「BOXING DAY?ボクシングの日?」と思ったあなた、その勘は大外れです。実は、12月26日のBOXING DAYは、スポーツとは全く関係のない、1400年以上の歴史を持つ慈善の伝統なのです。
イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなど、英連邦の国々で祝われるこの日。その名前の由来から、歴史的背景、そして現代での祝い方まで、BOXING DAYの全てを、徹底解説します。
「BOXING」の名前の由来:スポーツじゃなく、「箱」から来た言葉
まず、最初に誤解を解きましょう。BOXING DAYの「BOXING」は、スポーツのボクシングではありません。では、何を意味するのか?
答えは、「BOX」つまり「箱」です。
12月26日のBOXING DAYは、クリスマスプレゼントの「箱」の残骸でもなく、不要なプレゼントを返すための日でもありません。その起源は、もっと古く、もっと深い慈善の伝統にあるのです。
起源その1:聖ステファノの日と、1400年の慈善の伝統
12月26日は、実は「聖ステファノの日」です。聖ステファノとは、キリスト教初期に助祭を務めた人物で、西暦36年ごろに信仰を理由に処刑されました。彼はキリスト教における最初の殉教者とされています。
聖ステファノは、生前、貧しい人々に奉仕していたことで知られています。そのため、伝統的に、聖ステファノの日である12月26日は、慈善事業や施し物の配布が行われる日として祝われてきたのです。
この伝統は、クリスマスキャロル「ウェンセスラスは良い王様」にも反映されています。この歌では、ウェンセスラス王が、「聖ステファノの祭日」である12月26日に、貧しい農民に施しをするため、深い雪の中を歩く場面が描かれています。ウェンセスラス王は、10世紀に実在したボヘミア公バーツラフ1世がモデルで、高貴な行いをしたという言い伝えがあります。
起源その2:教会の寄付箱から「BOXING」へ
BOXING DAYの名前の由来については、複数の説があります。その中でも最も有力な説は、教会の寄付箱に関するものです。
西暦2〜3世紀、アドベント(クリスマス前の期間)には、教会に寄付の「箱(box)」が設置されていました。この箱には、信仰心のある人々が貧しい人々のための寄付をしていました。そして、クリスマスの翌日である12月26日に、その箱が開けられ、集められたお金が貧しい人々に配られたのです。
つまり、「BOXING」という名前は、この「BOX」(箱)から来ているのです。
起源その3:16世紀の労働階級への「チップ」習慣
もう一つの説は、16世紀ごろに生まれた習慣と関係しています。当時、労働階級の人々は、12月26日に、1年間仕えた人たちからクリスマスの「箱」、つまり、チップをもらっていました。
この習慣は広く行われていましたが、万人に愛されるものではありませんでした。実は、当時の随筆家ジョナサン・スウィフトは、1710年に、このチップ文化に対する不満を述べています。
「私はクリスマスの箱によって破滅することになるだろう。コーヒーハウスの悪党どもは税金を引き上げ、皆が1クラウンを渡している。恥ずかしながら、私も渡した。さらに、ポーターなどに半クラウンずつ渡している。」
つまり、スウィフトは、この時期の過度なチップ文化に辟易していたわけです。興味深いことに、400年以上前の悩みが、現代のチップ文化の議論と非常に似ていることに気づきます。
現代のBOXING DAY:国によって異なる祝い方
イギリス:セールと家族の時間
イギリスでは、BOXING DAYは公式な祝日(バンク・ホリデー)です。この日は、クリスマスの締めくくりとして、ゆったり過ごす休日とされています。
現代では、BOXING DAYは大規模なセールの日としても知られています。多くの小売店が、この日に一斉セールを開始し、クリスマスプレゼントの返品や交換が行われます。
カナダ:セール文化の危機
カナダでも、BOXING DAYは連邦政府の祝日です。伝統的には、この日に大規模なセールが行われてきました。
しかし、近年、アメリカのブラック・フライデーの普及により、カナダのBOXING DAYセール文化は不振に陥っています。かつての栄光は、今や過去のものになりつつあります。
オーストラリア:スポーツの日へと進化
興味深いことに、オーストラリアのBOXING DAYは、全く異なる日に変貌しています。現代のオーストラリアでは、BOXING DAYはスポーツイベント(特にクリケット)が行われる日として知られています。
つまり、オーストラリアでは、BOXING DAYが、実は「スポーツの日」になってしまったわけです。皮肉にも、名前とは関係ないはずのボクシングやスポーツが、現代のオーストラリアでは、この日の中心になっているのです。
BOXING DAYの祝日ルール:12月26日が日曜日の場合はどうなる?
興味深いルールがあります。通常、12月26日がBOXING DAYですが、もし12月26日が日曜日の場合はどうなるのでしょうか?
答えは、12月26日が日曜日の場合でも、26日を「BOXING DAY」として祝うということです。そして、振替休日を平日にもってくるのです。
つまり、12月25日と26日が土日に当たる場合でも、26日は必ずBOXING DAYとして祝われるわけです。この「日曜日ではない日」という定義は、BOXING DAYの祝日としての重要性を示しています。
結論:1400年の慈善の伝統は、今も生きている
BOXING DAYは、単なるセールの日ではありません。それは、1400年以上前の聖ステファノの日から続く、慈善と善意の伝統なのです。
教会の寄付箱から始まり、労働階級へのチップ文化を経て、現代のセール文化へと進化してきたBOXING DAY。その本質は、常に同じです。それは、社会的弱者への配慮と、善意の精神です。
アメリカのブラック・フライデーの普及により、伝統的なセール文化が変化している今だからこそ、BOXING DAYの本来の意味を思い出す価値があります。
次のクリスマスシーズンに、12月26日を迎えたとき、あなたはBOXING DAYの1400年の歴史を思い出すでしょう。そして、その日が、単なるセールの日ではなく、慈善と善意の伝統を受け継ぐ日であることを、心に留めるかもしれません。
BOXING DAY:スポーツではなく、慈善。セールではなく、善意。1400年の歴史が、今も生きている日。
