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糖尿病医が「ダークチョコは 健康食じゃない」と断言した理由 ― ポリフェノール神話の裏に潜むシュウ酸・重金属・過信の罠 ―

DARK CHOCOLATE × HEALTH MYTH

糖尿病医が「ダークチョコは
健康食じゃない」と断言した理由

― ポリフェノール神話の裏に潜むシュウ酸・重金属・過信の罠 ―

🍫 こんな話、聞いたことありませんか?

「ダークチョコレートはポリフェノールが豊富だから、健康のために毎日食べよう」――SNSやテレビでよく目にするこのフレーズ。しかし糖尿病専門医のぱむぱむ氏がXで「健康のためにダークチョコレートとか本当におすすめしない」と投稿し、大きな反響を呼んでいます。

高カカオチョコレート市場は近年急成長を続けています。明治の「チョコレート効果」シリーズをはじめ、各メーカーが「カカオ70%」「カカオ86%」「カカオ95%」と、カカオ含有率の高さを競うように製品を投入。「ポリフェノールたっぷりで体にいい」というイメージが定着し、健康目的でダークチョコを”常食”している人も少なくありません。

では、専門家はなぜ警鐘を鳴らしたのか。その理由を掘り下げてみると、「ポリフェノール神話」の裏に、ほとんどの人が知らない3つの落とし穴が見えてきました。

⚠️ 落とし穴①:シュウ酸が腎結石リスクを高める

チョコレート、とくに高カカオのダークチョコレートにはシュウ酸(oxalic acid)が多く含まれています。シュウ酸は体内でカルシウムと結合し、シュウ酸カルシウムという結晶を形成。これが腎臓で大きくなると、激しい痛みを伴う腎結石(尿路結石)の原因となります。

日本泌尿器科学会のデータによると、尿路結石の約80%はシュウ酸カルシウム結石です。そして、シュウ酸を多く含む食品リストには、ほうれん草やナッツ類とともにチョコレートが必ず名前を連ねています。

🔬 シュウ酸が多い食品(100gあたり)

🍫 ダークチョコレート(高カカオ)… 非常に多い

🥬 ほうれん草 … 非常に多い

🥜 ナッツ類(アーモンド・ピーナッツ)… 多い

☕ コーヒー・紅茶 … 中程度

🫖 玉露・抹茶 … 中程度

ぱむぱむ氏がフォローアップで述べた通り、「適量のチョコレートなら悪い影響は気にする必要がない」のは事実です。問題は「ダークチョコは健康にいいから量も気にしなくていい」という過信。この思い込みが過剰摂取を招き、シュウ酸の蓄積リスクを高めてしまうのです。

X(旧Twitter)上では三幸貿易公式アカウントが「ダークチョコレートはシュウ酸が多いので、夜、コーヒーや紅茶と摂取するのは特に良くない(結石の原因)」と補足し、さらなる注目を集めました。コーヒーや紅茶もシュウ酸を含む飲料であり、ダークチョコとの組み合わせはシュウ酸の「ダブルパンチ」になるわけです。

☠️ 落とし穴②:重金属汚染という”不都合な真実”

シュウ酸の問題だけではありません。近年、もうひとつの深刻なリスクが明らかになっています。

2024年、米国ジョージ・ワシントン大学の研究チームが科学誌『Frontiers in Nutrition』に衝撃的な論文を発表しました。米国で流通する72種類のダークチョコレートを8年間にわたって分析した結果――

製品の43%からカリフォルニア州基準を超える鉛(Lead)を検出

製品の35%から基準を超えるカドミウム(Cadmium)を検出

オーガニック製品でも含有量が高い傾向あり

鉛は神経毒性があり、WHOは「子どもにとって鉛の含有量に安全なラインはない」と明言しています。カドミウムは発がん性物質として指摘され、腎臓障害との関連も知られています。

カドミウムはカカオの木が土壌から吸収し、豆に蓄積するもの。鉛は収穫後の天日干し工程で土壌の粉塵から付着するもの。つまりカカオ含有率が高いほど、重金属の含有量も増えるという構造的な問題があるのです。

※CNNの報道では、健康な成人が毎日1オンス(約28g)を食べた場合の相対的リスクは小さいとされるものの、幼児・妊婦・腎臓病患者は特に注意が必要と指摘されています。

🧠 落とし穴③:「健康食」ラベルが生む過信バイアス

VTuber医師の山吹オルカ氏はXで、こう指摘しています。

「一般に、『健康のために〇〇を食べる』のはやめた方がいい。『健康のために〇〇を食べるのを減らす』方が、まだ見込みがある。」

これは行動科学の世界では「ヘルスハロー効果(Health Halo Effect)」として知られる現象です。ある食品に「健康的」というラベルが貼られた瞬間、人はその食品全体を”良いもの”と認識し、摂取量のブレーキが外れてしまう。

元ゴールドマン・サックス投資部門統括で、現在は投資会社を経営する田中渓氏も、この話題に対して含蓄のあるコメントを寄せています。酸化、糖化、脳腸相関、リーキーガット、トランス脂肪酸……栄養をめぐるあらゆる知識を学んだ上で、「好きなものを食べる」――つまり知識を得てから”知的に好きなものを選ぶ”ことの大切さを語っています。

肝臓専門医の尾形哲氏も「健康は日々の微差の複利」と、この姿勢に共感を示しました。

✅ じゃあ、ダークチョコの健康効果は全部ウソなの?

いいえ、効果自体は本物です。

ここは誤解しないでください。カカオポリフェノールに科学的根拠のある健康効果が存在することは事実です。

効果 研究内容 出典
血圧低下・血管機能改善 高カカオ(90%)20gを30日間摂取で血管機能が改善 複数のメタ分析
脳の認知機能維持 カカオポリフェノール635mg摂取で脳の認知資源の効率的利用を確認 明治×理研 共同研究
(Heliyon, 2024)
精神的ストレス軽減 カカオ85%を3週間毎日30g摂取で精神的苦痛が有意に軽減 J Nutr Biochem, 2022
糖尿病リスク低減 適正体重の若年男性で、チョコ摂取量が多いほど2型糖尿病発症リスク低下 複数の疫学研究
抗炎症作用 透析患者にカカオ70%を40g×週3回×2ヶ月で炎症マーカー(TNF-α)が低下 2023年臨床試験

問題は効果の有無ではなく、「効果があるから量を気にしなくていい」という飛躍にあります。

愛知学院大学の大澤俊彦特任教授(名古屋大学名誉教授)は、高カカオチョコレートの適量として1日25gを推奨。心血管疾患リスクの低減には週45g程度が目安とする研究もあります。「板チョコ半分を毎日」ではなく、「ひとかけらを毎日少しずつ」がサイエンスの示す正解なのです。

🥛 牛乳とセットで食べよ ― すぐ使える「シュウ酸対策」

Xでは管理栄養士や医療関係者から、実用的なアドバイスも多数寄せられました。なかでも注目を集めたのが「牛乳と一緒に食べる」という方法です。

✅ シュウ酸を減らす食べ方

🥛 牛乳やヨーグルトと一緒に:カルシウムが腸内でシュウ酸と結合し、便として排出

💧 水分を十分に摂る:1日2L以上が目標。尿を薄めて結晶化を防ぐ

夜の大量摂取を避ける:就寝中は最も結石ができやすい時間帯

❌ 避けたい組み合わせ

夜のコーヒー+ダークチョコ:シュウ酸の二重摂取に

🫖 紅茶+ダークチョコ:紅茶もシュウ酸が多い飲み物

🥜 ナッツ+ダークチョコの大量摂取:どちらもシュウ酸が豊富

国語教材執筆者の住吉那巳枝氏も「牛乳と食べてます。牛乳はシュウ酸を排出する」とコメント。また別のユーザーは「豆乳はカルシウムが含まれていないので、牛乳やオーツミルクで!」と具体的なアドバイスを加えています。

結石予防の専門家たちが一致して推奨するのは「シュウ酸を含む食品はカルシウムと同時に摂取する」というシンプルなルール。ホットミルクにダークチョコをひとかけら溶かす――これが最もスマートな楽しみ方かもしれません。

📖 英語で読む「ダークチョコレート問題」― 知っておきたい表現

この話題にまつわる英語表現をいくつか紹介させてください。海外のニュースを読むときに必ず出てくるキーワードです。

oxalic acid(オクサリック・アシッド)= シュウ酸。”Oxalate” はその塩の形。

kidney stones(キドニー・ストーンズ)= 腎結石。”I had kidney stones” は英語圏でもよくある体験談。

heavy metals(ヘビー・メタルズ)= 重金属。音楽のジャンルではなく、鉛やカドミウムのこと。

health halo effect(ヘルス・ハロー・エフェクト)= 健康ハロー効果。「有機」「低糖質」と書いてあるだけで食べ過ぎてしまう心理。

in moderation(イン・モデレーション)= 適量で、ほどほどに。”Dark chocolate in moderation is fine.” は医師の決まり文句。

特に “in moderation” は英語の健康記事で最も頻出するフレーズのひとつ。日本語では「適量で」とシンプルに訳されますが、英語では「節度を守って」というニュアンスが強く、単なる量の問題ではなく「自制心を持って」という態度まで含む表現です。今回の話題を一言で英語にするなら、まさにこの言葉がぴったりでしょう。

✨ まとめ ― 「好き」と「健康」を両立させる知恵

整理しましょう。

ダークチョコにはカカオポリフェノールによる健康効果がある ― これは科学的事実

しかし「健康食だから量を気にしなくていい」は危険な過信

シュウ酸が豊富で、過剰摂取は腎結石のリスクを高める

重金属(鉛・カドミウム)の含有も国際的に問題になっている

適量は1日25g程度。牛乳と一緒に、夜の紅茶・コーヒーとのセットは避ける

「健康のために食べる」より「好きなものを知識で賢く選ぶ」が正解

管理栄養士のおすぎ氏が語っていた「好きなものを適量で楽しむのが正解」という言葉が、今回の話題の本質を見事に突いています。チョコレートは嗜好品です。嗜好品に「健康食」という免罪符を貼った瞬間、人は自制のブレーキを外してしまう。

英語で言えば、まさに “Enjoy in moderation.” 楽しむことと、ほどほどを知ること。その両立こそが、食の知性というものなのだと思います。

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