
DESSERT WAGON × TABLE MANNERS
「デザートワゴン全種類ください」は
非常識? それとも正解?
― 3,400万回閲覧のスイーツ論争から考える、大人の振る舞い方 ―
🍰 この投稿、見ましたか?
「デザートワゴンが魅力的すぎて『小さいカットで全種類いただけますか?』と聞いたら、店員に『大丈夫ですよ!よくあることです☺️ 本日は初めてですが☺️』と言われた」――この投稿がXで3,400万回以上閲覧され、大激論に発展しました。
https://x.com/noblige_/status/2019826648766640559?s=20
2026年2月、あるXユーザーの何気ない投稿が、日本中を巻き込む大論争を引き起こしました。
高級レストランのデザートワゴン。美しく並んだケーキやタルトを前に、「小さいカットで全種類いただけますか?」と恐る恐る聞いたところ、スタッフは笑顔でこう返答。「大丈夫ですよ! よくあることです☺️ 本日は初めてですが☺️」。
写真に映っていたのは、金縁の上品なプレートの上に少しずつ盛り付けられた、6〜7種類のデザートの小さなスライスたち。投稿者は「悔いはない」と満足気。
――ところが、このポストに対して「これ、ほんとにやめたほうがいい。ほんとに」というリプライが付き、一気に火がつきました。
⚡ なぜ炎上したのか ― 「反対派」の主張
批判側の主張はこうでした。
📌 デザートワゴンは基本1台しかない。全種類カットしている間、他のテーブルのお客さんがずっと待たされることになる。
📌 席を外して時間を潰すわけにもいかない。デザートのタイミングは食事の流れの中で決まっており、「ちょっと待ってて」が通用しにくい。
📌 ホストがいる席なら最悪。接待や会食の場では、デザートで待たされるとホストの評価にまで響きかねない。
つまり反対派の論点は「あなた個人の問題ではなく、同じ空間にいる他のお客さんへの配慮」という一点に集約されます。見苦しいかどうかではなく、レストランという共有空間のオペレーションに与える影響を問題にしているのです。
💬 「いや、店がOKって言ってるんだから問題ないでしょ」― 擁護派の反論
一方、擁護派の反論もまた明快でした。
🙆 店員が「大丈夫」と言っている
プロのサービススタッフが判断して「よくあること」と答えている。外野が口を出す話ではない。
🕐 混雑状況は不明
写真を見る限り落ち着いた雰囲気。空いている時間帯だった可能性は十分ある。
💰 対価を払っている
高級レストランのコース料金を払っている客が、提供されたサービスの範囲内でお願いするのは自由。
🎭 「恐る恐る聞いた」姿勢
横柄に要求したのではなく、丁寧に伺いを立てている。十分マナーを守っている。
核心は「店が判断してOKを出しているなら、それ以上を外部が批判するのは余計なお世話では?」という点。一理あります。
🍽️ そもそもデザートワゴンとは何なのか
ここで一歩引いて、デザートワゴンというサービスの本質を整理しましょう。
デザートワゴンとは、フランス料理を中心とした高級レストランで提供されるサービスの一つ。食後にワゴンが各テーブルを巡回し、お客がその場で好きなデザートを選べる仕組みです。
重要なのは、デザートワゴンが「選ぶ楽しさ」を提供するためのサービスだということ。目の前に実物が並ぶワクワク感。スタッフとの会話。ゆったりとした食事のクライマックス。それ自体がレストラン体験の一部です。
デザートワゴンは「効率的にデザートを配るシステム」ではなく
「食事の余韻を楽しむ演出」。
だから「全部ください」が生まれるのは、ある意味では自然なこと。
つまり、全種類お願いしたくなる気持ちそのものは、ワゴンサービスが意図した効果とも言えます。問題があるとすれば、それは「気持ち」ではなく「状況判断」の話です。
🤔 「本日は初めてですが☺️」が教えてくれること
この論争でもっとも示唆に富むのは、実はスタッフの返答のほうです。
「大丈夫ですよ! よくあることです☺️ 本日は初めてですが☺️」
この一言には、プロのサービスパーソンの技術が凝縮されています。
「大丈夫ですよ」 → お客さんの不安を即座に解消
「よくあることです」 → 「変な要求ではない」と安心させる
「本日は初めてですが」 → 正直さとユーモアで距離を縮める
このスタッフは「よくあること」とフォローしつつ、「今日は初めて」と事実も伝えている。つまり「対応は可能だが、特別なリクエストであることは認識してほしい」というニュアンスを、嫌味なく、笑顔で伝えています。高級レストランの接客として、ほぼ完璧な対応と言えるのではないでしょうか。
🌍 海外のレストランではどうなのか
英語圏のファインダイニングでも、デザートワゴンやデザートトロリーは長い歴史を持つサービスです。
フランスの名門レストランでは、「全種類を少しずつ」というリクエストは”グルマンディーズ(gourmandise)”として、むしろ食への情熱の表れと見なされることもあります。イギリスの高級ホテルのアフタヌーンティーでも、「少しずつ全部」はそこまで珍しい要求ではありません。
ただし、ポイントは同じ。混んでいるときにワゴンを長時間独占するのはNGで、空いているなら大歓迎。万国共通の「空気を読む」が求められるということです。
📝 この論争が映し出す「日本のSNS文化」
3,400万回もの閲覧を集めたこの論争は、デザートワゴンの話であると同時に、日本のSNS文化の縮図でもあります。
元の投稿者は、楽しかった食事の思い出を共有しただけ。ところがそこに「マナー警察」が現れ、「いや店がOKと言っている」と擁護派が反論し、レストラン経験のある人が実務的な観点から意見を述べ……気がつけば、誰も当事者ではない人たちによる大討論会に。
🍰 投稿者「全種類食べた。悔いはない」
⇅
📱 SNS「その行為の是非を3,400万人で議論しよう」
英語にも “Everyone’s a critic”(誰でも批評家になりたがる)という表現がありますが、SNS時代はまさにそれが可視化された時代。一人の「悔いはない」が、3,400万人の「でもさ……」を呼び起こす。それ自体が現代のコミュニケーションの面白さであり、危うさでもあります。
✨ まとめ ― 結局、どうするのが「正解」なのか
整理しましょう。
✔ 「全種類お願い」は非常識ではない。実際にお店が対応してくれるケースは多い
✔ ただし、混雑時はワゴンを長時間独占することで他のテーブルに迷惑がかかる可能性がある
✔ 「恐る恐る聞いた」のは正解。横柄な態度ではなく、相談するスタンスが大切
✔ 店員がOKと判断しているなら、それ以上を外部が批判する根拠は薄い
✔ 本当に大切なのは「聞いてもいいかの判断力」と「周囲への想像力」
マナーとは、ルールブックに書かれた正解ではなく、その場にいる全員が心地よく過ごすための想像力のこと。デザートワゴンを全種類頼むのは、状況次第で「素敵な体験」にもなれば「ちょっとした迷惑」にもなる。その判断ができること自体が、大人の食事のマナーなのだと思います。
ちなみに英語では “to have one’s cake and eat it too”(ケーキを持っていながら食べもする=いいとこ取りする)ということわざがあります。今回の投稿者はまさに “had all the cakes and ate them all, too”。文字通りのいいとこ取り、お見事でした。
📝 この記事が面白かったら、ぜひシェアしてください。「原田先生のとっておきの話」では、英語や言葉にまつわる「知って得する雑学」を発信しています。
https://x.com/noblige_/status/2019826648766640559?s=20
