとんどを熱に変え、光になるのはほんの少しだけです。ホタルはその逆、エネルギーのほぼすべてが光になります。科学者たちは、これを『冷たい光』あるいは『生物発光』と呼びます。では、そもそもなぜホタルは光るのでしょうか。いちばんの理由は、相手を見つけるためです。オスのホタルは空を飛びながら、特別なリズムで光を点滅させます。メスは草のなかで待ち、自分の種類の点滅パターンにだけ答えます。だから夏の夜空は、じつは静かな会話の場所なのです。光のひとつひとつが、冷たい緑の光で書かれた小さな手紙なのです。
コラム:光る虫と、世界の呼び方 ~火の蠅・雷の虫・夏の便り~
英語ではなぜ『火の蠅』なのか
英語で firefly(ファイアフライ)は、直訳すると「火の蠅(はえ)」。光が『火』のように見えて、飛び方が『蠅』に似ている。この、少し乱暴な足し算がそのまま名前になりました。じつはホタルは分類上『蠅(fly)』ではなく、甲虫のなかまです。それでも英語話者は火+蠅と呼び続けました。呼び名は、正確さより見た目の印象で決まる。名づけの世界にはそんな法則がしばしば働きます。
もうひとつの英語の呼び名 lightning bug(雷の虫)はアメリカ南部を中心に使われる言い方で、点滅の速さを雷にたとえたもの。同じ虫を fire で呼ぶか lightning で呼ぶかは、地域によって熱くなるほど分かれるのだとか。言葉は、その土地の夜空の見え方を写し取ります。
『蛍』。日本語の名前が抱えるもの
日本語の「蛍(ほたる)」の語源には諸説あります。有力なのは『火垂る(ほたる)』。火が垂れるように光ることから。というもの。『火の蠅』の英語より、少し詩的な情景に振れています。虫の姿ではなく、光そのものの動きを名前にした。というのはとても日本語らしい選び方です。
和歌の世界では、蛍は恋の思い(火) の比喩として繰り返し詠まれてきました。源氏物語の『蛍』の巻、清少納言の『夏は夜、月のころはさらなり、闇もなほ蛍の多く飛びちがひたる』。闇のなかで光る虫は、平安の人々の恋心の代弁者でもありました。同じ虫を、英語話者は『火の蠅』と呼び、日本語話者は『垂れる火』と呼び、中国語話者は『螢』(火+熒=ちらちら光る)と呼ぶ。同じ光を見て、それぞれの言語が別の絵をつけた。と考えると、言葉の面白さが立ち上がります。
『冷たい光』は、なぜ人類の夢だったか
本文に出てきた cold light(冷たい光)は、じつは19世紀後半のヨーロッパで科学者たちが本気で研究していたテーマです。当時のガス灯や白熱電球は熱で火事を起こしやすく、『熱を出さずに光るランプ』は、当時の技術者にとって夢でした。
フランスの生物学者 ラファエル・デュボア(Raphaël Dubois) が1885年、ヒカリコメツキという発光甲虫からルシフェリンとルシフェラーゼの存在を突き止めます。『悪魔ルシフェル(Lucifer=光を運ぶ者)』にちなんで名づけられたこの二つの物質は、いまや医学研究や検査キットで、生きた細胞のなかで光る目印として使われています。夏の川辺で見たあのぼんやりした光が、いまも科学の最先端で働いている。そう思うと、ホタルの光が少しだけちがって見えます。
ことばの旅:glow と flash と shine
最後に、英語で「光る」を表す3つの語を並べてみましょう。
glow = 穏やかに、じんわり光り続ける(ホタル、暖炉の炭、頬)
flash = 一瞬だけ、ぱっと光る(雷、カメラ、頭にひらめくアイデア)
shine = 表面をつるつるに反射して光る(星、靴、額)
同じ「光る」でも、英語話者は光り方の速度と質感で使い分けます。日本語の「光る」一語では見えないところに、細かい線が引かれているのです。She glowed with happiness.(彼女は幸福でぽうっと輝いていた)と言えば、「にじみでる幸福感」まで伝わる。A brilliant idea flashed through his mind.(すばらしい考えが頭に一瞬ひらめいた)と言えば、「その速さ」まで伝わる。
今夜、夏の夜空に光る虫を見つけたら、心のなかでこう呟いてみてください。That firefly is glowing, not flashing. それだけで、あなたの英語の「光る」が、少しだけホタルに近づきます。
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確認クイズ
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Q1. 本文によると、ホタルの光を作る4つの成分に含まれないものはどれか。
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Q2. 下線部 A firefly does the opposite が意味するのはどれか。
よくある質問
日本のホタルは何種類くらいいるのですか?
国内で確認されている発光するホタルは、ゲンジボタル、ヘイケボタル、ヒメボタル の3種類が代表格です。ゲンジは川辺、ヘイケは田んぼ、ヒメは林のなか。と生息場所が分かれています。世界には約2000種以上のホタルがいると言われており、そのすべてが発光するわけではありません。光らないホタルも実在します。
この英文はどのくらいのレベルですか?
約220語、中学卒業〜高校1年程度の語彙で書かれています。luciferin, luciferase, ATP など専門語には英語定義つきの語注をつけているので、辞書なしで読み切れる想定です。音読すると3〜4分ほど。夏休みの最終盤、一日1本のペースで読む素材として使ってみてください。