
約120年に1度咲くとされる竹のマダケは、海外に移した株も日本と同じころに咲いた
約120年に1度の竹の花が、イギリスでも日本と同じころ咲いた
もくじ
1960年代の終わりごろ、イギリスに植えてあった竹が花を咲かせました。アメリカ南部のアラバマ州と、ロシアでも咲きました。竹の種類は、日本でおなじみのマダケ(真竹)です。同じころ、日本にあるもとの株のマダケも、花を咲かせていました。
この出来事を紹介したのは、アメリカの生態学者ダニエル・ジャンゼン(Daniel Janzen)です。1976年の論文に書いています。ジャンゼンは、マダケが一斉に種をつけた記録を、昔の中国までさかのぼって並べました。そして、マダケが種をつける間隔は約120年だと書きました。
竹は、めったに花を咲かせない植物です。マダケやハチクは、何十年も花を咲かせずに、地下の茎で増え続けます。そして、ある年にまとめて花を咲かせ、地上の竹は枯れてしまいます。
この記事では、まずマダケが一斉に咲いた古い記録と、海外の株まで同じころに咲いた話を紹介します。次に、日本のマダケが、咲いても種を作れなかったことを見ていきます。最後に、マダケの仲間のハチクがいま咲いている話を紹介します。竹がどうやって年を数えているのか、という謎も考えます。
01マダケが一斉に種をつけた記録は、919年の中国までさかのぼる
ジャンゼンによると、マダケは919年と1114年に、中国で大量に種をつけました。そのあと日本でも、1716〜1735年のどこかの年と、1844〜1847年に種をつけたといいます。ジャンゼンは、日本の研究者カワムラ(Kawamura)が1927年にまとめた記録を使っています。
ジャンゼンによると、竹が咲いた年は、中国や日本のお寺で書き残されてきました。記録は少なくとも919年までさかのぼります。1840年代の次にマダケが咲いたのが、1960年代です。1840年代から1960年代までは、約120年あいています。
021960年代、海外に移したマダケも、日本の株と同じころに咲いた
ジャンゼンの論文によると、1960年代の終わりに咲いたマダケは、日本の竹林だけではありませんでした。イギリス、アラバマ州、ロシアに移して植えた株も、日本にあるもとの株と同じころに花を咲かせたのです。
この3つの土地は日本から遠く離れていて、気候も日本とは違います。それなのに、同じころに咲きました。ジャンゼンはこうした例から、竹が咲く時期を決めているのは天気ではないと考えました。竹の体の中に「何年たったか」を数えるしくみがあり、それが咲く年を決めている、という考えです。ジャンゼンはこのしくみを「体の中のカレンダー」と呼びました。
竹を切り分けて遠くに植えても、咲く時期はずれませんでした。つまり、この「体の中のカレンダー」は、竹のどの部分にも入っていることになります。ジャンゼンはそう指摘しています。ただし、1976年の時点で、このカレンダーを竹の体の中から探した研究は、まだ1つもありませんでした。

031950〜1970年代に咲いた日本のマダケは、種ができなかった
日本では、1950年代から1970年代にかけて、各地のマダケが花を咲かせました。沼田(Numata)らは、千葉県の竹林を1953年から調べ続けていました。そして、1960年にその一部が咲き始めたことを記録しています。花が咲く前には、背が低く細い竹が、林の下のほうに生えてきました。沼田らは、花のあと林が元の高い竹にもどるまでの段階も記録しています。
広島大学の山田俊弘らが2023年にまとめた論文によると、このとき咲いた日本のマダケは、種をつけませんでした。おしべには、受粉に使える花粉がたくさんできていました。それでも種はできなかったのです。
種ができなかった理由として考えられているのが、自家不和合性です。自分と同じ株の花粉では、種ができない性質のことです。マダケでは、人の手で花粉をつけても種ができなかった実験があり、この考えを支えています。
農林水産省の広報誌(2021年)は、東京大学の久本洋子さんに取材した記事で、こう説明しています。花のあとマダケの竹林が一斉に枯れたため、竹の材料が足りなくなり、竹の製品がプラスチック製品に置きかわったといわれています。マダケは種ができない代わりに、地下の茎からタケノコが伸びて、竹林が元にもどるのだそうです。
04マダケの仲間のハチクが、前回から100年以上たって、いま各地で咲いている
マダケによく似た竹に、ハチク(淡竹)があります。ハチクも、約120年ごとに咲くと考えられている竹です。前に咲いたのは1908年前後でした。120年後のピークは2028年ごろとされてきました。ただ、竹林ごとにずれがあり、2021年の時点で、すでに10年ほど前から咲き始めていたといいます。
広島大学の山田さんらは、2020年に東広島市で咲き始めたハチクの竹林で、2022年までの3年間の様子を調べました。竹林の中に8m×32mの調べる範囲を決めると、そこには334本の竹がありました。そのうち83%が、3年の間に花を咲かせました。落ちてくる種を受け止める網をしかけても、熟した種は1つも見つかりませんでした。2022年10月には、その範囲の竹は、花が咲いたかどうかに関係なく、すべて枯れていました。残ったのは、背の低い小さな竹だけでした。
京都大学の小林慧人らも、5か所のハチクの竹林を調べました。花はたくさん咲いていましたが、熟した種も芽生えも見つかりませんでした。窒素とリンは、どちらも植物が育つのに欠かせない栄養です。竹は、地上の部分にあった窒素の57%、リンの63%を、花などに注ぎこんでいました。それなのに、その栄養は種にはならなかったのです。竹林を保っていたのは、地下の茎から出てくる1m足らずの小さな竹でした。
深掘り講義
ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。
竹がどうやって「年」を数えているのかは、まだ分かっていない
ジャンゼンは1976年の論文で、一斉に咲く竹は、体の中のカレンダーで時期を決めていると考えました。根拠の1つは、海外に移したマダケの例です。もう1つは、1867年にビルマ(今のミャンマー)で、別の種類の竹について記録された観察です。
その記録によると、山火事で何度も焼かれ、高さが15〜30cmほどしかない竹が、9〜12mの元気な仲間と一緒に花を咲かせました。体の大きさや元気さが違っても、咲く年は変わらなかったのです。ジャンゼンはここから、カレンダーは、ためた栄養の量を測っているのではないと考えました。
それでは、竹は何を数えているのでしょうか。ジャンゼンは、光に反応する物質が、1年ごと、あるいは1日ごとに少しずつたまるか減るかしているのでは、と推測しました。ただし、これは推測です。そのしくみを体の中から見つけた研究は、論文の時点ではありませんでした。
一斉に咲くと、種を食べられにくくなる、という説
では、なぜ竹は何十年も待って、一斉に咲くのでしょうか。ジャンゼンの答えは、種を食べる動物への対策です。何十年も種がなければ、竹の種を食べて生きる動物は増えられません。そこへ一度に食べきれないほどの種を落とせば、食べ残された種が育ちます。この考えを「捕食者の飽和」といいます。
もう1つの説は、受粉の効率です。風で花粉を運ぶ植物は、一斉に咲くと空気中の花粉が増え、受粉しやすくなります。ところが、日本のマダケやハチクは、一斉に咲いても種ができませんでした。山田さんらは、1つの可能性を挙げています。日本のハチクは、どの竹林の竹も遺伝子がほとんど同じなのかもしれません。そうだとすると、よその竹林から飛んできた花粉も「自分の花粉」と同じになり、自家不和合性のせいで種ができないのかもしれません。ハチクは役に立つ竹なので、人が日本各地に植えてきました。そのため遺伝子がそろっていてもおかしくない、と山田さんらは書いています。モウソウチクでは、日本中の竹林が1つの遺伝子の型だったという研究があります。
120年という周期は、「かけ算」で長くなったのかもしれない
2015年、アメリカのベラー(Carl Veller)らは、竹の長い周期がどうやってできたかを、数学のモデルで説明しました。まず、毎年咲いていた竹の集団が、数年おきに咲くようにそろいます。次に、その周期が2倍、3倍のように、小さな数のかけ算で少しずつ長くなっていった、という考えです。
この考えが正しければ、今の竹の周期は、2や3や5のような小さな素数のかけ算で表せるはずです。ベラーらは、昔の竹の開花記録を調べ、この予想に合う強い証拠があったと報告しています。たとえば120は、2×2×2×3×5です。
「120年」という数字には、幅がある
竹の周期を確かめるのは、とても難しいことです。1回の観察に100年以上かかるからです。ハチクを調べた小林さんらは、古文書の記録から、ハチクの周期は60年か120年と推定されていると書いています。そして、その推定には10〜20年の幅があるとしています。マダケの「約120年」も、古い記録をつなぎ合わせて出した数字です。1960年代に120年を足すと、2080年代になります。その年に記録を取る人が、この数字を確かめることになります。
05まとめ
マダケは約120年に1度、一斉に花を咲かせるとされる竹です。1960年代の終わりには、イギリス、アラバマ州、ロシアに移した株まで、日本のもとの株と同じころに咲きました。
1950〜1970年代に咲いた日本のマダケは、種を作れませんでした。それでも竹林は、地下の茎から伸びたタケノコで元にもどりました。いま各地で咲いているハチクも、咲いても種ができず、小さな竹から林を保とうとしています。研究者のグループは、どこで竹が咲いたかという情報を集めています。近所の竹林で竹の花を見つけたら、それは数十年から100年に1度ほどしか見られない、貴重な記録です。
人に話すなら、こう言おう
マダケっていう竹は、約120年に1度しか花が咲かないらしいよ。しかも1960年代には、イギリスやアメリカに植えてあったマダケまで、日本と同じころに咲いたんだって。
英語で読む
The Bamboo That Flowers Together
英文をタップすると、その文の訳が出ます。
In the late 1960s, a kind of bamboo flowered in England.1960年代の終わり、ある種類の竹がイギリスで花を咲かせました。 It also flowered in Alabama in the United States and in Russia.アメリカのアラバマ州とロシアでも咲きました。 At about the same time, the same bamboo flowered in Japan.ほぼ同じころ、同じ竹が日本でも咲きました。 Its name is madake.その竹の名前はマダケです。
Madake grows for many years with stems under the ground.マダケは、地下の茎で増えながら何年も育ちます。 Then, in one year, many plants flower together, and the tall stems die.そしてある年、たくさんの竹が一緒に花を咲かせ、高い竹は枯れます。 An American scientist, Daniel Janzen, wrote about this in 1976.アメリカの科学者ダニエル・ジャンゼンが、1976年にこのことを書きました。 He used old records from China from the years 919 and 1114.彼は、919年と1114年の中国の古い記録を使いました。 He said that madake makes seeds about every 120 years.彼は、マダケは約120年ごとに種をつけると書きました。
The plants in England, Alabama, and Russia came from Japanese plants.イギリス、アラバマ州、ロシアの竹は、日本の竹から分けられたものでした。 The weather in those places is very different.それらの場所の天気は、とても違います。 So Janzen thought that the weather does not decide the year.そこでジャンゼンは、咲く年を決めているのは天気ではないと考えました。 He believed that bamboo has a kind of calendar inside its body.彼は、竹の体の中に、一種のカレンダーがあると考えました。 In 1976, no one had looked for this calendar inside the plant.1976年の時点では、竹の体の中でこのカレンダーを探した人は、まだいませんでした。
In Japan, madake flowered from the 1950s to the 1970s.日本では、1950年代から1970年代にかけてマダケが咲きました。 But the plants made no seeds.でも、竹は種を作りませんでした。 Many bamboo forests died, and there was not enough bamboo for making things.多くの竹林が枯れ、物を作るための竹が足りなくなりました。 People say that plastic products took the place of bamboo products.竹の製品がプラスチック製品に置きかわったといわれています。 Still, the forests came back.それでも、竹林は元にもどりました。 New shoots grew from the stems under the ground.地下の茎から、新しいタケノコが伸びてきたのです。
Now a similar bamboo, hachiku, is flowering in many places in Japan.今、マダケに似たハチクという竹が、日本の各地で咲いています。 If madake keeps its 120-year cycle, it may flower together again in the 2080s.マダケが120年の周期を守るなら、次に一斉に咲くのは2080年代かもしれません。
4択問題 Reading Quiz
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Q1What is this story mainly about?
この話は主に何についてのものですか。
正解:B A bamboo that flowers together after many years
第1段落で各国のマダケが同じころに咲いたこと、第2段落で約120年ごとに咲くことが書かれており、話全体はこの竹の一斉開花についてなので正解はB。Dのプラスチックは第4段落に一言出てくるだけです。
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Q2According to Janzen, about how often does madake make seeds?
ジャンゼンによると、マダケはおよそどのくらいの間隔で種をつけますか。
正解:C About every 120 years
第2段落の最後の文に "He said that madake makes seeds about every 120 years." とあるので正解はC。919年や1114年は記録の年で、間隔ではありません。
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Q3Why did Janzen think that the weather does not decide the flowering year?
ジャンゼンは、なぜ天気が咲く年を決めているのではないと考えたのですか。
正解:A Bamboo in places with different weather flowered at about the same time.
第3段落で、天気がとても違う場所の竹が日本の竹と同じころに咲いたので(第1段落)、ジャンゼンは天気が年を決めるのではないと考えた("So Janzen thought …")と書かれています。正解はA。Cのように竹がロシアで育たなかったとは書かれていません。
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Q4In paragraph 4, the word "shoots" is closest in meaning to
第4段落の "shoots" という語に最も意味が近いのはどれですか。
正解:D young plants coming up from the ground
第4段落の最後の文 "New shoots grew from the stems under the ground." から、地下の茎から伸びてくる若い竹(タケノコ)のことだと分かるので正解はD。Cの種は、この竹はできなかったと書かれています。
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Q5Which is true about madake in Japan?
日本のマダケについて正しいのはどれですか。
正解:B Its forests came back from stems under the ground.
第4段落に、種はできなかったが "the forests came back" とあり、地下の茎からタケノコが伸びたと書かれているので正解はB。Aは "the plants made no seeds" と合いません。
重要語 Key Words(タップで裏返る)
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bamboo名詞竹
Pandas eat bamboo every day.
パンダは毎日竹を食べる。
💡 a bamboo forest で「竹林」。bamboo shoot で「タケノコ」。
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flower動詞花が咲く
This tree flowers in early spring.
この木は早春に花が咲く。
💡 名詞の「花」と同じ形で、動詞にもなる。bloom もほぼ同じ意味。
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seed名詞種
She planted some seeds in the garden.
彼女は庭に種をまいた。
💡 make seeds で「種をつける」。plant seeds で「種をまく」。
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stem名詞茎
The flower has a long green stem.
その花には長い緑の茎がある。
💡 under the ground の stem は「地下茎」。
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record名詞記録
The town keeps records of every big storm.
その町は大きな嵐をすべて記録している。
💡 動詞では「記録する」で、発音のアクセントが後ろに移る(reCORD)。
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calendar名詞カレンダー、暦
I wrote the date on my calendar.
私はその日付をカレンダーに書いた。
💡 体の中の時計は body clock、体の中の暦は inner calendar のように言う。
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shoot名詞芽、若い茎
Green shoots came up after the rain.
雨のあと、緑の芽が出てきた。
💡 動詞の shoot(撃つ)と同じつづり。bamboo shoot は「タケノコ」。
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cycle名詞周期、ひと回り
The moon changes its shape in a cycle of about 30 days.
月は約30日の周期で形を変える。
💡 bicycle(自転車)の cycle も「輪」が語源。life cycle は「一生の流れ」。
SOURCES出典・ウラ取り
この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 28件)。
- Janzen, D. H. (1976) Why Bamboos Wait So Long to Flower, Annual Review of Ecology and Systematics 7:347-391doi.org
- 竹のある暮らし はじめよう 身近で不思議なタケ生態に迫る!(農林水産省 広報誌aff 2021年3月号。監修:久本洋子・東京大学)maff.go.jp
- Numata, M., Ikusima, I., Ohga, N. (1974) Ecological aspects of bamboo flowering, The Botanical Magazine Tokyo 87:271-284doi.org
- Yamada, T., Imada, K., Aoyagi, H., Nakabayashi, M. (2023) Does monocarpic Phyllostachys nigra var. henonis regenerate after flowering in Japan?, PLOS ONE 18:e0287114doi.org
- Kobayashi, K., Umemura, M., Kitayama, K., Onoda, Y. (2022) Massive investments in flowers were in vain, Plant Species Biology 37:78-90doi.org
- 小林慧人・梅村光俊・崎谷久義 (2019) タケ類ハチクの一斉開花現象を調べて分かってきたこと, 共生のひろば 14号(兵庫県立人と自然の博物館)hitohaku.jp
- Veller, C., Nowak, M. A., Davis, C. C. (2015) Extended flowering intervals of bamboos evolved by discrete multiplication, Ecology Letters 18:653-659doi.org
公式ページで見てみよう
- 竹のある暮らし(農林水産省 aff 2021年3月号)maff.go.jp
文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。
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