
「巨大な」という意味のジャンボは、ロンドンの動物園から売られたゾウの名前だった
「ジャンボ」は、ロンドンの人気ゾウの名前だった。
もくじ
1882年3月22日の明け方、ロンドンの通りを、巨大な木の箱をのせた荷車が進んでいきました。最後は、10頭の馬が荷車を引きました。箱の中にいたのは、1頭のアフリカゾウでした。
ゾウの名前は、ジャンボ(Jumbo)。ロンドンの動物園の人気者でした。そのジャンボが、アメリカの興行師に売られ、船で海を渡ろうとしていたのです。
このゾウの名前が、のちに英語で「巨大な」という意味の言葉になりました。日本語でも、「ジャンボサイズ」「ジャンボジェット」のように使われています。
この記事では、まずジャンボがどこから来たゾウなのかを紹介します。次に、1882年の売却と、それにイギリスの多くの人が反対した騒ぎを、当時の記録でたどります。最後に、ジャンボのその後と、名前が言葉になるまでを見ます。
01ジャンボは、アフリカで捕まり、パリをへてロンドンに来たゾウだった
ジャンボの一生は、アメリカのタフツ大学の資料に詳しくまとめられています。ジャンボは、のちにこの大学のマスコットになったゾウなのです。大学の歴史をまとめた事典にも、「ジャンボ」の項目があります。
事典によると、ジャンボは、1861年にアビシニア(今のエチオピアのあたり)で、商人に捕まえられたオスのアフリカゾウでした。まだ子どもでした。
ジャンボは、動物の収集家に売られ、そこからパリのジャルダン・デ・プラントという施設に売られました。ジャンボは、アリスという別のゾウと一緒に、約3年をそこで過ごしました。
1865年、2頭はロンドンの動物園にやってきました。のちにジャンボの飼育係になるマシュー・スコット(Matthew Scott)が、話をまとめたのです。タフツ大学の機関誌によると、2頭は病気の子ゾウで、サイ1頭と交換されました。ジャンボは、動物園に来る人たちの人気者になりました。
021882年、ロンドンの動物園はジャンボを2000ポンドで売り、イギリスの多くの人が反対した
1882年、ロンドンの動物園を運営するロンドン動物学協会は、ジャンボを手放すことを決めました。買い手は、アメリカの興行師P・T・バーナム(P. T. Barnum)です。バーナムは、サーカスなどの見世物で有名な人物でした。
イギリスで毎年出ていた記録集『The Annual Register』の1882年版が、この騒ぎを書いています。値段は2000ポンドでした。タフツ大学の事典は、バーナムが1万ドルで買ったと書いています。
売却が知られると、イギリスの人々は、ジャンボがニューヨークへ連れていかれることに強く反対しました。ジャンボが移動用の箱に入りたがらない、という話が伝わると、反対はさらに大きくなりました。ただし、記録集は、その「入りたがらない」が本当なのか、そう見せかけたものなのかは分からない、という書き方をしています。
協会の事務局長スクレーター(Sclater)は、新聞に手紙を書きました。ジャンボの気性が、このところ大きな心配の種になっている。近いうちに、とても危険になるおそれがある、というのです。でも、記録集によると、この説明に納得しない人もいました。反対した人として、ラスキン(Ruskin)という名前も挙がっています。タフツ大学の機関誌は、反対した人の中にヴィクトリア女王もいたと書いています。
ジャンボについては、裁判所に訴えも出されました。3月8日、イギリスの裁判所の判事チッティ(Chitty)は、判断を示しました。協会には、動物園の運営の一部として、どの動物でも売る権限がある、というものです。売却は止まりませんでした。
033月22日の明け方、ジャンボは10頭の馬に引かれた箱で港へ運ばれた
記録集は、ジャンボが運び出された日の様子を、細かく書いています。
数週間おくれた末の3月22日、ジャンボは動物園から運び出されました。暴れたときに動きを止められるよう、鼻に小さな鉄の鎖が巻かれました。ジャンボは箱に歩いて入り、まず前足をつながれました。後ろ足をつなぐのには手こずりました。ジャンボは、周りの長さが4インチ(約10cm)もある太いロープを、力で引きちぎったのです。
箱の大きさは、長さ13フィート、幅6フィート、高さ11フィートでした。メートルに直すと、長さ約4m、幅約1.8m、高さ約3.4mです。
午前4時ごろ、箱をのせた荷車に、運送会社の力の強い馬が7頭つながれました。馬は、8頭、10頭と増やされました。荷車は約4マイル(約6.4km)先のセント・キャサリン・ドックという港まで進み、大勢の人がついていきました。港の門に着いたのは5時でした。
箱は大きなクレーンで、はしけ(荷物を運ぶ平たい船)に移され、「アッシリアン・モナーク号」という船まで運ばれました。次の日の午後、箱は船に積みこまれました。積みこみの作業は、8分もかかりませんでした。

043年後、ジャンボはカナダで列車にはねられた
アメリカに渡ったジャンボは、バーナムの見世物に出されました。
1885年、カナダのオンタリオ州セント・トーマスで、事故が起きました。タフツ大学の事典によると、ジャンボは、トム・サムという小さなゾウと一緒に、線路が何本も通る構内を連れられて歩いていました。そこで、列車にはねられたのです。
このあと、バーナムは美しい話を広めました。ジャンボは、トム・サムを押しのけて命を救った。そして、死ぬ前に鼻を飼育係のスコットへ伸ばした、というものです。
でも、その場にいたエドガー・フラック(Edgar H. Flach)の証言は違いました。ジャンボは列車から逃げようとしたが、柵のすき間を通りそこねた、というのです。事典は、トム・サムを救った英雄の話は本当ではないようだ、と書いています。ただ、ジャンボが死ぬ前に鼻で飼育係を抱きかかえたことは、フラックも認めています。
05火事で焼けたジャンボの灰は、ピーナツバターのびんに入れられた
バーナムは、ジャンボの毛皮と骨を別々に残しました。毛皮には中に詰め物をして、生きていたときの形に戻しました。骨は組み立てて、骨格の標本にしました。
毛皮で作った標本は、しばらくサーカスと一緒に旅をしました。そして1889年、タフツ大学に贈られました。バーナムは、タフツ大学の理事で、大学にお金を出していた人でもありました。タフツ大学の機関誌によると、バーナムは、ジャンボが大学の宣伝になることを期待していました。骨格は、ニューヨークのアメリカ自然史博物館に贈られました。
ジャンボは、タフツ大学のマスコットになりました。大学の運動部も、ジャンボの名前で呼ばれるようになりました。毛皮の標本は、大学の中の「バーナム自然史博物館」に飾られました。
ところが1975年、火事で、博物館の建物の多くと一緒に、ジャンボの標本も焼けてしまいました。次の日、大学の運動部の職員が、ジャンボが立っていた場所の灰を集めました。機関誌によると、灰はピーナツバターのびんに入れられました。2001年の機関誌の記事の時点でも、このびんは運動部のお守りとして使われていました。
深掘り講義
ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。
「ジャンボ」という名前のもとは、辞書によって説明が違う
ゾウの名前が「ジャンボ」になったのは、なぜでしょうか。この点は、辞書によって説明が違います。
アメリカの辞書『American Heritage 英語辞典』は、ゾウの名前は「たぶん、不器用な人を指す俗語から」と書いています。俗語とは、くだけた場面で使う言葉のことです。つまり、ゾウが有名になる前から、英語には「Jumbo」という、くだけた言葉があった、という説明です。
一方、日本の『デジタル大辞泉』は、もとはアフリカのスワヒリ語で「こんにちは」の意味だ、と書いています。
『American Heritage 英語辞典』は「たぶん」と書いていて、確かではないことを示しています。『デジタル大辞泉』は言い切っていますが、どちらの辞書も、名前をつけたときの記録を示しているわけではありません。ジャンボの名前が誰によって、どういうつもりでつけられたのかは、今回調べた資料でははっきりしませんでした。言葉の始まりは、このように、確かな記録が残っていないことがよくあります。
ゾウの名前が、「巨大な」という意味の言葉になった
『American Heritage 英語辞典』によると、今の英語の jumbo には2つの使い方があります。名詞では、ふつうよりずっと大きな人・動物・物を指します。形容詞では「ふつうよりずっと大きい」という意味です。例として、jumbo shrimp(大きなエビ)や jumbo jet(大型ジェット機)が挙がっています。
同じ辞典は、この言葉のもとを、バーナムが見世物にした大きなゾウのジャンボだ、と書いています。1頭のゾウの名前が、大きさを表すふつうの言葉になったのです。
日本語の「ジャンボ」は、ジェット機から写真まで
日本語にも「ジャンボ」は入ってきました。『日本国語大辞典』は、日本語の「ジャンボ」に4つの意味を挙げています。①巨大であること。②トンネルを掘るための、岩に穴をあける機械を台車にのせた装置。③機械で引きのばして焼きつけた写真(ジャンボプリント)。④アメリカのボーイング社の747型ジェット旅客機の愛称です。
①の古い例として挙がっているのは、1976年の丸谷才一の文章です。「香水びんのジャンボ・サイズ」という使い方でした。また、平凡社の『世界大百科事典』によると、1970年からは、客室の通路が2本ある幅の広い旅客機が「ジャンボ」や「エアバス」と呼ばれて登場しました。
記録を読むときは、誰が書いたかを確かめる
ジャンボの話には、記録を読むときの注意点がよく表れています。
1つ目は、トム・サムを救ったという英雄の話です。広めたのは、ジャンボを見世物にしていたバーナム自身でした。そして、その場にいた人の証言は、この話と合いませんでした。
2つ目は、ジャンボが箱に入りたがらなかったという話です。1882年の記録集は、これを「本当の、あるいは見せかけの」と書いています。記録集は、この話が本当かどうかを決めつけていません。
3つ目は、売った理由です。動物園の側は、ジャンボが危険になるおそれがあると説明しました。でも、記録集によると、この説明に納得しない人もいました。誰がどんな立場でその話をしているのかを考えると、記録の読み方が変わってきます。
06まとめ
「ジャンボ」は、1882年にロンドンの動物園からアメリカの興行師バーナムに売られた、アフリカゾウの名前です。売却にはイギリスの多くの人が反対し、裁判所にまで訴えが出されました。それでもジャンボは、3月22日の明け方、10頭の馬に引かれた箱で港へ運ばれました。3年後にカナダで列車にはねられたあと、骨はニューヨークの博物館に、毛皮はタフツ大学に残りました。その毛皮は1975年の火事で焼けました。灰はピーナツバターのびんに入れられ、大学の運動部のお守りになりました。
人に話すなら、こう言おう
ジャンボって、もとはロンドンの動物園にいたゾウの名前なんだって。1882年にアメリカのサーカスの興行師に売られて、イギリスで大反対が起きたらしいよ。ゾウの名前が、「でっかい」って意味の言葉になったんだ。
英語で読む
The Elephant Who Became a Word
英文をタップすると、その文の訳が出ます。
Early in the morning on March 22, 1882, ten horses pulled a huge wooden box through the streets of London.1882年3月22日の早朝、10頭の馬が、大きな木の箱をロンドンの通りで引いていきました。 Inside the box was an African elephant named Jumbo.箱の中には、ジャンボという名前のアフリカゾウがいました。
Jumbo was a favorite of visitors at the London Zoo.ジャンボは、ロンドンの動物園で、来園者の人気者でした。 But the zoo sold him to P. T. Barnum, a famous American showman.ところが動物園は、ジャンボを、アメリカの有名な興行師P・T・バーナムに売りました。 The price was 2,000 pounds.値段は2000ポンドでした。 Many people in Britain were angry, and some even went to court.イギリスの多くの人が怒り、裁判に訴えた人までいました。 But the judge said the zoo had the right to sell its animals.しかし裁判官は、動物園には動物を売る権利がある、と言いました。
Jumbo did not want to go into his box, or maybe he only seemed that way.ジャンボは箱に入りたがりませんでした。あるいは、そう見えただけかもしれません。 He even broke a thick rope.ジャンボは、太いロープを引きちぎりさえしました。 In the end, the box went to the docks, and a big ship took him to America.結局、箱は港へ運ばれ、大きな船がジャンボをアメリカへ連れていきました。
In America, Barnum showed Jumbo to many people.アメリカで、バーナムはジャンボを多くの人に見せました。 Sadly, in 1885, a train hit him in Canada.悲しいことに、1885年、ジャンボはカナダで列車にはねられました。 Barnum said Jumbo died while saving a small elephant.バーナムは、ジャンボは小さなゾウを助けて死んだ、と言いました。 But a person who was there told a different story.しかし、その場にいた人は、違う話をしました。
Later, Jumbo's skin went to Tufts University in the United States.その後、ジャンボの毛皮は、アメリカのタフツ大学に贈られました。 It burned in a fire in 1975.毛皮は、1975年の火事で焼けてしまいました。 The next day, a worker put some of the ashes in a peanut butter jar.次の日、大学の職員が、灰の一部をピーナツバターのびんに入れました。 The sports teams at the university used the jar for good luck.大学の運動部は、そのびんをお守りとして使いました。
And Jumbo's name lives on.そして、ジャンボの名前は今も生きています。 Today, "jumbo" means "very big" in English, as in jumbo shrimp or a jumbo jet.今、jumbo は英語で「とても大きい」という意味です。jumbo shrimp(大きなエビ)や jumbo jet(大型ジェット機)のように使います。 One elephant gave the world a word for size.1頭のゾウが、大きさを表す言葉を世界に残したのです。
4択問題 Reading Quiz
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Q1What is this story mainly about?
この話は主に何についてのものですか。
正解:C An elephant whose name became a word
ジャンボの売却、その後、そして最終段落で名前が「とても大きい」という意味の言葉になったと述べているので、正解はC。Bの列車はジャンボの死の場面に出てくるだけ。
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Q2How much did Barnum pay for Jumbo?
バーナムはジャンボにいくら払いましたか。
正解:A 2,000 pounds
第2段落3文目に「値段は2000ポンドだった」とあるので、正解はA。Bの1882と Dの1975は年、Cの10は馬の数。
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Q3What did the judge decide?
裁判官は何と判断しましたか。
正解:C The zoo could sell its animals
第2段落最後の文に「動物園には動物を売る権利がある」とあるので、正解はC。Aは反対した人たちの願いで、判断とは逆。
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Q4In paragraph 2, the word "angry" is closest in meaning to ...
第2段落の angry という語に最も意味が近いのはどれですか。
正解:A very upset
angry は「怒った」という意味。人気者のジャンボが売られて、裁判に訴える人まで出た場面なので、正解はA。Bの「うれしい」は逆の気持ち。
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Q5Which is true about Jumbo's death?
ジャンボの死について、正しいのはどれですか。
正解:B Barnum's story and a witness's story were different
第4段落で、バーナムは小さなゾウを助けて死んだと言ったが、その場にいた人は違う話をしたとあるので、正解はB。Dはこれと逆。Cの1975年の火事で焼けたのは毛皮。
重要語 Key Words(タップで裏返る)
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popular形容詞人気のある
This song is popular with young people.
この歌は若い人に人気がある。
💡 be popular with ... で「〜に人気がある」。
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showman名詞興行師、見世物の主催者
The showman brought a lion to the town.
興行師が町にライオンを連れてきた。
💡 show(見せ物)+man。人を楽しませるのがうまい人にも使う。
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court名詞裁判所、裁判
They went to court to solve the problem.
彼らはその問題を解決するために裁判に訴えた。
💡 テニスの「コート」と同じ語。go to court で「裁判に訴える」。
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judge名詞裁判官、審査員
The judge listened to both sides.
裁判官は両方の言い分を聞いた。
💡 動詞では「判断する」。
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seem動詞〜のように見える
He seems tired today.
彼は今日疲れているように見える。
💡 seem to do で「〜するように見える」。
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dock名詞波止場、ドック
The ship came into the dock at night.
船は夜に波止場に入った。
💡 複数形 the docks で「港の区域」を指すことが多い。
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ash名詞灰
There were only ashes after the fire.
火事のあとには灰しか残っていなかった。
💡 燃えた後の灰はふつう複数形 ashes。
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jar名詞(口の広い)びん、つぼ
Put the cookies back in the jar.
クッキーをびんに戻して。
💡 a jar of jam で「ジャム1びん」。
SOURCES出典・ウラ取り
この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 22件)。
- The Annual Register: A Review of Public Events at Home and Abroad, for the Year 1882(ロンドン1883年刊、Internet Archive)archive.org
- Jumbo, 1882-1885(Concise Encyclopedia of Tufts History、タフツ大学デジタル図書館)dl.tufts.edu
- Tufts at 150: Elephant tales(Tufts Journal, 2001年10月)tuftsjournal.tufts.edu
- jumbo(The American Heritage Dictionary of the English Language)ahdictionary.com
- ジャンボ(デジタル大辞泉/精選版 日本国語大辞典 ほか、コトバンク)kotobank.jp
文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。
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