ミツバチはなぜ刺すと死ぬのか|針に隠された進化の誤算
Why Do Honeybees Die After They Sting You?
Easy Reading
ミツバチは人を刺すと、たいてい数分から数時間のうちに死んでしまいます。2014年に発表された研究をもとに、なぜミツバチの針だけがこのような仕組みを持っているのか、そしてこの仕組みが本来何のために進化したのかを読んでいきます。
監修:原田高志(原田英語.com)
ミツバチに刺されると、ハチ自身も命を落とすことがある、と聞いたことはありますか。今日は、2014年に清華大学の研究チームが発表した研究をもとに、ミツバチの針にだけ備わった不思議な仕組みと、その仕組みが本来何と戦うために進化したのかを読んでいきます。
英文
Why Do Honeybees Die After They Sting You?
Honeybees look calm, but they hide a strange fact: each bee can only sting a person once.
After a honeybee stings someone, it usually dies within minutes or hours.
In 2014, researchers at Tsinghua University in China studied exactly why this happens.
They pressed real honeybee stingers into soft materials and watched closely under a microscope.
A honeybee's stinger is only 8.5 millimeters long, but it is lined with tiny, hook-shaped barbs.
The researchers found that the stinger does not go straight in.
Instead, it rotates by about eight degrees as it pushes deeper, like a tiny screw.
This barbed, twisting design works perfectly against other insects, whose hard shells let the stinger slide back out.
But human skin is soft and elastic, so the barbs catch and will not let go.
When the bee tries to fly away, the stinger stays stuck in the skin.
As it pulls free, it leaves behind its stinger, its venom sac, and part of its own body, and soon dies.
Here is the surprising part: this was never designed to be a weapon against mammals.
The barbs evolved so honeybees could fight off other bees and insects that come to steal their honey.
Losing a few worker bees to defend the whole hive was, over millions of years, a trade worth making.
Not every stinging insect pays this price: bumblebees and wasps have smoother stingers and can sting more than once.
So the next time a honeybee stings you, remember: its weapon was built for a battle it was never actually in.
(256 words)
重要語句
| 語句 | 意味 | 英語の定義 |
|---|---|---|
| barb | (針などの)かえし、とげ | a sharp point that curves backward, making it hard to pull something out |
| stinger | (ハチなどの)針 | the sharp part of an insect's body used to inject venom |
| venom sac | 毒袋、毒液の入った袋 | a small pouch inside an animal's body that stores venom |
| elastic | 伸縮性のある、弾力のある | able to stretch and then return to its original shape |
| hive | (ミツバチの)巣、巣箱 | the structure where a colony of bees lives and stores honey |
全文和訳
ミツバチはおとなしそうに見えますが、実は不思議な事実を隠しています。1匹のミツバチが人を刺せるのは、たった1回だけなのです。ミツバチは人を刺したあと、たいてい数分から数時間のうちに死んでしまいます。2014年、中国の清華大学の研究チームが、その理由をくわしく調べました。研究チームは、本物のミツバチの針を柔らかい素材に押し当て、顕微鏡で詳しく観察しました。ミツバチの針は、長さわずか8.5ミリメートルですが、フックのような小さなとげがびっしり並んでいます。研究チームは、針がまっすぐには刺さらないことを発見しました。そのかわり、針は奥へ進みながら約8度ねじれ、小さなネジのように刺さっていくのです。このとげのある、回転する構造は、他の昆虫が相手なら完璧に機能します。かたい殻のおかげで、針がするりと抜けるからです。ところが人間の皮膚は柔らかく伸縮性があるため、とげが引っかかって離れなくなってしまいます。ハチが飛び去ろうとしても、針は皮膚に刺さったままです。無理に引き離そうとすると、針と毒袋、そして体の一部までもぎ取られてしまい、ハチはまもなく死んでしまいます。ここが驚くべきところです。この仕組みは、もともと哺乳類と戦うための武器として作られたものではありません。このとげは、蜂蜜を狙ってくるほかのハチや昆虫と戦うために進化したと考えられています。巣全体を守るために、数匹の働きバチを失うことは、何百万年もかけて、見合う代償だったのです。この代償を払うのは、ミツバチだけです。マルハナバチやアシナガバチの針はなめらかで、何度でも刺すことができます。だから次にミツバチに刺されたら、思い出してください。その武器は、実際には戦ったことのない相手のために作られたものなのです。
コラム:針から分かる、ハチたちの戦いの歴史
針は、まっすぐではなく『ネジ』のように刺さっていた
2014年、中国の清華大学の研究チームは、学術誌PLOS ONEに、ミツバチの針についての研究を発表しました。集めた針30本のうち20本を、寒天・シリカゲル・軟らかいゴム・パラフィンろうという、かたさの違う4種類の素材に押し当て、残りと合わせて顕微鏡で断面を観察するという実験です。その結果、針は左右2列、それぞれ約10本ずつの『かえし』を持ち、奥へ進むあいだに平均で約8度ねじれることが分かりました。まっすぐ刺さるのではなく、まるで小さなネジのように、ひねりを加えながら刺さっていたのです。研究チームは、この回転する動きが、より少ない犠牲で攻撃の効果を高めている可能性があると結論づけています。
昆虫が相手なら、針はちゃんと抜けるようにできている
この『かえし』のある構造は、もともと蜂蜜を狙ってくるほかのハチや昆虫と戦うために進化したと考えられています。昆虫のかたい外骨格が相手であれば、かえしが引っかかることはなく、ミツバチは針を引き抜いて何度でも戦うことができます。ところが人間や他の哺乳類の皮膚は、昆虫の殻とはまったく違います。柔らかく伸縮性があるぶん、かえしがしっかりと引っかかってしまい、ハチが飛び去ろうとすると、針と毒袋、そして体の一部までもが引きちぎられてしまうのです。
ミツバチだけが払う、重い代償
科学メディアBBC Science Focusの記事によれば、この仕組みは『自殺装置』として進化したわけではありません。巣を守るために数匹の働きバチを犠牲にしてでも、侵入者を撃退できることのほうが、ミツバチの群れ全体にとっては価値があった、というのがこの記事の見立てです。実際、この代償を払うのはミツバチだけです。マルハナバチの針にはかえしがなく、まっすぐでなめらかです。アシナガバチやスズメバチの針も、ミツバチのような大きなかえしを持ちません。だから刺したあとも針を引き抜いて、何度でも刺すことができます。
次にハチを見かけたら、その針の意味を思い出す
ミツバチの針は、もともと人間と戦うために作られたものではありません。蜂蜜を狙ってくるほかのハチや昆虫を追い払うために磨き上げられた武器が、たまたま人間の皮膚にも効いてしまっただけなのです。小さな虫の体の中に、何百万年もかけて調整されてきた『ネジ』のような仕組みが隠れている。次にハチを見かけたら、その針の向こうにある、長い進化の歴史を思い出してみてください。
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確認クイズ
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Q1. 2014年の清華大学の研究によると、ミツバチの針の左右2列には、それぞれ何本くらいの『かえし』があったか。
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Q2. 本文によると、ミツバチの針の『かえし』のある構造は、もともと何と戦うために進化したと考えられているか。
よくある質問
ミツバチ以外のハチも、刺すと死んでしまうのですか。
いいえ。本文で紹介したとおり、マルハナバチの針にはかえしがなく、アシナガバチやスズメバチの針もミツバチのような大きなかえしを持ちません。刺したあとも針を引き抜けるため、何度でも刺すことができます。