トガリネズミは、冬に頭の骨と脳を小さくして、春にまた大きくする
生き物No.290

トガリネズミは、冬に頭の骨と脳を小さくして、春にまた大きくする

冬のトガリネズミは、脳が入る頭の骨まで縮んでいた。

うなり度 読む時間7分 出典8件 確認した事実28件
もくじ
  1. 同じ個体のX線写真で、頭の骨が冬に平均15.3%縮んでいた
  2. 1949年、ポーランドの学者が「冬のトガリネズミは体が小さい」と報告した
  3. 脳は冬に約2割小さくなるが、春に元の大きさまでは戻らない
  4. 冬の小さな脳のトガリネズミは、えさの場所を見つけるのに遠回りをした
  5. 脳が縮むとき、脳の細胞は死なずに、細胞の中の水が減っていた
  6. 深掘り講義
  7. まとめ
  8. 英語で読む(A2・4択5問)
  9. 出典・ウラ取り

ヨーロッパの森に、体重10gほどの小さな動物がいます。ヨーロッパトガリネズミです。名前にネズミとつきますが、ネズミの仲間ではなく、モグラやハリネズミに近い動物です。いつも動き回って虫などを食べていて、2〜3時間えさが見つからないと、飢え死にしてしまいます。寿命は長くても13か月ほどです。

このトガリネズミは、冬になると体を小さくします。体重が減るだけではありません。脳が入っている頭の骨そのものが縮み、脳も小さくなるのです。そして春になると、骨も脳もまた大きくなります。

夏にいったん大きく育った頭の骨が、冬に縮んで、春にまた大きくなる。ふつうの哺乳類では、骨は育ちきったらそれ以上は変わりません。トガリネズミの変化は、とてもめずらしいものです。この現象は、最初に報告したポーランドの動物学者の名前から、「デーネル現象」と呼ばれています。

この記事では、まず同じトガリネズミの頭の骨が、冬にどれだけ縮んだかを紹介します。次に、脳がどれだけ小さくなり、春にどこまで戻るのかを見ていきます。最後に、脳が縮むとき、脳の細胞に何が起きているのかを考えます。

01同じ個体のX線写真で、頭の骨が冬に平均15.3%縮んでいた

調べたのは、ドイツのマックス・プランク鳥類学研究所のハビエル・ラサロ(Javier Lázaro)らです。場所は、南ドイツのボーデン湖の近くです。研究所のまわりで約100匹をつかまえ、米つぶほどの大きさの電子の名札(ICチップ)をつけました。そして、頭のX線写真を撮ってから、森にはなしました。

そのあと、くり返しわなをしかけて、同じトガリネズミをつかまえ直しました。約3分の1は、少なくとも1回つかまえ直せました。そのたびにX線写真を撮り、頭の骨の大きさを比べたのです。

結果は、2017年に科学誌「カレント・バイオロジー」で発表されました。トガリネズミは、冬が来る前に、脳が入る部分の頭の骨を平均15.3%縮めていました。春になると、その骨は9.3%大きくなりました。調べたトガリネズミは、どれも冬に縮み、春にまた大きくなっていました。

体重は、冬に17.6%減りました。そして春には、83.4%も増えました。春のトガリネズミは、冬のころの2倍近い重さになるのです。

021949年、ポーランドの学者が「冬のトガリネズミは体が小さい」と報告した

冬のトガリネズミが小さいと最初に報告したのは、ポーランドの動物学者アウグスト・デーネル(August Dehnel)です。デーネルは1949年の論文で、冬につかまえたトガリネズミは、軽いだけでなく、体そのものが小さいと報告しました。頭の骨は平たくなり、背骨は短くなり、内臓や脳も小さくなっていたのです。

ただし、デーネルが調べたのは、季節ごとにつかまえた別々のトガリネズミでした。夏の個体と冬の個体を比べたのです。そのため、「1匹のトガリネズミが本当に縮んで、また大きくなるのか」は分かりませんでした。生きたまま同じ個体を何度もX線で調べた2017年の研究で、初めてそれが確かめられたのです。

冬に頭ごと小さくなり、春にまた大きくなるトガリネズミ
冬に頭ごと小さくなり、春にまた大きくなるトガリネズミ

03脳は冬に約2割小さくなるが、春に元の大きさまでは戻らない

ラサロらは、脳の重さも調べました。南ドイツのトガリネズミでは、脳の重さが冬に21.4%減り、春に17.0%増えました。2018年の別の論文は、これまでに分かっている数字をまとめています。脳の重さは冬に10〜26%減り、春に9〜16%増える、というものです。

脳の場所によって、変わり方は違いました。体温や食欲などを調節する視床下部、記憶にかかわる海馬などは、冬に小さくなり、春にまた大きくなりました。ところが、大脳の表面をおおう新皮質などは、冬に小さくなったあと、春になっても大きさが戻りませんでした。

春のトガリネズミは、夏のころと同じ脳に戻るわけではありません。脳の形が組みかわった、別の姿になるのです。

04冬の小さな脳のトガリネズミは、えさの場所を見つけるのに遠回りをした

脳が小さくなると、頭の働きはどうなるのでしょうか。ラサロらは、トガリネズミに、えさの場所を覚えて見つける課題をさせました。

すると、脳が小さくなった冬のトガリネズミは、えさを見つけるまでに、より長い距離を動き回りました。脳が大きい夏の若い個体や、脳がまた大きくなった春の個体より、成績が悪かったのです。ラサロらは、脳を小さくすると、エネルギーは節約できるかもしれないが、そのかわり頭の働きが落ちる、と考えています。

05脳が縮むとき、脳の細胞は死なずに、細胞の中の水が減っていた

脳が小さくなるとき、脳の細胞は死んでしまうのでしょうか。2025年、ドイツなどの研究チームは、特別なMRI(体の中を写す装置)で、トガリネズミの脳の中の水の動き方を調べました。

その結果、冬の脳では、細胞の中の水が減っていました。一方で、細胞の数が減った様子はありませんでした。脳が小さくなったのは、細胞が死んだからではなく、1つ1つの細胞が水を失って小さくなったからだと考えられています。2018年の研究でも、脳の一部の場所で、冬には神経細胞の本体や、そこから伸びる枝が小さくなっていることが分かっていました。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

縮む理由は「冬を少ないエネルギーで越えるため」という説

デーネル現象が見られる動物には、共通点があります。体が小さく、寿命が短く、エネルギーをとても速く使う肉食の動物です。そして、冬眠もしなければ、暖かい土地へ移動もしません。冬のあいだも動き回って、えさを食べ続けなければならないのです。

冬は、えさが少ない季節です。トガリネズミの夏のおもなえさはミミズや虫の幼虫で、冬はおもに昆虫やクモです。そこで研究者たちは、体や脳を小さくすれば、必要なエネルギーとえさの量を減らせるのでは、と考えています。脳は、重さのわりにエネルギーをたくさん使う臓器だからです。

2021年のまとめの論文によると、冬のトガリネズミも夏のトガリネズミも、体1gあたりに使うエネルギーは同じでした。それなら、体が小さくなったぶん、全体で使うエネルギーは少なくてすみます。ただし、論文は、体が縮むことと生き残りやすさのつながりは、まだ直接には確かめられていないとも書いています。

体が小さいと、熱が逃げやすくなる問題

体を小さくすることには、不利な点もあります。体が小さいほど、体の大きさのわりに表面の面積が広くなり、熱が逃げやすくなるのです。2021年の論文は、使うエネルギーが全体で減ることで、この損をおぎなえると考えています。トガリネズミは、毛でもエネルギーを節約しています。冬の毛は、夏の毛より、熱を逃がしにくくする力が19%高いことが分かっています。

縮む割合は、ヨーロッパの北東の地域ほど大きい

2021年、ラサロらは、ヨーロッパ各地のトガリネズミの研究をまとめ、ポーランド・ドイツ・チェコでとった自分たちのデータも加えて調べました。平均すると、脳が入る頭の骨の高さは、夏から冬に13%低くなり、春に10%高くなっていました。体重は、冬に21%減り、春に82%増えていました。

頭の骨や体重の変わり方は、ヨーロッパの北東に行くほど大きくなっていました。気温などの気候の数字とも関係していました。住んでいる土地の環境によって、変わり方の大きさが違うのです。ただし、脳の重さの変わり方には、地域による決まった傾向は見つかりませんでした。

50年分の頭の骨が示した、気候の影響

ポーランドのビャウォビエジャの森では、トガリネズミの頭の骨が50年にわたって集められてきました。2022年、この骨を調べた研究が発表されました。

気温が上がり、土が乾くにつれて、トガリネズミの頭の骨は全体として小さくなっていました。土が乾くと、おもなえさのミミズが減るからだと考えられています。さらに、冬に縮む割合は、年を追うごとに大きくなっていました。研究チームは、冬を越すのが前より厳しくなっているのかもしれないと考えています。

縮む動物は、トガリネズミだけではない

頭の骨や脳が季節で縮んで戻る現象は、トガリネズミの仲間のほか、イタチの仲間の一部でも見つかっています。マックス・プランク鳥類学研究所のディナ・デヒマン(Dina Dechmann)のグループは、イタチでも似た頭の骨の変化を見つけました。デヒマンは、イタチもトガリネズミと同じように、冬眠できない動物だと指摘しています。

骨が縮んで、また伸びるしくみは、まだよく分かっていません。研究チームの1人は、縮むときの骨の変化が、骨がもろくなる病気(骨粗しょう症)の骨に似ていると話しています。トガリネズミの研究は、人の病気を理解する手がかりになるかもしれないのです。

06まとめ

ヨーロッパトガリネズミは、冬になると脳が入る頭の骨を平均15.3%縮め、春に9.3%大きくします。脳の重さも冬に約2割減り、春にまた増えます。ただし、春の脳は、夏の脳とまったく同じ形には戻りません。

脳が縮むとき、脳の細胞は死なずに、細胞の中の水が減って小さくなっていました。体重10gほどの動物が、頭の骨ごと体を作りかえて、冬を越しているのです。

人に話すなら、こう言おう

トガリネズミっていう小さな動物は、冬になると脳を2割くらい小さくして、春にまた大きくするんだって。脳だけじゃなくて、頭の骨まで縮むらしいよ。
READ IN ENGLISH

英語で読む

The Animal That Shrinks Its Head for Winter

CEFR A2215 words4択 5問全訳つき
0:00

英文をタップすると、その文の訳が出ます。

In the forests of Europe lives a tiny animal called the common shrew.ヨーロッパの森に、ヨーロッパトガリネズミという小さな動物がすんでいます。 It weighs about 10 grams.体重は約10gです。 It is always busy looking for food.いつも忙しくえさを探しています。 If it cannot find food for two or three hours, it will starve.2〜3時間えさが見つからないと、飢え死にしてしまいます。

In winter, something strange happens to this shrew.冬になると、このトガリネズミに不思議なことが起こります。 Its body gets smaller.体が小さくなるのです。 Even the bones of its head get smaller, and so does its brain.頭の骨まで小さくなり、脳も小さくなります。 In spring, they grow bigger again.春になると、それらはまた大きくなります。 Scientists call this Dehnel's phenomenon.科学者はこれを「デーネル現象」と呼んでいます。

Scientists in Germany caught about 100 shrews near Lake Constance.ドイツの科学者たちが、ボーデン湖の近くで約100匹のトガリネズミをつかまえました。 They put a tiny chip on each one and took X-ray pictures of their heads.1匹ずつに小さなチップをつけ、頭のX線写真を撮りました。 Later, they caught some of the same shrews again.あとで、同じトガリネズミの一部をもう一度つかまえました。 Before winter, the part of the skull around the brain got 15.3 percent smaller.冬の前に、脳のまわりの頭の骨は15.3%小さくなっていました。 In spring, it grew 9.3 percent bigger.春には、それが9.3%大きくなりました。

The brain changed too.脳も変わりました。 In winter, it lost about one fifth of its weight.冬には、脳の重さが約5分の1減りました。 Shrews with small winter brains were worse at finding food in a test.冬の小さな脳のトガリネズミは、テストでえさを見つけるのが苦手でした。 In 2025, scientists found that the brain cells did not die.2025年、科学者たちは、脳の細胞が死んでいないことを見つけました。 The cells just lost water and became smaller.細胞は水を失って、小さくなっていただけだったのです。

Why does the shrew do this?トガリネズミは、なぜこんなことをするのでしょうか。 It does not sleep through the winter like some other animals.トガリネズミは、ほかの一部の動物のように冬眠しません。 A smaller body and brain may need less energy and less food.体や脳が小さければ、必要なエネルギーやえさが少なくてすむのかもしれません。 Scientists think this may help it live through the cold months.科学者たちは、それが寒い季節を生きのびる助けになっているのかもしれないと考えています。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2How much smaller did the part of the skull around the brain get before winter?

    冬の前に、脳のまわりの頭の骨はどれだけ小さくなりましたか。

  3. Q3What happened to the brain cells when the brain got smaller?

    脳が小さくなったとき、脳の細胞はどうなっていましたか。

  4. Q4In paragraph 1, the word "starve" is closest in meaning to

    第1段落の "starve" という語に最も意味が近いのはどれですか。

  5. Q5Which is true according to the story?

    話の内容に合っているのはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • shrew名詞
    トガリネズミ

    A shrew has a long, pointed nose.

    トガリネズミは長くとがった鼻をもつ。

    💡 ネズミ(mouse)とは別の仲間で、モグラに近い。

  • weigh動詞
    重さが〜ある

    This bag weighs two kilograms.

    このかばんは2kgある。

    💡 名詞は weight(重さ)。

  • starve動詞
    飢え死にする、ひどくお腹をすかせる

    Many animals starve when winter is long.

    冬が長いと、多くの動物が飢え死にする。

    💡 口語の I'm starving は「お腹がぺこぺこ」。

  • skull名詞
    頭の骨、頭がい骨

    The skull protects the brain.

    頭の骨は脳を守っている。

    💡 the part of the skull around the brain は「脳の入れ物の部分」。

  • shrink動詞
    縮む、小さくなる

    My sweater shrank in the wash.

    セーターが洗たくで縮んだ。

    💡 過去形は shrank、過去分詞は shrunk。

  • X-ray名詞
    X線、レントゲン写真

    The doctor took an X-ray of my arm.

    医者は私の腕のX線写真を撮った。

    💡 take an X-ray で「X線写真を撮る」。

  • cell名詞
    細胞

    Your body is made of many cells.

    あなたの体はたくさんの細胞でできている。

    💡 brain cell で「脳の細胞」。cell phone の cell と同じつづり。

  • energy名詞
    エネルギー、活力

    Food gives us energy to move.

    食べ物は、私たちに動くためのエネルギーをくれる。

    💡 英語の発音は「エナジー」に近い。save energy で「エネルギーを節約する」。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 28件)。

  1. Lázaro, J. ほか (2017) Profound reversible seasonal changes of individual skull size in a mammal, Current Biology 27(20):R1106-R1107doi.org
  2. Shrews shrink in winter and regrow in spring(マックス・プランク協会 研究発表、2017年10月23日)mpg.de
  3. Lázaro, J. ほか (2018) Cognitive skills of common shrews (Sorex araneus) vary with seasonal changes in skull size and brain mass, Journal of Experimental Biology 221:jeb166595doi.org
  4. Lázaro, J. ほか (2018) Profound seasonal changes in brain size and architecture in the common shrew, Brain Structure and Function 223:2823-2840doi.org
  5. Lázaro, J. ほか (2021) Geographic patterns in seasonal changes of body mass, skull, and brain size of common shrews, Ecology and Evolution 11:2431-2448doi.org
  6. Baldoni, C. ほか (2025) Programmed seasonal brain shrinkage in the common shrew via water loss without cell death, Current Biology 35:4642-4650doi.org
  7. Baldoni, C. ほか (2025) Captivity alters behaviour but not seasonal brain size change in semi-naturally housed shrews, Royal Society Open Science 12:242138doi.org
  8. Taylor, J. R. E. ほか (2022) Fifty years of data show the effects of climate on overall skull size and the extent of seasonal reversible skull size changes (Dehnel's phenomenon) in the common shrew, Ecology and Evolution 12:e9447doi.org

公式ページで見てみよう

文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。

NEXT TRIVIAこの雑学にうなった人は、これにもうなる