本文へスキップ
原田英語.com に戻る
日刊原田英語 Harada Eigo Daily
READING 第113回 基礎 読了 8分

3000年たっても食べられる — なぜ蜂蜜だけは腐らないのか

The Food That Time Forgot: Why Honey Never Spoils

エジプトの王の墓から見つかった蜂蜜は、3000年たってもまだ食べられた。「腐らない食べもの」は世界にほとんど無いなかで、なぜ蜂蜜だけが時間を止められるのか。約220語のやさしい英文と、蜂蜜が世界史のなかで担ってきた役割を追うコラム。

監修:原田高志(原田英語.com)

今日のテーマは「蜂蜜」です。冷蔵庫のドアを開けたら、いつからあるか分からない蜂蜜の瓶——でも、蓋を開ければ意外と甘い。なぜあれは腐らないのか。じつは3000年前のエジプトの王の墓からも、まだ食べられる蜂蜜が見つかっているのです。ミツバチの体のなかで起きている小さな化学反応から、古代エジプトの神々の食卓まで。今日はゆっくり、時間の話をしましょう。

音で学ぶ

ネイティブ音声で、聞く・くり返す・訳を確かめる。全部この場でできます。

速さ・和訳・練習の設定

読む速さ

聞き取れないときは 0.75x へ。音はそのまま、速さだけ変わります

和訳

ふだんは英文だけ。1文ずつ確かめたいときは、その文の「和訳」を押すと、そこだけ開きます

シャドーイング

オンにして文を押すと、同じ1文を3回くり返します。あいだの無音で、自分の口を動かしてください

英文(218 words)

In 1922, archaeologists opened the tomb of King Tutankhamun for the first time in over three thousand years.

1922年、考古学者たちが、3000年以上ものあいだ閉ざされていたツタンカーメン王の墓を初めて開けました。

Among the treasures, they found sealed jars of honey.

宝物のなかには、封をされたままの蜂蜜の壺がありました。

The honey was still edible.

その蜂蜜は、まだ食べられる状態でした。

Almost no other food on Earth can survive that long.

地球上で、これほど長く残れる食べものはほとんどありません。

So what makes honey so different?

では、蜂蜜のいったい何がそんなに特別なのでしょう。

The answer lies in three quiet defenses that honey builds against time.

答えは、蜂蜜が時間に対して静かに築いている3つの防御にあります。

First, honey contains very little water — usually less than 18 percent.

第一に、蜂蜜は水分がとても少なく、たいてい18%未満です。

Bacteria need water to grow, and in honey, they cannot find enough.

細菌は増えるために水を必要としますが、蜂蜜のなかでは十分な水を見つけられません。

Second, honey is naturally acidic, with a pH close to that of vinegar.

第二に、蜂蜜はもともと酸性で、pHは酢に近い数値です。

Most bacteria simply cannot survive in such a sour environment.

多くの細菌は、そんな酸っぱい環境ではそもそも生きていけません。

Third, and most surprisingly, bees themselves add a small amount of hydrogen peroxide.

第三に、これがいちばん驚きなのですが、ミツバチ自身が微量の過酸化水素を加えているのです。

An enzyme in their bodies slowly releases it as the honey rests in the comb.

彼らの体のなかにある酵素が、蜂蜜が巣のなかで熟しているあいだに、ゆっくりとそれを放ちます。

Together, these three shields turn honey into a fortress that time cannot easily enter.

この3つの盾がそろうと、蜂蜜は時間でさえも簡単には入り込めない要塞になるのです。

But there is one condition.

ただし、条件が一つあります。

The jar must stay sealed.

壺は、封をしたままにしておかなくてはなりません。

Once air and moisture get in, even honey can eventually change.

空気と湿気が入ってしまえば、蜂蜜でさえいつかは変わっていきます。

So the next time you see honey in your kitchen, remember what you are holding.

だから今度、台所で蜂蜜を見かけたら、あなたが手にしているものを思い出してください。

It is a small jar of sweetness — and, in a quiet way, a piece of forever.

それは小さな甘さの瓶であり——そして静かに、永遠のかけらでもあるのです。

重要語句

語句意味英語の定義
tomb 墓、墓所 a large stone building where a dead person is placed(王や貴族などのための大きな石造りの埋葬場所)
sealed 封をされた closed tightly so that nothing can get in or out(何も出入りできないようにきっちり閉じられた)
edible 食べられる、食用の safe to eat(口に入れても大丈夫な。反対語は inedible)
acidic 酸性の having a sour taste like lemon or vinegar(レモンや酢のような酸っぱい性質をもつ)
enzyme 酵素 a natural substance in living things that causes chemical changes(生き物の体のなかで化学反応を進める天然の物質)
hydrogen peroxide 過酸化水素 a chemical used to kill germs and clean wounds(消毒に使われる化学物質。オキシドールの成分)
fortress 要塞 a strong building or place that is hard to attack(攻めるのがむずかしい、頑丈な建物や場所)
moisture 湿気、水分 very small drops of water in the air or on a surface(空気中や物の表面にあるわずかな水分)

コラム:蜂蜜と、時間との交渉術 ~ファラオ・修道院・薬箱~

王の墓のなかで、蜂蜜だけがまだ甘かった

考古学者たちがピラミッドや古墳を開けたとき、たいていの食べものはとうに土に還っています。パンは粉になり、果実は形も残らない。けれども蜂蜜だけは、3000年たっても瓶のなかで、あの黄金色をとどめていることがあります。

イギリスの考古学者ハワード・カーターがツタンカーメンの墓を開けたとき、そこには金の仮面、椅子、車輪、武具——そしていくつかの封をされた蜂蜜の壺が納められていました。古代エジプトでは蜂蜜は「神々の食べもの」とされ、王のあの世の食料として、そして防腐剤として、遺体のそばに置かれたのです。時間を止められる甘さは、それだけで神聖なものだった——古代の人々の感覚は、案外わたしたちより鋭かったのかもしれません。

薬箱のなかの蜂蜜

本文で説明した「3つの防御」のうち、細菌を殺すはたらきは現代医療も再発見しています。手術後の傷口や火傷に、特殊な医療用蜂蜜(マヌカハニーなど)を塗る治療法があり、抗生物質が効きにくい細菌に対しても効果が確かめられています。

じつはこれ、まったく新しい発想ではありません。古代エジプトの医学書「エーベルス・パピルス」(紀元前1550年ごろ)には、蜂蜜を使った傷薬のレシピが900以上も記されています。3500年後にわたって薬箱に入り続けている食品——そう考えると、あなたの台所の蜂蜜も、少しだけ格が上がって見えるはずです。

英語のなかに蜜がしみこんでいる

英語の honey は、恋人への呼びかけ「ハニー」だけでなく、意外なほど多くの熟語のなかに顔を出します。honeymoon(新婚旅行)は、もとは古代の「新婚の1か月間は蜜酒(mead)を飲んで過ごす」風習から。honeyed words(甘い言葉)は、口先だけの誘い文句。a land of milk and honey(乳と蜜の流れる地)は、聖書由来の「豊かな理想郷」を意味する定番表現です。

面白いのは、蜂蜜がいつも「甘くて豊か」という肯定側だけでなく、「甘すぎて怪しい」という警戒側の比喩にも使われること。honeyed words と言われたら「気をつけろ」の合図。言葉のなかにも、蜂蜜のように長く残る文化の記憶が沈んでいます。

ことばの旅:honey は「金色」から来た

最後に、honey の語源をたどってみましょう。古英語の hunig から、さらに古いゲルマン祖語 *hunaga- にさかのぼれ、そこには「黄金色のもの」という意味があったと考えられています。つまり英語話者は昔から、蜂蜜を味ではなく色で名づけていたわけです。

日本語の「蜂蜜」が「蜂+蜜」と、作り手(bee)と成果物(sweet liquid)で組み立てられているのと対照的で、面白い違いです。同じものを、日本語は「誰が作ったか」、英語は「どんな色か」で呼ぶ——言葉が世界のどこに目を止めたかが、ここに透けて見えます。

今晩、パンに蜂蜜をひとさじたらしてみてください。黄金色の液体のなかに、エジプトの王の墓、修道院の薬箱、そして数千年前の英語話者の目線までもが、静かに溶け込んでいます。

確認クイズ

  1. Q1. 本文によると、蜂蜜が長持ちする「3つの防御」に含まれないものはどれか。

  2. Q2. 下線部 The jar must stay sealed. が意味するのは何か。

よくある質問

スーパーで買った蜂蜜が結晶化して白くなりました。これは腐ったのですか?

いいえ、結晶化は蜂蜜の自然な現象で、腐敗ではありません。とくにブドウ糖の多い蜂蜜(レンゲ、菜の花など)は低温で固まりやすい性質があります。50℃ほどの湯せんでゆっくり温めると、また透明の液体に戻ります。

この英文はどのくらいのレベルですか?

約220語、中学卒業〜高校1年程度の語彙で書かれています。hydrogen peroxide など一部の専門語には英語定義つきの語注をつけているので、辞書なしで読み切れる想定です。